Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
子どもをもつがん患者・家族に必要な支援の後方視的検討
小嶋 リベカ高田 博美石木 寛人木内 大佑里見 絵理子
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電子付録

2019 年 14 巻 2 号 p. 73-77

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Abstract

子育て世代のがん患者には親役割に関連した特有の気がかりがあるが,患者・家族が求める子ども支援の実態報告は少ない.われわれはその支援の在り方を明らかにするために,当院緩和ケアチームによる子ども支援(2013年4月〜2015年9月)の実際について後方視的に検討した.対象症例患者は131例(男性/女性41/90例),平均年齢43.3歳だった.主な原発巣は消化器,肺・胸膜,乳腺で,進行再発例が約8割だった.子どもの総数は239人,平均年齢は9.6歳.相談は患者のみならず,患者の家族(配偶者など)からもされた.主な相談内容として「病状に対する子どもの理解と反応」,「親としての思い」,「病状の伝え方」の3つのカテゴリーが抽出された.がん患者および家族の子どもに関する相談内容は,病名告知の有無や子どもの年齢,反応に応じて多様である.よって,個別のニーズに応じて,多種職との連携を行いながら支援する必要がある.

背景・目的

子育て世代のがん患者は治療と並行して親としての役割を担うため,さまざまな不安と葛藤が存在し得る.本邦における18歳未満の子どもをもつがん患者の全国推定値は年間56,143人で,その子どもの総数は87,017人(平均年齢:男性46.6歳,女性43.7歳)である.また,親ががんと診断された子どもの平均年齢は11.2歳である1).臨床現場において,未成年の子どもをもつがん患者は,子どもにどのように伝え,向き合ったらよいのか,などの具体的な悩みを抱え,医療者に相談する場面をしばしば目にする.当院においては,初回入院患者のうち18歳未満の子どものいる割合は24.7%(1,650人)である1)

当院緩和ケアチームでは,2012年より未成年の子どもがいるがん患者・その家族の支援(以下,子ども支援)を,緩和ケアチーム専従看護師とホスピタルプレイスタッフ(以下,HPS,欧米では,主に小児医療の現場で,遊びなどを通して子どもやそのご家族を心理社会面で支援する職種)が病棟スタッフと協働して行っている.通常,子ども支援を必要とする患者・家族に対応した医療者から緩和ケアチームに支援依頼があり,日程調整を行い,親である患者もしくは家族との面談を行う.その後必要に応じて子どもとの直接面談を行う.面談時に明らかになった気がかりを担当の医療者と情報共有し,その後の支援の内容を決めていく.

本研究は,当院の子ども支援の実態から,未成年の子どもをもつがん患者・家族が抱える気がかりを抽出し,患者・家族の支援ニーズを明らかにする目的で行った.

方法

当院では,子どもについての気がかりをもつがん患者やその家族との個別面談は主に看護師より依頼を受けて緩和ケアチームが実施している.2013年4月~2015年9月にチームに子ども支援の依頼のあった症例について,患者および相談者背景,子どもの年齢,相談内容について,診療録をもとに後方視的に抽出した.得られたデータから親が抱える困難に関連する箇所を抽出し,意味内容を読み取り,一つの意味内容が含まれる単位データを作成し,HPSを含めた複数の研究者(医師,看護師)によりカテゴリー化したうえで分析を行い,妥当性を高めた.

倫理面への配慮

本研究はへルシンキ宣言に則り,「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」を順守し,調査研究実施に際しては国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

1.患者および家族背景

依頼件数131件(男性患者41件,女性患者90件)であった(表1).患者の平均年齢は43.3歳だった.131件のうち,患者本人からの相談は81件(男性11件,女性70件),配偶者からは27件(男性8件,女性19件)であった.さらに,患者夫婦での相談は個別相談とは別に22件,患者の親ときょうだいの相談は1件あった.依頼のあった相談者の子どもの総数は239名(平均年齢は9.6歳,一世帯当たりの人数は1.82人),その内訳は,0~3歳27名(11%),4~6歳35名(15%),7~9歳53名(22%),10~12歳48名(20%),13~15歳41名(17%),16~18歳27名(11%),19歳以上8名(4%)だった.就学状況で分けると,未就学児57名(24%),小学生106名(44%),中学・高校生68名(28%),大学生以上8名(4%)だった.患者の原発巣は,消化器22名(17%),肺・胸膜22名(17%),乳腺21名(16%),血液21名(16%),肝胆膵10名(8%),卵巣・子宮10名(8%)だった.患者の臨床病期は,III期21名(16%),IV期50名(38%),再発31名(24%)で,進行再発例が約8割だった.

表1 患者および家族の背景

2.がん患者および家族の子どもに関する相談内容

未成年の子どもをもつがん患者およびその家族が子どものことで抱えている気がかりは何か,子ども支援の相談内容を分析したところ,三つにカテゴリー化された(表2).相談内容で最も多かったのは,「病状に対する子どもの理解と反応(以下,理解と反応)」(40%)であり,子どもの理解や気がかりな反応について「退院したら,もう治ったと思っている」や「病室に入りたがらない」といった相談であった.次に多かったのが「親としての思い」(33%)であり,子どもに不安を与える自責の念や何かをしてあげたい気持ちについての「子どもの成長を妨げたくない」「自分の元気な姿を見せてあげたい」といった相談であった.三つ目のカテゴリーは,「病状の伝え方(以下,伝え方)」(27%)であり,「副作用による脱毛や体力の変化,子どもと一緒に物事が行えなくなること,病名・病状,死をどのように伝えるか,伝えないか」などの相談が含まれた.そこには,質問への答え方や伝えるタイミングを知りたいという相談も含まれた.また,二人以上の子どもをもつ患者または家族からは,「上の子には病名告知し,下の子には告知していないが,今後どうしたらいいか」といった相談も少なくなかった.

さらに,全症例の子どもへの親の病名告知の有無を調査したところ,子どもの45%(107人)は病名告知がされていなかった(付録図1).そして,子どもの年齢が低いほど,親の病名告知がされていない割合が高かった.

表2 がん患者および家族の子どもに関する相談内容

3.緩和ケアチーム子ども支援に依頼をした医療者

当院緩和ケアチームへの子ども支援依頼者は,家族構成を聴取する看護師からが最も多いが,医師からの支援依頼が,増加傾向にあった(付録図2).

4.医療者連携としての多職種カンファレンス

がん患者やその家族との個別面談後に病棟や外来において医療者(プライマリーチーム)による継続支援ができるようにプライマリーチームと緩和ケアチームの多職種カンファレンスを全131症例で実施した(表3).参加メンバーは,病棟看護師,緩和ケアチーム専従看護師,HPSを中心に,必要に応じて主治医,緩和ケア医,精神腫瘍医,医療ソーシャルワーカー,心理療法士などが参加した.多職種カンファレンスでは,情報共有と患者本人,子どもや家族への個別ニーズへの対応について話し合った.とくに患者が終末期から臨死期である場合は,医療者が子どもにどのような支援をすればよいのかを話し合った.

表3 多職種カンファレンスの内容・件数

考察

当院の入院患者の4人に1人が未成年の子どもをもつがん患者である.Welchらも述べているが,彼らは「親」としての思いを抱えながら,治療・療養の過程で子どもとのコミュニケーションの取り方について心理・社会的なサポートを求めていた2)

先行研究において患者はがん告知を受けた段階で,すでに子どもにどう伝えるかを気がかりに感じることが明らかにされているが3,4),今回の調査では,根治不能進行がんや再発患者からの相談が多かった.支援を行った患者および家族の子どもに関する相談内容は,「理解と反応」「親としての思い」および「伝え方」の大きく三つにカテゴリー化された.まず,「理解と反応」については,全体の相談の4割を占め,その背景には,支援患者やその配偶者の子どもの約半数が,言語能力や認識力がより高まっていく小学生であったことが考えられる.子どもの言語能力や認識力の差は,親から子どもへ病名を伝えるか否かの判断に影響を与え,子どもの年齢が上がるほど,伝える割合が高まる傾向がみられた結果の背景と推察される.

次に,「親としての思い」については,根治不能進行がんや再発患者からの相談が多かったことから,子どもと共にできていたことが一緒にできなくなるなどの日常生活においての親役割を著しく失わざるを得ない状況がきっかけとなっていたことが推察される.この「親としての思い」は,母親である女性患者または配偶者から語られることが多く,患者の性別によって支援の求め方が異なる可能性がある5).最後に,「伝え方」については,専門家に相談するきっかけが,副作用による脱毛や倦怠感などの外見など身体的変化の出現や特別なイベント前であり,「がん」についてどのように子どもに伝えるか,子どもの反応にどのように対応すればよいのかを迷ったことが理由として挙げられる.

子ども支援の依頼は当初看護師からが主であったが,医師から依頼が年々増加している.このことは,全症例において多職種カンファレンスを行い,情報共有の場を頻繁にもっていることも影響していると考えられる.各相談内容は患者ごとの個別性の高い内容が多く,症例に応じた医療スタッフ間の連携が不可欠である6,7).そして,プライマリーチームとどのように子どもを含めた家族を継続的に支援していけばよいかなど,検討する必要がある.とりわけ今回の研究により,多職種カンファレンスの内容として多く挙げられたのが終末期・臨死期場面でどのように医療者が子どもの年齢に合わせて対応すればよいのか,ということであり,このため,この病期に焦点をあてた教育プログラムがとくに求められることが確認された.

本調査は単施設での後方視的観察研究であるため,症例の偏りなど一般化するのには限界がある.今後,多施設共同前方視的観察研究や患者調査を通じ,病院で行う子ども支援の質の向上につなげていく必要がある.

結論

今回の研究において,子どもに関する相談を求めるがん患者およびその家族は女性の進行再発例が多かったものの,そのがん種や子どもの年齢は,多様であった.相談内容は,子どもへの病名告知の有無や長子と末子の対応の異なりにも関連があることが推察された.このように,子どもに関する相談内容が個々の相談者の置かれた状況によって類似点と相違点があり,したがって,今後,子ども支援を行う際,子どもの親がどのような思いか等を早い段階から聞き取り,個別のニーズに応じて多職種間で連携していくことが不可欠であるといえる.

利益相反

里見絵理子:講演料(日本メドトロニック株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,日本ライフライン株式会社,セント・ジュード・メディカル株式会社,ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社,第一三共株式会社),研究費(バイオトロニックジャパン株式会社(共同研究))その他:該当なし

著者貢献

小嶋は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;高田は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析,原稿の起草に貢献;石木は研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;木内は研究データの収集・分析,原稿の起草に貢献;里見は研究の構想・デザイン,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2019日本緩和医療学会
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