2022 年 17 巻 3 号 p. 109-118
【目的】(1)認知症患者の終末期における積極的治療の選好に関して遺族,医療者間での違い,(2)終末期医療の選好の関連要因を明らかにする.【方法】認知症患者の遺族(618名)と,医師(206名),看護職(206名),介護職(206名)の医療者に2019年10月にインターネット調査した.【結果】認知症患者の遺族は終末期に「食べられなくなった際の胃ろう;49%」(p<0.01),医療者は「大きな病気になった際の手術:39%」(p<0.01)を希望した.多変量解析で代理意思決定者を望む遺族は点滴(OR: 1.62, p=0.02),内服の継続(OR: 1.74, p<0.01)を,医療者はよい看取りの要件で人との関係性が重要な人ほど,手術(OR: 2.15, p<0.01),延命治療(OR: 2.00, p=0.01)を希望した.【結論】医療者と家族の間で,終末期の治療に関する選好が必ずしも一致しないため,治療選択時に配慮する必要がある.
Objective: The aims of this study were to (i) clarify whether there are differences between bereaved families and medical staffs in their preferences for life-prolonging treatments, and (ii) investigate the factors associated with preferences for life-prolonging treatments. Methods: Cross-sectional internet survey was conducted in October 2019. Participants are bereaved families(n=618), physicians(n=206), nurses(n=206), and care workers(n=206) who registered with the internet survey company. We asked the subjects about the relative importance of 36 components of a good death in dementia and their preferences for 7 treatment items that they might need at the end of life. Results: Statistically significant differences in end-of-life medical preference between bereaved families and medical professionals included “Nutrition from gastrostomy when oral intake is difficult” (p<0.01), “Surgery for life-threatening disease” (p<0.01). As a result of logistic regression analysis, a surrogate decision-maker among bereaved family members tended to wish intravenous infusion (OR: 1.62, p=0.02) and continuation of oral medicine (OR: 1.74, p<0.01). The medical professionals who regarded good relationships with people as a requirement of good end-of-life care tended to wish surgery (OR: 2.15, p<0.01) and life-prolonging treatment (OR: 2.00, p=0.01). Conclusions: This result suggest that since the medical preferences between medical staff and the family members don’t necessarily correspond, medical professionals need to take it into consideration when they discuss the treatment options.
医療技術の進歩による平均寿命の伸長に伴い,世界的に認知症の罹患者数は増加している.世界では2018年時点で認知症罹患者数は5,000万人であり,2030年で8,200万人,2050年で1億5,200万人に達すると推計されている1).わが国においても超高齢化に伴い認知症の罹患者数は増加を続けており,2015年時点で約468万人だったが,2025年には高齢者のおよそ2人に1人にあたる約675万人にまで達すると推計されている2).
国内外で今後も増加が予測される認知症患者において,医療に関する意思決定は一つの課題である.認知症は記憶,思考,行動の低下を引き起こし,これらは時間とともに悪化していく1).認知症終末期には歩行や嚥下の困難,興奮,失禁,褥瘡や感染症などのリスクが増加し死に近づいていく3).このような症状を伴う認知症患者に対して,現状では医療の方針の意思決定は医療者や家族主導で行われている4).一方で,健康な成人と初期認知症患者を対象に行われた意思決定を誰が行うべきかに関する調査では,両群ともに,認知症疾患の進行で判断能力を失う前に,療養・死亡場所や延命処置などの終末期の意思決定に自分も参加したいと考えている人が多いことが明らかになった5).認知症終末期患者の積極的治療において,患者の苦痛を伴うことが多いこと,また,認知症の思考の低下により,意思決定の場面に参加が難しいことが挙げられ,患者の家族と医療者は積極的治療の意識決定に対し困難に感じていることが現状である2,4,6,7).終末期の積極的な治療としては,胃ろう,点滴,人工透析,延命治療などが考えられるが,これらに対する希望は個人差が大きいことが知られている8).
わが国では,2017年に厚生労働省により一般市民を対象として行われた「人生の最終段階における医療に関する意識調査」中で,認知症終末期の状態であると仮定した場合の人工栄養,人工呼吸器,蘇生処置等の終末期医療の選好について調査が行われた.しかし,医療者と比較して一般市民においては,わからない・無回答の割合が医療者よりも各々1~10%の割合で多いという結果であった9).その理由として,一般市民の多くは認知症になった際の自分の病状や終末期の状態を想像することが難しいと推察された.そのため,認知症のイメージができる認知症患者の遺族や認知症患者の治療やケアに携わった経験のある医療者を対象とした調査を行うことは,遺族や医療者が認知症の診断を受けた場合の終末期医療の選好を把握することにつながると考えられる.
そこで,本研究では認知症患者の遺族と認知症患者の治療やケアに携わった経験のある医療者を対象としてインターネット・アンケート調査を実施し,(1)認知症終末期における積極的治療の選好に関する遺族–医療者間での違い,(2)終末期医療の選好に関連する要因を明らかにすることとした.本研究では,終末期の積極的治療を人工栄養,人工呼吸器,蘇生処置等を終末期の段階で実施することと定義づけた.
研究方法本研究は横断的デザインによるインターネット・アンケート調査である.対象者に対して2019年10月18日から10月22日の期間で回答を依頼し,目標の対象者数に達した時点で回答を締め切った.
調査対象の選定と手順調査対象は幅広く企業のマーケティングや研究調査を担っているWeb調査会社である株式会社マクロミルで調査を行った.株式会社マクロミルは,プライバシーマーク認定企業であり,本人の同意を得ることなく調査対象者の個人情報を第三者に提供することがないことを保証している.年齢,性別,職業,地域,未既婚者,子供の有無,世帯年収等が登録されておりスクリーニング調査(17,000名)と本調査(1,236名)の2段階によって同一人物の回答が難しくなる条件で,認知症患者の遺族と認知症患者のケアに携わる医師,看護師,介護職員の医療者とした.なお,介護職員に関しては,先行する調査を参考に医療者に含めた9).また,目標対象者数(遺族618名,医師206名,看護師206名,介護職員206名)に達した時点で回答を締め切った.遺族の回答を重視し,より精度が高い推定ができるようにしたこと,および遺族と医療者(医師,看護師,介護職)の2群比較のためには合計人数が一定ならば同数の場合において,検出力が一番高くなるため,遺族と医療者が同数になるように設定した.適格基準は,認知症患者の遺族においては①40歳以上かつ過去3年以内に家族が認知症で亡くなった,または認知症を併発して亡くなったこと,②認知症で亡くなった家族を主として介護していたと認識していることとした.医師,看護師,介護職員については50人以上の認知症患者の治療やケアに携わった経験があるものとした.除外基準は,個人の死亡場所を「わからない」と回答したもの,亡くなる前1カ月の生活自立度を「わからない」と回答したもの,医療者については診療やケアに携わった終末期認知症の方を「0人」と回答したもの,認知症に限らず診療やケアに携わった終末期の方を「0人」と回答したものとした.認知症の定義は「医師に認知症と診断されたこと」および認知症終末期の定義は「認知症は記憶,思考,行動の低下を引き起こし,時間とともに悪化した状態で,亡くなる前1カ月間の状態」とした.
調査項目 1. 終末期に受ける治療や処置アンケートは,2017年に厚生労働省が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」を参考に,終末期に必要となる可能性のある治療や処置など,「食べられなくなった際の胃ろう」「がんなどの大きな病気になった際の手術」「食べられなくなった際の点滴」「延命治療(心臓マッサージや人工呼吸器)」「普段処方されている薬を継続して内服すること」「人工透析」「糖尿病になった際の食事制限」の7項目について,希望するか,希望しないかを2択で尋ねた9).
2. 認知症患者における望ましい死のあり方に関する重要度認知症患者における望ましい死のあり方として,「認知症の方ご本人にとって,望ましい死として何を重視するか」という質問について,例えば「穏やかな気持ちで過ごすこと」「慣れた環境で過ごせること」「家族とよい関係であること」「意思決定に本人の意思が反映されること」など,あらかじめ準備した36項目について,6段階のリッカート尺度(1:全くそう思わない,2:そう思わない,3:あまりそう思わない,4:ややそう思う,5:そう思う,6:非常にそう思う)で尋ねた(付録表1参照).これらの36項目はわれわれのグループが以前実施した質的研究10,11)に基づいて作成された.アンケートでは全員に対して,「回答者自身が認知症になり,自分自身で物事を判断することができなくなった場合」を想定し回答を依頼した.また36項目は,「関係性」「安楽・安心・安全」「その人らしさ」の三つのドメインに分類できることもあり,回答者にドメインの内容がわからないようにWeb上でランダムに並べ替えられた.
対象者背景終末期医療の選好に関連する要因を調べるために,対象者全員に年齢と性別,代理意思決定者を指定しておくことの希望を尋ね,認知症患者の遺族には続柄や故人の死亡場所,死亡前1カ月間の生活の様子も尋ねた.医療者には臨床経験年数や勤務施設,認知症患者のケア年数,終末期の認知症患者への治療・ケア人数も尋ねた.
分析方法はじめに,対象者全体および対象者別(認知症患者遺族,医師,看護師,介護職)に各項目の回答の割合を算出した.その後,遺族,医師,看護師,介護職で群間比較および遺族と医療者による終末期医療の選好の違いを調べるためにカイ二乗検定(両側検定)を行った.次に,終末期医療の選好に関連する要因を調べるためにロジスティック回帰分析を行った.遺族と医療者それぞれにおいて,対象者背景と認知症患者における望ましい死のあり方の重要度を独立変数としたモデルを作成した.認知症患者における望ましい死のあり方の重要度については,36項目をわれわれの研究グループが過去に実施した探索的因子分析により明らかになった.α係数は,「関係性0.75」「安楽・安心・安0.79」「その人らしさ0.75」の3ドメインに分類し,ドメインごとの合計点の平均点により3群(3.5点未満,3.5点以上4.75点未満,4.75点以上)に分類した.変数選択は変数減少法を用いた.ただし,医療者のモデルにおいては職種による影響をみるために,強制的に独立変数として投入した.すべての解析は,p=0.05を有意水準とした.統計解析ソフトは,JMP®Pro 15.0.0を使用した.
倫理的配慮本研究は,本研究施設の東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会で承認後(承認番号2018-1-1000)実施した.調査目的や調査方法を記載し,調査票への回答によって,参加の同意をしたものとみなした.
アンケート回答者は,認知症患者の遺族618名,医師206名,看護師206名,介護職206名の計1,236名であった.インターネット・アンケート調査のため回収率および有効回答率は100%だった.遺族では故人の死亡場所を「その他」と回答した7名と,亡くなる前1カ月間の生活自立度を「わからない」と回答した2名を除外し,計609名(99%)を分析対象とした.医療者では診療やケアに携わった終末期認知症の方を「0人」と回答した27名と認知症に限らず診療やケアに携わった終末期の方を「0人」と回答した2名を除外し,計589名(95%)を分析した.
対象者の背景を表1に示す.遺族は60歳以上,認知症患者(故人)は60代が最も多く,医師は30~60代以上まで大きな偏りなく分布し,看護師と介護職は30~40代が多い結果だった.続柄は故人の子供が最も多く70%であり,認知症患者の死亡前1カ月の生活状況はほぼ全介助が73%だった.また,医療者の勤務先は医師と看護師の67%が病院,介護職は老人ホームが63%と最多だった.
対象者別の終末期医療の選好を比較した結果を表2に示す.遺族,医師,看護師,介護職で希望する人の割合に差があった項目は,「食べられなくなった際の胃ろう」と「がんなどの大きな病気になった際の手術」だった.「食べられなくなった際の胃ろう」は医療者よりも遺族のほうが希望する人の割合が高かった(遺族19%,医師12%,看護師15%,介護職6%,p<0.01).一方,「がんなどの大きな病気になった際の手術」は遺族より医療者のほうが希望する人の割合が高かった(遺族39%,医師53%,看護師50%,介護職53%,p<0.01).
遺族においてロジスティック回帰分析を行った結果を表3に示す.遺族において三つ以上の治療や処置の選好に統計学的に有意に関連があった要因は,性別,年齢,代理意思決定者を指定しておくこと,関係性の重要視の程度の四つだった.男性,代理意思決定者を指定しておくことを希望する人,望ましい人生の最終段階を迎えるにあたり関係性を重要視する人は,治療や処置を希望すると回答した.一方,年齢が高い人は,治療や処置を希望しないと回答した.
次に医療者においてロジスティック回帰分析を行った結果を表4に示す.医療者において三つ以上の治療や処置の選好に関連があった要因は,代理意思決定者を指定しておくこと,認知症の方の診療・ケア経験年数,安楽・安心・安全の重要視の程度,関係性の重要視の程度の四つだった.代理意思決定者を指定しておくことを希望する人,望ましい人生の最終段階を迎えるにあたり関係性を重要視する人は,胃ろう(OR: 5.02, p=0.01, OR: 2.08, p<0.01),点滴(OR: 2.23, p<0.01, OR: 1.40, p=0.02),人工透析(OR: 2.25, p<0.01, OR: 1.66, p<0.01)を希望すると回答した.一方,認知症の方の診療・ケア経験年数が長い人,望ましい人生の最終段階を迎えるにあたり安楽・安心・安全を重要視する人は,胃ろう(OR: 0.56, p<0.01, OR: 0.39, p<0.01),延命治療(OR: 0.56, p<0.01, OR: 0.45, p<0.01),人工透析(OR: 0.73, p=0.01, OR: 0.54, p<0.01)を希望しないと回答した.
本研究の主たる知見は,認知症患者の終末期に,①医療者と比較して遺族では「食べられなくなった際の胃ろう」を希望する傾向にあったこと,②遺族と比較して医療者では「大きな病気になった際の手術」を希望する傾向にあったこと,③「代理意思決定者を指定しておくこと」を希望する人と「関係性」を重要視する人は終末期にさまざまな治療や処置を希望することが遺族と医療者に共通していたことの3点である.
本研究の主な知見の一つ目として,医療者と比較して認知症患者遺族で認知症終末期に胃ろう造設を希望する傾向にあることが明らかになった.これは,認知症患者の遺族と医療者の胃ろう造設の認識の違いにより生じていると推察される.家族は胃ろう造設を肯定的に捉えることが多い12).胃ろう造設を決定した家族を対象とした先行研究では,家族は胃ろう造設時,胃ろうは「一つの食形態」であり,「胃ろうを希望することが自然なこと」「延命ではなく自然な経過」として捉えると報告した13).また,対象は異なるが,進行がん患者の患者・遺族を対象とした緩和ケア病棟での調査でも,進行がん患者・遺族の栄養サポートを希望する割合はそれぞれ76%,73%であり14–16),患者や遺族は終末期でも栄養補給を重視する傾向にあることが報告されている.一方で,医療者は胃ろう造設に対してネガティブな印象を抱いている傾向にあることがいくつかの先行研究で報告されている.胃ろうを造設した患者の家族と,病院や介護施設に勤務する看護師と介護職を対象とした調査で,胃ろう造設前に,胃ろう造設が患者の負担になると考えていた人の割合は,看護師や介護士が81~93%であり,家族の63%より有意に高かった17).また同調査で,胃ろう造設後の患者の姿を見て「いつも」または「かなり」かわいそうに思う人の割合は,介護施設で36~37%であり,一般病棟の19%より有意に高かった17).介護職は胃ろう造設を希望する割合がとくに低く,医療者,とくに介護職は認知症患者に負担を与え,尊厳を損なう可能性のある胃ろう造設を行うのではなく,患者の尊厳を守ることとして胃ろう造設しないことと考えられる.以上のことから,認知症の終末期に胃ろう造設を希望する割合が遺族と医療者で異なっていたと推察され,臨床において認知症患者の終末期の家族と関わる際に胃ろうを希望することが自然なことであり,意思決定支援者としての医療者の価値観を押し付けないように対応する必要性が示唆された.
本研究の主な知見の二つ目として,遺族と比較して医療者では認知症終末期に「大きな病気になった際の手術」を希望する傾向にあった.これは,治療の知識を持ち合わせていることが関連していると推察された.医療者は,終末期の病状における手術に関して,低侵襲手術や症状緩和目的の手術の選択ができることを理解している18,19).医療者は,手術の治療効果や適応基準を知っているため,深刻な病気の際に手術を望んでいたこと,手術による根治が見込める治療方法であるために,手術を希望しない意思に抵抗があるのではないかと考えられる.一方で,遺族は医療者よりも手術に関する知識を持っていない.また,「身体にメスを入れたくない」という思いや,手術には高額の治療費がかかるため終末期になってまで手術による経済的負担,手術を行うことによって生じる「さらなる介護負担を家族にかけたくない」という思いがあり,医療者より「大きな病気になった際の手術」を希望しないと推察された20).そのため,医療者は患者や家族に対して,手術前後に関する知識を提供したうえで,患者や家族がどのようなことを懸念しているのかを把握し,さらに懸念に対する情報提供を行うことにより,尊厳をもって暮らしていくことの重要性について認識して,患者や家族が本当に望む選択を意思決定ができるようにすることが求められるのかもしれない.
本研究の主な知見の三つ目として,医療者と遺族の両群で「代理意思決定者を指定しておくこと」を希望する人と認知症患者における望ましい死の重要度で「関係性」を重要視する人は認知症終末期における治療や処置を希望する傾向にあることが明らかになった.わが国では,代理意思決定の指定について,病院でも施設においても健康なときから代理意思決定を指定していることは少なく,多くは治療困難な病気や死が近づいたとき,老人保健施設への入所のときが多いと報告されておりまだ一般的ではない9).本研究において代理意思決定者の指定を希望した対象者は,認知機能が低下した際に必要な医療すら受けられないという不安感を抱き,積極的な治療を望む傾向にあったのではないかと推察する9,21–23).認知症患者における望ましい死の重要度で「関係性」を重要視する人は,家族をはじめとした大切な人と少しでも長く過ごしたい,長生きをして大切な人との関係性を維持したいという思いがある可能性がある.そのために,望ましい死の重要度の「関係性」を重要視する人は,認知症終末期における治療や処置を希望する傾向にあったと推察される.これらの望ましい死の重要度の「関係性」の関連性に関しては,今後の研究において受ける治療に対する知識や不安感,望ましい死を迎えることとの関連を追及するために,さらなる分析が必要であると考える.
本研究の限界として,4点が挙げられる.第1に認知症患者を調査対象にできなかったことである.認知症患者を調査対象とする場合,認知機能の低下を考慮するとWeb上でアンケートに回答してもらうことは困難であると考えられた.また,日本では死に至ることについての質問は人生の最終段階を迎える患者にとって負担が大きすぎると考えられている.これらの理由から,認知症患者を調査対象にすることは困難であった.そのため,今回の調査は認知症患者の遺族を対象としているため,得られた知見が実際の認知症患者に当てはめられるかは不明である.しかし,本研究では認知症患者の介護をした経験がある遺族を対象としたことで,価値ある視点を提供できたと考える.第2に,それぞれの対象者によって想定する認知症の程度が異なる可能性があることである.実際の終末期医療の選好には,認知機能のほかに,生活自立度や認知症の周辺症状も関わってくる.今回の調査において,終末期医療の選好を尋ねる際の認知症の程度は,「回答者自身が認知症になり,自分自身で物事を判断することができなくなった場合」という認知機能のみを設定した.そのため,本研究の対象者,とくに遺族は故人の状態を想定していることが予想され,すべての対象者が同一条件を想定して回答したとは考え難い.第3に,対象者の選択バイアスが生じている可能性がある.今回の調査はインターネット・アンケートを用いたため,インターネットを使用可能であることが条件となる.そのため,とくに高齢の遺族は回答困難である可能性や,主介護者ではない遺族が主介護者に代わって回答した可能性が考えられる.第4に,認知症の遺族にとって,患者の死後3年以内に設定していることによる想起バイアスが生じた可能性がある.調査時点と回顧当時の期間が長いほど曖昧な記憶を想起した可能性がある.
本研究では,認知症患者の遺族と認知症の診療・ケア経験を持つ医療者を調査した結果,自分が認知症になった場合を想定した際に,「食べられなくなった際の胃ろう」を希望する割合は医療者より遺族が,「大きな病気になった際の手術」を希望する割合は遺族より医療者がそれぞれ統計学的に有意に高かった.認知症患者の終末期の家族と医療処置の選択時に関わる際,医療者の認識や価値観との相違を理解しながら関わる必要性が示唆された.また,遺族と医療者の両方において,「代理意思決定者を指定しておくこと」,認知症患者における望ましい死の概念の「関係性」は終末期医療の治療や処置の選好に関連した.
本研究を進めるにあたり,研究に参加してくださったご遺族,医療者の皆様に心より感謝いたします.また,日常の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた緩和ケア看護学分野の研究室の皆様に感謝いたします.
すべての筆者の申告すべき利益相反はなし
青山,宮下は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.升川は研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.林,高橋は原稿の起草,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.