Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
終末期肺がん患者に対する苦痛緩和のための鎮静導入に関わる呼吸器内科病棟看護師の体験
山下 千尋杉村 鮎美佐藤 一樹安藤 詳子
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2021 年 16 巻 2 号 p. 197-207

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Abstract

苦痛緩和のための鎮静はがん患者の治療抵抗性の苦痛を緩和する有効な手段だが,倫理的な問題を生じやすい.鎮静は一般病棟でも施行されており,一般病棟看護師の鎮静に関するケアの実態把握と質向上は急務である.本研究はがん診療連携拠点病院の呼吸器内科病棟に勤務する看護師を対象に,鎮静が施行される終末期肺がん患者に対する看護師の行為・判断・思いについて半構造化面接し,Krippendorffの内容分析により看護師の行為・判断16カテゴリー,積極的感情8カテゴリー,消極的感情5カテゴリーを抽出した.看護師は患者・家族の苦痛緩和のために常に最善策を模索し,その心情に寄り添う努力をしていたが,多職種協働と鎮静に関する話し合いに対する自信と積極性に差がみられた.看護師が自信を持って鎮静に積極的に働きかけることで,患者・家族の意思決定を支援し,苦痛緩和とQOL維持に最適な鎮静手法を検討できる可能性が示唆された.

緒言

苦痛緩和のための鎮静は終末期がん患者の治療抵抗性の苦痛を軽減する有効な手段である.国内では2018年に「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」(以下,手引き)1)が発行され,2010年版の「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」(以下,鎮静ガイドライン)2)から鎮静の定義や分類が変更された.鎮静は倫理的問題が生じやすく,患者の生命予後に与える影響35)や倫理的妥当性68)が繰り返し検討されてきた.今なお鎮静剤の投与法9,10)や効果11,12),鎮静開始や維持の判断基準等が議論されており13,14),鎮静の過程で緩和ケア専門家の助言を得ることが望ましい1).しかし近年一般病棟でも鎮静は施行されている.一般病棟は医療技術の高度化・複雑化等による時間的制約を受けやすく,緩和ケアの質と患者・家族の満足度に関する課題が指摘されている1517).そのため,一般病棟で鎮静を施行する環境は,緩和ケア専門施設に比べより複雑で困難な状況と考えられる.とくに,一般病棟の中でも肺がん患者が多く入院する呼吸器内科病棟は鎮静の実施頻度が高いとされている18).肺がんは国内最多のがん死亡部位であり19),多くの患者が呼吸困難,せん妄を発症する.これらは鎮静が必要と判断される苦痛として最も多く挙げられる症状である20).そのため,呼吸器内科病棟看護師は肺がん患者と家族に診断・治療期から関わり,治療だけでなく鎮静や看取り等,さまざまな場面を経験していると考えられる.

鎮静に携わる看護師は,患者の生活に寄り添い,病状変化のアセスメントや予後予測を医療従事者間で行えるように調整し,患者家族へ説明する力が求められる21).鎮静に携わる一般病棟看護師のケアの質を向上するための具体的な支援方法を検討するためにも,看護ケアに関する実践知を明らかにする必要がある22)が,先行研究の多くは看護師の鎮静に対する負担感や認識に注目しており2325),一般病棟の鎮静導入過程や看護師のケア,態度は明らかになっていない.

そこで,本研究は一般病棟の中でもとくに鎮静に携わる機会が多いと考えられる呼吸器内科病棟看護師を対象とし,終末期肺がん患者の鎮静導入過程の看護師の行為,判断,思いを明らかにすることで,鎮静に携わる看護師の役割について示唆を得ることを目的とした.

方法

用語の定義

・苦痛緩和のための鎮静:患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬剤を投与すること,あるいは患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって生じた意識の低下を意図的に維持すること.なお,使用した薬剤,鎮静の深度については限定しない.本研究は調査開始時点で発行されていた2010年版の鎮静ガイドライン2)をもとに用語を定義した.

・行為:看護師が患者,家族,医療者に対して行ったケア

・判断:看護師が患者,家族,医療者に対して行うケアを特定する,もしくは起こっている事象を評価する思考

・思い:看護師が患者,家族,医療者に関わるなかで経験した感情的な心の動き

調査対象者

厚生労働省が指定する東海地方の都道府県・地域がん診療連携拠点病院の呼吸器内科病棟を対象施設とした.目標や状況変化に柔軟に対応できる中堅看護師以上の段階にあり26),自身の看護実践をより深く振り返ることができると考え,対象看護師は看護師通算経験年数5年目以上,かつ病棟勤務年数3年目以上とした.

調査期間

2017年11月~2018年10月

データ収集方法

インタビューガイドを用いた半構造化面接を行い,ICレコーダーに面接内容を録音しメモを残した.面接では「苦痛緩和のための鎮静が施行された終末期の肺がん患者で,対象者が過去3年程の間に受け持ち患者として担当した,または鎮静に関する意思決定過程に関わった患者」1例を想起してもらい,その患者に鎮静が施行される過程と,看護師の「行為」「判断」「思い」について聴取した.研究参加者には面接前に調査票を配布し,対象者背景と事例背景について事前に調査した.

データ分析方法

ICレコーダーに録音したデータと面接中に残したメモをもとに逐語録を作成し,Krippendorffの内容分析27)を参考に以下の手順でカテゴリーを抽出した.

①逐語録の内容を,対象者の語りの意味内容を損なわないように1文脈に区切り1文章とした.その後,文章の内容を前後の文脈から読み解き,主語などを補足して要約しこれを記録単位とした.

②記録単位を対象者ごとに看護師の「行為」「判断」「思い」グループに分類し,その類似性に基づいて小コードを作成した.なお,小コードを作成する際には記録単位の重複を認めることとした.

③「行為」「判断」「思い」グループ内で,小コードの示す意味内容の共通性を解釈してまとめ,それをコードとした.

④コードを類似性に基づき統合しサブカテゴリーを作成した.

⑤サブカテゴリーをさらに比較検討し,類似したものを統合し,カテゴリーとして命名した.なお,行為カテゴリー,判断カテゴリーを統合して行為・判断カテゴリーを作成した.

分析の整合性・厳密性を得るため,対象者の発言内容と解釈に相違がないか何度も確認した.また,全過程で質的研究の経験のあるがん看護研究のスペシャリストのスーパーバイズを受けながら実施した.

倫理的配慮

名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得て研究を実施した.対象者に研究の主旨を文書と口頭で説明し,研究協力の拒否や途中辞退の自由,個人情報の保護,得られたデータは研究目的以外には使用しないことを明記し,文書にて同意を得た.また,面接はプライバシーを確保できる個室で実施し,ICレコーダーの使用の可否は口頭と文書にて同意を得た.

結果

対象者の背景

3施設18名の看護師から研究協力の同意を得た.3施設はすべて内科・外科混合病棟でその特性に差はなかった.(表1)対象者の平均年齢は34.1±8.02歳,通算経験平均年数11.6±6.61年,病棟勤務平均年数4.56±1.37年,女性16名,男性2名だった.鎮静ガイドラインの認知・使用は,半数以上の看護師が「ほとんど・あまり知らない」,「ほとんど・あまり使用しない」と回答した.事例では,鎮静を必要とした症状は呼吸困難が最も多かった.使用薬剤はミタゾラム11例,塩酸モルヒネ15例で,両剤併用は8例だった.鎮静導入を決定した者が本人以外だった事例は8例だった.対象者が事例に関わった時期は10日前から約4年前と幅があった.平均面接時間は57分だった(表2).

表1 対象病棟背景
表2 対象者の背景

カテゴリー

2511記録単位から1345小コードを得て,219コードを作成した.看護師の行為・判断16カテゴリー,積極的感情8カテゴリー,消極的感情5カテゴリーを抽出した.カテゴリー名は行為・判断を【 】,積極的感情を《 》,消極的感情を{ }とし,サブカテゴリーを[ ],コードを〈 〉で表す.

①苦痛緩和のための鎮静に関する看護師の行為・判断(表3

看護師は鎮静開始前から【1.苦痛緩和のための最善策の模索と判断】を行い,【2.患者と家族の孤独を思いやり傍に寄り添う】等,患者・家族の苦痛緩和を図るため,さまざまな工夫をしていた.また【3.患者家族の病状の理解と受容に対する支援】を行い,【4.患者の最期の希望を叶える努力】をしていた.そして【5. 多職種間の円滑な協働のための調整】をしていたが,【6.緩和ケアチームとの積極的な協働】の一方で,【7.緩和ケアチームとの消極的な関わり】の実態があった.

看護師は【8.鎮静の話題を切り出す時期の判断】をしていた.しかし〈早期からの苦痛緩和のための鎮静に関する情報提供〉という【9.鎮静導入に関する患者・家族との積極的な話し合い】の一方で,〈患者の終末期治療の希望の確認不足〉という【10.鎮静に関する話し合いの不足】が述べられた.

看護師は【11.鎮静導入のタイミングの判断】をしていた.鎮静開始の意思決定については[患者の意思決定能力と本心の確認]等の【12.鎮静開始決定の本心の見極め】をしていた.

看護師は[鎮静剤の投与開始]等の【13.鎮静効果の評価と鎮静剤の調整・管理】を担っていた.そして鎮静中の患者の【14.患者の尊厳を守る方法の模索と判断】をしていた.また【15.鎮静中の家族の孤独を思いやり寄り添う】ことで家族の精神的ケアを担っていた.やがて,患者の死が近づくと【16.家族の悲嘆の推測と穏やかな死別の援助】を行っていた.

②苦痛緩和のための鎮静に携わる過程で生じる看護師の積極的感情(表4

看護師は少しでも患者・家族の苦痛を減らしたいと《1.苦痛緩和に対する使命感と罪悪感》を持っていた.そして《2.患者・家族の複雑な心情と孤独を受容》していた.また〈予後が短い故に希望を叶えられないもどかしさ〉等,《3.限られた予後の中で希望を叶えたいという使命感》を持っていた.[多職種の積極的なコミュニケーションに裏打ちされた自信][緩和ケアチームに対する強い信頼]という《4.スペシャリストとの協働に裏打ちされた自信》と,《5.安寧をもたらす鎮静に対する自信》を感じていた.そして《6.鎮静開始後も変わらぬ苦痛緩和への使命感》を抱えながら,《7.鎮静中の患者と家族の仲介者であるという自覚》を持って鎮静中の患者・家族に臨み,《8.苦痛のない最期への使命感》を抱いていた.

この8カテゴリーは,悩みながらも現状を打破する方法を模索する看護師の積極性が表れていると考え積極的感情と分類した.

③苦痛緩和のための鎮静に携わる過程で生じる看護師の消極的感情(表5

看護師は[急性期病棟故に生じるケアの制限に対する諦め]や[主科医の指示による不十分な症状コントロールへの不満]という{1.主科だけで苦痛緩和を図る限界}を感じていた.また,鎮静を含めて患者・家族と終末期ケアの希望を話し合うことに{2.患者の「最期」を話題にする罪悪感と拒否感}を抱いていた.[多職種間のコミュニケーションに対する不全感][活動不透明な緩和ケアチームに対する不信感]という{3.スペシャリストに対する不信感},{4.鎮静の効果と意義への疑心}や[鎮静決定における患者の本意の反映への疑問]等の{5.鎮静決定プロセスへの疑問}という看護師の不全感や拒否感等の感情が語られた.そのため,この5カテゴリーは看護師の消極的感情として分類した.

表3 苦痛緩和のための鎮静に関する看護師の行為・判断
表4 苦痛緩和のための鎮静に携わる過程で生じる看護師の積極的感情
表5 苦痛緩和のための鎮静に携わる過程で生じる看護師の消極的感情

考察

苦痛緩和のための鎮静に関わる呼吸器内科病棟看護師の行為・判断の検討

看護師の行為・判断について,2018年版手引きの「苦痛緩和のための鎮静における評価・意思確認・治療・ケアのフローチャート」に沿って検討した.

看護師は患者・家族の苦痛が最大限緩和されるよう工夫し,多職種と協働しながら努力していた.とくに酸素吸入や吸引,安楽な体位の工夫等呼吸困難について緩和するための努力が語られたことは呼吸器内科病棟看護師の特徴といえる.手引きでは,治療抵抗性の苦痛が疑われた場合,症状緩和のための十分な治療が提供されているかチームで再検討し,苦痛に対する閾値を上げ人生に意味を見出すための精神的ケアを検討するとしており,看護師は手引きで推奨されるケアを実施していたといえる.手引きでは治療を十分見直しても苦痛が緩和されない場合に鎮静導入を「患者の意思と状況の相応性から考えて最善の選択は何か」という点で検討するとしている.看護師は鎮静開始の意思が患者の本意であるか見極めようとしていた.これは患者または家族の意思決定が患者の価値観に基づくかを判断していたと考えられる.

鎮静開始後の看護師は,鎮静剤を管理しながら鎮静開始前と変わらず患者の苦痛緩和に努め,患者に寄り添う家族の心情を思い積極的なコミュニケーションを取るよう心がけていた.そして,家族の悲嘆に寄り添っていた.終末期患者に接する看護師の抱く「よい最期」像の一つに,症状コントロールができ苦しみがないことが挙げられる28).鎮静開始後の看護師の行為・判断は,「よい最期」を迎えさせてあげたいという看護師の思いの影響を受けた可能性が考えられる.

また,看護師はすべての過程で患者・家族の希望や思いを探り,それを考慮したうえでケア内容を決定していた.患者・家族の希望を優先する姿勢は先行研究25)とも一致し,手引きでもその重要性が明記されている.

以上のことから,鎮静に関する看護師の行為・判断は手引きに則っていたと考えられる.一方で,調査対象者の半数以上は鎮静ガイドラインを認知・使用していなかった.本研究の対象者は,状況をすべて把握し診断的な推理と決定を行うことができる中堅看護師であり26),スタッフと情報共有を行っていた.看護師は経験と病棟スタッフ間の話し合いにより,鎮静に関する行為・判断をしていたと考えられる.手引きの周知不足は以前から指摘されている23,25).手引きは看護師の判断の拠り所となり,多職種間の話し合いを円滑にするために有効である.手引きの周知,使用の普及のためには鎮静に関する学習の機会を提供する等,教育的支援の整備が必要である.

鎮静導入過程における看護師の積極性,消極性による影響

看護師の緩和ケアチームとの協働,鎮静導入に関する患者・家族との話し合いへの積極性の差,積極的・消極的感情という反対の性質を表すカテゴリーが抽出された.鎮静に対する看護師の積極性に影響を受けた患者・家族の経過と,消極性に影響を受けた患者・家族の経過に差が生じる可能性がある.

①鎮静導入の話し合いについて

本研究では,先行研究29,30)同様,【10.鎮静に関する話し合いの不足】が生じていた.肺がん患者は病状進行が早く,診断時にはすでに病期が進行している場合もある31).また免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬等治療の選択肢が増加し,患者は最期まで治療を続ける傾向にある31).そのため看護師は積極的治療方針に疑問を抱きつつ,鎮静等の話題を提供することで患者・家族の希望を損なうのでは,と{2.患者の「最期」を話題にする罪悪感と拒否感}を抱いていた.鎮静開始決定には患者本人の明確な,または推定意思が必要である1,32).それがない場合,家族の代理意思決定は困難で葛藤を生じる30,33,34).鎮静開始時機を逸すると,苦痛緩和の効果を十分に得ることができない.鎮静開始後も苦しむ患者や葛藤する家族を見た看護師は{4.鎮静の効果と意義への疑心}を感じ,患者・家族の意思確認の不十分さに{5.鎮静決定プロセスへの疑問}を抱き倫理的葛藤を強める14,23).伊藤ら14)は,看護師は鎮静と患者の生死を関連させており,人生の最期を扱う重大性や責任が負担につながるとしている.そのため,{2.患者の「最期」を話題にする罪悪感と拒否感}を抱く看護師は,鎮静について患者・家族と話し合うことにさらに消極的になり,再び鎮静導入の機会を逃すという悪循環が生じると考えられる.

一方,【9.鎮静導入に関する患者・家族との積極的な話し合い】の機会を得て患者・家族の意思確認がされていた場合,鎮静導入がスムーズで,少量から鎮静剤を開始し患者が会話可能な状態で苦痛を最大限緩和することを目標とする調整型鎮静9)等,患者の鎮静後のQuality of Life(QOL)を維持するための手法を選択することが可能となる.鎮静開始後穏やかな時間を過ごす患者と家族を見て,看護師は《5.安寧をもたらす鎮静に対する自信》を持つと考えられる.看護師は患者・家族と鎮静について話し合う機会を持てるように,手引きを確認し,鎮静に対する正しい情報・認識を得る必要がある.

②多職種協働について

緩和ケアチームに相談することは,終末期患者に対する看護ケアにポジティブな影響を与えるとされている35).本研究でも,【6.緩和ケアチームとの積極的な協働】や医師との円滑なコミュニケーションを挙げた看護師は《4.スペシャリストとの協働に裏打ちされた自信》を持っていた.

一方,【7.緩和ケアチームとの消極的な関わり】を挙げた看護師も存在した.一般病棟看護師は医師の指示や説明の不十分,コミュニケーションへの不満と諦めを感じているとされており25),十分な苦痛緩和が得られず治療方針への疑問が生じたとき,看護師は{1.主科だけで苦痛緩和を図る限界}を抱くことになる.緩和ケアのスペシャリストの不在やスタッフ間でのコミュニケーション不足は,看護師の孤立感を高め,その責任を重くし23,24),鎮静に対して消極的になる.多職種間の積極的な協働は患者・家族の刻々と変わる状況の的確な評価や判断につながり,鎮静に携わるすべてのスタッフの孤立を防ぐことができる.また,より専門的で高度な技術や知識の援助は,患者・家族の苦痛緩和につながる.その結果,看護師は自身のケアや判断に自信を持って患者・家族に関わることができるようになると考える.

鎮静に携わる看護師の役割と課題

看護師は,鎮静開始前から患者と家族の苦痛を緩和し穏やかな日常生活を送るためのさまざまな援助を担っていた.また患者・家族の気持ちを汲み,希望を優先したいと感じていた.医療チーム内の看護師の役割として,患者・家族の気持ちの代弁とチーム内の調整が挙げられる36).鎮静等の終末期の希望について,看護師が正しく情報提供し患者・家族と話し合うことで,患者の意思が反映された鎮静導入につながると考えられる.そのためにも鎮静の正しい知識を得る必要がある.時間の制約を受けやすい,助言を受ける緩和ケア専門家が不足している等,一般病棟の特徴に沿った事例学習等,具体的な学習資源の開発が必要と考える.

また,鎮静導入がスムーズに決定されると,患者の苦痛緩和とQOLを維持するために最適な鎮静手法を吟味できるようになると考える.しかし,先行研究で看護師は,鎮静導入のタイミングを判断する難しさを感じていると指摘されている2325).緩和ケア専門家との積極的な交流は,手引き等鎮静の知識を得る機会を増やし,鎮静効果を高めるための判断や技術の習得につながると考えられる.一般病棟でも緩和ケア専門家に相談しやすい環境を整備する必要がある.

本研究の限界と課題

本研究は特定地域の呼吸器内科病棟看護師を対象としたため,地域や病棟の特色が反映されている可能性があり,結果の一般化には限界がある.また,看護師の語りに時間経過の影響が生じた可能性があり,すべての事象を網羅したとは言い切れない.調査規模を拡大し,研究を継続していく必要がある.

結論

すべての看護師は患者・家族の苦痛緩和のために最善策を模索し,その心情に寄り添う努力をしていたが,多職種協働と鎮静に関する話し合いに対する自信,積極性に差がみられた.看護師が自信を持って鎮静に積極的に働きかけることで,患者・家族の意思決定を支援し,患者の苦痛緩和とQOLを維持する最適な鎮静方法を検討できる可能性が示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様に心よりお礼申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

山下,安藤は研究の構想,デザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;杉村,佐藤は研究の構想,デザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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