Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
短報
緩和ケア病棟で2週間のリハビリテーションを受けた歩行可能な局所進行/遠隔転移がん患者のQuality of Lifeの変化
添田 遼 山口 拓也古川 ゆう
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML
電子付録

2024 年 19 巻 3 号 p. 169-174

詳細
Abstract

【目的】緩和ケア病棟でリハビリテーションを受けた歩行可能な局所進行/遠隔転移がん患者のQuality of Life(QOL)の変化を明らかにすること.【方法】対象は緩和ケア病棟に入院した18歳以上の歩行可能ながん患者とした.Comprehensive Quality of Life Outcome(CoQoLo)短縮版を入院時と入院から2週間後に評価をした.【結果】21名が2週間後の評価を完了し,男性10名,年齢(中央値)は78歳だった.入院から2週間後にFunctional Independence Measure認知項目は有意に低下したが,CoQoLo合計点に有意な低下を認めなかった.リハビリテーション介入頻度が週4日以上群は,4日未満よりもCoQoLo「ひととして大切にされていると感じる」変化率で有意に高値を示した.【結論】リハビリテーションは歩行可能ながん患者のQOLを維持しうる.

Translated Abstract

Objective: To clarify changes in the quality of life (QOL) of ambulatory patients with locally advanced/metastatic cancer who underwent rehabilitation in a palliative care unit. Methods: Patients aged 18 years or older who were admitted to the Palliative Care Unit, had a Functional Ambulation Category of 1 (assisted ambulation) or higher, and were assessed at admission and two weeks after admission using the Comprehensive Quality of Life Outcome (CoQoLo) short version, were included in the study. Results: Twenty-one patients completed the 2-week assessment. Ten subjects were male, with a median age of 78 years. The Functional Independence Measure cognitive items significantly declined 2 weeks after admission, but the CoQoLo total score was not significantly different. In addition, the rate of change in the CoQoLo item “Being respected as an individual” was significantly higher in the ≥4 days/week rehabilitation intervention group than in the <4 days/week group. Conclusion: This study has shown that it is possible to maintain the QOL of ambulatory patients with cancer who received rehabilitation in a palliative care unit.

緒言

がん患者全体の日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)障害の有病率は3人に1人とされ1,とくに最期の3カ月間ではADLは低下していくことが明らかになっている2.ADL障害は,単に生活を困難にするだけではなく,自分自身が他者の負担になっていると感じる実存的苦痛3として,患者のQuality of Life(QOL)を低下させる可能性がある4.そのため,緩和ケア病棟ではADL障害に関する苦痛を緩和し,患者のQOLの改善が必要である.

がん患者のQOLを改善する方法として,薬物療法や精神的サポート/ケアのほかに,リハビリテーション(以下,リハビリ)もその可能性をもつ.がん診療連携拠点病院でリハビリを受けた局所進行/遠隔転移がん患者を対象にした先行研究では,2週間のリハビリ後にはADLが低下した患者においてもQOLが維持されたと報告されている5.すなわち,動作能力が低下する時期にも,リハビリによってQOLを維持できる可能性が示唆されている.しかし,先行研究5は,Performance Status 4(自分の身のまわりのことはまったくできない)の患者を13%含んでいたため,QOLへのリハビリの効果が患者のADL障害の程度によって異なる可能性は否定できない.したがって,リハビリがどのようなADLの患者に対して有効であるかを結論づけるためには,対象のADLに明確な基準を設けたうえでの検討が必要と考えた.とくに,歩行は終末期がん患者を含む多くの疾患の患者にとって重要な動作である.リハビリを受けたがん患者からは歩行に対する困難感が多く報告されており6,その背景には身体的な制約だけでなく,歩けなくなることによる患者の尊厳や価値観に影響を与えているものと推察する.臨床経験からも,がん患者が最期まで歩くことを望むことは少なくなく,リハビリ専門職の役割としてその支援が求められる.歩行への支援は単に動作能力の維持だけでなく,その支援プロセスから患者が人として尊厳や価値観を支え,結果としてリハビリ介入はQOLの維持や向上に寄与する可能性があると考えた.

そこで本研究は,対象者を歩行可能な局所進行/遠隔転移がん患者として,緩和ケア病棟で2週間のリハビリを受けた前後のQOLの変化を明らかにすることを目的に,前向きコホート研究を実施した.本研究の結果は,緩和ケア病棟に入院したがん患者に対する効果的なリハビリプログラムの開発に貢献し,QOLの維持や改善に役立つことが期待される.

方法

本研究は前向きコホート研究である.

対象

対象は2020年9月7日から2022年8月31日までに当院緩和ケア病棟に入院した18歳以上のがん患者で,Functional Ambulation Category(FAC)が1点(介助歩行)以上とした.FACは歩行の自立度によって0点(歩行不能)から5点(歩行自立)で評価される7.立位・歩行が禁忌となった骨折リスクを抱えた骨転移症例や安全な運動が困難な重度の貧血例,肺転移や肺がんによる呼吸不全例は除外した.また,医師からリハビリ介入が許可されなかった症例,入院時にFACが0点(歩行不能)の症例は除外した.

本研究では,G*Power Ver 3.1.9.6を用いてサンプルサイズを計算した.Sekineらの報告5に含まれたQOLの効果量を参考に,有意水準0.05,検出力0.8,効果量0.47の条件下で,38人のサンプルサイズが必要であると算出した.

研究実施施設の緩和ケア病棟は,原則として根治が困難でがん治療が終了となった患者や,治療を希望しなかった患者が苦痛の緩和のために入院する.多くの患者は臨終まで緩和ケア病棟で過ごすが,自宅への退院をすることも可能である.リハビリは原則全例に処方し,入院初日から理学療法士もしくは作業療法士,言語聴覚士が介入する.介入は年末年始と土日を除いた月曜日から金曜日に提供し,介入頻度や時間は患者の希望,主治医や多職種カンファレンスの意思決定によって調整する.リハビリの内容と頻度は対象者の希望を聴取後に,入院時の多職種カンファレンスの結果をもとに決定する.

調査項目

対象者の属性として,入院時に年齢,性別,がん原発巣,脳・骨・肺・肝臓へのそれぞれの転移の有無,血清アルブミン(g/dL),C反応性蛋白(mg/dL),modified Glasgow Prognostic Score(mGPS),Palliative Prognostic Index(PPI)をデータとして収集した.

主要アウトカムであるQOLは,Comprehensive Quality of Life(CoQoLo)8短縮版10項目の合計点の入院時と2週間後の差とした.CoQoLoは日本人の望ましい最期(Good Death)に関する研究より開発されたQOL尺度である8.それぞれの項目は1点(全くそう思わない)から7点(非常にそう思う)の7段階のリッカート尺度で評価する.各項目のうち,「人に迷惑をかけてつらいと感じる」は患者の回答を採点時に反転させて採点する(例:1点は7点,2点は6点として採点する).合計は10点~70点となり,高値ほどQOLが高いことを示す.CoQoLoの妥当性,信頼性は検証されている8.副次的アウトカムとして,CoQoLoの各項目と,ADLは機能的自立度評価法(Functional Independence Measure: FIM)9,およびFAC7の入院時と2週間後の差を比較した.CoQoLo合計点およびCoQoLoの各項目の得点は後述する変化率としても用いた.FIMは運動13項目,認知5項目の合計18項目からなる9.1点(全介助)から7点(完全自立)の7段階で採点し,合計は18点から126点となる.高値ほどADL自立度が高いことを示す.これらのアウトカムは入院時と入院から2週間後に評価をした.評価は原則として症例を担当した専従もしくは兼任の理学療法士が行い,感染対策等で実施が困難な場合には同病棟に勤務する理学療法士,作業療法士が評価した.リハビリ介入については,電子カルテから2週間の合計介入単位数,1週間当たりの平均介入頻度,主な介入の内容を記録した.

統計学的解析

主要解析はCoQoLo合計点について,副次的解析ではCoQoLo各項目,FIM,FACについて入院時と入院から2週間後の差に対してWilcoxonの符号順位和検定を実施した.さらに副次的解析として,1週間あたりのリハビリ平均介入頻度を中央値で2群に分け,CoQoLo合計点および各項目の得点の変化率の2群間比較をMann–WhitneyのU検定で実施した.変化率(%)は以下の式から求めた:

  

統計解析には,EZR on R commander ver. 1.55(The R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を用いた10.統計学的有意水準は5%とした.

結果

対象期間中に入院した患者のうち,基準を満たして同意を得た患者は37名だった.37名のうち,21名(56.8%)が2週間後の評価を完了した.16名は2週間後の評価を完了できなかった.16名の内訳は,全身状態の悪化(10名),死亡(3名),新型コロナウイルス感染症の対応により隔離(1名),評価前に自宅への退院(1名),質問紙の拒否(1名)であった.

解析対象者の入院時属性を 表1に示す.男性10名,女性11名で,年齢(中央値)は78歳,主ながん原発巣は肺(8名),膵臓(3名)であった.リハビリの主な内容は歩行練習(16名),基本動作練習(11名)であった(付録表1参照).リハビリに伴う有害事象の発生は認めなかった.

表1 対象者の属性(n=21)

入院時および入院から2週間後のCoQoLoの比較を 表2に示す.CoQoLo合計点は統計学的有意な変化は認めなかった(中央値[第1四分位,第3四分位]:入院時50.0[44.0, 56.0],2週間後54.0[49.0, 58.0],p=0.50).CoQoLo各項目の得点においても統計学的有意差を認めなかった.

表2 CoQoLo合計点と各項目得点の入院時と入院から2週時との比較(n=21)

FIM認知項目は入院から2週間後に有意に低下した(入院時31.0[28.0, 35.0],2週間後31.0[26.0, 35.0],p=0.01).FIM運動項目(入院時64.0[48.0, 72.0],2週間後60.0[40.0, 68.0],p=0.41)およびFAC(入院時3.0[2.0, 4.0],2週間後3.0[1.0, 4.0],p=0.13)は,やや低下したものの有意差は認めなかった(付録表2参照).

リハビリ頻度によるCoQoLo変化率の比較では,「ひととして大切にされていると感じる」変化率において,リハビリ平均介入頻度4日以上群は4日未満群と比較して有意に高値であった(4日未満群0.0[0.0, 0.0],4日以上群0.0[0.0, 4.2],p=0.03).そのほかの項目では有意な変化は認めなかった( 表3).

表3 CoQoLo変化率(%)のリハビリテーション平均介入頻度による2群間比較

倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された.また,著者所属施設の臨床研究倫理審査小委員会の承認を得た(承認番号437).対象者には本研究について説明後,書面にて同意を得て実施した.

考察

本研究は,緩和ケア病棟で2週間のリハビリを受けた歩行可能な局所進行/遠隔転移がん患者のCoQoLo合計点の変化を調査した.その結果,入院時と入院から2週間後のCoQoLo合計点に有意な変化は認めなかったが,FIM認知項目は有意な低下を認めた.CoQoLo合計点は有意に低下せず,維持された可能性もあり,結果は慎重に解釈する必要がある.Sekineら5は局所進行もしくは遠隔転移がん患者に対する2週間のリハビリ後のADLとQOLを調査している.2週間後にADLが有意に低下した患者群でQOLの低下に有意差がなかったことを報告し,リハビリはADLが低下する患者のQOLを維持しうることを示唆している.本研究ではFIM認知項目が有意に低下し,FIM運動項目も低下傾向にあった(付録表2参照)が,CoQoLo合計中央値は入院時50点から2週後には54点となり,改善する傾向にあった( 表2).これは歩行可能な患者を対象にした本研究がSekineらの報告5と同様に,リハビリはADLが低下する患者のQOLを維持するということを支持しうる結果となった.他方で,Sekineらの報告ではFIM運動項目をADL指標として用いていたが,本研究ではFIM運動項目,FIM認知項目を使用し,FIM認知項目のみが有意に低下していたという違いがあった.ADLにおける動作能力が低下したSekineらの報告と,ADLにおける認知機能が低下した本研究では,入院から2週間後の患者の状況は異なる可能性があり,さらなる検証が必要である.

リハビリ頻度によるCoQoLo変化率の比較では,「ひととして大切にされていると感じる」項目においてのみ,平均介入頻度4日以上群が4日未満群と比較して有意に高値を示した( 表3).緩和ケア病棟で死亡した患者の遺族調査では,リハビリを受けた群では,Good Death Inventory(GDI)の「希望と喜びの維持」,「医療スタッフとの良好な関係」,「個人として尊重されている」が有意に高値であった11.すなわち,リハビリは単に機能の回復や維持ではなく,患者の想いや尊厳を支持する効果を有す可能性がある.本研究で使用したCoQoLoはGDIから開発されている8.CoQoLoの「ひととして大切にされていると感じる」項目は,先行研究11で使用されたGDIの「個人として尊重されている」と同ドメインの評価項目であり,先行研究同様にリハビリとの関連が示唆されたことは,患者がリハビリのプロセスの中で前向きな経験をしている可能性があることを推察しうる結果となった.平均介入頻度が4日以上になると,患者は週の大半でリハビリスタッフと定期的に接するために前向きな経験の発生に寄与しているのではないかと考える.したがって,患者のQOLを維持するために,一定のリハビリ頻度が必要な可能性が示唆されるが,介入頻度に関しては,患者の希望やリハビリへのアドヒアランス,リハビリスタッフの関与方法など,多岐にわたる要因が影響を及ぼすため,これらの要因を考慮した詳細な研究が求められる.

一方で,本研究には限界点がある.まず,16名が入院から2週間後の評価を完了できなかったため,最終的に解析に必要なサンプル数を登録できなかった.次に,リハビリ以外の緩和医療の情報がないため,これによるCoQoLoの得点への影響を除外できない.最後に,リハビリ処方のない群(コントロール群)が設定されていなかった.これらの限界点は,結果に影響しうるものであり,次なる研究では解決されるべき内容である.とくに当院では全例にリハビリが処方されていたため,リハビリ処方なし群を設けるためには多施設共同での検討が必要と考える.

結論

緩和ケア病棟における歩行可能ながん患者に対する2週間のリハビリ後に,FIM認知項目は入院から2週間後に有意に低下したが,CoQoLo合計点,CoQoLo各項目の得点の有意な変化は認めず,維持された可能性がある.また,「ひととして大切にされていると感じる」変化率においては,リハビリ頻度4日以上群は4日未満群と比較して有意に高値であった.これらの結果から,2週間のリハビリ後にはQOLの維持を示唆しうる結果となった.

謝辞

本研究に協力をいただいた医療法人社団 杏月会 奥田外科・胃腸科クリニック奥津輝男先生に謝意を表する.

研究資金

本研究は2021年度 神奈川県理学療法士会研究助成を受けて実施した.

利益相反

著者に申告すべき利益相反なし

著者貢献

添田は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与に貢献した.山口,古川は研究データの収集,解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2024 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top