2022 年 17 巻 2 号 p. 65-70
COVID-19蔓延下の面会制限で入院療養への影響,患者・家族のニーズの把握は重要である.産業医科大学病院 緩和ケアセンターに紹介された担がん患者,家族(以下,患者家族),当該患者のプライマリーナース(以下,PNs.)を対象とし,無記名自記式の質問紙調査を行った.統計解析にはEZRを用い,p<0.05を有意差ありとした.患者31例(男性9例,女性22例,年齢中央値65歳(30~85歳)),患者家族25例,PNs.26例の回答を得た.「面会制限があることで気持ちが落ち込むことがあるか」という質問では患者よりも有意に患者家族への影響が強かった(p<0.05).面会手段に関しては患者と比較して患者家族は直接面会を希望する傾向にあった(p<0.05).面会制限の影響は患者よりも患者家族に大きく,面会制限下では家族ケア・サポートがより重要であると考えられた.
It is important to understand the impact of the COVID-19 pandemic on inpatient care and the needs of inpatients and their families. We conducted an anonymous self-administered questionnaire survey of inpatients who had been referred to our palliative care team, their families (hereafter referred to as patients' families), and their primary nurses (hereafter referred to as PNs). The EZR statistical software was used for statistical analysis, and p<0.05 was considered to indicate a significant difference. 31 patients [9 males, 22 females; median age 65 years (range 30-85 years)], 25 family members, and 26 PNs responded. The question “Do you ever feel depressed due to restricted visitation?” had a significantly stronger impact on patient families than on patients (p<0.05). Compared to patients, patient families tended to prefer face-to-face visits (p<0.05). The impact of visitation restrictions was greater on patients’ families than on the inpatients, suggesting that it is important to provide care and support to patients’ families especially during periods when there are visitation restrictions.
Coronavirus disease 2019(COVID-19)蔓延下で多くの病院が感染防護対策として面会制限を行っている.産業医科大学病院 (以下,当院)は感染拡大初期から制限を行い,現在は終末期限定の直接面会や,予約制のオンライン面会を行っているが,終末期の判断や面会基準に差があり,実際のニーズとマッチしているかは疑問である.
従来,本邦における面会制限は集中治療室1)や産科病棟2)などで問題提起される限定的なものであった.一方,海外ではsevere acute respiratory syndrome(SARS)での面会制限の心理的影響が報告されている3,4).
担がん患者の家族機能の破綻は不安や抑うつ悪化を招く5)とされ,COVID-19蔓延下の面会制限でせん妄発症率が高まる報告6)もあり,家族面会は患者・面会者双方の心理的安定に重要である.
一方,医療従事者も面会の重要性は認識しつつ,制限下に葛藤を抱えている3,4,7).
これらの背景から,患者・家族・医療従事者各々について面会制限の影響を同時に評価・明確化することが重要と考え,本研究の目的とした.
本研究では質問紙調査を用い,面会制限の影響の程度を主要評価項目とした.面会に対するニーズの評価,面会制限での医療従事者の影響の程度を副次評価項目とした.
対象者2021年2~12月の間,当院入院中かつ当院緩和ケアセンターに紹介された20歳以上の担がん患者(以下,患者),および患者家族もしくは主たる介護者(以下,家族),当該患者のプライマリーナース(以下,PNs.)を対象とした.がん未告知の患者および家族,家族・介護者のいない患者,意識障害・変容のある患者,重度の抑うつ症状の患者は除外した.患者から調査の同意を得られた場合,家族・PNs.にも調査を実施した.
質問紙調査の方法無記名自記式とし,自記困難な患者は聞き取りにて回答を研究者が代筆した.家族へは来院時に質問票を渡すか,郵送・電話にて調査を行った.聞き取り調査の場合も個人が特定されないよう留意した.調査項目は,患者,家族,PNs.各々に共通する項目と独自の質問項目を設けた(付録図1).
1. 面会制限が入院療養に及ぼす影響の評価「面会制限での病状への影響」,「現在の面会制度に関する考え」,「面会制限での気持ちの落ち込み」,「患者の治療継続意欲への影響」について,5件法で回答を求めた.
そのほか,患者に「面会制限で体調・気持ち以外の面で療養上の支障が出ている点」,家族に「面会制限下で患者の気がかりな点」について自由記述で回答を求めた.
2. 面会に対する患者・家族のニーズの評価「妥当と考える面会時間および面会頻度」,「療養中の患者-家族の連絡手段」,「今後の面会制限緩和手段および代替案に関する希望」について選択式回答で尋ねた.
3. 面会制限を行うことによる医療従事者の影響PNs.に「面会制限による医療従事者の気持ちの負担」について5件法で尋ねた.また面会制限で患者の病状以外に発生する弊害について自由記述で回答を求めた.
回答分析は記述統計,および順序変数の群間の比較にはMann-Whitney U検定を使用した.自由記載の回答は内容分析法を参考にし,各欄の記載内容を分析単位とした.分析単位に複数の内容が含まれる場合は意味単位で分割し,内容の類似性や関係性の検討をもとにカテゴリー化した.
すべての統計学的解析にはEZR8)を用い,p<0.05を統計的に有意とみなした.
倫理的配慮本研究は,2021年2月に産業医科大学臨床研究審査委員会の承認を得た(UOEHCRB20-153号).
対象患者は193例であり,うち9例がせん妄,重度の抑うつ状態のため除外された.残り184例中33例から同意が得られ,うち31例(93.9%)から有効回答を得た.また,家族25/32例(78.1%),PNs.26/33例(78.8%)の回答を得た.回答者の基本属性を表1に示す.
「面会制限が患者の病状に与える影響」に関して,患者,家族の2群間に差はなかったが(p=0.05),「面会制限による気持ちの落ち込み」は患者より家族で有意に強かった(p<0.05).PNs.は面会制限が身体面・心理面を含めて総合的に患者の病状に影響する,と全例が回答した(どちらかといえば影響する8例/26例(30.8%),かなり影響する18例/26例(69.2%)).
患者が「面会制限で体調・気持ち以外の面で療養において支障が出ている点」では,「買い物や荷物の整理などが頼みにくい」「体調や医療情報を伝えにくい」といった意見が多かった.「面会制限下で患者のどのような点が気がかりになるか」についての家族の回答は,「体調」「心理面」に続き,「患者本人の希望や要望が医療従事者に伝わっているか」が多く,医療情報を含めた情報交換の支障が患者および家族で共通した気がかりとなっていた(表2).
「妥当な面会時間・頻度」は「1回30分」,「2~3日に1回」もしくは「週1回」とする意見が多かった(付録図2).現在使用している面会手段(付録表1)は,電話およびメール・SNSが多数を占めたが,「今後の面会制限の緩和手段および代替案」は,患者と比較して家族は直接面会を有意に希望した(p<0.05,付録表2)
面会制限の医療従事者への影響「面会制限が医療従事者の心理的負担に影響しているか」という質問に88.5%(23/26例)のPNs.が「影響がある」と回答した.また,面会制限で患者の病状以外に発生する弊害については,「家族からの情報収集の困難さ」を問題とする記載が多かった(表2).
その他面会制限に対する自由意見として,患者は「面会制限に賛成」する意見もあり,理由として「COVID-19の蔓延が心配」という回答があった(付録表3).
本研究では面会制限の影響を評価するとともに,面会のニーズ評価を行った.面会制限は患者より家族に強い影響を与え,直接面会の希望も強く,従来以上に家族ケア・サポートが重要と考えられた.また,多くのPNs.が面会制限に心理的負担を感じていた.
先行研究9)でも患者,家族,医療従事者各々の面会制限の影響が示唆されているが,本研究ではとくに家族への影響の重要性を裏付ける結果となった.
終末期の患者と家族間のコミュニケーション阻害は家族の抑うつ気分や不安,複雑性悲嘆の発症リスクとされる10-12).本結果で面会制限により「医療情報を家族に伝えにくい・共有しにくい」ことが指摘でき,家族が情報を知る機会の減少が“患者の状況が見えない”不安につながっている可能性がある.オンライン面会での視覚情報の共有が,死別時の複雑性悲嘆への回避となる報告もあり13),感染リスクも考慮すると,現段階ではオンライン面会の積極的利用が妥当であると考える.
面会は患者–家族間の意思決定にも必要である.十分なAdvance Care Planning(ACP)は遺族の不安や抑うつ症状を軽減することが知られているが14),その過程には患者・家族双方の医療情報の十分な理解が必要である.よって,面会制限下で医療従事者は従来以上に患者情報提供の機会を逃さないことが重要である.一方で,医療従事者の業務負担も増加しており,業務分担の工夫や基盤となるルール作りが必要である.同時に,面会ルールの遵守や変更を行うことが,医療従事者の罪悪感15)につながらないような,柔軟な体制が必要である.
また,面会制限を行った医療従事者の後悔が不安,うつなどと関連するとの報告があり16, 17),本研究でも多くのPNs.が心理的負担を抱えていた.COVID-19蔓延下でオンライン面会の場を見ることがスタッフの士気向上につながるとする報告もあり18),オンライン面会は医療従事者の心理的負担軽減に役立つ可能性がある.今回の面会のニーズに関する結果を踏まえ,業務負担を考慮しながら少なくとも「1回30分」「週1~2回」の面会時間・頻度は必要であろう.
研究の限界本研究では意識障害・変容をきたしている患者,重度の抑うつ症状を持つ患者は除外したが,これら患者は自身で電話やSNSを操作できない可能性があり,より面会のニーズが高く,個別の対応の必要性が考えられ,今後の知見の蓄積が必要である.また,単施設研究かつサンプリングのランダム化を行っていない少数の母集団であるため,本結果の一般化は困難である.
面会制限の影響は患者よりも家族の方で大きく,家族ケア・サポートがより重要と考えられた.面会は心理的安定のほか,患者–家族間の病状の相互理解や意思決定にも必要であることがわかった.また多くの医療者が面会制限に心理的負担を感じており,代替手法や最適なルール作りなどでの負担軽減が望まれる.
塚田順一:奨学(奨励)寄附金等(協和キリン株式会社)
その他:該当なし
白石は研究の構想,デザイン,データの収集・分析・解釈,原稿の起草および原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.安髙,木村,鍋島,尾崎は研究の構想,デザイン,データの収集ならびに原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.伊藤,井手,近藤は研究の構想,デザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.塚田は研究の構想,デザイン,データの解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.