2024 年 19 巻 1 号 p. 33-40
【目的】日本ホスピス緩和ケア協会による緩和ケア病棟自施設評価共有プログラムを用いた,ケアの質の評価や変化を明らかにする.【方法】7部門(ニーズの把握とアセスメント,ケア計画,ケアの実施,退院準備と支援,臨死期への対応,遺族ケア,病床運営と地域のニーズへの対応),47項目について,2018年度,2021年度,2022年度の3回,自施設評価を行い,改善目標を決定した.各年度の5段階評価の平均スコアの推移,改善目標との関連について検討した.【結果】2018年度から2022年度にかけて,ニーズの把握とアセスメント,臨死期への対応,遺族ケアについてスコアの上昇を認めた.【結論】自施設評価共有プログラムを継続してケアの質の評価を行うことは,緩和ケア病棟の現状を分析し,改善点を明らかにしてケアの質を向上させる可能性がある.
Purpose: To clarify the significance of attempts to improve palliative care unit (PCU) quality using self-assessment sharing programs formulated by the Hospice Palliative Care Japan. Method: We conducted self-assessments of 7 sections (detection and assessment of patient’s needs, care planning, care implementation, preparation, and support for patients’ discharge, management at the dying stage, care of bereaved family, hospice bed management and meeting community needs) including 47 items on a five-point scale, and determined targets for care improvement in 2018, 2021, and 2022. The change of mean scales of 7 sections and 47 items in each fiscal year and the relationship to the targets for care improvement were investigated. Results: From 2018 to 2022, mean scores increased for detection and assessment of patient’s needs, near-death care, and care for bereaved family members. Conclusion: The self-assessment sharing programs have potential to analyze the status of PCU, clarify improvement targets, and improve the care quality in PCU.
日本ホスピス緩和ケア協会は,緩和ケア病棟(palliative care unit: PCU)におけるケアの質改善のために,PCUスタッフ(医師,看護師,薬剤師,臨床心理師,社会福祉士)にケア改善のための話し合いを促し,ケアの質を改善するために自施設評価共有プログラムを開発した1).これを用いた研究の報告は少ない.これまでに青木は,自施設評価共有プログラムを行うことで病棟の強みと課題が明確になり,改善に向けた方策が明らかになった,と報告している2).
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院のPCUでは2018年度からの5年間に3回,日本ホスピス緩和ケア協会の緩和ケア病棟自施設評価共有プログラムを用いたカンファレンスを行い,改善目標を決定し,その後のケア向上に役立ててきた.本活動報告の目的は,このプログラムを用いたケアの質の評価とその経年性変化,改善目標との関連を明らかにすることである.
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院は852床の高度急性期機能病院で,病床数20床の院内独立型PCUを併設している3).日本ホスピス緩和ケア協会による緩和ケア病棟自施設評価共有プログラムは一般に隔年(2018年,2021年,2023年)で実施されてきた.当院のPCUのスタッフは人事異動のため,同じスタッフで改善目標に継続して取り組みにくい.PCUのケアの質の評価・改善を継続,徹底するため,2018年,2021年に加えて2022年度にも実施した.医師,看護師,薬剤師,臨床心理師,社会福祉士から成るスタッフに自施設評価共有プログラムの目的と方法を紙面で伝え,自施設評価の質問紙への返答を依頼した.調査期間は9月初旬からの2週間,質問紙を2018年27名,2021年31名,2022年32名のメールボックスに配布し,鍵のかかった状態の回収箱に提出するよう依頼した.評価項目は7部門,47項目(表1)で,評価は以下の5段階にスコアリングした.5(たいへんうまくいっている),4(何も問題がない),3(ふつうである),2(うまくいってない),1(大きな課題がある),NA(Not Applicable,判断できない).各年度ごとに評価をまとめ,その結果をもとにカンファレンスを行い3~5個の改善目標を立て,スタッフが具体的に取り組むべきことを明確にした.そして,改善目標前後の平均スコアの各年度の経年性変化を検討した.
スコアはNAを除外したスコアの平均±標準偏差で表し,傾向の検定にはJonckheere-Terpstra検定を用いた.p<0.05を統計学的有意差ありとし,統計学的解析はEZRを用いた4).
本研究は日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院の臨床研究審査委員会の承認(承認番号:2022-369)を受けている.
質問紙の平均回収率は99%であった.7部門の平均スコアをみると(図1),(a)ニーズの把握とアセスメント,(e)臨死期への対応,(f)遺族ケアの平均スコアは上昇した(それぞれp=0.026,p=0.193,p=0.045).一方,(g)病床運営と地域のニーズへの適応の平均スコアは2021年度にかけて低下していた(p=0.835).
平均スコアは2018年度から2022年度で有意に上昇していた(3.7±0.7が3.8±0.7へ,p=0.026).項目別では,(a-2)精神・心理的ニーズ,(a-5)家族のニーズの把握,(a-6)患者のニーズの客観的な評価の平均スコアに上昇を認めた(それぞれp=0.188,p=0.319,p=0.091).
平均スコアは2018年度から,2021年度で低下し,2022年度に上昇した(p=0.263)(図1).項目別では,(b-5)社会・生活要因も含めた検討についての平均スコアがやや上昇していた(p=0.160).
3. ケアの実施(図2(c))2018年度から2022年度の平均スコアに有意な変化はなかった(p=0.188)(図1).項目別では,(c-6)患者の主体性や意向を尊重したケアについての平均スコアに上昇を認めた(p=0.245).一方,(c-9)外出・外泊などのニーズへの対応についての平均スコアには低下を認めた(p=0.803).
4. 退院準備と支援(図2(d))平均スコアは2018年度(3.8±0.9)と比較して,2021年度は上昇していた(4.1±0.8)が,2022年度は低下していた(3.9±0.8,p=0.201)(図1).項目別では(d-2)患者・家族との療養場所の話し合い,(d-9)緊急連絡方法,(d-10)再入院への対応についての平均スコアに上昇を認めた(それぞれp=0.340,p=0.344,p=0.393).
5. 臨死期への対応(図2(e))平均スコアは2018年度から2022年度でやや上昇していた(3.9±0.8が4.0±0.6へ,p=0.193)(図1).項目別では,(e-1)患者・家族への病態の説明についての平均スコアに上昇を認めた(p=0.314).
6. 遺族ケア(図2(f))平均スコアは2018年度から2022年度で有意に上昇していた.(3.7±0.9から3.9±0.7,p=0.045)(図1).項目別にみると,(f-3)多職種チームでのデスカンファレンス,(f-4)デスカンファレンスの内容をその後のケアに活かしているについての平均スコアに有意な上昇を認めた(それぞれp=0.040,p=0.012).
7. 病床運営と地域のニーズへの対応(図2(g))この項目は2018年度の共有プログラムになかったため,2018年度は調査していない.平均スコアは2021年度と2022年度で同程度であった(3.5±0.8から3.4±0.9,p=0.835).
2018年度,2021年度の改善目標2018年度のカンファレンスの結果,以下の3つの改善目標を定めていた:
2021年度のカンファレンスの結果,以下の5つの改善目標を定めていた:
(a)ニーズの把握とアセスメントの平均スコアの上昇は,2018年度の改善目標①との関連が示唆された.また,(e)臨死期への対応,(f)遺族ケアの平均スコアの上昇は2021年度の改善目標③④との関連が示唆された.
本研究では,日本ホスピス緩和ケア協会の緩和ケア病棟自施設評価共有プログラムを用いた質向上に向けた取り組みとその結果を明らかにした.その結果,(a)ニーズの把握とアセスメント,(e)臨死期への対応,(f)遺族ケアについての平均スコアの上昇を認めた.これには自施設評価を基にしたカンファレンスで決定した改善目標との関連が示唆された.カンファレンスはあらかじめ評価資料をスタッフに配布し,リーダースタッフがファシリテーターとなって行ったが,これはスタッフが主体的に改善目標を決定し,取り組んでいくプロセスにつながった.また,自分たちの取り組みを評価する機会をつくり,繰り返して評価を行ったことが継続した取り組みにつながった.
日本ホスピス緩和ケア協会では,緩和ケア病棟に2010年に自己評価を,2013年にカンファレンスの結果も含めた自施設評価を導入した1).2016年には自施設評価共有プログラムと変えて実施され,209施設が参加した5).中谷は,評価結果共有カンファレンスによってポジティブな気づきが得られる可能性,評価の低い項目について改善が行われていることを報告している6).
退院準備と支援の(d-1, 2, 7, 9)や臨死期への対応(e-1, 5)など,平均スコアが4.0以上の項目は,2018年度から継続して改善目標を掲げて取り組んだ項目であった.一方,(a-4)スピリチュアルなニーズの把握,(b-5)社会・生活要因を含めたケア計画,(c-8)他の診療科,他施設と連携したケアの実施,(g)病床運営と地域のニーズへの対応など平均スコアが3.5以下の項目は,主体的な取り組みがなされていなかったり,ポジティブな気づきが少なかったためであろう.
(a-4)スピリチュアルなニーズの把握についての平均スコアが低かったことを受けて,2022年度にはスタッフのスピリチュアルペインの学習機会を増やすことにした.2021年度以降,スタッフはACPを支援することで患者の大切にしていることを少しでもかなえるための方策を考えるようになった7).今後は患者のニーズに関する情報を把握するだけでなく,ACPを外来や一般病棟からPCUに,そして地域につなぐことで,患者の生活の質(Quality of Life: QOL)やQuality of Death(QOD)を高めることが重要である8).
(b)ケア計画について平均スコアは上昇したが,十分とはいえない.また,(c)ケアの実施について平均スコアはわずかな上昇にとどまった.(d)退院準備と支援について平均スコアは2021年度と比較して2022年度は低下した.この低下の原因は,COVID-19(Coronavirus disease 2019)感染症の拡大のため,家族との面会が制限され,患者と話し合う機会が制限されたためと考えられる.(e)臨死期への対応について平均スコアは変化が少なかったが,比較的高いスコアを維持していた.(f)遺族ケアの平均スコアは上昇していた.スタッフがデスカンファレンスで得た学びを遺族ケアに活かせるようになったのだろう.
(g)病床運営と地域のニーズへの対応について平均スコアは低下傾向がみられ,スコアも低かった.これを受けて,2021年度からスタッフが入棟判定会議に参加できるようにし,2022年度からは退院希望のある患者や病状評価の必要な患者の情報をスタッフが会議で提供するようにした.また,PCU入棟前の面談を行うスタッフを養成し,スタッフにPCU運営の自覚を持たせるようにした9).
一般に,ケアの質の評価は構造・プロセス・アウトカムの3要素によって成される10).構造はスタッフの人員・配置,施設の設備などで評価される.本報告ではケアプロセスを評価し,アウトカム(患者のQOL,QOD,遺族の悲嘆など)は評価していない.今後は構造,アウトカムの評価を加えていく必要がある11–13).また,本報告では評価者・数がともに年度により異なるため,評価結果には注意が必要である.
以上のような限界はあるが,本活動報告は日本ホスピス緩和ケア協会の緩和ケア病棟自施設評価共有プログラムを用いた質向上に向けた継続的な取り組みの結果を明らかにした.評価,カンファレンスは,スタッフが自らのケアを振り返り,ケアの質改善のために何が必要か,ツールや仕組みを考える機会となった.自施設評価共有プログラムを継続的に行うことは,評価,改善目標の設定,実行を繰り返すことである.つまり,Plan-Do-Check-Act(PDCA)サイクルを回すことで,ケアの質改善のために有効な可能性がある.
自施設評価共有プログラムを継続して行うことは,PCUの現状を分析し,改善点を明らかにしてケアの質を向上させる可能性がある.
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院,教育研究助成(NFRCH 22-0018)の支援を受けた.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
武藤は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.伊藤,尾関,河合,湯浅は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の最終責任に同意した.