Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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症例報告
アセトアミノフェンの添加剤が原因と推察されたアレルギーの1例
原口 哲子髙橋 佳子大久保 晃樹西小野 美咲榊 美紀原口 優清
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電子付録

2019 年 14 巻 3 号 p. 197-201

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Abstract

【緒言】解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンはWHO(世界保健機関)方式がん疼痛治療法では代表的な薬剤の一つとして位置づけられている.【症例】75歳,女性. 左上葉肺がん術後再発.多発骨転移によるがん疼痛に対しアセトアミノフェンを使用していたが,同薬剤の商品を変更しアレルギー症状が出現したため中止し,症状は消失した.同薬剤の別の商品へ変更し継続した.【考察】アレルギー症状はアセトアミノフェンの添加剤が原因と推察された.【結論】アセトアミノフェンによるアレルギー症状の出現時,規格を変更することで薬剤使用を継続できる可能性がある.

緒言

アセトアミノフェンは,剤型が豊富で小児から高齢者まで使用される標準的な解熱鎮痛剤である1,2).本邦においては2011年に承認用量が増量され,がん疼痛を有する患者においても使用されている.WHO(世界保健機関)方式がん疼痛治療法では非オピオイド鎮痛薬の代表的な薬剤の一つとして位置づけられている.一方,アセトアミフェンの添加剤による有害事象の報告は少なく3,4),あまり認識されていない症状と考えられる.今回,アセトアミノフェンの添加剤によるアレルギーを疑い,規格を変更したことでアセトアミノフェンを安全に使用できた症例を報告する.なお本稿では個人が同定できないよう内容の記述に倫理的配慮を行った.

症例提示

【症 例】75歳,女性.155 cm,40 kg

【介入時主訴】背部痛,前胸部痛

【生活歴】喫煙歴10本×50年.飲酒歴なし

【既往歴】右乳がん術後,気管がん術後,ペースメーカー植え込み術後,原因不明の薬物アレルギー(被疑薬アセトアミノフェンを内服していた).

【現病歴】2014年5月他院にて左上葉肺がんと診断され,左上葉部分切除術と第3, 4肋骨胸壁合併切除術が施行された.2015年1月再発し,左上葉部分切除術と第3, 4, 5肋骨合併切除施行された.2016年12月多発骨転移出現し,右上腕骨,右大腿骨,第10, 11, 12胸椎,第2, 3腰椎に放射線治療が施行(各々30 Gy/10 fr)された.2017年2〜10月,カルボプラチン+パクリタキセル8コース施行後Progressive Disease(PD)となったため,2017年11月ニボルマブ開始し,3コース終了後PDとなった.2018年3月10日Best Supportive Careにて自宅近くの前医へ紹介された.左背部痛が増強しており,CTにて第11胸椎(以下,Th11)転移巣増大を認めた.レスキューを頻回に使用しても疼痛コントロール不良だったため鎮静されていた.3月26日Th11骨転移に対する放射線治療目的で鹿屋医療センター放射線科転院となった.

【入院時の内服薬】

トラムセット®配合錠2錠 分2(含有量アセトアミノフェン650 mg/日,トラマドール塩酸塩75 mg/日),オキシコンチン®錠10 mg 2錠 分2,オキノーム®散 5 mg/回,ランソプラゾール®OD錠15 mg 2錠 分2,酸化マグネシウム®錠500 mg「ヨシダ」3錠 分3,メコバラミン®錠 1.5 mg/日,ジプレキサザイディス®錠 5 mg/日,フェキソフェナジン塩酸塩®錠120 mg/日,スインプロイク®錠0.2 mg/日,ケイキサレート®ドライシロップ76% 30 g/日

【緩和ケアチーム介入による治療経過】

入院と同時に介入を開始した.患者は「痛くて眠れない.」と訴え,仰臥位以外の体位は困難だった.左肩甲骨下縁から左前胸部の刺されるような痛みで,2日前からNumerical Rating Scale(NRS)8/10の高度の持続痛だった.疼痛による食欲不振,気持ちの落ちこみも認めた.患者の苦痛評価にはSupport Team Assessment Schedule 日本語版(STAS-J)症状版スコアを用い,疼痛はSTAS-J item1「痛みのコントロール.痛みが患者に及ぼす影響」で4と重篤であった.

入院時血液検査ではeGFR 22 ml/min/1.33 m2と高度腎機能障害,Alb 3.0 g/dl, Na 129 mmol/L, Cl 93 mmol/L, Hb 9.2 g/dlと低値を認めたが,肝機能,K, 補正Caは正常だった.CTにてTh11椎体左側の転移巣増大,腫瘤形成,両側胸水を認めた(図1).

前医処方のオピオイドのオキシコンチン錠とトラムセット配合錠に含まれるトラマドール塩酸塩をオキシコンチン錠20 mg 40 mg/日へ統一した.レスキューはオキノーム散10 mg/回へ増量した.アセトアミノフェンはトラムセット配合錠からカロナール®錠500 2000 mg/日へ変更し,入院当日夕食後から開始した.その他の前医処方の内服薬は続行した.21時には疼痛軽減していた.翌朝,左肩甲骨下縁から左前胸部にかけての痛みはNRS 2/10へ軽減し,STAS-Jは1となり著明に改善した.ところが,背部と前胸部に広範囲の点状紅斑と掻痒感を認めた(図2).

カロナール錠500の添加剤によるアレルギー症状を疑い,内服を中止した.正午には掻痒感の軽減,点状紅斑も消退傾向だった.アセトアミノフェンが原因ではないと考え,添加剤の異なるカロナール錠200へ規格を変更し,1600 mg/日を昼食後より開始した.それ以降の掻痒感と点状紅斑の増悪は認めず,翌日には両症状ともに消失した.アセトアミノフェンは減量となったが,NRS 2/10, STAS-Jは1と疼痛は不変であった.

図1 胸部CT

骨転移により第11胸椎が溶解し,脊柱管を圧迫している.

図2 背部写真

カロナール錠500®内服後,点状紅斑が広範囲に出現した.

考察

われわれは,カロナール錠500の添加剤によるアレルギーを疑い,カロナール錠200へ変更することで疼痛管理できた事例を経験した.

アセトアミノフェンは,末梢でのCOX阻害作用が軽度であり主に中枢のCOX阻害することから5,6)腎障害が少ない.本症例において主な疼痛は,Th11転移巣の脊髄圧迫による神経障害性疼痛であり,高度の痛みを呈していたが高度腎機能障害があり使用できる薬剤が限られていた.そのため第一段階の非オピオイド系鎮痛剤として選択的にアセトアミノフェンを使用した.

本症例では薬物アレルギーの既往があり,とくにアセトアミノフェンが被疑薬となっていた.しかしながらアセトアミノフェンを含むトラムセット配合錠を内服していた際にアレルギー症状は発現していなかったため,アセトアミノフェンによるアレルギーではないと考え,カロナール錠500を開始したが,アレルギー症状が出現した.そこで添加剤を調査し,原因として疑わしい添加剤が含まれていないカロナール錠200へ規格を変更した.なお,カロナール錠200とカロナール錠500は同じ製薬会社の製剤であるが,添加剤は異なる7)

近年,臨床試験なしに承認される後発医薬品の普及に伴い,添加剤などの副成分による副作用の報告がみられるようになっているが8),先発医薬品と後発医薬品の添加剤による副作用の出現は同等と考えられている9).また堀川らは,薬物アレルギーは主剤だけではなく添加剤によるアレルギーも少なくないと報告しているが10,11),添加剤によるアレルギーの報告は十分でない.

本症例で使用されたトラムセット配合錠,カロナール錠500,カロナール錠200の添加剤を調査した.カロナール錠500特有の添加剤は,ポビドン,クロスポビドン,ステアリン酸の3剤である(表1).そのなかでもステアリン酸はあらゆる食物に含まれており,本症例では食物アレルギーはなかったため原因物質ではないと考えられた.またクロスポビドンは,内服薬のランソプラゾールOD錠に,酸化マグネシウム錠500 mg「ヨシダ」に含有されている.これらを以前より長期間内服していたことを鑑みてアレルゲンである可能性は低いと考えた.一方,ポビドンはオキシコンチン錠10 mg,20 mgに含有されているが,含有量は非公開であった.(付録表1)

ポビドンは正式名称ポリビニルピロリドン(PVP)である.PVPは1-ビニル-2-ピロリドンの重合物で,分子量40,000の低分子量品と360,000の高分子量品があり,医薬用錠剤の結合剤,皮膜形成剤,分散剤,懸濁化剤として使用されている12)

堀川らは,ポビドンヨードは消毒薬として頻繁に用いられ,稀に蕁麻疹やアナフィラキシーを誘発し,それはポビドンヨードに含まれるPVPが原因であると報告している11).また,Pedrosaらは以前塗布したポビドンヨードによるPVPへの感作が原因でPVPの含まれる内服薬でアナフィラキシー症状を呈した症例を報告している13).本症例では過去の頻回の手術においてポビドンヨードを使用し,粘膜部がPVPに暴露されアレルゲンとなった可能性があると考えられる.

PVPは経口摂取した場合,消化管からはほとんど吸収されず,便中に排泄され,また混在する低分子ポリマーおよびモノマーは一部消化管から吸収され,その一部が尿中に排泄されると考えられている12).Robinsonらは,転移のある大腸がん患者にPVP含有の薬剤を投与し消化管の透過性変化を調べた実験において,高分子量のPVPは優先的に便に吸着され,低分子量PVPは選択的に吸収排泄されると報告している14).本症例で使用されているカロナール錠500において,PVPは結合剤として使用されていると考えられる15).一方,オキシコンチン錠での用途は不明であるが,吸収の程度が異なる可能性があり,PVPが吸収されてアレルゲンとなるのかどうかは製剤によって異なると考えられる.

本症例にて原因として疑わしいPVPをアレルゲンとして同定するためにはプリックテストが必要であるが10),希少のアレルゲンのプリックテストは遠隔地にある大学病院のみで実施していること,本症例においては終末期患者であり受診することは困難だったことから原因物質の追求には至っていない.しかしながら,本症例においては既往歴や現病歴,薬剤の添加剤を調査し,添加剤のアレルギーであるのではないかと判断し,別の商品に変更することで疼痛管理を行うことができた.ただし,安易に被疑薬を再投与すべきではないと考えるが,深い考察をしたうえで再投与の検討を行うことで苦痛を軽減できると考えられる.

表1 本症例で内服したアセトアミノフェンの添加剤

結語

アセトアミノフェンの添加剤によるアレルギー症状が疑われる場合,同薬剤の規格を変更することで使用できる可能性がある.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

髙橋,榊は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;大久保,西小野,原口(優)は研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2019日本緩和医療学会
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