Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
高齢患者のがん治療方針における意思決定困難に関する要因に関する探索的研究─医師に対するインタビューから─
平井 啓山村 麻予鈴木 那納実小川 朝生
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2021 年 16 巻 1 号 p. 27-34

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Abstract

【目的】医療現場において,意思決定が困難である高齢者のがん治療事例の特徴と,医師による対応について探索的に明らかにする.【方法】腫瘍内科の医師7名に対してインタビューを実施した.調査項目は,意思決定困難な事例やその対応,意思決定支援に関することである.逐語記録をもとにカテゴリー分析を行った.【結果】まず,意思決定困難な事例は,認知機能・身体機能を含む[患者要因]と,周囲の状態である[環境要因]の二つに大別された.前者はさらに特性要因と疾病・加齢による要因に分けられる.次に,医師の対応は,[アセスメント]と[対応スキル],および[環境対応]の3カテゴリーとなった.【考察】患者への情報提供のために,患者要因や環境要因のアセスメントを行ったうえで,それぞれに対応するスキルを発揮する必要がある.具体的なスキルとしては,患者に応じた説明,目標の立案,ナッジを使うことが挙げられた.

緒言

今日,医療現場において,患者やその家族らの意思決定支援の重要性が改めて注目されている.意思決定は,選択肢の比較など合理的な判断が重要であるものの1),全がん患者の7割以上が65歳以上の高齢者となるなど2),医療現場の患者は高齢化してきている.意思決定の主体が高齢患者の場合,問題はより複雑になり,がん治療医らが抱える高齢患者対応の困難については治療適応の判定,認知症への対応,意思決定,療養先の確保という四つのテーマがあるとされている3).一方,がん診察連携拠点病院4)のうち,高齢者支援を系統立てて整備した施設は5.3%にとどまり,未整備の病院が多い5)

加えて,患者が持つ意思決定に関する能力のアセスメントの難しさも,支援を困難にする一因である.この能力を「意思決定能力」と定義した4要因モデルがある6).4要因とは,選択を表明する能力,治療に関連する情報を理解する能力,情報の重要性を認識する能力,論理的に考える能力である.これらは,診察中の様子や質問の受け答えなどから評価することができ,意思決定能力評価に応じた医療従事者のエンパワーメントが重要である.意思決定能力はその能力が最大化したときに評価する必要がある7)が,医学的判断や処置を行いながらの評価は非常に困難である.

さらに,加齢とともに顕著になる認知機能障害8)や,有害事象をできる限り回避したがる特有の傾向9)など,高齢者の意思決定に影響をもたらす要因は多い.とくに影響が大きいとされる認知機能の評価には,MMSEやHDS-Rといった検査の実施が推奨されている10).一方,治療同意能力は認知機能検査の得点だけでは判別が難しいという指摘もある1113).また,高齢者の能力評価について,標準化や閾値の設定に関する問題やその汎用性・有効性などについても検討が必要である14)

厚生労働省のガイドライン15)によると,高齢患者に対する意思決定支援には,意思形成支援・意思表明支援・意思実現支援のプロセスがある.このうち,意思実現支援については,地域包括支援など福祉分野の観点からも議論が行われてきた16).一方,意思形成支援や意思表明支援については,所属する団体や職能単位で医療従事者が各々現場知を発揮していると考えられる17).意思決定支援は注目を集めつつあるものの18),総合的知見や具体的な方略に関する検討は少なく,意思決定能力のアセスメントと対応させて整理しているものはほとんどない.

このように,高齢患者の意思決定支援に関する問題の全体像の把握することは困難となっている.そのため,高齢患者の治療上の困難要因を整理したうえで,アセスメントから対応,そして意思決定支援までの一連のプロセスを包括的に検討し,支援体制の整備へと結びつけることは喫緊の課題である.とくにがん医療においては,高齢患者に対する標準化された治療が確立しておらず19),治療に際しての決定が医師の裁量に任されていることから,治療医への負担の大きさが予測される.したがって,診察場面などの現場で実践されている評価と支援方略の関連やその周辺要因について整理することで,今後の意思決定支援体制に資することが考えられる.

そこで本研究では,医師を対象としたインタビュー調査を行い,高齢がん患者における意思決定およびその支援において,意思決定が困難である事例の特徴と,現場で実施される医師の対応を探索的に明らかにすることを目的とする.そのために,高齢患者の状態をアセスメントし,治療選択および意思決定に至るまでの意思決定支援の行動の内容とその関係性を具体的に記述して質的に検討する.

方法

調査協力者

腫瘍内科を専門とする医師7名に対して,半構造化インタビューを実施した(表1).まず,インタビューガイドを作成し,高齢者医療の専門家1名に協力を依頼した.その後,スノーボール・サンプリング法20)を採用し,がん診療連携拠点病院に所属し,がん治療認定医または日本臨床腫瘍学会暫定指導医,がん薬物療法専門医のいずれかである医師に協力を求めた.プロトタイプインタビュー時に地域性によるパターナリズムの存在が指摘されたため,機関の所在地を指定した.調査対象を腫瘍内科に限定した理由は,高齢患者が外科に比べ多く,治療法の選択肢が複数あり,選択肢が拮抗することも起こりうる複雑な意思決定を支援する必要があるためである.なお,調査者と調査協力者は,全員が調査時初対面であった.

表1 インタビュー対象者属性

手続き

インタビューは,調査協力者の所属機関の会議室にて調査者1名ないし2名との対面形式で行った.調査時間は一人当たり60〜90分程度,調査時期は2017年10月から2018年2月であった.はじめに,研究全体の概要と調査目的,研究倫理や情報管理に関する項目を説明し,同意が得られた場合のみ,同意書への署名を求め調査を実施すると伝えた.同意が確認されてから,記録用のICレコーダーによる録音と,文字による調査記録を開始した.

調査項目

インタビュー項目は,以下の五つであった.①これまでの臨床経験の中で意思決定困難だったと記憶している事例(患者・状況)の特徴およびエピソード,②患者のアセスメント方法(視点,タイミング,順序),③患者に対する支援方法や工夫(コミュニケーション方法を含む),④医療体制と他職種連携に関する事柄(環境,文化社会的状況を含む),⑤治療方針決定に関する考え方と状況(治療計画に関連する要素,配慮事項,目標の立て方等)である.あらかじめ,高齢者医療制度の適応を受ける65歳以上の患者であり,外科治療以外を医学的判断に基づいて進めることが妥当と判断した事例についての回答を依頼したうえで聞き取りを行った.

分析方法

以下の手順で内容分析21)を行った.内容分析とは心理学や社会学で多く用いられ,文節や文章といった単位に依存せず記録単位で分析するため,聴取データの分析に適合した手法である.まず,インタビュー記録を逐語化し,意味のある区切りを単位として,意思決定困難の特徴と,それに対する対応策について,具体的要因や方法を抽出した.次いで,抽出した内容を踏まえ,類似したものをグループ化し,サブカテゴリーとしてまとめた.サブカテゴリーの中でも,共通した属性を有するものを再カテゴリー化し,大カテゴリーとしてまとめた.分析は逐語記録を用い,がん治療ならびに意思決定に関する研究知見を持つ1名と,質的研究に長けた研究者1名(ともに心理学専攻)が協議のうえカテゴリーを作成し,議論が一致しない場合は他1名が判断を行った.

倫理的配慮

本研究の立案にあたり,ヘルシンキ宣言ならびに人を対象とする医学系研究に関する倫理指針のもとで計画を行った.また,研究計画について大阪大学大学院人間科学研究科教育学系研究倫理審査委員会において審議,承認された(承認番号17030).

結果

7名の医師にインタビューを実施した時点で,理論的飽和に達したと判断した.合計415分19秒の発話記録を得て,分析を行った.以下,カテゴリーについての記述をもとに,意思決定が困難な事例の特徴と,それに対する医師の支援方略について述べる.

意思決定困難である事例の特徴

意思決定困難である事例の特徴として,患者自身に関する[患者要因]と,環境に関する[環境要因]の大カテゴリー二つが抽出された.

1.患者要因

[患者要因]は,二つの中カテゴリーに分けられた(表2).一つ目の〈生来・生育による特性要因〉は,三つの小カテゴリーから構成される.

一つ目は《個人特性》であり,教育歴や地域性,反応性といった要因を指し,患者の生来または幼少期に形成された要因のことである.具体的には,教育歴に起因する論理的思考力や,コミュニケーションの癖,医師の権威性の強さといった地域性,他者から影響の受けやすさなどである.

二つ目は《行動特徴》であり,行動として表出する事柄であり,表情と主張性が含まれた.表情の具体的な記述には「不自然な硬さ」「視線の不自然さ」などがあり,主張性では,反応の乏しさが挙げられた.

三つ目は《理解の阻害》であり,柔軟性の欠如や目標の乖離を指す.例えば,「薬を飲めば必ず治る」などの思い込みや,非現実的な理想像により,重要な情報の取り入れが阻害された事例が語られた.加えて,確証バイアス22)が強い場合や,予後などネガティブな説明を理解しようとしなかったり,新たな情報を取り入れられなかったりする例がある.また,想像力欠如として,数カ月・数年先の見通しが持てないなどの特徴も挙げられた.

二つ目の中カテゴリーである〈疾病・加齢による要因〉は,加齢・疾病の影響で心身の能力が低下し,意思決定が困難になる場合を指す.このカテゴリーは二つの小カテゴリーから構成される.

一つ目は《身体機能》である.日本老年医学会が指摘する虚弱・フレイル23)が大きな要因であり,手術や全身状態の影響がみられる場合や,加齢により機能低下がある場合が挙げられる.次に,合併症や既往症など,がん以外の疾病である.意思決定に直接的に影響を与える精神疾患のほか,複数の身体疾患に対する治療方法・方針が提示されることによる複雑性が挙げられた.さらに,老化による視聴覚の衰えや障害がある場合,理解が困難になる場合が多い.

二つ目の《認知機能》は,認知機能障害や老年性の精神障害に関係する要因から構成される.認知症の患者や,軽度認知機能障害が疑われる患者の場合,意思決定は難しい.また,老人性うつなどの精神障害による思考力低下も指摘された.

表2 意思決定困難な患者要因

2.環境要因

意思決定が困難な患者の特徴の,もう一つの大カテゴリーである[環境要因]は,三つの中カテゴリーに分けられた(表3).

一つ目の〈家庭環境〉には,老老介護・独居である場合や,家族からの支援が期待できない場合など,サポート不全が含まれる.ほかにも,患者と家族の考えが異なる場合や,家族の主張が強い場合がある.また,社会的資源との調整不全も指摘された.

二つ目の〈外部情報〉ではメディアと知人からの影響が挙げられた.前者では,テレビ報道の影響で意思決定が固定化された事例が,後者では知人の経験を過度に自分に当てはめる事例が挙げられた.

三つ目の〈医療環境〉では,医師側の課題が二つ示された.一つは情報提供で,患者に適応可能な選択肢が複数ある場合は判断が難しくなるといった語りがあった.もう一つは連携不全で,医療従事者間の連携が円滑でなく,診療科ごとに医師の説明が異なる場合や,セカンドオピニオンで異なる説明を受けた場合などが挙げられた.これらの場合,どの情報が正しいのかを判断できず,患者の意思決定が困難になることが指摘された.

表3 意思決定困難な環境要因

医師が実践している対応

前述の要因を踏まえ,治療医らが実施している支援方略を整理した結果,大カテゴリーは[アセスメント]と[対応スキル],および[環境対応]となった(表4).

表4 医師が実施している対応の工夫

1.アセスメント

[アセスメント]は,二つの中カテゴリーに分けられた.一つ目が〈身体機能〉であり,さらに二つの小カテゴリーに分類された.医師らは,診察場面で《動作からの評価》をしていることが語られた.加えて,問診や他科からの事前情報・検査結果を確認することで《医療的評価・診断》を行っており,とくに合併症の有無が重要な評価点となっていた.

二つ目は〈認知機能〉であり,さらに三つの小カテゴリーに分類された.ここでは,診察時の言動から,《認知機能》と《知的水準》を把握することが重要とされた.また,《理解度確認》の方法として,患者が自身の病気について思うことや,これまで受けた説明について質問することが有効であるとの言及があった.さらに,日常生活の様子を質問することで,行動と認知,さらには生活のうえで重要としている価値観の情報収集を一括して行っているという事例もみられた.

2.対応スキル

[対応スキル]は,三つの中カテゴリーに分類された.一つ目は医師の〈説明スキル〉であり,現状や治療への理解が不足している際に実施される,医師が複数回説明を行う《繰り返し》や,説明の《タイミング》について語られた.《事実伝達》では,治療の見通しを,容態が良いときに事実をもとに伝達することが指摘され,ネガティブに捉えられる可能性がある予後や余命についても明確に伝えることが意思決定に必要であるとの言及があった.

二つ目は意思決定に必要な〈目標の立案〉であり,医師から見通しを《明確化》すること,医療的判断に基づいて患者の《見通しの修正》をすること,患者が持つ《価値観の抽出》をして目標に反映することが挙げられた.

三つ目の〈情報調整〉には三つの小カテゴリーが含まれる.それぞれ,アセスメントの内容に応じて提供する《情報量》を調整すること,意思決定における《選択肢》を3〜4個程度の数に抑えること,そして医師が望ましいと考えるものを明示し《ナッジ》を効かせることである.

3.環境対応

[環境対応]は,いずれも〈環境調整〉にまつわる事項である.小カテゴリーは二つあり,《人的リソース》については,他職種連携を促進し,多様な人材で支援する事例が挙げられた.《情報遮断》では,メデイアや家族などから得た情報を確認し,可能であればその修正を行ったうえで,患者自身の考えについて重ねて質問するといった工夫があげられた.

考察

本研究の目的は,医師に対するインタビューを通して,意思決定が困難となる事例の特徴と,その対応方略について,探索的に明らかにすることであった.その結果,意思決定が困難となる患者要因として,個人特性,行動特徴,理解の阻害といった3点があること,また,環境要因としては家庭環境と外部情報が影響していることが抽出された.そして,支援の工夫には,アセスメントと対応スキル,環境への対応が必要であることが示された.

困難な要因とその支援

本研究で明らかになった重要な事項は,高齢患者における意思決定困難の要因と医師の支援行動の対応である.患者の意思決定困難の要因には,大きく分けて[患者要因]と[環境要因]があった.前者への支援には,医師の[アセスメント]と[対応スキル]が,後者への支援には[環境への対応]が必要となることが示された.ここでは,調査で抽出された意思決定困難の各要因と支援方法を対応させて考察を行う.

[患者要因]に関わる要因はそれぞれ発生する原因が異なるが,医師の問いかけに対する反応が鈍かったり,適切な回答でなかったりと,いずれも刺激に対する反応や表情として現れる.そのため医師は,多様な[患者要因]について〈アセスメント〉は身体機能と認知機能の二つの視点から行っている.医師が持っているアセスメントの視点のみから行われるため,患者要因の要因は身体・認知のいずれかから捉えられることが明らかとなった.患者の価値観などその他の視点からのアセスメントも,研修受講などから取り入れることが望ましいと考えられる.医師らは言動の内容を検討しながら,反応までに要した時間やその表情・視線,家族などの第三者の反応を観察し,アセスメントするなかで,〈理解の阻害〉に分類されたような困難要因を特定していた.患者の情報理解が難しい場合,認知能力と生来の特性の両方が関係していると考えられる.理解力に困難がある患者は,正しい情報を伝えることを前提とする意思決定が困難になる場合が多い.そこで医師は,[対応スキル]により,理解の促進や目標の是正を行うのである.

また,患者自身が症状や治療目的を理解せずに意思決定を行っている場合もあり,信頼性に留意する必要がある.これについてもアセスメントと対応の工夫を組み合わせながら,患者が「本当に理解しているか」を確認し続けることが求められる15)

外来看護師の意思決定支援について検討した研究24)では,患者が納得して意思決定をするために,看護師としての業務のなかで支援が必要な患者を見つけようとしていることが指摘されている.本研究の対象の医師たちも,診察業務中の限られた資源からアセスメントを実行し,患者との関わりのなかで支援を実施していることが明らかとなった.

また,医師はアセスメントを踏まえた意思決定支援を選択する必要がある.具体的なスキルは,いかに説明し,理解させるかといった点に焦点化されていた.これまで,医療法の第一条の四が定める通り,医療現場の多くではインフォームドコンセントが重要視されてきたが,正しい情報提供と説明だけでは不十分である点も指摘されている.例えば,インフォームドコンセント時に医師が説明した内容と患者の理解には差があり,説明内容を正しく理解する人の割合は多くても28%であり25),高い数値とは言い難い.これは認知機能に問題がない若年齢(20代)の患者における数値であり,医師から患者への情報伝達の困難さを示している.患者の認知機能に課題がある場合,より問題は顕在化しやすいため,理解力や記憶力の低下,バイアスの強さにも注意を払う必要がある.インタビューでは,患者の意思決定の信頼性を考慮する必要性が複数から指摘された.意思疎通や意思決定支援ができていると医師が感じていても,実際患者は理解していない可能性があるため,説明スキルをつけるだけでなくこまめなアセスメントを行いながら,情報調整の工夫をする必要がある.また,医師が持つ情報を患者に伝えるためには,アセスメントに基づいた支援を継続して行っていく必要があり,本研究で明らかとなったスキルを用いて対応することが有効であると考えられる.

意思決定困難な患者への共通する対応

意思決定支援における意思形成支援と意思表示支援15)それぞれに対する支援の工夫が抽出された.本調査の対象の医師らに共通した工夫として,〈目標の立案〉がある.彼らは,治療における目標を「できるだけ長く現在の生活を維持すること」と明言し,患者との共有を図っていた.このように,医学的判断に基づく目標を明確にしてから支援することが重要であることが示された.また,専門知識と患者の価値観を理解した医師が主導し,意思決定の指標を提案するといった,ナッジを効かせた介入についても指摘があった.ナッジとは,強制することなく自発的に人々の行動を変容させるアプローチである.このように,目標の明確化やナッジを用いたうえで,患者の自由な意思決定を支援する医師らは,リバタリアン・パターナリズム26)の概念を用いて対応しているといえる.リバタリアン・パターナリズムとは,自由放任(リバタリアン)と家父長的管理(パターナリズム)の両方を矛盾なく並存させる概念であり,あくまで本人の自由意志に基づく選択の余地を残したまま,妥当性の確認された望ましい方向へ誘導していくことが可能となる.例えば,患者の意思決定する場面で,デフォルト設定した資料で情報を提供されると,患者の決定は,その影響を受けることが指摘されている27).本調査の結果からも,目指す目標を明確に提示しつつ,患者の自由意志に即した意思決定の余地を残しておくことが,有効な対処策として機能していると考えられる.

研究の限界

本研究の限界としては,第一に,少数の医師からの聞き取りに限定しているため,実際の診療場面にどの程度意思決定困難患者がいるのか,支援の工夫によって理解・記憶が促進されているのかといった実態がわからない点がある.第二に,熟練した専門医のみを対象としており,他の医療従事者らの実践可能性についての検討が不足している点である.この二点を解消するためには,患者への診察場面での実態調査ならびに,医師の支援のリスト化や実施難易度などのカテゴリ化が必要である.

結論

本研究では,がんの専門医へのインタビューを通し,意思決定が困難である事例の特徴と,それに対する医師の対応方略について明らかにした.事例の特徴は,認知機能・身体機能を含む患者要因と,周囲の状態である環境要因に分類され,とくに医師は前者に対してアセスメントを行い,情報量の調整などの説明スキルや,目標の明確化やナッジの使用といった意思決定支援のスキルを使用していることが示された.

謝辞

本研究の実施にあたり,調査協力いただいた対象者の皆様,インタビューデータ作成ならびに分析補助を担当した大阪大学大学院人間科学研究科の日高直保氏に感謝申し上げます.

研究資金

本研究は平成29年度AMED(革新的がん医療実用化研究事業)「認知症合併に対応した最適の治療選択と安全性の向上を目指した支援プログラムの開発」ならびに平成29年度厚生労働省科学研究費補助金「高齢者のがん医療の質の向上に資する簡便で効果的な意思決定支援プログラムの開発に関する研究」の補助を受け,実施した.

利益相反

小川朝生:報酬(中外製薬株式会社)その他:該当なし

著者貢献

平井は,研究の構想ならびにデザイン,研究データ収集と分析,解釈,原稿の起草と重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;山村は研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;鈴木は分析,原稿の起草に貢献;小川は研究の構想とデザイン,データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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