Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴と工夫—退院調整に関わるスタッフへのフォーカスグループインタビュー—
名古屋 祐子 余谷 暢之長 祐子横須賀 とも子清水 麻理子鈴木 彩池田 有美大隅 朋生
著者情報
キーワード: 小児がん, 終末期, 退院調整
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 20 巻 1 号 p. 29-36

詳細
Abstract

本研究は,終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴と工夫を明らかにすることを目的に,退院調整に関わった経験を有するスタッフにインタビュー調査を行った.フォーカスグループインタビューを医療ソーシャルワーカー6名,看護師5名の計11名に実施し(応諾率84.6%),質的帰納的分析を行った.終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴として【受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない】,【症例が少なく経験が積み重ならない】など7カテゴリ,工夫として,在宅医・訪問看護との調整,子どもと家族との調整,病院内の調整の三つの調整場面において,【地域とつながりを持ち続ける】など7カテゴリが抽出された.終末期を自宅で過ごす子どもが増えており,今後,地域の情報集約や好事例の共有など小児がん拠点病院の役割拡大を含めて検討が必要だと考える.

Translated Abstract

In this study, we conducted interviews with staff members who had experience in discharge coordination to clarify the characteristics and efforts of discharge coordination for patients with pediatric cancer toward end-of-life. Focus group interviews were conducted with 11 individuals, including six medical social workers and five nurses (acceptance rate: 84.6%) and a qualitative inductive analysis was conducted. Seven categories were identified as characteristics of discharge coordination for patients with pediatric cancer toward the end-of-life, such as “few home physicians and home health care nurses who could accept terminally ill children” and “a small number of cases and lack of accumulated experience”. Seven categories were identified as efforts of discharge coordination, including “maintaining connections with the community” in three situations: coordination with home physicians and home-visit nursing care, coordination with children and their families, and coordination in hospitals. The number of children who spend their end-of-life days at home is increasing, and we believe that it is necessary to consider expanding the role of pediatric cancer base hospitals in the future, such as collecting information in the community and sharing good practices.

緒言

小児がんの子どもを持つ親や医療者の多くは,終末期ケアや子どもの看取りの希望場所として自宅を挙げている13.近年,小児を受け入れる在宅医や訪問看護ステーションが増加し,小児がん患者においても終末期を自宅で過ごす選択が可能になってきた.2020年の人口動態統計によると,小児がんにより亡くなった0–19歳の患者の34%が自宅で亡くなっていた4.小児がんの疾患別にみると,脳腫瘍は51%が自宅で亡くなっているが,血液腫瘍は14%と少なかった4.疾患ごとの違いは,血液腫瘍は,脳腫瘍と比較して終末期まで輸血や化学療法,集中治療など積極的治療を行われている割合が高いことが影響していると考えられている57.また,居住地域における在宅医療体制や病院側の経験によっては子どもと家族から在宅で過ごす希望があっても移行が難しく1,8,終末期を過ごす場所の選択肢が病院に限られる場合もある.

終末期を自宅で過ごす小児がん患者の受け入れに際し,訪問看護師は,小児がん看護などの教育研修よりも,病院との連携を重要視していた6.また上田ら9は,在宅医も終末期を自宅で過ごす小児がん患者を受け入れる場合に,病院主治医との連携を積極的に希望しており,病院から在宅への移行期における病院と在宅医療チームとの連携不足が在宅ケアの継続を難しくさせる可能性を指摘している.終末期にある小児がん患者の在宅移行は,重症心身障害など慢性疾患の患者と比べて,病状の悪化が懸念されるため,より限られた時間で行わなければならず10,さらに,信頼関係の形成の難しさ,病状把握の難しさといった,終末期に特有の困難があることが指摘されている6.終末期にある子どもの在宅移行は症例数が少ないため,スムーズな終末期の在宅移行に向けた経験の蓄積と共有が重要である.

そこで本研究は,終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴と工夫を明らかにすることを目的に,退院調整に関わった経験を有する退院支援部門のスタッフにインタビュー調査を実施した.

なお,本研究における「退院調整」には,在宅療養環境の調整に加え,退院に係る子どもと家族の意思決定支援や,退院後のフォローアップ,受け入れ先を増やすための地域への働きかけも含む.

方法

研究参加者

小児がん拠点病院もしくは小児がん連携病院に所属し,小児がん患者の終末期を見据えた退院支援に3例以上携わった経験をもつ退院支援部門のスタッフを対象とした.4名の研究者が機縁法を用いて既知の研究参加候補者に調査への協力を依頼した.研究参加者の職種は問わなかった.

調査期間

2022年12月から2023年2月に実施した.

調査方法

本研究では,インタビューガイドを用いたフォーカスグループインタビューを行った.グループは参加者3–4名とインタビュアー2–3名程度で構成し,90分程度のインタビューをオンラインで実施した.インタビュー内容は,参加者に同意を得た後に録画を行った.

インタビューでは,主に,終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の工夫や困難,重症心身障害児の退院調整や終末期を見据えた成人がん患者の退院調整との違いについて尋ねた.フォーカスグループインタビューは,グループダイナミクスの応用により,単独インタビューでは得られない奥深く幅広い情報内容を引き出すことが可能な手法であるため,参加者の自由な発言を制御しないよう,インタビューガイドは研究目的の骨子にとどめた.

分析方法

Berelsonの方法論11に準拠し,質的帰納的に分析を行った.インタビューデータから逐語録を作成し,研究目的に合致する語りを文脈単位でコードとして抽出し,意味内容の類似性に応じて抽象度を高め,カテゴリ化および命名を行った.分析および命名は質的帰納的分析および小児がん看護の経験を有する名古屋が1名で実施した後,小児がん患者の診療経験を有する余谷が分析内容の確認を行った.さらに,その結果を3名の研究参加者に依頼しメンバーチェックを行い,厳密性を高めた.

倫理的配慮

本研究は研究者の所属施設の倫理審査機関の承認を得て行った(令和4年度 宮城大第459号).

結果

機縁法を用いて依頼した13名中11名が研究参加に同意した(応諾率84.6%).フォーカスグループインタビューは3回実施し,時間は平均79.3分(最短75分,最長82分)であった.参加者の背景を表1に示す.職種は,医療ソーシャルワーカー6名,看護師5名であり,所属先は,小児がん拠点病院9名,小児がん連携病院が2名であった.年代は40代7名,30代3名,50代1名で,全員女性であった.終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の経験数は,10件以下が3名,11–20件が5名,21件以上3名であった.

表1 研究参加者の背景

n (%)
性別 女性 11(100)
年代 30代 3(27.3)
40代 7(63.6)
50代 1(9.1)
職種 医療ソーシャルワーカー 6(54.5)
看護師 5(45.5)
小児がん拠点の有無 拠点病院 9(81.8)
連携病院 2(18.2)
(いずれも都内)
施設の種別 小児専門病院 6(54.5)
大学病院 2(18.2)
総合病院 3(27.3)
終末期を見据えた小児がん患者の退院調整に携わった
経験年数 1–5年 8(72.7)
6–10年 2(18.2)
11–年以上 1(9.1)
経験 10件以下 3(27.3)
11–20件 5(45.5)
21件以上 3(27.3)

終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴

終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴として,7カテゴリが抽出された.以下,カテゴリは【】,サブカテゴリは[]で示す.また,詳細なデータは表2に示す.

表2 終末期を見据えた小児がんの子どもの退院調整の特徴

カテゴリ名 サブカテゴリ名 代表的な語り
受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない 地域の受け皿が少ない ・当院も〇〇か〇〇によくお願いしていて.他の所ってなるとまず,小児がんっていった時点で,ちょっと紹介状見て考えますみたいな感じで,まずそこから,戸惑われることが多い.
・成人の資源は,ものすごく多い.でも,小児となるとぐっと減ってしまう.
疾患の特徴が知られていない ・小児がんの場合はやっぱり理解度とか,知られていない.
・体を楽にするために輸血は必要で,大事な時間を延ばせると話しをしても,輸血の治療を望んでいるような人が,在宅なんか出来ない.在宅に帰るというのは,治療をやめて帰るということだから,覚悟を決めて帰ってきてもらってきてくださいといわれたことがある.
終末期の過ごし方の選択肢が限られる ・選択肢も在宅か当院か緩和ケアとか.選択肢も多くない.
症例が少なく経験が積み重ならない 症例数が少なく専門性が高い ・症例の振り返りとか.単施設だけだと本当限られちゃうから,学びが蓄積していくっていうのが結構難しい.
・小児の退院調整,私しかほぼやらないので.全然,ニュアンスを分かってもらえない.
がん種により経過が異なる ・脳幹グリオーマ(脳幹部神経膠腫)とかだと何となくもう予後予測ができて,こういうことが必要になってくるかなっていうのがわかる.
病院側も退院調整の経験が少ない ・私自身も本当に小児がんのお子さんの経験はものすごく少ない.
・血液腫瘍の患者さんの在宅調整,私やったことないと思いながら,お話を伺っています.
院内調整に時間を要する ・結構院内の調整に,時間を割くっていうこともあったりする.
・医師がみんな同じ考えでいるかというと大分違う.一から丁寧に説明して,理解してイメージをつけてもらうのは結構大変.
(予後予測が短い場合)限られた準備時間の中で先を見越した調整を要する 退院までの準備時間が限られている ・いわゆるスピード感が結構求められる.
・明日明後日帰ってみようかみたいな形で調整するってなると,もう訪問の先生とかとの役割分担とか,訪問看護どこまでやってもらえるかとか,色んなその話し合いを短期間で,ぎゅっとしていかないといけない.
治癒を目指した治療がぎりぎりまで続く ・治療を結構ギリギリまで希望されるケースは凄く多くて,治療を諦めてしまうっていうことが,なかなか選択しづらい.
・希望を抱きながらずっと治療をされてこられているので,ご家族も最後まで諦めないというスタンスもある.
調整中も状態が刻々と変化する ・初回訪問までに2週間の間にどんどん具合が悪くなって,カンファレンスしたときは酸素が付いてなかったのに,もう次の日の酸素付いていて,その次の日はPCAポンプ(患者自己管理鎮痛法用の医療用機器)が付いてとか本当に細かいところで調整が難しい.
関係性の構築期間が短い ・重心の子ってソーシャルワーカーは結構,診断された時とか,胎児のときから入ってる場合もありますし.
(予後予測が月~年単位の場合)病状が安定している時期から往診や訪問看護が導入されるがその時点での関わりが難しい ・治療中の併診だと,在宅側から何をすればよいですか?といわれることもある.親御さんの方も,訪問診療入っていても「特に何も」みたいな.
・医療デバイスがまだ何もなく,医療処置がなく訪問診療使おうっていわれても,本当に何が必要なんだろう.
現在の医療・福祉の制度だけではカバーしきれない 各医療機関の持ち出しや家族負担が生じる ・診療報酬の中で,点数化されていないということは自費になるのかなと思うんですけど.診療報酬の方でなんとか考えてほしいなと思います.
・尿の破棄のバッグ(膀胱留置カテーテルに接続する畜尿バッグ)とか「持たせられるだけ持たせて」といわれても管理料が取れない.
利用可能な社会資源が限られる ・小児慢性の方でなにか出来ないかと動く事がほとんどですから.骨肉腫とか欠損したりとかって言えば,もちろんそっち(障害者手帳のサービス)になるんですけど.
・相談支援事業所,障害者相談支援事業所が重心ちゃんの場合は絡んでくる事が最近はほとんどですけど,小児がんの患者さんはそこを絡める所までいかない事が多い.
持ち帰る医療デバイスが多い ・成人と比べると医療的なデバイスが多い.でもそれが子どもにとって辛くない形だったりすることもある.
子どもの意向が尊重されにくい 子どもの意思が反映されにくい ・子どもと親で真逆の希望.どちらを優先するのがよいのかを,医療者同士で話したりした.
・お子さんだと,治療に対する親御さんの治療の思いとか,最期まで治療をやりたいっていうところとか.大人の患者さんみたいにどうしたいかを明確にして帰ることは現実的に難しい.
子どもに正確な情報が伝えられていない場合がある ・年齢的な理由からご本人に本当の所を伝えないで「1回家に帰ろうか?」みたいな説明だけされて帰る場合もある.
・意思決定の所は,年齢にもよるでしょうし,どこまで何の話しっていうのは難しいかなと思います.
子どもが亡くなることを見据えた調整を要する 家族が精神的につらい状況の中で調整が行われる ・自分よりも早く子どもが亡くなってしまうということは,やっぱり受け入れられないことだと思う.
・小児がんの方は今まで元気に育ってきていた子が,途中で障害というか,こういった状況になっているという所が.そこでの親御さんの受け止めの違いがすごく大きい.
意思決定に時間を要する ・お父さんとお母さんとの受け止めの違いが結構鮮明に出てくる事が多くて.どんどん諦めずに治療をしたいというお父さんと,現状を受け止めながらよい時間を過ごしたいっていうお母さんとのせめぎ合い.
・終末期っていうことで考えると,最後がどうなるのか決まっていたり,決まっていなかったり.

【受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない】

このカテゴリーは,[地域の受け皿が少ない],[疾患の特徴が知られていない],[終末期の過ごし方の選択肢が限られる]の3サブカテゴリから構成された.

【症例が少なく経験が積み重ならない】

このカテゴリは,[症例数が少なく専門性が高い],[がん種により経過が異なる],[病院側も退院調整の経験が少ない],[院内調整に時間を要する]の4サブカテゴリから構成された.

【限られた準備時間の中で先を見越した調整を要する】

このカテゴリは予後予測が短い場合の特徴として語られ,[退院までの準備時間が限られている],[治癒を目指した治療がぎりぎりまで続く],[調整中も状態が刻々と変化する],[関係性の構築期間が短い]の4サブカテゴリから構成された.

【病状が安定している時期から往診医や訪問看護が導入されるがその時点での関わりが難しい】

このカテゴリは,予後予測が月~年単位の場合の特徴として語られた.

【現在の医療・福祉の制度内で対応することが難しい】

このカテゴリは,[各医療機関の持ち出しや家族負担が生じる],[利用可能な社会資源が限られる],[持ち帰る医療デバイスが多い]の3サブカテゴリから構成された.

【子どもの意向が尊重されにくい】

このカテゴリは,[子どもの意思が反映されにくい],[子どもに正確な情報が伝えられていない場合がある]の2サブカテゴリから構成された.

【子どもが亡くなることを見据えた調整を要する】

このカテゴリは,[家族が精神的につらい状況の中で調整が行われる],[意思決定に時間を要する]の2サブカテゴリから構成された.

終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の工夫

終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の工夫として,在宅医・訪問看護との調整,子どもと家族との調整,病院内の調整の三つの調整場面において,7カテゴリ,25サブカテゴリが抽出された.詳細なデータは表3に示す.

表3 終末期を見据えた小児がんの子どもの退院調整の工夫

カテゴリ名 サブカテゴリ名 代表的な語り
在宅医・訪問看護との調整 相性や要望を整理し丁寧につなぐ 在宅医と子ども・家族との相性を見極める ・どこの先生はどんな事ができるとか,どんな所が苦手とか得意とかって所もしっかりと把握する.
・院外の機関と色々お話とかをしながら,特徴を掴んでやっていくっていうことが大事.
細かな情報も丁寧に情報共有を行う ・今はWebのカンファが多いので,Webの場では言えなくても,また改めて電話して何かその間に入ってくれる相談員さんとかワーカーさんとか事務員さんとかにもっともっと細かいことをいって,何かちょっと橋渡しするみたいなことはよくしています.
・誰がどういう風に説明してどういう反応だったかっていうのを地域に丁寧にカンファレンスで申し送りしてから送り出さないと.
在宅医・訪問看護の導入目的を明確に伝える ・どの施設からも何したらいいですかってやっぱりいわれるので,本当に丁寧に何のために入っていただくのか,予測される予後と,何をして欲しいのか.
・終末期を見据え,治療の奏効をしなかった場合は予後も月単位とか短い可能性もあるので,ちょっと早めの関係構築という意味でお願いしたいという風に伝えていることが多い.
病院側が在宅側に要望しすぎないように調整する ・うちと診療所の役割分担を明確にしないと,地域の方がキャパオーバーになっちゃう.その辺をちょっと整理する.
・がんを診ているお医者さんがお願いしたい事を全部在宅で叶えられると思っていて.病院で聞いて想定して帰った後に“違う”となることがある.
病院側からのフォローアップを保障する 密に連絡を取り合う ・かなり密に連絡を取り合って,疼痛コントロールのやり方も,子どもと大人で何が違うのかというようなこともやり取りして,先生自ら疼痛管理セットをその子の家に届けておいて,とかやってくださったりした.
相談先と再入院先を保障する ・病院としてどういうバックアップ体制をとらなきゃいけないのかも,ちゃんと話し合った上で送り出すといいのかな.
・できるだけ協力します.バックアップしますというような姿勢をこちらがなるべく示す.
在宅側の費用持ち出しが少なくなるよう調整する ・退院のときにTPNのポンプとかPCAカセット新しいのに詰めて帰るとか,その辺はもちろん調整する.
地域と繋がりを持ち続ける 地域内の情報のハブとなる ・ハブになる,繋ぐ役をやっぱり基幹病院がした方がよいのかな.「あそこはこうですけどそこはどうですか?」みたいな話をしたりする.
・「なんかこんな形であそこはやっているみたいですけど,そちらはどうでしょう?」みたいな感じで,それぞれのやり方を,それぞれにちょっと横流しというか,情報共有の役割をさせてもらったりする.
受け入れ先を開拓し続ける ・少しずつ私たちがお願いすることで,資源が増えていくっていう所もあるのかなと思います.
・資源がまだまだ開拓途中.輸血をしてくださるところとかもないので,一つ一つ相談しながら,開拓し続ける.
子どもと家族との調整 子どもと家族の意向を主体に調整する 子ども本人の意向を尊重する ・実際本人はどう思っているんだろうっていうのをちょっと探りながら,他の医療従事者の話も聞きながら,本人の意向を聞く.
・自分の意見をいえる年頃の子がいるので,そういう本人の思いを,いろんな医療従事者と共有しながら叶える.
子どもと家族の希望を優先する ・今までの経過を傾聴しながらお母さんが今どんなことが率直にやりたいのかとか,お子さんがどんな風に思っているのかなっていうのを一緒に考えたり.
・赤ちゃんがいえない時は,まずお母さんたちがどんな風にすると喜ぶかとか,どんなことをしたいですか,じゃあやれそうな事ってこういうことかなみたいな.
選択肢の一つとして自宅で過ごすことを提示する ・こういう治療ができるんだけれども,もちろん内服の治療でおうちに帰るという選択肢もあるよっていうことを伝えて,子どもたちがどう選択するか.
・帰れないんだったら急がなくてもよいよって.あくまで患者さんのスタイルに合わせて.
家族の意思決定を見守る ・家族という単位で見守って行く日々過ごしています.
・(パンフレット等を使いながら)何とかかんとか家族の気持ちを固めていきながら在宅をいれていく形に持っていっているかなと思う.
自宅での生活や今後の経過のイメージを共有する 在宅医・訪問看護の役割を丁寧に説明する ・在宅移行に,ネガティブなイメージを持つ御両親が多いので,仲間が増えるんだよっていうメッセージをなるべく前面に出す.
・お家に帰った後も,お家に来てくれる先生がいるんだよ,来てもらうと安心だよねとお話をしていくことが多い.
今後の経過を見据えた情報を共有する ・今後の見通しとして,どういう風に状態が変化してくる可能性があるとか,こういう症状が今後出てくる可能性があるみたいなことを,説明をしっかりしてからお家に帰している.
・全体像をお示しすることで,今ここだけ使うけど,将来的にはこんなのもあるよとか,何かやんわりと,何となく将来自分がこういうことが必要になるのかなってズバッっていわれると中々受け入れ難いんですけれども,全体像を最初から示しておくことで,何となく分かっていただけるかな.
外泊や一時退院を重ねて検討を繰り返す ・お子さんの場合は初めから全部固めて決めるじゃなく,一旦帰ってみて,そこからどうしていくかを考えてもらう.
・1週間お家で過ごしてみますかっていう感じで,1週間の療養を目指す.まず在宅のイメージをもってもらう.
実際に在宅移行した経験者の声を伝える ・新しく(在宅医などが)入る患者さんたちに(実際に自宅で過ごした経験者の声を)フィードバックする.
・やっぱり(在宅医などが)入ってもらっておいてよかったねというケースは多いので,こういうことがあったよというのは伝えるようにしている.
個別の経過に応じて在宅とつなぐ 相談態勢を整え再入院先を保障する ・先生達も病棟の人もみんな病院側のスタッフとしては,おうちに帰るけど,いつでも戻ってきていい,困ったり,戻って来たかったら,戻ってきていいんだよということを必ずしっかり伝わるように,保障している.
・症状が悪くなったり,何か困ったことがあったら,〇〇で対応するから大丈夫だよと伝えている.
早期から在宅医/訪問看護につなぐ ・早目に入れるっていうことがすごく増えてきた.
・医療的な処置がなくても,今から関係を作っておいて,何かあった時に相談しやすい関係を今から作っておこうという目的で入ってもらう時もある.
求められているスピード感で調整する ・1日でかなりの調整をしたり.スピード的なところは難しいなと思うところもあるけど,この時間しかないと思うと,どうにか何とか整えたい.
・工夫してるというか,やっぱりご家族ご本人の望みなのであれば,できるだけ早く調整はつけたい.
支援に入るタイミングを逃さない ・絶対タイミングを逃したくない.
・きっかけ,タイミングとか,それを逃さずにそこからサービスを一つ入れる.
病院内の調整 医療者間で連携し情報を共有する 多職種で役割を分担し情報を共有する ・他の職種から情報をもらって,それを元に実務的なことをすることが多い.
・導入はドクター.サポーターとしては私たちが入って,実務をどんどんとこなす.
相談しやすい関係性を構築する ・早期介入が必要な患者さんはいないかという視点でカンファレンスに入る.
在宅移行後の様子を共有し次のケースにつなぐ ・家に帰った後のお子さんの楽しい姿とか,お母さんがすごく大変かなって思っていたことが訪問看護師さんに入ってもらったら,こんな風にできているんだなとか(病棟スタッフに共有するようにしている).
・こまめに院内スタッフが集まって「今こんな状況だよ」と情報共有をするのがすごく大事かな.
・先生たちに成功体験を積んでもらわないともう二度と私たちに繋いでくださらなくなるので,やっぱり在宅のその成功体験というのは院内の先生にこそ持っていただきたいなって.
職種間で子どもと家族への説明内容を統一する ・どういう風に「在宅が入ります」と説明されているのかを先生に確認する.
・ドクターがお話をしたうえで,専門の人がいるからお話聞いてね,みたいに振って頂いて,その後相談をしながら,お母さんにアプローチをしていく.

1. 在宅医・訪問看護との調整

【相性や要望を整理し丁寧につなぐ】

このカテゴリは,[在宅医と子ども・家族との相性を見極める],[細かな情報も丁寧に情報共有を行う],[在宅医・訪問看護の導入目的を明確に伝える],[病院側が在宅側に要望しすぎないように調整する]の4サブカテゴリから構成された.

【病院側からのフォローアップを保障する】

このカテゴリは,[密に連絡を取り合う],[相談先と再入院先を保障する],[在宅側の費用持ち出しが少なくなるよう調整する]の3サブカテゴリから構成された.

【地域とつながりを持ち続ける】

このカテゴリは,[地域内の情報のハブとなる],[受け入れ先を開拓し続ける]の2サブカテゴリから構成された.

2. 子どもと家族との調整

【子どもと家族の意向を主体に調整する】

このカテゴリは,[子ども本人の意向を尊重する],[子どもと家族の希望を優先する],[選択肢の一つとして自宅で過ごすことを提示する],[家族の意思決定を見守る]の4サブカテゴリから構成された.

【自宅での生活や今後の経過のイメージを共有する】

このカテゴリは,[在宅医・訪問看護の役割を丁寧に説明する],[今後の経過を見据えた情報を共有する],[外泊や一時退院を重ねて検討を繰り返す],[実際に在宅移行した経験者の声を伝える]の4サブカテゴリから構成された.

【個別の経過に応じて在宅とつなぐ】

このカテゴリは,[相談態勢を整え再入院先を保障する],[早期から在宅/訪問看護につなぐ],[求められているスピード感で調整する],[支援に入るタイミングを逃さない]の4サブカテゴリから構成された.

3. 病院内の調整

【医療者間で連携し情報を共有する】

このカテゴリは,[多職種で役割を分担し情報を共有する],[相談しやすい関係性を構築する],[在宅移行後の様子を共有し次のケースにつなぐ],[職種間で子どもと家族への説明内容を統一する]の4サブカテゴリで構成された.

考察

本研究は,終末期を見据えた小児がん患者に対する退院調整の特徴と工夫について退院支援経験のある担当者から聞き取りを行った初めての報告である.今回われわれは以下の四つの知見を得た.

一つ目は,【子どもの意向が尊重されにくい】特徴を有する終末期を見据えた小児がん患者の退院調整において,退院調整に関わる職種が[子ども本人の意向を尊重する]ことを意識して行っていた点である.退院支援部門のスタッフは,子どもと親の間で意向の不一致が生じている可能性もあるため12[関係性の構築期間が短い]中で両者の意向をとらえることが求められる.また,子どもの意向は,終末期を過ごす場所に関する親の意思決定に影響を及ぼすが13,多くの場合,親と退院調整に関わる職種の二者関係で退院調整の話し合いが行われる.本研究で明らかになった[関係性の構築期間が短い]ことに加え,子どもの発達段階や病状などの要因も加わり,子どもの意向をとらえることが難しい状況の中で退院調整を行っていると考えられる.

二つ目は,【症例数が少なく経験が積み重ならない】特徴の中で退院調整が行われていたことである.竹之内ら14の調査によると,病院側だけでなく,終末期にある小児がん患者と家族を地域で受け入れる訪問看護師も知識や経験不足を感じていることが明らかになっており,病院側と地域側の双方で経験を積み重ねることが重要である.また,同一疾患であっても病の軌跡は多様であり,【個別の経過に応じて在宅とつなぐ】必要があるため,単一施設での経験症例の積み重ねは難しい.今後,終末期を自宅で過ごすことを希望する子どもと家族がさらに増加することが予測されるため,小児がん拠点病院を中心とした退院調整システムの構築や好事例の情報共有を行い,自宅で過ごすことを希望する子どもと家族が必要とする情報を得られる体制整備が重要になってくると考える.

三つ目は,病院内で退院調整に関わる職種は,【受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない】現状に対し,地域内の情報のハブとしての役割や受け入れ先の開拓といった【地域とつながりを持ち続ける】ことで,病院と地域の横のつながりをより強固なものにしようと工夫していたことである.国内外で,病院側が地域へ出向き,自宅で過ごす子どもと家族,子どもと家族を支える在宅医・訪問看護をサポートするといったアウトリーチに関する効果的な活動が報告されており15,16,【受け入れ可能な在宅医・訪問看護が少ない】地域においては,病院から地域へアウトリーチすることで徐々に地域の受け入れ拡大につながると考える.また,訪問看護師が小児患者を受け入れるためには,さまざまな他機関・多職種とのネットワーク整備が必要であるが17,小児がん領域の場合には医療的ケア児の相談支援センターのような地域の情報の集約点として関係機関との連絡調整の中核的な役割を担う部門がないため,各小児がん治療施設の退院調整部門に情報集約や地域との調整が委ねられている現状がある.各小児がん治療施設が担っている役割を,小児がん拠点病院や既存の地域の医療的ケア児の相談支援センターの役割拡大によって補っていくことが方策として考えられる.

四つ目として,利用可能な社会資源の不足や,医療デバイスが多いといった特徴から【現状の医療・福祉の制度だけではカバーしきれない】ことが明らかになった.終末期を見据えた小児がん患者の退院調整は,子どもの病状が日々変化する【限られた準備時間の中で先を見越した調整を要する】特徴を持ち,障害者手帳などの申請や,自宅での生活に必要な生活用具の手配が追いつかない場合がある.介護保険の対象外となる40歳未満のがん患者を対象とした在宅療養生活支援事業によって居宅サービスや福祉用具の貸与・購入助成が行われている市区町村もあるが,小児がん領域での活用の実際は明らかになっていない.現状の制度でカバーしきれていない点について今後,小児がん特有の課題に合わせた制度設計が重要であると考える.

本研究は,退院支援部門のスタッフから得られた知見であり,主治医,病棟看護師とはじめとした病棟スタッフ,緩和ケアチーム,在宅側や子どもと家族からみたニーズや課題を含めて,終末期を見据えた小児がん患者と家族の退院調整の実態を明らかにする必要がある.また,本調査の研究参加者の多くは小児がん拠点病院に所属し,小児がん連携病院からの参加者2名も東京都内の病院に所属していた.また,いずれも退院調整の経験が3例以上あるスタッフであったため,退院調整経験の少ないスタッフや,小児がん拠点病院以外の施設や都市部から離れた地域にある施設のスタッフの視点と異なる可能性があるため結果の解釈には注意を要する.先行研究において,終末期に自宅で専門的な小児緩和ケアサービスを受けた子どもと家族のquality of lifeが高いことが示されており18,19,今後,退院調整における小児緩和ケアチームとの協働について探索していきたい.

結論

本研究は,終末期を見据えた小児がん患者の退院調整の特徴と工夫を明らかにすることを目的に,退院調整に関わった経験を有するスタッフにインタビュー調査を実施した.特徴として【症例が少なく経験が積み重ならない】など7カテゴリ,工夫として【相性や要望を整理し丁寧につなぐ】といった在宅医・訪問看護との調整,【自宅での生活や今後の経過のイメージを共有する】といった子どもと家族との調整,【医療者間で連携し情報を共有する】といった病院内の調整などの7カテゴリが抽出された.終末期を自宅で過ごす子どもが増えており,地域の情報集約や好事例の共有など小児がん拠点病院の役割拡大を含めて検討が必要だと考える.

謝辞

本調査にご協力いただいた対象者の皆さまに感謝いたします.

研究資金

本研究は,厚生労働科学研究費補助金(21EA1003)の助成を受けて実施した.

利益相反

報告すべき利益相反なし

著者貢献

名古屋および余谷は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;長および横須賀は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な遂行に貢献;清水,鈴木および池田は研究データの収集,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な遂行に貢献;大隅は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2025 日本緩和医療学会

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