Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
不可逆的悪液質のケアに対して緩和ケア病棟看護師が抱く困難とその関連要因
中島 元美升谷 英子荒尾 晴惠
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2020 年 15 巻 3 号 p. 185-198

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Abstract

【目的】不可逆的悪液質のケアに対して緩和ケア病棟看護師が抱く困難の実態とその関連要因を明らかにする.【方法】緩和ケア病棟看護師に無記名自記式質問紙調査を実施し,郵送にて回収した.分析は因子分析,重回帰分析を用いた.【結果】169名を分析対象とした.不可逆的悪液質のケアに対する困難は,6因子が抽出された.[衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応]の困難の得点が最も高く,この困難が高いと他5因子の困難も高い傾向にあった.[不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断]は,配属年数や関わる程度,学習機会で困難の程度が異なった.[看護師自身のセルフケア]は,配属年数が3年以上で困難が低下する傾向にあった.【結論】不可逆的悪液質のケアに対する困難として6因子が示され,患者や家族との思慮深い対話や看護師への教育支援の必要性が示唆された.

緒言

がん悪液質は,がんの進行とともに生じる骨格筋量の喪失や食物摂取量の低下等が組み合わさる複雑な症候群であり,多くのがん患者が体験する.これまで,病態が複雑で定義が困難であり,機序の解明や治療法の開発に障壁となっていたが1),2011年にはEuropean Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)のガイドラインが発表され2),近年では治療やマネジメントが徐々に明らかにされつつある3)

不可逆的悪液質による筋組織の喪失は患者に極度の衰弱を招くだけでなく,機能的な能力を失い,食事との葛藤を生み,Quality of Life(QOL)全体に悪影響を及ぼす4).また,体重減少は患者よりも家族が関心を持ち,無力感や自責感を抱くことから5),多くの遺族は患者の栄養摂取低下時のケアに改善の必要性があるとしている6).さらに看護師は,不可逆的悪液質の話によって患者や家族に問題を引き起こさないか心配に思い,不可逆的な病態へのケアに不確かさや無力感を抱いている7,8).このように,不可逆的悪液質は患者に身体的な苦痛を与えるだけでなく,患者や家族に不安や心配や葛藤をもたらし,そのケアを行う看護師も困難を抱いている.看護師の過度の困難はストレスやバーンアウトにつながる可能性があり9),看護師の抱く困難は不可逆的悪液質のケアの質や患者および家族の満足度に影響している.そのため,看護師の抱く困難を明らかにしてケアの改善につながる支援を検討することは重要な課題である.

以上より本研究は,不可逆的悪液質のケアに対して,緩和ケア病棟看護師がどのような困難を抱いているか,実態とその関連要因を明らかにすることとした.

方法

研究デザイン

量的記述的研究デザイン

用語の定義

がん悪液質:従来の栄養サポートでは改善困難で,進行性の機能障害をもたらし,(脂肪組織の減少の有無にかかわらず)著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である.患者は意図的でない体重減少や衰弱,倦怠感などを体験し,さらに不安や苦痛や葛藤が生じることで,QOLや生存に悪影響を及ぼす1,2)

不可逆的悪液質:がん悪液質の経過のなかで,抗がん剤に反応せず,明らかな体重減少が認められ,予後が3カ月以内と考えられるPerformance Status3~4の状態とする2)

不可逆的悪液質のケアに対する困難:不可逆的悪液質の患者や家族へのケアにおいて,困ったり悩んだりすること.看護師の背景や環境の影響を受ける.

対象者

近畿圏内の緩和ケア病棟に所属し,看護師長と不可逆的悪液質のケアに「関わらない」と回答した対象者を除いた,日常的に患者のケアに関わっている看護師で,経験年数や配属年数,勤務形態は問わない.

調査内容

1)不可逆的悪液質のケアに対する困難:先行研究2,48,10)から不可逆的悪液質のケアに対する困難やケアを妨げる状況64項目を抽出し,知識やアセスメント,コミュニケーション,ケアの実践,チーム連携,自分自身の問題の5領域を設定した.表面的妥当性は緩和ケア病棟配属経験のある看護師と確認し,内容的妥当性はがん看護のスペシャリストと共に検討した.最後に,がん看護経験がある看護師にプレテストを行い,54項目を原案とした.この54項目に総合的な困難1項目を加え,「0:全く困難でない」~「5:非常に困難である」の6段階評価とした.また,自由記載欄を設けた.

2)不可逆的悪液質のケアに対する困難の関連要因:看護師の背景要因では看護師経験年数や配属年数,資格認定の有無,ガイドラインの使用経験,不可逆的悪液質の学習経験,不可逆的悪液質のケアへの関心,不可逆的悪液質のケアに関わる程度を,施設の環境要因では専門看護師・認定看護師の在籍状況や患者の食べたい物が提供できる食事システム(以下,食事提供システム),カンファレンスの参加職種を尋ねた.

調査手順

がん情報サービスのホームページ11)で紹介されている近畿圏の緩和ケア病棟を有する51病院から25病院を無作為に抽出し,研究協力の依頼をした.承諾が得られた20病院の看護部長と緩和ケア病棟看護師長から,対象となる看護師へ資料の配布を依頼した.質問紙の回収は郵送法を用い,返送先を研究者宛てとした.

分析方法

不可逆的悪液質のケアに対する困難の因子構造は,天井効果やフロア効果を確認後,主因子法・プロマックス斜交回転による探索的因子分析を行い,各因子のα係数を確認した.各項目は,因子負荷量が0.35以下の項目で,同一因子内の他の項目と内容的に整合しない項目,質問内容が類似する項目を慎重に吟味して削除した.実態は,因子や項目毎の平均点や分布を集計した.関連要因の分析は,不可逆的悪液質のケアに対する困難を従属変数とし,看護師の背景要因と施設の環境要因の各変数についてt検定,分散分析等の単変量解析後,そのp値が0.2以下の変数を選択し,変数減少法による重回帰分析を行った.多重共線性はVIF<10と相関係数により確認した.SPSS statistics Ver.22(日本IBM,東京)を用い,有意水準は5%とした.

倫理的配慮

本研究は大阪大学保健学の倫理委員会に承認を得て実施した(承認番号:290).研究目的,方法,無記名自記式質問紙で研究参加は自由意思であることを明記した研究協力依頼書と説明書を配布し,拒否機会を保証して同意は取得しなかった.

結果

対象者の背景要因

25病院に研究依頼を行い,承諾が得られた20病院 (がん診療連携拠点病院の国指定2病院,都道府県指定7病院を含む)309名に質問紙を配布し,178名の回答が得られた(回収率,有効回答率57.6%).

看護師経験年数は平均15.5±7.4(range: 2-43)年,緩和ケア病棟配属年数は平均3.4±2.7(range: 1-19)年であった.不可逆的悪液質のケアに対して166名(93.3%)が「関心がある」~「やや関心がある」と回答した(表1).総合的な不可逆的悪液質のケアの困難は4.5±0.8で,150名(92.1%)が「非常に困難である」~「やや困難である」と感じていた.なお,以下の分析では,不可逆的悪液質のケアに「関わらない」9名を除いた169名の回答を分析した.

表1 対象者の背景

不可逆的悪液質のケアに対する困難の構造

不可逆的悪液質のケアに対する困難の因子分析では,6因子48項目が抽出された.累積寄与率は59.1%,因子毎のCronbachのα信頼係数は0.823~0.936であった(表2).因子間相関は弱~中等度(range: 0.247-0.547)であり,第1因子は全因子と中等度以上の相関を示した.

表2 不可逆的悪液質のケアに対する困難の因子分析

因子毎の不可逆的悪液質のケアに対する困難の程度(表3

[I.衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応(4.1±0.8)]の困難が最も高かった.平均値4.0以上は7項目あり,不可逆的悪液質の患者だけでなく家族へのケアにも困難を抱いていた.〈衰えや死から避けられない不可逆的な状態であることに直面した患者・家族が,不安,怒り,心配などの感情を表現しないときの対応〉では「非常に困難である」の回答が35名(20.7%)を占めた.自由記載では『担送患者,せん妄患者様が最近多くなり家族とじっくり話すことが難しくなってきている』という意見があった.

次に[II.不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断(3.9±0.7)]の困難が高かった.平均値4.0以上は5項目あり,不可逆的悪液質の判断や心理社会面のアセスメント,ケアに関する学習機会を得る困難が高かった.

[III.チームで協働するための不可逆的悪液質の捉え方の共有]は分布に幅があった.〈患者・家族,医師,看護師の間で,悪液質のマネジメントのゴールを共有すること(3.8±1.1)〉は,〈医師と看護師の間で,悪液質のマネジメントのゴールを共有すること(3.5±1.1)〉より困難が高かった.自由記載では『家族の協力が得られない』,『家族の緩和ケアへの期待が大きい』と,家族と協働する困難が挙げられた.また,医師と看護師の間で理解が異なることの困難が上位に2項目あり,60%程度の対象者が「やや困難である」以上だった.

[IV.食欲や体重の変化に対する患者や家族とのコミュニケーション]は,すべての項目で平均値3.5以下であり,〈食事に関する患者のニードを捉えること〉が最も高かった.

[V.不可逆的悪液質へのケアの提供に向けたチームの調整]は平均値3.5以下が4項目あり,とくに〈看護師の間で,悪液質のケアについて話し合う機会を作ること〉は,70%の対象者が2点「あまり困難でない」以下であった.

[VI.看護師自身のセルフケア]では,「やや困難である」の回答割合が多かった.自由記載では『自分が患者に何ができているのか,無力感もあり自分の気持ちが落ち込んでしまう』,『答えのないものを相手にしているので,うまく気分転換しないと疲弊してしまう』等,自信を持つことや無力感について挙げられた.

表3 不可逆的悪液質のケアに対する困難の程度

看護師の背景要因や施設の環境要因の影響

単変量解析では(表4),各カテゴリーに配属年数,資格,不可逆的悪液質のケアに関わる程度,院内研修での学習経験,がん看護専門看護師の在籍状況,食事の提供システム,医師や薬剤師や緩和ケアチームとのカンファレンスが関連した.

重回帰分析の結果(表5),[I.衰えに直面した患者と家族の無力感や葛藤への対応]の困難は,資格を持たない看護師(p=0.004)や食事提供システムが整っており(p=0.011),医師とのカンファレンスが開催されている(p=0.044)と高かった.[II.不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断]の困難は,配属年数3年以下の看護師(p=0.005)や不可逆的悪液質のケアに関わる頻度が少ない場合(p=0.013),院内研修がなく(p=0.039)がん看護専門看護師がいない(p=0.008)と高かった.[V.不可逆的悪液質へのケアの提供に向けたチームの調整]の困難は,資格を持たない看護師(p=0.048)や食事提供システムが整っていない(p=0.019)と高かった.[VI.看護師自身のセルフケア]の困難は,配属年数3年以下の看護師(p=0.002)や薬剤師(p=0.008)または緩和ケアチーム(p=0.022)とのカンファレンスが開催されていると高かった.

表4 不可逆的悪液質のケアに対する困難の因子毎の単変量分析
表5 不可逆的悪液質のケアに対する困難の因子毎の重回帰分析

考察

本研究の主たる知見は,以下の3点である.

1.[I.衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応]の困難が最も高く,不可逆的悪液質の患者だけでなく家族へのケアにも困難を抱いていた.またこの困難が高いと,他の5因子も高い傾向にあった.

2.[II.不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断]では,判断や精神面のアセスメントの困難が高く,不可逆的悪液質のケア経験が多い場合に困難が低下する傾向にあった.

3. [VI.看護師自身のセルフケア]では自分のケアに自信を持つことや感情をコントロールすることの困難が高く,配属3年以上で困難が低下する傾向にあった.

不可逆的悪液質のケアに対して緩和ケア病棟看護師が抱く困難では,原案で設定した5領域が因子分析で6因子となった.当初,コミュニケーションの領域は,体重減少や不可逆的な状態の話題が患者の苦痛を増強させ,死を連想させることを懸念して話を切り出せない状況や12),死がタブー視される文化の影響7)を踏まえて設定したが,[I.衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応]と,[IV.食欲や体重の変化に対する患者や家族とのコミュニケーション]に分かれた.これより,看護師が抱くコミュニケーションにおける困難は,患者や家族が不可逆的悪液質の進行によって身近に迫った死を感じている段階と,未だ不可逆的なことを意識していない段階では,様相が異なると捉えられた.

[I.衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応]は困難が最も高く,因子間相関で全因子と中等度の関連があり,本因子の困難が高いと他の困難も高い傾向であることから,不可逆的悪液質のケアの困難の中核として捉え,関連する因子を全体的に把握する必要があるといえる.項目では,〈衰えや死から避けられない不可逆的な状態であることに直面した患者・家族が,不安,怒り,心配などの感情を表現しないときの対応〉は最も困難が高かった.自由記載からも,不可逆的悪液質の患者はすでに衰弱や倦怠感を体験しているためにコミュニケーションが困難な様子が伺え,さらに患者や家族が感情を表現しない場合は感情やニードのアセスメントが難しいと考えられる.また,[IV.食欲や体重の変化に対する患者や家族とのコミュニケーション]でも〈食事に関する患者のニードを捉えること〉の困難が高かった.食事の嗜好は生活が反映されて個別性が最も表れるため,多様な食事のニードを捉えるには患者のこれまでの生活や文化,食事の意味を知る必要がある.しかし,不可逆的悪液質の状況に陥ると,患者は“食べたいけど食べられない”“食べたくないが,周囲の食べて欲しい思いに応えなければならない”という葛藤のなかにあり5,8,13),食事のニードを捉え対応する困難が一層高くなると考えられる.また家族へのケアの困難も高かった.家族は患者をケアする存在であるとともに,患者と共に苦悩する家族としてケアを受ける存在でもある14).不可逆的悪液質では,家族は患者が衰えや死から避けられないと認識する苦痛に加え,愛する大切な患者をやがて喪失する悲嘆のプロセスをすでに歩み始めており,看護師の困難も高かったと考えられる.以上より,不可逆的悪液質に陥る前から患者や家族へ関心を持ち続けることが重要で,これが患者のニードや家族にとっての患者の病気の意味を捉えることにつながると考える.

この因子の関連要因では,医師とのカンファレンスが開催される場合に困難が高い傾向であった.予想と異なったが,これは多職種間での不可逆的悪液質の理解やケアの判断が多様である12)ためと推察された.本調査でも6割以上の看護師が医師との協働において理解や判断が異なることに困難を感じていたのも理解できる.しかし,衰えや死に直面した患者や家族への対応は,さまざまな視点や価値観からのカンファレンスが大切であり,異なる価値観を共有し調整できる関係性の構築が望まれる.また,食事提供システムが整っている場合も困難が高かった.食事のケアだけでは解決できない状況があり,食事提供システムがあるがゆえの困難と推測された.

[II.不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断]では,病態や栄養状態の判断とともに心理社会面のアセスメントの困難が高かった.不可逆的悪液質の患者は,極度の衰弱や機能の低下によってネガティブな感情やボディイメージ,社会的な孤立,心の距離などさまざまな心理社会面への苦痛を抱くため患者を多面的に捉える必要があるが,これらの理解は容易ではない15).不可逆的悪液質のマネジメントは,全体的な安寧の向上や不可逆的悪液質に関連する症状の軽減に向けて集学的アプローチを行い2,16),複雑で困難な症候群を多職種の視点でホリスティックに対応する必要がある12).そのなかで,患者や家族の側にいる看護師は心身の反応を的確に捉えることが重要となることから,困難が高くなると考えられた.この因子の関連要因では,配属年数3年以上や常に不可逆的悪液質のケアに関わる看護師で困難が低下する傾向にあった.これは,臨床経験重ねた看護師であっても領域が変わればそこでの実践は初心者レベルになるため17),経験の蓄積が大切であることを示している.さらに,院内研修やがん看護専門看護師の在籍もこの困難を低下させることから,身近な教育環境を整えることも大切であろう.

[VI.看護師自身のセルフケア]では〈患者に提供する悪液質のケアに自信を持つこと〉や〈葛藤や無力感のような自分の感情をコントロールすること〉の困難が高かった.先行研究でも看護師は不可逆的な病態へのケアに困難や無力感を抱き,役割を見い出し難いことが明らかにされている15,18).看護師は他者の感情を扱い,感情の制御を中心要素とする感情労働の側面がある19,20).対象者は不可逆的で複雑な病態の患者に対して,看護師として何ができたのか見えにくい.また,衰えや死に直面して無力感や不安,抑うつ,怒りや絶望感を示す患者や家族をケアするなかで,自分自身の感情を強く揺さぶられると考えられる.自分自身がケアできなければ他者をケアできず21),自分自身の感情や巻き込まれている状態を知ることがセルフケアにつながると考える.この因子の関連要因では,配属年数3年以上で困難が低下する傾向にあった.自身の対処方法を獲得することも経験の蓄積が大切だと考えられた.

看護への示唆

不可逆的悪液質のケアに携わる看護師は,不可逆的な状態や死に直面した患者や家族に,関心を持ち続けて疾患や症状の体験に耳を傾けることを通して,疾患や関係性等その人の人生における意味や理解を促進する思慮深い対話が求められる.一方で,その関わりは看護師に無力感や葛藤の感情をもたらす可能性がある.看護師が自分の感情や状況に気付き,自分自身を愛護することが重要となるため22),カンファレンスを活用して看護師がセルフケアを行える環境や体制作りが必要である.[II.不可逆的悪液質のケアを行うアセスメントや判断]はケアを行う最初の段階に位置づけられ,支援が重要である.緩和ケア病棟配属が浅い看護師に対して,がん悪液質の原因や影響,アセスメントなど身体面の理解を目標とした継続教育を充実させる必要がある.

本研究は近畿圏の20病院の対象者に限られた横断的調査で,緩和ケア病棟看護師を対象としており,結果の一般化には限界がある.また,困難の項目は,測定ツールとしての信頼性や妥当性は十分検討されていない.さらに関連要因では,評価方法に検討の余地があり,他にも看護師の経験領域や学習状況,病床数や多職種連携等の要因があると推測されるため,今後さらに検討を重ね調査していく必要がある.

結論

不可逆的悪液質のケアに対して緩和ケア病棟看護師が抱く困難として6因子が抽出された.[I.衰えや死に直面した患者や家族の無力感や葛藤への対応]の困難が最も高かった.本因子の困難が高い対象者は他5因子の困難も高い傾向にあり,中核の因子として捉えられた.[II.不可逆的悪液質のケアを行うためのアセスメントや判断]は,アセスメントや判断,学習の機会を持つ困難が高かったが,配属年数や関わる程度,学習機会によって困難の程度が変わる可能性があった.不可逆的な状況に直面する患者や家族をケアする[VI.看護師自身のセルフケア]も必要であると推察された.以上より,患者や家族との思慮深い対話,看護師への教育支援,看護師がセルフケアを行える環境や体制作りが重要である.

謝辞

本研究にご協力くださいました看護師の皆様に深く御礼を申し上げます.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

中島,升谷,荒尾は研究の構想およびデザイン,データ収集と分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020日本緩和医療学会
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