Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
継続的な緩和ケアアウトリーチによる訪問看護師の緩和ケアの困難感・自信・意欲の変化に関する縦断調査
佐藤 麻美子 田上 恵太田上 佑輔青山 真帆井上 彰
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電子付録

2024 年 19 巻 4 号 p. 279-284

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Abstract

本研究は緩和ケアの専門家が不在の地域における継続的な緩和ケアアウトリーチの訪問看護師への影響を検討した.われわれは宮城県登米市で,2018年7月から緩和ケアアウトリーチ活動を行っており,訪問看護師への影響を検討するため,活動開始時と2年後の緩和ケアに対する困難感,自信・意欲,活動の有用性について自記式質問紙調査を行った.対象は登米市の訪問看護師とした(回答者数:活動開始時39名,2年後24名).困難感尺度,自信・意欲尺度の変化は統計学的有意差を認めなかった.活動が有用であると評価した割合は66.7%であった.自由記述の内容分析から,終末期ケアに対する視野が広がり,自信が向上したことが示唆された.緩和ケアアウトリーチは訪問看護師の困難感軽減,自信の向上に有用な可能性があるが,地域全体に影響するには中長期的な活動が必要と考えられた.

Translated Abstract

This study aims to clarify the impact of continuous outreach activities on home care nurses in a community where palliative care professionals are absent. We have continued this outreach activities in Tome-City, Miyagi Prefecture, Japan since July 2018 and conducted the questionnaire surveys (five-point scale and text open-ended questions) at the beginning of the activities, and two years later, using a Likert method and free writing about their difficulties, confidence and motivation regarding palliative care. As a result, home care nurses in Tome City (39 respondents at the start of palliative outreach, and 24 at 2 years) completed the survey. There was no significant difference between at the start and after 2 years, but 66.7% of participants reported outreach activities as effective after 2 years. In our analysis of free-form text responses, that nurses’ perspectives of end-life care had expanded and their confidence improved over time. There is possibility that outreach activities are useful in reducing their difficulties and improving their confidence. However, it will take time over the medium to long term to spread the influence to the entire region.

緒言

地域の医療従事者のスキルや知識が向上することを目的として,地域で中心となる診療機関に専門家が定期的に訪問しともに診療に携わる活動をアウトリーチと呼ぶ1.アウトリーチは複数の医学領域での有効性が示されており,欧米や豪州では緩和ケアアウトリーチの有効性も示されている2,3.わが国でも2010年に井村らが緩和ケア普及のための地域プロジェクト(Outreach Palliative care Trial of Integrated regional Model: OPTIMプロジェクト)の一環として,地域の在宅医療における緩和ケアアウトリーチの有用性を報告した4.同報告以降,継続的な緩和ケアアウトリーチに関する研究報告はない.

われわれは2018年より宮城県登米市の診療所と連携し緩和ケアアウトリーチを行っている.登米市は宮城県北に位置し,面積536.12 km2,人口81,959人,高齢化率31%,2019年の自宅および施設での看取り率は20%である5.同地域は緩和ケアの専門家が不在であり,訪問看護師が終末期ケアの中心的役割を担っている.活動開始時に行った訪問看護師の終末期ケアに関する困難感,自信・意欲に関する質問紙調査6では,「緩和ケアに対する自信の向上」,「地域の医療従事者の顔の見える関係の強化」がニーズであることが示唆された.2年後の質問紙調査の結果から訪問看護師への活動の影響を検討する.

方法

アウトリーチの活動内容

活動の軸は緩和医療を専門とする医師の診療同行であり,東北大学病院緩和医療科に所属する医師(のべ5名)が,診療所の看護師とともに4~10回/月の頻度で終末期がん患者の訪問診療を行い,連携している訪問看護師とも情報交換を行った.

診療以外の取り組みとして,年4回アドバンスケアプランニングや症状マネジメント,症例の振り返りなどのテーマの集合型勉強会を行い,2020年のコロナ禍以降は,オンラインも活用して開催した.2019年9月~2020年9月には,地域で利用が始まった医療介護従事者用social networking service(SNS)に,緩和ケアに関する投稿にコメントする形で参加した.2020年4月には終末期がん患者の症状緩和のスキルアップを目的に訪問看護師や訪問薬剤師とともに基本的な対症薬のセットを作成し,使い分けなどについて勉強会を行った.

調査対象

アウトリーチを行う診療所に所属する訪問看護師,および同院と連携する,訪問看護ステーション3カ所の訪問看護師を対象とした.活動開始時(2018年9月)と2年後(2020年10月)にそれぞれ質問紙を送付し,1カ月以内に回答を返送したものを対象とした.各調査の対象者の紐づけは行わなかった.

調査項目

1)対象者の背景

看護師としての勤務年数,訪問看護の勤務年数,緩和ケアの経験年数,1年間に携わるがん患者数,1年間に関わる看取りの回数を調査した.

2)緩和ケアに関する訪問看護師の困難感,自信・意欲

Shimizuらが開発した「緩和ケアに関する医療者の困難感尺度(訪問看護師バージョン)」,「緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度(訪問看護師バージョン)」を用いた7.困難感は5ドメイン18項目,自信・意欲は4ドメイン12項目を「非常によく思う」「よく思う」「時々思う」「たまに思う」「思わない」の5段階リッカートスケールで尋ねた.これらの尺度は妥当性が確認されている.

3)緩和ケアアウトリーチに対する期待・有用性

活動開始時に緩和ケアアウトリーチに期待すること,2年後に有用性について,「症状マネジメントを知ること」「精神的支援やコミュニケーションを知ること」「地域連携と情報共有」「顔が見える関係」の4項目について,5段階リッカートスケールで尋ねた.

4)自由記述

自由記述で,「あなたは終末期がん患者さんを診療するときにどんな気持ちになりますか」を問うた.

分析方法

活動開始時と2年後の困難感尺度,自信・意欲尺度の各ドメインの合計点のWilcoxon順位和検定で両側検定を行い,有意水準はp<0.05とした.また各質問項目について,「非常によく思う」「よく思う」と回答した割合を求め,カイ二乗検定を行った.自由記述については,内容分析を行った.統計解析はJMP Pro17を用いた.

倫理的配慮

本研究は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認を受けている(受付番号:2018-1-453).説明文書にて,研究参加と同意撤回の自由,個人情報保護,学会や論文での公開において個人の特定のできる情報は使用しない旨を明記した.調査への参加は対象者の自由意思によるものとし,質問紙への回答をもって同意とした.

結果

対象者背景(表1

活動開始時39名(回答率86.6%),2年後24名(回答率68.6%)のアンケートを回収し分析対象とした.背景因子の統計学的差異は認めなかった.

表1 対象者背景

活動開始前(n=39) 2年後(n=24)
看護師年数
~9年 4 2
10~19年 5 7
20~29年 13 11
30~39年 6 2
無回答 11 2
中央値 20 20
訪問看護師経験年数
~4年 12 8
5~9年 8 8
10~14年 4 1
15~19年 4 3
無回答 11 4
中央値 5 5
緩和ケア経験年数
~4年 9 5
5~9年 6 4
10~14年 3 4
15~19年 5 2
20年~ 0 3
無回答 16 6
中央値 5 8
1年間に経験するがん患者数(平均) 30.4 38.2
1年間に看取るがん患者数(平均) 10.7 10.6

緩和ケアに関する医療者の困難感尺度,自信・意欲尺度

各尺度のドメイン別合計点の活動開始時と2年後の比較をした(表2).九つのドメインのうち看取りと家族ケアのドメインは30点満点,そのほかのドメインは15点満点である.ドメインごとの合計点は,困難感尺度ですべてのドメインで減少,自信・意欲尺度ですべてのドメインで増加したが,いずれも統計学的有意差は認めなかった.最も変化が大きかったのは困難感尺度のうち「症状緩和」,自信・意欲尺度のうち「スタッフへの支援に対する自信」のドメインであった.

表2 緩和ケアに関する医療者の困難感尺度と自信・意欲尺度 活動開始時と2年後のドメイン別合計点の比較

困難感尺度/自信・意欲尺度のドメイン 活動開始時(n=34) 2年後(n=24) p値*
【困難感尺度】 症状緩和 9.5±2.5** 8.6±2.4 0.16
医療者間コミュニケーション 9.4±2.8 9.0±2.8 0.57
患者・家族とのコミュニケーション 8.4±2.2 8.2±2 0.78
地域連携 7.8±2.3 7.2±2 0.35
看取りと家族ケア 15.2±4.2 14.8±4.3 0.54
【自信・意欲尺度】 終末期ケアに対する自信 8.1±3 8.3±2.9 0.75
スタッフの支援に対する自信 7.7±3 8.5±3.1 0.24
医師とのコミュニケーションの自信 7.5±2.8 8.2±2.8 0.31
終末期ケアに対する自信 10.4±3.3 11.2±3.6 0.30

* Wilcoxonの順位和検定

** 平均±標準偏差

各質問項目の「非常によく思う」,「よく思う」と回答した割合を活動開始時と2年後で比較したが,いずれの項目においても統計学的有意差は認めなかった.困難感尺度の質問項目のうち変化が大きかったのは,症状緩和のドメインの「がん疼痛を緩和する方法の知識が不足している」「呼吸困難や消化器症状を緩和する方法の知識が不足している」「症状緩和について,必要なトレーニングを受けていない」,地域連携のドメインの「病院,診療所,訪問看護ステーション,ケアマネジャーとの間で,情報共有が難しい」で,それぞれ約15%減少した(付録図1).自信・意欲尺度の自信に関する質問項目のうち,変化が大きかったのは,スタッフの支援のドメインの「スタッフが終末期の在宅療養に関わることを支援する自信がある」「スタッフが在宅看取りに関わることを支援する自信がある」でいずれも9.6%,終末期ケアに対する意欲のドメインの「終末期の在宅療養に積極的に関わりたいと思う」で12.1%,「在宅での看取りに積極的に関わりたいと思う」で13.1%増加した(付録図2).

緩和ケアアウトリーチへの期待と有用性

活動開始時に93%が期待すると回答し,2年後に有用であったと回答した割合は66.7%であった.期待・有用性の内容4項目について項目間の差は認めなかった.

終末期ケアへの困難感・自信についての自由記述

「終末期がん患者を診療するときにどんな気持ちになるか」の問いに対する自由記述の,計61の意味単位を分析対象とし,五つのカテゴリーと13のサブカテゴリーが抽出された(表3).2年後には症状緩和や看取りに関する困難感の記述が減り,知識の広がり,医師との連携,アセスメントについての自信の記述,緩和ケアアウトリーチによる安心感の記述がみられた.

表3 終末期がん患者さんを診療するときにどんな気持ちになるか

カテゴリー サブカテゴリー 活動開始時(記述数:42) 2年後(記述数:19)
意欲 症状緩和 「苦痛を最小限に抑えたい.」(10*) 「痛みや苦痛なく過ごせるようケアしたい.」(3)
看取り 「住み慣れた自宅で,苦痛なく,家族と最期を過ごせるとよいと思う.」(5) 「最期まで,家族とともに患者を支えたいと思う.」(3)
その人らしさを支える 「できるだけ患者の気持ちに寄り添って,希望や願いをかなえてあげたい.」(3) 「患者,家族,医療者の間で価値観や死生観に大幅な相違がないか.」 
「その人の経過や人生観などを聞いてみたい,これまでどう考え,これからどうしていきたいのか.」(2)
コミュニケーション 「今の思いを率直に話してもらいたいと思う.」 
「患者の訴え,家族の思いに注意をしながらフォローしなければと感じる.」(3)
「患者さん家族への伝え方を工夫しようと思う.」(3)
家族ケア 「患者を取り巻く家族の気持ちや意思を尊重したい.」(3)
困難感 症状緩和 「正しい苦痛緩和ができているか不安である.」 
「緩和ケアに関する知識不足の懸念.」(4)
看取り 「間違った判断をしてしまい,死期を早めてしまったらどうしようと悩む.」 
「どこで看取るかの希望が患者と家族で異なる場合戸惑う.」(5)
コミュニケーション 「どう接すればよいのかいつも悩みながら関わっている.」 
「高齢の方もそうだが,若い方だとより恐怖心が強い.」(7)
「不安を助長しないようどう声をかけたらよいか,分からず不安になる.」(2)
やりがい・達成感 「患者さんが穏やかな最期を迎え,家族ケアもうまくいくと達成感ややりがいがある.」 
「患者さんの人生の終わりに関われたことを嬉しく思う.」(2)
自信 選択肢の広がり 「自分の知識の幅が少しずつ広がっていると感じる.」 
「選択肢が広がり諦めなくなった.」(2)
医師との連携 「医師への助言・看護師からのアプローチができるようになった.」(1)
アセスメント 「日々の状況を確認しながら行動できるようになってきている.」(1)
相談できる安心感 「症状だけでなく,気になった一言について悩んだ時にも相談できるため,もやもやすることが減った.」「症状コントロールについて相談できるので安心.」(2)

*サブカテゴリーに相当する記述をした人数を示した

考察

本報告はわが国ではじめて,2年以上の継続的な緩和ケアアウトリーチの訪問看護師への影響について検討したものである.自由記述と,困難感尺度および自信・意欲尺度の傾向から,訪問看護師の終末期ケアにおける知識や選択肢が広がり,症状緩和の困難感軽減,スタッフの支援の自信につながった可能性が示唆された.病院における緩和ケアの専門家へのコンサルティ看護師を対象にした調査では,緩和ケアの専門家との連携を実践することで,非専門家看護師の緩和ケアの実践能力が高まり,困難感軽減につながることが示唆されており8,緩和ケアアウトリーチにおいても同様の効果が期待される.本研究では回答者の66.7%が緩和ケアアウトリーチは役に立ったと回答しており,対象者の多くは活動を理解し受け入れていると推察されるものの,対象者が地域全体であるため緩和ケアアウトリーチとの関わりの程度にばらつきがあること,活動開始時と2年後で対象者に変動があることから,調査結果を活動の効果と結論づけることはできない.

本活動の経過と調査結果から,緩和ケアアウトリーチの影響が地域全体に広がるには年単位の長期の活動を要する可能性があり,地域の医療の実情とニーズの変化に合わせながら活動を続けることは重要と考えられる.一方で専門的緩和ケアのリソースを考慮すると限界もある.緩和ケアやがん性疼痛を含む認定看護師による訪問看護師への遠隔看護支援の有用性の報告もあり9,持続可能な緩和ケアアウトリーチの形,ゴール設定について探索することも今後の課題である.

結論

継続的な緩和ケアアウトリーチは訪問看護師の終末期ケアに対する知識や選択肢の広がりに有用な可能性があり,より多くの地域で実践するために持続可能な方法を模索することが重要である.

謝辞

本調査はやまと在宅診療所登米事務スタッフの協力を得て実施されたものです.多大なご協力に感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

佐藤および田上恵太は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.田上佑輔,青山,井上は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべの著者は投稿論文並びに出版原稿の最終認証,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2024 日本緩和医療学会

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