Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
アドバンス・ケア・プランニングに関する病院職員の意識と実践の状況
鹿角 昌平木下 貴司松村 真生子
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2020 年 15 巻 3 号 p. 251-258

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Abstract

【目的】アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)に関する病院職員の意識と実践として,ACPの認知度,終末期医療に関する家庭内での話し合いや文書化の状況等を調査し,今後重点的に介入すべき点を把握して緩和医療の質的向上に資する.【方法】病院職員782名を対象として無記名自記式調査票により調査した.【結果】「家族や自分の終末期医療に関する希望について,家庭内で話し合ったこと」が「ある」のは146名(27.7%),「家族や自分が意思表示できなくなった場合の代理意思決定者について,家庭内で話し合ったこと」が「ある」のは58名(11.0%)と限られていた.それらの内容を文書化していたのは6名(1.1%)であり,話し合いの結果はほとんど書面として残されていなかった.【結論】ACPに関する病院職員の意識と実践は未だ発展途上であり,よりよい緩和医療を提供するうえで,職員自身もさらに知識理解や経験を深めていく必要性が明らかとなった.

緒言

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)とは,年齢や病期にかかわらず,患者の価値観,人生の目標,および将来の医療に関する望みを理解し共有し合うプロセスのことであり,重篤な疾患並びに慢性疾患において,患者の価値観や目標,および選好を実際に受ける医療,ケアに反映させることを目標とする1).また,このプロセスには自分が意思決定できなくなったときに備えて,代理意志決定できる人を選定しておくことを含むとされている1)

わが国においても高齢化の進展や人生観の多様化に伴ってACPの重要性は高まっているが,ACPの社会的認知,方法論の確立や具体的な支援ツールの開発等については発展途上であり,医療を提供する側でも十分に理解が進んでいないのが現状である24).そこで,ACPに関する病院職員の意識と実践として,終末期医療に関連する単語の認知状況,ACPに関する知識の状況,職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書化の状況,職員自身や家族の終末期医療に対する希望の尊重意志を調査し,今後重点的に介入すべき点を把握して緩和医療の質的向上に資することを目的として,研究を実施した.

方法

対象

本調査は2019年7月現在に長野中央病院(以下,当院)に在籍していた全職員782名を対象とした.当院の病床数は322床(一般:205,ICU:4,HCU:8,回復期リハビリ:56,緩和ケア:12,地域包括ケア:37)である.

調査期間

2019年7月9日から7月22日とした.

調査方法

無記名自記式調査票を配布して調査を行った.調査期間内に提出されたものを集計対象とした.調査項目は年代,性別,職種,終末期医療に関連する単語の認知状況,ACPに関する知識の状況,職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書化の状況,職員自身や家族の終末期医療に対する希望の尊重意志とした.

職種は選択式とし,医療職(医師,看護師,検査技師,薬剤師,リハビリ,放射線,臨床工学,栄養)と事務職(事務,その他)に分類した.年代は29歳以下,30~49歳,50歳以上の3件法で評価した.終末期医療に関連する単語の認知度は「人生会議」,「アドバンス・ディレクティブ(Advance Directive: AD)」,「ACP」,「リビングウィル」,「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)」,「安楽死」,「終活」,「尊厳死」の8語について聞いたことがあるものを選択式で評価した.ACPに関する知識の状況は「よく知っている」,「少し知っている」,「あまり知らない」,「全く知らない」の4件法で評価した.職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書化の状況の有無は「ある」,「ない」の2件法で評価した.職員自身の終末期医療に関する希望については「絶対に尊重して欲しい」,「状況により必ずしも尊重されなくてよい」の2件法で評価した.家族の終末期医療に関する希望については「絶対に尊重する」,「状況により必ずしも尊重しない」の2件法で評価した.

解析方法

職種の群間比較は,年代分布とACPに関する知識の状況はMann-WhitneyのU検定を,終末期医療に関連する単語の認知状況,職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書化の状況はPearsonのカイ2乗検定(必要に応じてFisher の直接法)を用いて行った.年代の群間比較はKruskal-Wallis検定を用いて行った.いずれの検定においても無回答は欠損値として除外した.検定における有意水準はp<0.05とした.解析ソフトはDr. SPSS II for Windows(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を用いた.

倫理的配慮

本研究は,長野中央病院倫理委員会の承認を得て実施した.調査用紙に倫理的配慮を行っていること,調査内容を学術的に発表すること,調査票への回答をもって研究参加・学術発表に同意取得とする旨を記して調査を行った.

結果

調査票の回収率は68.3%(534/782)であった.回答者の背景を表1に示した.職種は医療職405名(75.8%)[医師24名,看護師273名,検査技師23名,薬剤師13名,リハビリ22名,放射線11名,臨床工学16名,栄養23名],事務職121名(22.7%)[事務96名,その他25名],無回答8名(1.5%)であった.年代は29歳以下151名(28.3%),30~49歳276名(51.7%),50歳以上100名(18.7%),無回答7名(1.3%)であった.性別は男性136名(25.5%),女性395名(74.0%),無回答3名(0.6%)であった.職種が無回答であった8名と,年代が無回答であった7名は,それぞれの群別解析の際には除外した.その結果,医療職[29歳以下131名(32.8%),30~49歳200名(50.0%),50歳以上69名(17.3%)],事務職[29歳以下20名(16.5%),30~49歳72名(59.5%),50歳以上29名(24.0%)]であり,職種間で年代分布は有意に異なっていた(p=0.001).

表1 回答者の属性

終末期医療に関連する単語の認知状況を図1に示した.もっとも認知度が低かったのは「人生会議」(事務職4.1%,医療職4.0%,p=1.000)であり,以下「AD」(事務職1.7%,医療職9.1%,p=0.005),「ACP」(事務職17.4%,医療職23.2%,p=0.172),「リビングウィル」(事務職41.3%,医療職60.2%,p<0.05),「DNAR」(事務職43.0%,医療職78.3%,p<0.05),「安楽死」(事務職69.4%,医療職73.3%,p=0.398),「終活」(事務職78.5%,医療職76.0%,p=0.574),「尊厳死」(事務職74.4%,医療職80.5%,p=0.147)の順に認知度が高く,「AD」,「リビングウィル」,「DNAR」の3語では事務職の認知度が医療職に比べて有意に低かった.

図1 終末期医療に関連する単語の認知状況

ACPに関する知識は,医療職[「よく知っている」3名(0.7%),「少し知っている」51名(12.6%),「あまり知らない」103名(25.4%),「全く知らない」226名(55.8%),無回答22名(5.4%)],事務職[「よく知っている」2名(1.7%),「少し知っている」11名(9.1%),「あまり知らない」18名(14.9%),「全く知らない」83名(68.6%),無回答7名(5.8%)]の職種間では,知識の状況は有意に異なっていた(p=0.016)(表2).

「家族や自分の終末期医療に関する希望について,家庭内で話し合ったこと」は,29歳以下[ある34名(22.5%),ない113名(74.8%),無回答4名(2.6%)],30~49歳[ある82名(29.7%),ない180名(65.2%),無回答14名(5.1%)],50歳以上[ある30名(30.0%),ない62名(62.0%),無回答8名(8.0%)]の年代間では有意差を認めなかった(p=0.158)(表3).医療職[ある126名(31.1%),ない257名(63.5%),無回答22名(5.4%)],事務職[ある22名(18.2%),ない94名(77.7%),無回答5名(4.1%)]の職種間では,医療職の方が“ある”の割合が有意に高かった(p=0.004)(表4).

「家族や自分の終末期医療に関する希望について,書面を作成したこと」は,29歳以下[ある1名(0.7%),ない146名(96.7%),無回答4名(2.6%)],30~49歳[ある1名(0.4%),ない261名(94.6%),無回答14名(5.1%)],50歳以上[ある4名(4.0%),ない88名(88.0%),無回答8名(8.0%)]の年代間では有意差を認めた(p=0.009).医療職[ある5名(1.2%),ない378名(93.3%),無回答22名(5.4%)],事務職[ある1名(0.8%),ない115名(95.0%),無回答5名(4.1%)]の職種間では,有意差を認めなかった(p=1.000).

「家族や自分が意思表示できなくなった場合の代理意思決定者について,家庭内で話し合ったこと」は,29歳以下[ある12名(7.9%),ない135名(89.4%),無回答4名(2.6%)],30~49歳[ある31名(11.2%),ない231名(83.7%),無回答14名(5.1%)],50歳以上[ある15名(15.0%),ない75名(75.0%),無回答10名(10.0%)]の年代間では有意差を認めなかった(p=0.139).医療職[ある52名(12.8%),ない329名(81.2%),無回答24名(5.9%)],事務職[ある6名(5.0%),ない110名(90.9%),無回答5名(4.1%)]の職種間では,医療職の方が“ある”の割合が有意に高かった(p=0.013).

「家族や自分が意思表示できなくなった場合の代理意思決定者について,書面を作成したこと」は,29歳以下[ある2名(1.3%),ない145名(96.0%),無回答4名(2.6%)],30~49歳[ある2名(0.7%),ない259名(93.8%),無回答15名(5.4%)],50歳以上[ある2名(2.0%),ない90名(90.0%),無回答8名(8.0%)]の年代間では有意差を認めなかった(p=0.554).医療職[ある4名(1.0%),ない379名(93.6%),無回答22名(5.4%)],事務職[ある2名(1.7%),ない114名(94.2%),無回答5名(4.1%)]の職種間でも有意差を認めなかった(p=0.627).

「自分の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重して欲しいか」は,29歳以下[「絶対に尊重して欲しい」40名(26.5%),「状況により必ずしも尊重されなくてよい」104名(68.9%),無回答7名(4.6%)],30~49歳[「絶対に尊重して欲しい」69名(25.0%),「状況により必ずしも尊重されなくてよい」189名(68.5%),無回答18名(6.5%)],50歳以上[「絶対に尊重して欲しい」36名(36.0%),「状況により必ずしも尊重されなくてよい」56名(56.0%),無回答8名(8.0%)]の年代間では有意差を認めなかった(p=0.078).医療職[「絶対に尊重して欲しい」120名(29.6%),「状況により必ずしも尊重されなくてよい」260名(64.2%),無回答25名(6.2%)],事務職[「絶対に尊重して欲しい」26名(21.5%),「状況により必ずしも尊重されなくてよい」87名(71.9%),無回答8名(6.6%)]の職種間でも,有意差を認めなかった(p=0.080).

「家族の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重したいか」は,29歳以下[「絶対に尊重する」79名(52.3%),「状況により必ずしも尊重しない」64名(42.4%),無回答8名(5.3%)],30~49歳[「絶対に尊重する」100名(36.2%),「状況により必ずしも尊重しない」153名(55.4%),無回答23名(8.3%)],50歳以上[「絶対に尊重する」34名(34.0%),「状況により必ずしも尊重しない」54名(54.0%),無回答12名(12.0%)],の年代間では有意差を認めた(p=0.006).医療職[「絶対に尊重する」169名(41.7%),「状況により必ずしも尊重しない」204名(50.4%),無回答32名(7.9%)],事務職[「絶対に尊重する」45名(37.2%),「状況により必ずしも尊重しない」66名(54.5%),無回答10名(8.3%)]の職種間では,有意差を認めなかった(p=0.375).

表2 ACPに関する知識の状況
表3 職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書作成の状況,終末期医療に対する希望の尊重意志(年代別)
表4 職員自身や家族の終末期医療に関する家庭内での話し合いおよび文書作成の状況,終末期医療に対する希望の尊重意志(職種別)

考察

回答者の属性は医療職:事務職の比,および女性:男性の比は概ね3:1であり,年代は29歳以下の若手層が約3割,30~49歳の中堅層が約5割,50歳以上のベテラン層が約2割であった.

終末期医療に関連する単語の中では「安楽死」,「終活」,および「尊厳死」の3語は医療職と事務職の双方で認知度が高かった.これらは一般向けの新聞や雑誌等でも目にする機会の多い語群であり,世間に広く浸透していることを示すものであった.「DNAR」は医療職の認知度は高かったものの事務職では有意に低く,認知度が大きく乖離していた.「DNAR」は医療現場で汎用されている単語であるが,患者家族に対しては「DNAR」という単語を用いるのでなく,その内容を説明することとなる.西村らは「一般的に使用される平素な言葉でも,医療者と患者やその家族で認識が異なる場合がある」と報告5)していることから,「DNAR」のように認知度が乖離している単語については,受け手側がその内容をどのように認識しているかについても留意すべきと考えられた.「リビングウィル」,「ACP」,および「AD」は先の4語に比べて認知度が低く,とくに「リビングウィル」と「AD」は事務職の認知度が有意に低かったことから,医療職の一部でのみでしか通用していない現状がうかがえた.ADは事前指示と邦訳され,「ある患者あるいは健常人が,将来自らが判断能力を失った際に自分に行われる医療行為に対する意向を前もって意思表示すること」と定義される6).ADは治療についての本人の希望を記録した内容的指示と,本人が意思を表示できなくなった場合に代理意志決定できる人を選定しておく代理人指示に大別される.リビングウィルは内容的指示の一つであり,心肺停止時に心肺蘇生術を希望するか拒否するか,人工呼吸器の装着を希望するか拒否するか,輸血や輸液など,どこまでの治療は希望するがそれ以上の治療は拒否する,といったことが記載された書面である.このように少しずつ意味が異なる用語が多数存在していることも,認知度が低い一因と考えられた.「人生会議」は2018年に厚生労働省が「ACP」を表す日本語の愛称として提唱した7)が,全く認知されていなかった.

ACPに関する知識の状況は職種間で有意に異なっており,「全く知らない」は事務職の方が約10%高く,「あまり知らない」は医療職の方が約10%高いという違いが認められた.しかし,「よく知っている」と「少し知っている」はどちらの職種も10%強であり,程度の差はあれ全体としてACPに関する知識は乏しいことを示していた.小松らは「一般病棟看護師のがん患者に対するACP の認識を調査したところ,ACP の意味を認識できているのは20%に過ぎず,99%が施行できていなかった」と報告8)しており,当院の医療職におけるACPに関する知識の状況もほぼ同様であると考えられた.

「家族や自分の終末期医療に関する希望について,家庭内で話し合ったこと」が「ある」のは,年代間では有意差を認めなかったものの,29歳以下では2割であったのに対して,30~49歳,および50歳以上では3割と若干高かった.これは,年齢の上昇に伴って親世代の介護や看取りに関わる事例が多くなるためと推測された.職種間では事務職に対して医療職が有意に高く,「リビングウィル」や「AD」といった単語の認知度が医療職で有意に高かったこととも関連するものと考えられた.「家族や自分の終末期医療に関する希望について,書面を作成したこと」が「ある」のは各年代や職種で0.4~4.0%にとどまっており,話し合いを行ったとしても文書として残すことはほとんどされていないことが明らかとなった.ACPにおける家族の役割や文書化の意義は患者により大きく意見が異なり,賛否が分かれたとの報告9)もあることから,文書化は必ずしも必要なものではない.しかし,わが国は,延命至上主義の人が多いことに加え,本人よりも家族の意向が尊重されることが多いため,認知症になる前から本人が望ましいと考える生と死のあり方について考え,それを周囲に伝えて書き残す必要があるとの意見10)もある.よって,個々の事情に配慮したうえでの家族内での話し合いや,話し合った結果の文書化の重要性は高いものと考えられ,現状ではそれらの実践が不十分である可能性が示唆された.

「家族や自分が意思表示できなくなった場合の代理意思決定者について,家庭内で話し合ったこと」が「ある」のは,年代間では有意差を認めなかったものの,年代が上がるほど高くなる傾向がみられ,50歳以上では15.0%であった.しかし,「家族や自分の終末期医療に関する希望について,家庭内で話し合ったこと」が「ある」のは50歳以上で30.0%であったことに比べると,半数にとどまった.また,「家族や自分が意思表示できなくなった場合の代理意思決定者について,書面を作成したこと」が「ある」のも各年代や職種で0.7~2.0%にとどまっていた.高齢者の意思表示能力に関する報告11)として,介護老人保健施設入所者の多くはコミュニケーションが困難であり,意向確認書の署名を得ることの困難な場合がきわめて多いとされており,ACPにおいて代理意志決定者が果たす役割は高齢になるほど高まるものと考えられる.また,代理意志決定者の選択は患者のQuality of Life(QOL)に関連するとの報告12)では,終末期医療に関する意思決定者の分布は,「家族が主体的に決定した」161 名(39%),次いで「患者・家族と医師が一緒に決定した」110名(27%),「医師が主体的に決定した」84 名(21%),「患者が主体的に決定した」54 名(13%)であり,医師が意思決定者の場合にはGood Death Inventory(GDI)を用いた患者のQOL評価が有意に低かった(β=−0.29; P=0.014)とされている.以上のことは,代理意志決定者を選定することと,それを誰にするかということの重要性を示すものである.しかし,一般に代理意志決定者となることが多い家族のなかにも認知症を疑わせる人や,教養水準の低さからACPの意義や内容を十分に理解できない人もいるとの報告もあり11),高齢化社会の進展と相まって悩ましい問題を提起している.また,わが国では,余命を含むさまざまな医療に関する情報が患者よりも先に家族へ伝えられる傾向があり,患者には重要な情報が伝えられないまま家族が代理の意思決定を行う場合があることも報告されている13,14).本研究で代理意思決定者について話し合ったことや書面を作成したことが「ある」割合が非常に低かったことは,これらの要因から早い段階で代理意志決定者を決めてしまうことに消極的である可能性も考えられた.

「自分の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重して欲しいか」は,年代間では有意差を認めなかったものの,50歳以上で「絶対に尊重して欲しい」が他の年代より10%ほど高かった.これに対して,「家族の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重したいか」は,年代間で有意差を認め,29歳以下で「絶対に尊重する」が他の年代より15%ほど高かった.一般に年代が上がるほど家族の終末期医療を経験している割合は高くなると考えられ,その際の家族の状況に関しては,終末期症状の認識不足や否認的感情から療養環境を整えられず,望ましい死が必ずしも達成できている訳ではない現状が報告されている15,16).このような経験を実際に積み重ねていくことで,家族の希望については年代が上がるほど「絶対に尊重する」が低下する一方で,自分の希望については「絶対に尊重して欲しい」が上昇するものと考えられた.「自分の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重して欲しいか」は,職種間でも有意差は認めなかったが, 医療職の方が「絶対に尊重して欲しい」が10%近く高かった.また,「家族の終末期医療に関する希望について,どれくらい尊重したいか」は,職種間では有意差を認めず,「絶対に尊重する」はほぼ同等であった.医療職の方が事務職よりも若い年代が有意に多かったことを加味すると,この結果は医療職の方が終末期医療の現状をより身近に感じているためとも考えられたが,詳細な背景は不明であった.

病院職員を対象とした本研究の結果として,終末期医療に関連する単語の認知度は単語や職種により大きく異なっていること,ACPに関する知識の状況は未だに乏しいこと,終末期医療や代理意志決定者について家庭内で若干の話し合いは行われているが文書化はほとんどされていないこと等が明らかとなった.本研究の限界と課題は,病院の全職員を対象とした調査を行うため設問や選択肢をできるだけ簡便かつ平易にしたことにより,それぞれの結果の背景に対する考察が限定的となった点であった.また,本研究では各項目について職種間,もしくは年代間で比較考察を行ったが,対象を当院の全職員としたため回答者の属性は表1に示した通りの分布となり,各項目の回答結果にも影響を与えたものと考えられた.したがって,今後は対象を限定したうえで背景や回答理由等についても詳細な検討を行うことにより,終末期医療におけるACPの浸透のうえで,実践的な具体策の立案に資する知見の集積に努めていきたい.

結論

ACPに関する病院職員の意識と実践は未だ発展途上であり,よりよい緩和医療を提供するうえでも職員自身がさらに知識理解や経験を深めていく必要性が明らかとなった.

謝辞

アンケート調査に御協力をいただきました皆様方に深く御礼申し上げます.

利益相反

著者の申請すべき利益相反なし

著者貢献

鹿角は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;木下,松村は研究データの収集,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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