Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
日本語版集中治療室での意思決定に関する倫理的風土の調査票の作成と信頼性・妥当性の検討
川島 徹治 木下 里美吉野 靖代
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 19 巻 2 号 p. 89-97

詳細
Abstract

【目的】日本語版「集中治療室(ICU)での意思決定に関する倫理的風土の調査票」(Ethical Decision-making Climate Questionnaire: EDMCQ)の作成と信頼性・妥当性の検討を行うことである.【方法】英語版EDMCQを翻訳し,日本語版を作成した.ICU看護師を対象に郵送法にて調査を実施し,14日後に再テストを行った.【結果】25施設の439名に配布し,204名の回答を分析対象とした(有効回答率:46.5%).尺度全体のCronbackα係数は0.91であり,級内相関係数は0.80であった(n=101, 有効回答率:23.0%).確認的因子分析におけるモデル適合度の指標はCFI: 0.836, GFI: 0.783, AGFI: 0.741, RMSEA: 0.071であった.【結論】日本語版EDMCQは,倫理的風土の評価指標として本邦で実用可能な尺度であるといえる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to verify the reliability and validity of the Japanese version of the Ethical Decision-making Climate Questionnaire (EDMCQ) for decision making in intensive care units (ICU). Methods: The Japanese version was created by translating the English version of EDMCQ. A survey was conducted by mailing the questionnaires, targeting ICU nurses. The test was retested 14 days later. Results: The test was distributed to 439 ICU nurses. Overall, 204 responses from nurses at 25 facilities were received and analyzed (effective response rate: 46.5%). Cronbach’s α coefficient for the entire scale was 0.91, and the intraclass correlation coefficient was 0.80 (n=101, valid response rate: 23.0%). The indices for model fit in the confirmatory factor analysis were CFI: 0.836, GFI: 0.783, AGFI: 0.741, and RMSEA: 0.071. Conclusion: The Japanese version of the EDMCQ can be considered to be a practical scale for evaluation of ethical climate in Japan.

緒言

集中治療室(intensive care unit: ICU)入室患者は,重症なため,意思疎通が困難である場合が多い1.終末期に関する意思決定の過程において,患者の推定意思や家族の意思,医療者の意思間で決定に対して複雑な葛藤や対立,困難が生じるとされる2,3.また,患者がICU退室後に家族は抑うつや不安,心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder: PTSD)などの心理的症状を抱えることが多い47.そのため,患者本人の意向に沿った家族を含めた意思決定支援が重要となっている.

意思決定支援の質には組織や医療チームにおける倫理的風土が関連していることが示唆されている8.倫理的風土と医療者間のコラボレーション促進は患者や家族へのケアの質向上および意思決定のプロセスの改善,医療者自身の心理的負担を軽減するために重要である9.このようにICUにおける倫理的風土の実態を調査することで,意思決定支援の質向上に資する可能性があり,課題の明確化や改善策の検討をするために尺度を用いて評価することは有益であると考えられる.ベルギーでは,Van den Bulckeら10によってICUでの意思決定に関する倫理的風土を測定する尺度として,Ethical Decision-making Climate Questionnaire(EDMCQ)が作成されている.EDMCQは,ICUで倫理的な意思決定を行ううえで重要とされる医療者の倫理観や多職種とのコミュニケーション,医師のリーダーシップに関する調査票で,32項目7領域の調査項目から成り立っている.内的一貫性および妥当性の検証もされており,多国での調査結果も報告されている10,11.本邦において,EDMCQのようなICUにおける意思決定に関する倫理的風土を測定する尺度は見当たらず,日本語版の作成および本邦に適用可能な尺度であるかの検討が必要であると考えた.以上のことから,ICUにおいてより質の高い意思決定支援を行っていくために,倫理的風土を明らかにすることは有用であり,本邦で活用可能な信頼性・妥当性を確認した尺度の開発が必要である.本研究の目的は,日本語版EDMCQの信頼性・妥当性の検討を行うことである.

方法

日本語版EDMCQの作成

EDMCQの作成者に日本語版作成および使用許可を得て,日本語版を作成した.原著はオランダ語であるため,作成者にオランダ語版の提供を依頼したが,英語版の内的一貫性および妥当性も確認されており10,11,英語版の質問紙からの日本語版の作成を依頼されたため,英語版から日本語版の作成を行った.日本語版の作成にあたっては,医師の資格を持つ研究者4名,看護師の資格を持つ研究者6名で日本語訳を作成し,複数回にわたりすり合わせを行い,内容的妥当性および表面的妥当性を確認のうえ,決定した.最終的な日本語版は,逆翻訳を行い,作成者に確認し,作成者の意見に沿って一部文言を修正し,日本語版を決定した.

研究デザイン

本研究は,無記名の自記式質問紙を用いた横断的研究であり,2022年10月から2023年8月の期間に実施した.また,本研究はCOSMINのチェックリストを参照し,実施した12

調査対象者

原版開発時の研究では医師および看護師を対象にしていたが,職種間におけるモデル適合度に差はなかったため10,本研究ではICU看護師のみを対象とした.EDMCQは意思決定支援ならびに終末期の支援を含む尺度であるため,1年目の看護師は除外とした.サンプルサイズについて,尺度研究では分析方法により異なり,一定の基準があるわけではないが,経験的指標から本研究では目標回収数を100~150程度に設定した1315.また,ICU看護師を対象とした先行研究を参照し16,有効回答率を40%程度と仮定し,目標配布数を250~375程度に設定した.

調査方法

対象者選定では,関東地方南部の特定集中治療加算1~4を届け出ている全155施設を抽出し,施設応諾率を30%,1施設あたり10名程度の協力が得られると仮定し,96施設を無作為に選定した.対象施設の看護部長宛てに研究協力依頼に関する説明文書と質問紙のサンプルを郵送し,研究に協力いただける場合は,回答者数を記載した用紙を返送してもらった.同意のあった施設の看護部長もしくはICU担当者に宛て,記載されていた回答者数分の部数の説明文書,第1回質問紙,返信用封筒,謝礼として300円程度のボールペンを同封し,郵送した.回答を記載した質問紙は個別に返信用封筒に封入し,投函および返送してもらった.第1回質問紙発送後,2週間が経過したときに,第2回質問紙を第1回と同様の方法で発送した.質問紙には個人を特定できるような氏名等の情報は記載せず,研究者があらかじめ設定した数字を第1回質問紙に記載し,付箋に同じ数字を記載したものを添付した.その付箋を保管していただき,第2回質問紙回答時に付箋に記載している数字を転記してもらうことで,第1回と第2回の回答を連結可能な状態とした.

回答された尺度項目に1項目でも欠損があった場合,すべて同じ回答を記載している場合は無効回答と判断し,分析から除外した.また,再テスト信頼性の検証では,第1回と第2回の回答が連結不可能な場合にも無効回答とし,分析対象から除外した.

調査内容

日本語版EDMCQを用いた質問紙調査を実施した.調査票は尺度32項目および回答者情報からなり,尺度得点は点数が高いほど倫理的風土が高い水準になるよう,全く当てはまらない:1点~非常に当てはまる:5点で回答を求めた.日本語版EDMCQは,第I因子は医師による内省的で権限移譲型のリーダーシップ7項目,第II因子は多職種間でのオープンな反省の実践と文化7項目,第III因子は終末期の意思決定を避けない文化4項目,第IV因子は多職種チームにおける相互尊重の文化3項目,第V因子は終末期ケアおよび意思決定における看護師の積極的関与3項目,第VI因子は医師による積極的な医師決定4項目,第VII因子は倫理的意識の実践と文化4項目の7因子32項目からなる尺度である.回答者情報では,年齢,性別,看護師経験年数,ICU経験年数を尋ねた.

分析方法

分析方法は,対象者背景について記述統計を算出し,平均値と標準偏差を求めた.尺度項目の項目分析を行い,平均値,標準偏差を求めるとともに,天井効果(平均値+SD≥5),床効果(平均値−SD≤1)を確認した.項目合計相関(I-T相関)にて,0.2以下の項目は削除検討項目とし,項目間相関にて,0.7以上の項目を削除検討項目とした.Good-Poor分析(G-P分析)では,各項目について,得点上位25%と得点下位25%の2群間の平均値に有意差がみられるか確認した.尺度得点は各項目および各因子ごと,尺度全体の合計得点について,記述統計を算出した.標本妥当性判断のため,Kaiser–Meyer–Olkin(KMO)の指標を算出し,0.8以上の場合に妥当と判断した.また,既知集団妥当性検証のため,看護師経験年数,ICU経験年数に基づいて経験年数5年未満と5年以上の二つのサブグループに分類し,各群の平均値と標準偏差を算出するとともに尺度合計得点および因子合計得点においてMann–WhitneyのU検定を行い,p値を算出した.看護師経験年数やICU経験年数が増加することに伴い倫理的な考えや行動が可能となり,周囲の医師や看護師にも影響を与えると考えた.そのため,経験年数5年以上の群が5年未満の群と比較して,尺度得点も高い結果となると仮定した.なお,経験年数5年という基準については,Benner看護論および日本看護協会の基準を参照した17,18.本研究では,すでにベルギーで開発された尺度の因子構造に則り,7因子32項目の形で調査を行った.そのため,同様の尺度構造を想定し,構造的妥当性の確認のため確認的因子分析を行った.また,原版の確認的因子分析の結果と比較することで,異文化間妥当性について検討を行った.モデルの適合度としては,CFI(comparative fit index),GFI(goodness of fit index),AGFI(adjusted goodness of fit index),RMSEA(root mean square error of approximation)を確認した.それぞれ,CFI, GFI, AGFIは0.9以上19,RMSEAは0.08以下20でモデル適合度が十分であると判断した.また,Cronback αを算出し,内的一貫性を確認した.0.7以上である場合に高い信頼性があると判断した.また,再テスト法を用い,再テスト信頼性を確認するため級内相関係数(intra-correlation coefficient: ICC)を算出し,0.7以上の場合に高い再現性があると判断した21.統計分析には,IBM SPSS version 28およびIBM Amos version 28を用い,有意水準は0.05未満とした.

倫理的配慮

倫理的配慮として,研究説明文書内に本研究への協力は自由意思によるものであり,回答をしないことでの不利益は生じないことなどを説明した.研究への同意は,質問紙の返信をもって判断し,その他同意撤回などの連絡が取れるよう,研究者連絡先を記載した.本研究は,関東学院大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(受理番号:H2022-1-1).

結果

対象者背景

関東地方南部のICUを保有する施設のICU看護師を対象とした.96施設に研究協力を依頼し,25施設より同意があった(施設応諾率:26.0%).25施設439名の看護師に質問紙を配布し,209名から回答が得られ(回収率:47.6%),204名を分析対象とした(有効回答率:46.5%).また,再テストを実施し,104名から回答が得られ(回収率:23.7%),101名を分析対象とした(有効回答率:23.0%).研究対象者背景を表1に示す.女性が87.7%であり,看護師経験年数平均は12.6年,ICU勤務年数平均は6.4年であった.

表1 研究対象者背景(n=204)

日本語版EDMCQの妥当性・信頼性に関する指標

項目分析において,天井効果および床効果を示した項目は確認されなかった.

項目合計相関において,項目17が0.231と最低値であり,0.2以下の項目はなかった.項目間相関において,項目3と項目4において,0.700,項目19と項目20において,0.745となった.各項目について研究者間で内容を検討し,異なる概念について尋ねている項目であると判断し,削除は行わなかった.日本語版EDMCQの各因子および項目とそれぞれの平均値と標準偏差を表2に示す.最も得点が高かった項目は,「終末期の情報を家族に伝える際に看護師は同席している」(平均4.1±0.8),最も得点が低かった項目は,「担当医師は自分にも弱みがあることをあえて見せている」(平均2.6±0.9)であった.KMOの標本妥当性の測度は,0.844であった.尺度全体の内的一貫性を示すCronback α係数は0.91であり,尺度合計得点における再テスト信頼性を示すICCは0.80であった.下位尺度におけるCronback α係数は0.67から0.88となり,第V因子において最低値であり,ICCは0.39から0.81となり,第IV因子において最低値であった.最高値はともに第I因子であった.

表2 日本語版Ethical Decision-Making Climate Questionnaire(32項目)(n=204)

構造的妥当性検討のために行った確認的因子分析の結果を図1に示す.確認的因子分析におけるモデル適合度に関する指標はそれぞれCFI: 0.836, GFI: 0.783, AGFI: 0.741, RMSEA: 0.071であった.また,項目間相関を示した項目3, 4, 19, 20について,それぞれの組み合わせにおける一方の項目を削除したモデルを4パターン作成し,確認的因子分析を行った.モデル適合度に関する指標はそれぞれCFI: 0.829から0.845,GFI: 0.793から0.800,AGFI: 0.749から0.757,RMSEA: 0.069から0.073であった.

図1 日本語版Ethical Decision-Making Climate Questionnaire(EDMCQ)の確認的因子分析結果(n=204)

既知集団妥当性を検討するために行った看護師経験年数およびICU経験年数に応じたサブグループ間の比較の結果を表3に示す.看護師経験年数およびICU経験年数ともに尺度合計得点の比較における有意差はみられず,経験年数5年未満の群がより平均値が高い結果となった.その他,ICU経験年数との比較について,第IV因子を除き,すべての因子において経験年数が5年未満の群のほうが平均値が高かった.また,看護師経験年数における第I因子,第VI因子およびICU経験年数における第IV因子,第VI因子において,有意差がみられた.

表3 既知集団妥当性に関する経験年数に応じたサブグループ間の比較

考察

本研究では,ICUでの意思決定に関する倫理的風土を測定するEDMCQの日本語版尺度の信頼性・妥当性を検討した.

項目分析において,項目3と項目4および項目19と項目20について項目間の相関係数が基準としていた0.7よりも高かった.項目3と項目4においては,問題を解決することと治療やケアを実際に行うことは違う内容と判断し,許可しているのか奨励しているのかという点でも異なる観測変数であると考えた.項目19と項目20においては,チーム内の誰からも人として尊重されるという点とチームメンバーが行う仕事に着目している点で異なる観測変数であると考えた.以上より,それぞれの項目が本尺度の重要な項目であると考えた.また,各項目を削除したモデルを作成し,モデル適合度を検討したが本研究において設定していた基準を満たすような改善はみられなかったため,項目削除は行わなかったが,今後も尺度の構造について検討していく必要がある.

記述統計の結果から,「担当医師」について尋ねる項目において低得点となっており,看護師が個人的に行動および実践できる項目は得点が高い傾向にあった.今回は,看護師のみを対象とした調査であったことも影響している可能性が考えられる.医師との連携が必要な項目に関する医師–看護師間でのコミュニケーションに課題が示唆される.意思決定に関して,過剰なケアが発生する理由として,医師は予後の不確実性を挙げ,看護師は多職種チーム内でのコミュニケーション不足を挙げており22,医療者間でも認識の違いがみられる.これら認識の違いには患者ケアのゴール設定が影響していると言え23,倫理的風土にも影響している可能性が考えられる.

信頼性において,内的一貫性を示す尺度全体のCronback αは0.8以上,再テスト信頼性を示す尺度全体のICCは0.7以上であり,高い信頼性を示していた.しかし,一部の下位尺度では基準を大きく下回る結果となっており,下位尺度の項目数が少ないことや意思決定における倫理的風土に関する印象が直近の事例の影響を受けやすい等,2週間の期間でも回答が変動しやすい可能性が影響していると考えられる.Silvermanらの報告では11,因子ごとのCronbach α係数が0.78から0.87であり,内的一貫性が保たれていたが,日本語版における第III因子および第V因子についてはCronbach α係数が0.7以下となっているため,これら下位尺度のみを用いて使用する際は信頼性の確保が難しい可能性が示唆された.

構造的妥当性について,確認的因子分析における一部のモデル適合度の指標が低い結果となっていた.CFI, GFI, AGFIは0.9以上を基準としていたが,すべてが0.9を下回る結果であったが,RMSEAは0.08以下という基準を満たしていた.サンプルサイズについては,項目数の少なくとも5倍かつ100以上の対象者数を確保していたため,COSMINチェックリストにおける適切の評価となり12,KMOの指標も基準値以上であったことからサンプルサイズは適切であったと考えられる.また,原版の開発時は,看護師と医師間での尺度のモデル適合度に差はなく,欧米における地域間の差もみられていなかった10.本研究では,本邦における原版と類似する対象者に対して調査を行ったが,モデル適合度が低い結果となっており,職種による違いや倫理的風土の捉え方等に違いがある可能性があり,異文化間妥当性については確認できなかった.今後,本邦において日本語版EDMCQに関連している要因を検討する必要がある.また,日本語版倫理的風土尺度(J-HECS)の信頼性・妥当性の検討においても,モデル適合度は低い傾向にあり24,本尺度が著しくモデル適合度が低い結果ではなく,倫理的風土という概念の複雑さが影響していると考えられる.

既知集団妥当性について,看護師経験年数およびICU経験年数と尺度得点には,一部を除き経験年数による有意差はみられず,経験年数5年以上の群が5年未満の群と比較して平均得点が低い傾向にあった.そのため,日本語版EDMCQにおいて,看護師経験年数やICU経験年数が増加することに伴い倫理的な考えや行動が可能となり,周囲の医師や看護師にも影響を与えるため,経験年数が多い群で尺度得点が高い結果となるという仮説とは異なっていた.その理由として,経験を積むことで,求める到達度が自己においても他者においても上昇することや倫理的感受性が高まり,問題や課題をより明確に感じとるようになることが考えられる.今後は,倫理的感受性や意思決定支援,終末期ケアに関する知識や経験,ICU以外の病棟経験などと,どのような関連があるか検討を進めていく必要がある.一方で,第IV因子「多職種チームにおける相互尊重の文化」のICU経験年数における比較では5年以上の群が得点が高く,同一の部署で経験を積むことで,チーム内での関係性が構築されるとともに,個人の専門的な能力が向上していき,得点が高くなる傾向にあると示唆される.本研究の限界として以下の3点が挙げられる.1点目は,原版は医師と看護師を対象として調査が行われているが,本研究では医師を対象としなかった点が考えられる.医師を対象としなかった理由は,原版の開発時は医師と看護師間のモデル適合度に差がなく,回答の不変性が示されていたことから10,看護師のみを対象とした場合でも尺度の開発は可能であると考えたためであった.また,倫理的風土として組織を評価するものであるため,基本的にはその組織の人間であれば回答できる内容の尺度であると考えた.しかし,組織における立場や経験,職種などによって結果が異なることが予想され25,医師をはじめ他職種を対象とした調査が今後必要である.とくに,医師への調査においては,集中治療医を除いて,ICU以外の一般病棟などでの経験が影響する可能性が高く,Closed-ICUかOpen-ICUかなど,診療体制の違いも検討する必要があると考える.2点目として,基準関連妥当性の検討ができていないことが挙げられる.EDMCQは32項目からなる尺度であり,本研究では研究対象者の回答負担等を考慮し,基準尺度を用いた検討を行わなかった.今後,基準関連妥当性を含めた検討が必要と考える.3点目として,本研究の対象施設ならびに対象者は関東地方南部に限られていたため,一般化可能性の限界が挙げられる.関東地方南部に限定したことで本研究の結果が本邦の他の地域でも同様であるのかは検討できていない.しかし,関東地方南部は本邦において特殊な地域ではないことや欧米においては地域間におけるモデル適合度の差はみられなかったことから10,本研究の結果は本邦において,ある程度一般化可能であると推察できる.

結論

ICUでの意思決定に関する倫理的風土を評価できる日本語版EDMCQの信頼性・妥当性を検討した.構造的妥当性に関する確認的因子分析において,モデル適合度が低い可能性が示唆されるが,尺度全体としては十分な信頼性が確保されており,本邦において実用可能な尺度であるといえる.本尺度の活用により,倫理的風土を評価し,よりよい意思決定支援に向けた検討につなげることが可能である.

謝辞

本研究にご協力いただきました対象施設の看護部長,看護師長ならびに看護師の皆様に心より感謝申し上げます.

研究資金

本研究は,JSPS科研費23K09969の助成を受けたものである.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

川島は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析および解釈,原稿の起草に貢献した.木下は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.吉野は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2024 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top