Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
コロナ禍でがん体験者ががんサロンに抱いた要望—がんサロンの活動休止を経験した体験者の語りから—
松本 智里 牧野 智恵
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 19 巻 4 号 p. 299-305

詳細
Abstract

コロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者9名にがんサロンに抱いた要望を面接調査した結果,【自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい】【専門知識をもった医療従事者がいてほしい】【ほかのがん体験者と直接会って,経験を身近に感じたい】【リモートではお互いの気持ちを共感したり,伝えあうのが難しく,不全感が残るので工夫がほしい】【自分のがん体験を活かせる場がほしい】の5つのカテゴリーが抽出された.対面での交流が難しい社会情勢であっても,がん体験者はがんサロンでの交流を,情報収集や雑談のためだけでなく,生きがいと感じて,続けていきたいと望んでいたことがわかった.がんサロンの主催側は参加者が自由に交流し,共感し合えるように,感染対策やリモート開催等の工夫をして,がんサロンを休止せずに継続できる工夫をすることが重要であることが示唆された.

Translated Abstract

Nine cancer survivors who had experienced the suspension of cancer salon activities due to the Coronavirus Pandemic were interviewed about their desires for a cancer salon, and five categories were extracted. The following were identified: [I want a place where I can feel safe to be myself and exchange information] [Desire to have a medical professional with expertise stationed] [I want to meet other cancer survivors in person and feel their experiences close to me] [It is difficult to empathize and communicate with each other remotely, and it leaves me with a sense of inadequacy] [I want a place where I can make use of my cancer experience]. Even in a social situation where face-to-face interaction is difficult, we found that there is a desire to continue interaction with cancer survivors at cancer salons, not only for information gathering and chatting, but also because they feel it is worthwhile to live. It was suggested that it is important for cancer salon organizers to devise ways to continue cancer salons without suspending them, such as infection control measures and holding them remotely, so that participants can freely interact and empathize with each other.

緒言

がんは日本で死亡原因の第一位であり,未だ増加の一途を辿っている.そのような中,診療報酬の改正で外来化学療法加算が新設され,外来で化学療法を受けながら日常生活を送るがん体験者が増加している.外来で化学療法を受ける患者は,家に帰ってから生じるさまざまな副作用や再発の不安の中にいても,そのつらい体験を相談できる者が身近におらず,ひとりで抱えて苦しむことが多く,人生の意味への問いを抱えているともいわれている1

こういったがん体験者へのサポートの一つにがんサロンがある.がんサロンとは,セルフヘルプ・グループとしての機能を持つ場であり,さまざまな専門的な支援の入り口として,誰でも参加できる交流の場である2.その活動は,がん患者や家族同士がグループでそれぞれの体験の話を共有することで,サポートすることが中心となっている3

わが国では,各地域やがん診療連携拠点病院等でさまざまなピアサポートや患者サロン等の活動が行われている.2011–2013年度に,公益財団法人日本対がん協会がピアサポートに必要なスキルのための研修プログラムを策定し,その周知を進めた.しかし,その後の調査でピアサポートの受け入れや研修が十分に進んでいない状況4や,がん患者の中でピアサポーターが十分に周知されていないこと5が明らかとなった.これらの報告から,第3期がん対策推進基本計画6では,ピアサポートの普及に取り組むことが目標として掲げられた.続いて,第4期がん対策推進基本計画7では,多様化・複雑化する相談支援のニーズに応対できる,質が高く持続可能な相談支援体制の設備が必要と明示されており,ピアサポーターのより一層の活用が掲げられた.以上より,がんサロンはがん患者への相談・情報支援として重要なものとして位置づけられており,今後もさらに発展させるべき支援体制とされていることがわかる.がんサロンに参加したがん体験者は,心身のつらさを仲間と共有したり8,心の拠り所をみつけて自信を取り戻したりしている9と報告されており,がんサロンはがんに向き合うがん体験者にとって貴重な場となっている.

しかし,2020年からのCOVID-19の感染拡大(以下コロナ禍)によって,病院内外でのがんサロンの開催が制限された.これによりがん体験者は交流や情報収集の場が得られなくなり,不便さや不都合を感じていたことが推測される.COVID-19による感染は未だ収束には至っておらず,2023年5月に5類に移行された後も,第9波,第10波と感染拡大が繰り返されている.そのため,がん体験者がコロナ禍においてがんサロンの開催にどのような要望を抱いているかを明らかにし,安心安全にがんサロンに参加できる在り方を再考する必要がある.そこで,本研究の目的をコロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望を明らかにすることとした.

方法

研究対象者

がんサロンに対面もしくはリモートで参加経験がある20歳以上のがん体験者と,それらの方から雪だるま式に紹介していただいた方にリクルートを行い,研究の趣旨に賛同してくださった9名を研究対象者とした.がん種およびがん罹患年数は問わないこととした.

調査期間

2022年10月25日~2023年12月24日

データ収集方法

半構造化面接を行い,ICレコーダーに内容を録音した.面接は,対象者の希望に応じて対面もしくはリモート会議システムを用いて行った.「コロナ禍でがんサロンが自粛されたことで,ピアサポーターがいない状況の中でどのような支援を求めていたか」という質問をはじめとし,研究参加者に自由に語っていただいた.

分析方法

データの分析はBerelson10の内容分析の手法を参考に用いた.録音した面接内容から逐語録を作成した.コロナ禍でがんサロンに抱いた要望について語られた文脈を記録単位として抽出し,できるだけ対象者が用いた言葉を使い,文脈を損なわないようにコードを作成した.コードを繰り返し読み,内容の類似性によって統合し,サブカテゴリーとした.さらに意味内容が類似するものをまとめ,その本質を表現してカテゴリーとした.

真実性の確保のため分析過程では,2名の研究者間でコード化や集約をし,お互いの意見が一致するまで,記述データを繰り返し照合して検討を重ねた.研究者のうち1名は質的研究の論文投稿経験が複数あり,1名は質的研究で博士号を取得し,大学院生の指導経験が複数回ある.いずれもがん看護に関連する質的研究を複数回行っている.

倫理的配慮

石川県立看護大学倫理委員会の承認を得て研究を実施した(看大第2022-362号).対象者に研究の主旨を文書と口頭で説明し,研究協力の拒否や途中辞退の自由,個人情報の保護,得られた情報は研究目的以外には使用しないことを明記し,文書にて同意を得た.また,面接はプライバシーを確保できる個室で実施し,ICレコーダーの使用の可否は口頭と文書にて同意を得た.

結果

研究対象者の概要

研究参加者の概要は表1に示す.参加者の年代は40代2名,50代3名,60代4名であり,全員女性であった.がんと診断されてからの年数は1~18年であり,がんサロンの参加時期はコロナ禍以降が4名であった.全員が病院主催による院内開催とピアサポーター等が主催する院外開催の両方に参加経験があり,リモートによる参加経験があった.

表1 研究参加者の概要

研究対象者 年代 がん種 診断されてからの年数 参加したがんサロンの開催形態 リモートによる参加経験
参加時期 開催主体 開催地域
A 40代 乳がん 1年 コロナ禍以降 院内・院外 北陸 あり
B 50代 婦人科がん 5年 コロナ禍前・後 院内・院外 北陸・関東 あり
C 60代 乳がん 1年 コロナ禍以降 院内・院外 北陸 あり
D 50代 婦人科がん 3年 コロナ禍以降 院内・院外 北陸 あり
E 50代 乳がん 15年 コロナ禍前・後 院内・院外 北陸・関東 あり
F 60代 腎がん,肝がん 18年 コロナ禍前・後 院内・院外 北陸・関西 あり
G 60代 乳がん 14年 コロナ禍前・後 院内・院外 北陸・関東 あり
H 40代 乳がん 2年 コロナ禍以降 院内・院外 北陸 あり
I 60代 乳がん 8年 コロナ禍前・後 院内・院外 関東 あり

コロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望

コロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望は,139のコード,14のサブカテゴリー,5のカテゴリーが抽出された(表2).以下カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,対象者の語りを「 」で示す.

表2 コロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望

カテゴリー サブカテゴリー
自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい 話すことも話さないことも押し付けられず,自分らしく安心して過ごしたい
行けば誰かに会えるような心地いい場であってほしい
どんな方法でも,参加者同士が自由に話せる場が欲しい
情報交換する場がほしい
参加者の背景を考慮した開催を考慮してほしい
がん患者はコロナの感染のリスクも高いので,あえて病院内でなく院外の開催がいい
専門知識をもった医療従事者がいてほしい がんや感染予防について医療従事者からの講義を聞きたい
専門家がいると安心できるので医療従事者にいてほしい
ほかのがん体験者と直接会って,経験を身近に感じたい 同じがん体験者が身近にいることを感じたい
ほかの体験者に対面で会って,どれだけよくなるかを実感したい
リモートではお互いの気持ちを共感したり,伝えあうのが難しく,不全感が残るので工夫がほしい リモートでも思いの共有や共感をお互いに伝えあえるように工夫がほしい
リモートでも参加者が不快に思ったり,話に入れないことがあったときにフォローがほしい
自分のがん体験を活かせる場がほしい 自分の経験を話すことで誰かの役に立ちたい
がん経験が長い人ならではの思いを共有したい

1. 【自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい】

がんサロンは,だれかに何かを強要されるのではなく,気軽に情報交換をしたり,雑談したり,どうやって過ごすかを自分で決められる自由で安心できる場であってほしいという思いが表されている.このカテゴリーは6つのサブカテゴリーで構成された.「来ていらっしゃる方が押し付けるわけでもなく,知っていることをお話をしてくれたりという,ゆったりとした時間を過ごせるというのが,すごくいいなと思って見ています.」という語りからは〈話すことも話さないことも押し付けられず,自分らしく安心して過ごしたい〉という思いが表され,〈行けば誰かに会えるような心地いい場であってほしい〉という思いとともに,がんサロンでの過ごし方への要望が表されていた.また,〈どんな方法でも,参加者同士が自由に話せる場が欲しい〉では,「(がんサロンでピアの人と繋がれて)ちょっとほっとしました.こういう場所があるというので,どこにも行けない,行き場がないような思いがあって,どこで相談したらいいのかとか.」と,どんな方法でもがんサロンという交流の場を設けてほしいという要望があった.加えて,〈情報交換する場がほしい〉と病院に行くまでもないちょっとした情報を得る場を望んでいた.〈参加者の背景を考慮した開催を考慮してほしい〉や,〈がん患者はコロナの感染のリスクも高いので,あえて病院内でなく院外の開催がいい〉と,参加者の社会的背景による開催日時の工夫や,感染予防を考慮した開催場所の工夫について望むものもあった.

2. 【専門知識をもった医療従事者がいてほしい】

がんサロンでは医療従事者から専門知識を得たり,相談にのってもらったりしたいという思いであり,2つのサブカテゴリーから構成された.〈がんや感染予防について医療従事者からの講義を聞きたい〉では,「専門家の先生からちょっとお話しいただくというのも,やはりすごく勉強になるというか,ありがたいなと思うので」と,がんや感染予防について専門的な医療知識を得たいという要望があり,参加者間だけでは解決しきれない相談事があるときに,がんサロンに〈専門家がいると安心できるので医療従事者にいてほしい〉といった要望も表された.

3. 【ほかのがん体験者と直接会って,経験を身近に感じたい】

自分以外のがん体験者と直に会って,お互いのがん体験や治療のことを話しあうことで,自分以外にもがんを経験している人がいることや,その経験の過程を目で見て実感したいという思いであり,2つのサブカテゴリーから構成された.〈同じがん体験者が身近にいることを感じたい〉では,「ブログとかネットでこういうのが標準治療ですよといわれても,実際のところはどうなのと,やはり実際の生の体験談を知りたいというか,それを参考にしたいというか,そういうのがあるんですよね.LINEでやりとりしても何かそっけなくなってしまうので,やはり会って話さないと駄目だなというのは,自分でも感じましたね.」と自分と同じような経験をしたがん体験者が実際に存在することを直接会うことで感じる語りがあった.また,〈ほかの体験者に対面で会って,どれだけよくなるかを実感したい〉では,「直接その人を目の前にして話を聞けると,これだけたてばこれだけになるんだというのは見えるのが安心できる」とその経過を当事者から見聞きすることで自分も辿るであろう経過を実感したいという思いが表されていた.

4. 【リモートではお互いの気持ちを共感したり,伝えあうのが難しく,不全感が残るので工夫がほしい】

リモート開催では,参加者同士で共感したり,場の雰囲気を掴んだりすることができづらく,対面開催と同じような気持ちを得られるような工夫を望むという思いであり,2つのサブカテゴリーから構成された.〈リモートでも思いの共有や共感をお互いに伝えあえるように工夫がほしい〉では,「リアルな会場で終わりますとなって,会場から出て,エレベーターに乗るまでの間,よかったよね,何とかだよねと参加者同士のクールダウン.あの時間でいろいろなものを置いてこられるのだけれど,(リモートで)おうちで『じゃあ,またね』ブチッとしたときに,真っ黒けになったパソコンの画面を見て,すごく私は何ともいえない気持ちになったんですよ.これを誰と共有すればいいのだろうかというのがあった.」と,オンライン画面上では会話をしているときのお互いの空気感や雰囲気をつかみにくいという語りがあった.また,共感を伝えることが難しいことからの不全感が表され,主催者側に〈リモートでも参加者が不快に思ったり,話に入れないことがあったときにフォローがほしい〉との要望が表された.

5. 【自分のがん体験を活かせる場がほしい】

自分が経験したがん体験やその中で抱えた思いを誰かのために活かしたいという思いであり,2つのサブカテゴリーから構成された.〈自分の経験を話すことで誰かの役に立ちたい〉では,「自分のときはこうだったから大丈夫だよとか,逆に教えてあげられたり」と,がんサロンを自分のがん体験をほかの体験者に役立たせることができる場として望む思いがあった.また,〈がん経験が長い人ならではの思いを共有したい〉では,「(がんを経験してから)長くなると素直に泣ける場所がなくなって,こんなことで泣いていてはいけないのかなと.だけど泣きたいときはあったりとか.そういうところが故にこういう活動をしているのかなとも思います.」とがん経験が長い人特有の思いを共有する場として望む思いが表された.

考察

コロナ禍でがんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望

がんサロンは,参加は自由であり,何事も強制されないことが必要であるといわれている3.本研究の結果でも,【自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい】と,話すことも話さないことも強制されず自由にいられる場や機会を求められていたことがわかった.サブカテゴリーからは,参加者同士の情報交換や雑談を望んでいることが表れている.がんと診断されてからの経過が長い体験者のほうが,情報を得るためにピアサポートを必要としている11と報告がある.本研究の対象者は,がんと診断されてからの年数は1年~18年と様々であったが,情報を得る場であることをがんサロンに望んでいたことが示された.さらに,たとえコロナ禍であっても,がんサロンでの交流は途絶えさせたくないという思いが表れていた.これにはコロナ禍で他者との交流が制限される中での孤独感も背景にあったことが考えられる.このようながん体験者の要望を叶えてきたのがリモート開催である.リモート開催は,感染のリスクがないことや,移動時間の短縮,家事をしながらでも参加できるなどの利点がある.AYA世代のピアサポートには,デジタルツールの活用が有効であると述べられている12.リモート開催は,仕事終わりに参加できるというAYA世代の要望をかなえたスタイルであるといえるが,リモートに不慣れな人や,通信機器を未所持の人など,参加が難しい人への配慮も必要である.

がんサロンの開催時間は1~2時間程度のところが多いため,講演などの企画だけで終わることもある.そのため,参加者同士で話す時間を毎回設ける時間的配慮が必要である.さらに,対象を限定した日を設けたり,参加者の中でグループ分けをしたりと,参加者同士が共通の話題を持ちやすいような工夫も必要である.AYA世代や,就労中のがんサバイバーのためには週末や夜間の開催が望ましい.時間外でも責任が持てるファシリテーターやピアサポーターの養成や採用が求められる.また,サロンからの情報は参加者から得るだけでなく,【専門知識をもった医療従事者がいてほしい】と,医療者ががんサロンに参加していることで,専門的な知識が得られることに安心していることもわかる.がん体験者とその家族ががんサロンに期待することとして,体のことを学ぶ機会がほしいという報告がある13.がんサロンのファシリテーターは,ピアサポーターや施設の事務担当者である場合もあるため,専門的知識については主治医や看護師に改めて自ら相談するよう勧めることが必要である.加えて,語りの中ではがんサロンをがんに対する情報だけでなく,感染対策の情報を得る場としても認識していた.コロナ禍では,患者の家族が,患者に感染させるのではないかという不安を抱いて情報を欲していたと報告されている14.とくに化学療法中の者には,感染対策はがん治療の継続にも関わる重要なものであり,少しでも情報を得ようとしていたと推察される.【自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい】の内容には,感染対策が十分に行われている環境であることも語りの中に含まれていた.そのため,都道府県が中心となり,とくに院外で開催するがんサロンのスタッフやピアサポーター等に感染対策の研修を受けることを勧め,参加者の感染リスクを予防し,安全に参加できるような工夫が求められる.

がん体験者は感染予防を気に掛ける一方,【ほかのがん体験者と直接会って,経験を身近に感じたい】と,当事者と対面し,直接話すことで,自分の今後の経過を予想したり,がんと闘っているのが自分だけではないことを実感したいと望んでいた.対象者の語りからは,リモートよりも対面のほうが交流の実感が得られると表されている.対面でのがんサロンでは,全員が共通の場にいることで,表情や息遣いなどで相手を感じられ,自分の思いを共有できる雰囲気を感じることができた.リモートではそれが難しく,カメラと画像の位置が違うことから視線が合わない印象を受けたり,話を聞いてもらえていないような感じがすると報告がある15.さらに,対面では,がんサロン終了後も,自分たちの思いを語り合ったり,思いを共感したりできるが,リモートでは終了とともに画面が切れてしまい,共有したい思いを自分の中に抱えたままになってしまう.それが,【リモートではお互いの気持ちを共感したり,伝えあうのが難しく,不全感が残るので工夫がほしい】との要望に繋がっていた.対面とTV通話の心理支援を比較した研究では,TV通話のほうが親密度が低く,関係の形成がやや劣ると報告されている16.がんサロンの開催側は,参加者の特徴を踏まえ,参加者の表情を見つつ,間を取り持てるような工夫や配慮ができるよう,リモートがんサロンの開催方法を熟考しておくことが重要である.

コロナ禍で院内がんサロンの活動休止を経験したがん体験者ががんサロンに抱いた要望の一つには,【自分のがん体験を活かせる場がほしい】と,自分のがん体験を誰かの役に立てたいという思いがみられた.がんサロンに参加することで,誰かに癒されると同時に,誰かを癒す体験があり,それを実現したいと語られていた.長期がんサバイバーがピアサポート活動を続ける意味として,出会った人が元気になっていくことを生きがいとしていることや,長期生存者としての使命感があるという報告17がある.がんサロンが同じ体験者同士の交流や情報交換の場というだけでなく,そこに参加することで,自分自身も誰かの役に立つことができるという,新しい生き方の目標を見つけるうえで重要な場であり,コロナ禍だからこそ継続していくべき大切な場であることが示唆された.

新しいがんサロンの在り方

コロナ禍のように,対面での交流が難しい社会情勢であっても,がん体験者同士で交流を続けたいという要望があった.情報収集や雑談だけでなく,この交流を通して誰かの役に立てることに生きがいを感じる者もいた.がんサロンの主催側は感染対策やリモート開催など,がんサロンを休止せずに継続できる工夫をすることが重要であると示唆された.しかし,対面で行ってきた内容を単にリモートで開催するだけでは,充足感を得られない者がいることもわかったので,オンライン開催での手引き等18を参考にしながら,リモートであっても参加者が自由に交流し,共感し合えるような工夫が必要であると示唆された.

研究の限界と今後の課題

本研究は対象者数が少ないが,7~8名の分析を進めた時点でデータが飽和したため,コロナ禍でがん体験者ががんサロンに抱いた要望の一端は明らかにできたといえる.しかしすべてのがん体験者に一般化できるとは言い難い.今後は,さまざまな地域,方法で開催されたがんサロンの参加者を対象として,再度感染拡大が起こった場合にも,がん体験者が望むがんサロンを運営できる方法を確立していくことが求められる.

結論

コロナ禍で院内がんサロンの活動休止を経験したがん体験者9名に,コロナ禍でがんサロンに抱いた要望を面接調査した.その結果,【自分らしく安心して過ごしたり,情報交換できる場がほしい】【専門知識をもった医療従事者がいてほしい】【ほかのがん体験者と直接会って,経験を身近に感じたい】【リモートではお互いの気持ちを共感したり,伝えあうのが難しく,不全感が残るので工夫がほしい】【自分のがん体験を活かせる場がほしい】の5つのカテゴリーが抽出された.

対面での交流が難しい社会情勢であっても,がんサロンでのがん体験者との交流を,情報収集や雑談のためだけでなく,生きがいと感じて,続けていきたいという要望があるとわかった.がんサロンの主催側は参加者が自由に交流し,共感し合えるように,感染対策やリモート開催等の工夫をして,がんサロンを休止せずに継続できる工夫をすることが重要であることが示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただいたがん体験者の皆様に,心より感謝申し上げます.

研究資金

なし

利益相反

すべての著者に申告すべき利益相反はない.

著者貢献

松本智里および牧野智恵は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,原稿の起草等,すべての研究課程に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2024 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top