2025 年 20 巻 1 号 p. 1-8
【目的】本研究は既存の患者,医療者間のコミュニケーションツールを用いたadvance care planning(ACP)プログラムを臨床で実装し,介入の効果を調査した.【方法】がん診療連携拠点病院1施設2部署に入院するがん患者,医師,看護師を対象に通常ケア(対照)群9人と使用手順書等を用いたACPプログラムによる介入群9人を設定し,実装状況の6項目とACPの効果について分析した.【結果】ACPプログラムの実装ではACPプログラムの実施率は42%(T1,1カ月後),0%(T2),33%(T3)であった.ACPの効果では,医療者と患者や家族との話し合い(P=0.003)と患者の目標に沿ったケア(P=0.003)が介入群で有意に高かった.【結論】ACPプログラムとして具体的な行動指標を示したことで患者や医療者双方のACPの一般的な行動のきっかけとなった.
Purpose: The purpose of this study was to clinically implement an advance care planning (ACP) program using existing communication tools between patients and healthcare providers, and to clarify the effectiveness of the intervention. Methods: Cancer patients admitted to 2 departments at a local designated cancer hospital, as well as doctors and nurses, were divided into 2 groups: 9 people in the usual care group (control group), and 9 people in the intervention group utilizing the ACP program using an instruction manual, etc. Then, 6 items related to implementation status, and the effect of the ACP program were analyzed. Results: Regarding the implementation of the ACP program, the implementation rate was 42% (T1, 1 month later), 0% (T2), and 33% (T3). The effect of the ACP program was that discussion between healthcare providers and patients and families (P=0.0027) and care aligned with patient goals (P=0.0027) were significantly higher in the intervention group. Conclusion: By presenting specific behavioral indicators as an ACP program, this study served as a trigger for general ACP behavior among both patients and healthcare providers.
終末期患者の意思決定プロセスに関する臨床研究では,将来を予想することが困難であること,事前指示(advance directives,以下ADとする)に記載したこと以外については対応してもらえないという懸念,代理意思決定者が患者に代わって意思決定を行う負担等が挙げられ,ADを行うのみでは十分でないことが示されている1).このことから,本人の医療行為に対する意思表示を書面に記載することを目標とするのではなく,本人の価値観や目標等を代理意思決定者や医療従事者と話し合い,本人の意向を具体化させるアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning,以下ACPとする)が重要であることが1995年以降北米や欧州を中心に認識されるようになった2).Paladinoらは,深刻な病気に罹患している患者のACPにおいては,医療者のコミュニケーションの質,必要な患者を選定し介入するタイミング,患者と家族の話し合いを進めるための教育やマニュアル,チェックリストの活用,情報共有の電子医療システム等の要因が影響することを示している3).しかし日本では,ACPの基本的な考え方については「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に示してはいるものの,介入の具体的な方法については記されていない4).
筆者の勤務する雪の聖母会聖マリア病院(以下,当施設)はACPの手順書や統一した記録はなくACPへの取り組みが組織の目標として挙げられた.
そこで本研究では,先行研究で示された根拠やガイドラインに基づき,ACPを進めるためのプログラム(ACPプログラムとする)を作成した.福岡県のがん診療連携拠点病院1施設(当施設)で,繰り返し行われるコミュニケーションによる患者,医療者間の相互理解の過程をACPの課題として挙げていた特性の異なる2病棟において,治療・ケアを受けているがん患者を対象に臨床で実装し,医療者と患者の双方それぞれの受け入れが可能かを評価した.そのうえで臨床アウトカムも比較してみた.
本研究は当施設においてACPプログラムの実行可能性を評価するための実装研究とした.なお,ACPプログラムを同対象施設に導入する前の,通常ケアを受けた患者(対照群)と導入後の患者(介入群)の2群について「予後または病気の理解や考えについての話し合いの記録」,「代理意思決定者の選択」,「今後の治療やケアの希望についての記録」,「望まない延命治療の記録」,「医療者と患者や家族との話し合い」,「患者の目標に沿ったケア」の6項目を比較し,ACPプログラムの効果を併せて検討した.本研究の介入・実装手順とアウトカムの概念枠組みを図1に示した.
本研究では病院長,統括副院長,看護部長,統括管理師長,統括事務長,緩和ケアチームメンバー(筆者含む)を研究の構成メンバーとしてプロトコルを作成した.実装チームはA・B病棟看護師,医師で構成された.
本研究で用いたACPプログラムのプロトコルは,厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を基盤として作成したマニュアルと2017年に福岡県が作成したコミュニケーション促進ツールである一言日記帳(以下一言日記帳とする)で構成した5).一言日記帳は,Chochinovらによって開発された臨床場面での患者の個性を引き出す問いかけを根拠として作成された「わたしが大切にしたいこと」,Baschらのがん患者の心身状況のモニタリングが医療者と患者の満足度を高めることを根拠として作成された自己記入式の「一言日記」をもとに作成され,多くの人に当てはまる内容になっている6–10).
対照群のデータは,介入開始前の1カ月間に対象部署に入院したがん患者のうち調査協力の得られた者を主治医が選出し,通常ケアを行っている状態のデータとして収集した.次に1回のquality indicator(QI)サイクルを1カ月間とし,プロトコルを用いた介入を3回実施し,各QIサイクルでデータを収集した.研究期間は研究参加への同意を得た時から参加終了時までとした.ACPプログラムは以下に示すステップで行った.
A・B病棟(A病棟は一般外科病棟,B病棟は緩和ケア病棟)に入院し,緩和ケアチームによる緩和医療を受け,予後が1年以内と想定されるがん患者全数を対象とした.がん以外の患者,本人に同意を得られない患者,20歳以下のがん患者,字を書くことが困難な患者,認知機能が低下している患者は除外した.医療者は,当該部署に勤務するA病棟医師13人,B病棟医師2人,看護師はA病棟25人,B病棟18人を対象とした.
データ収集と分析方法これまで通常ケアとして行ってきた対照群とACPプログラムを用いた介入群に分けてACPプログラムによる介入の効果を評価した.患者背景として年齢,性別,疾患,入院目的,入院期間を調査した.医療者は年齢,経験年数,緩和ケア研修受講の有無,看護師対象の終末期ケア研修であるEnd-of-Life Nursing Education Consortium Japan(ELNEC-J)受講の有無,ACP経験の有無について調査した.
1)実装アウトカムACPプログラムの実装アウトカムとして採択率,実行可能性,忠実度,適切性,受容性,到達度を調査した.採択率は,ACPプログラムに参加した看護師のうち,1回でも患者にプロトコルを用いて介入した看護師の割合を算出した.実行可能性は,ACPプログラムの介入によって自らのことを考えるきっかけとなるのか,大切にしたいと思っていること,医療者に知っておいてほしいこと,現在の気がかり,からだや気持ちのつらさ,治療に関する希望,医師からの説明を一緒に聞いてほしい人について一言日記帳に記載した割合とした.忠実度は,医療者が手順書に沿って介入した割合とした.手順書に沿って行っていない場合は未実施ではなく「従っていない」と判断した.適切性は,研究に参加した患者と看護師に対して,ACPプログラムの内容や運用が実行可能か否かについてその理由について質問紙で調査した.受容性は,看護師に対して一言日記帳を用いたコミュニケーションが受け入れ可能かについて,質問紙調査と,小野寺らによって開発された看護師のがん看護に対する困難感尺度のうちコミュニケーションに関する13項目を用いて調査した11).到達度は,予定した調査期間中にACPプログラムを中断せずに実施した看護師数とした.
2)ACPプログラム効果ACPを行った具体的な内容の実施についてSudore らの先行研究をもとに「予後または病気の理解や考えについての話し合いの記録」,「代理意思決定者の選択」,「今後の治療やケアの希望についての記録」,「望まない延命治療の記録」,「医療者と患者や家族との話し合い」,「患者の目標に沿ったケア」の6項目を設定し副次的効果として評価した12).実施状況については,項目に関連する内容が診療録や一言日記帳に一つでも記載があった場合に筆者が「実施した」と評価した.「医療者と患者や家族との話し合い」については,治療やケアについて話し合いがあった場合と一言日記帳に患者と医療者がやりとりをした場合に「有り」と評価した.「患者の目標に沿ったケア」については,直近の記録物に記された患者の治療・医療に対する意向と実際実施されたケアの内容について記録物より情報を得て評価した.本研究ではACPを行うことにより心理的ストレスから抑うつを生じることが懸念されたため,心理面への影響の評価指標としてHADSによる不安・抑うつ評価を行った13,14).
分析にはカイ二乗検定を用いて2群間の比較を行った.HADSについては,対照群では研究開始前と研究終了時,介入群では介入前後の値を群内で比較,さらにWilcoxon検定を用いて2群間の比較を行った.分析結果はいずれも有意水準5%未満(P<0.05)の場合を統計学的に有意差ありと評価した.すべての検定は統計ソフトJMP11を使用した.
データ収集期間データ収集期間は2020年4月~2020年10月とした.
倫理的配慮本研究では,患者に対して筆者および主治医は文書により同意取得を行い,研究へのデータ利用を望まない場合は申請できるようにした.また,研究に参加しない場合でも,医療・ケアにおいて不利益がないことを説明した.医療者に対しても,文書による説明と同意を行い,話し合いや質問紙等に応じなくても職務上の不利益を被らないことを説明した.本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会(研究承認番号19-A095),雪の聖母会聖マリア病院研究倫理審査委員会(研究承認番号20-0502)の承認を得て実施した.
対照群はA病棟5人,B病棟4人の計9人,介入群はA病棟5人,B病棟4人の計9人であった.平均年齢と標準偏差は,対照群は67.0(SD=14.6)歳,介入群は66.4(SD=13.1)歳であり,両群間に有意な差はみられなかった(P=0.10).研究期間は,対照群は7.4±5.2日,介入群は18.2±8.5日であり,介入群の方が有意に長かった(P=0.005)(表1).対照群のA病棟では4人が治療期で,介入群の3人は,病勢悪化で治療中止が伝えられた.
通常ケア群 | 介入群 | |
---|---|---|
患者平均年齢(歳) | 67.0(SD=14.6) | 66.4(SD=13.1) |
患者性別割合(%) | ||
男 | 44 | 56 |
女 | 56 | 44 |
入院目的(人) | ||
レスパイト | 1 | 2 |
緩和ケア | 4 | 2 |
抗癌剤治療 | 4 | 5 |
入院期間(日) | ||
平均値 | 16 | 31 |
中央値(範囲) | 12(3–33) | 28(6–96) |
研究参加期間(日) | ||
平均値 | 7.4(SD=5.2) | 18.2(SD=8.5) |
中央値(範囲) | 6(2–19) | 22(6–28) |
PS(人) | ||
0 | 6 | 3 |
1 | 0 | 1 |
2 | 1 | 3 |
3 | 2 | 2 |
対照群は,医師は5人,看護師は33人であった.介入群は,QIサイクル1は,医師は4人,看護師は22人,QIサイクル2は,医師は2人,看護師は21人,QIサイクル3は,医師は3人,看護師は24人であった.
本研究はQIサイクルを3回実施し,QIサイクルごとに実装プロセスについて,プロトコルの確認を行った.
1)QIサイクル1採択率では,看護師は,A病棟20%,B病棟32%で,手順書の話し合い日に担当した看護師が関わっていた.実行可能性では,A病棟83%,B病棟67%,忠実度は,A病棟67%,B病棟33%であった.適切性では,患者は,A病棟100%,B病棟100%,看護師は,A病棟87%,B病棟100%であった.3人の患者は一言日記帳に希望やその時々の思いを記載していた.
QIサイクルを振り返る意見では,話し合うタイミングが手順書通りでは難しい場合があるという意見があった.
2)QIサイクル2採択率では,看護師は,A病棟0%,B病棟29%であった.A病棟では,治療が中止された患者が話し合いを望まず実施していなかった.実行可能性では,A病棟0%,B病棟17%,忠実度は,A病棟0%,B病棟0%であった.適切性では,患者は,A病棟0%,B病棟100%,看護師は,0%,B病棟100%であった.1人の患者は一言日記帳に記載していた.
QIサイクルを振り返る意見では,看護師が患者の健康状態の変化時にACPについて話しをきり出すことが難しいが一言日記帳に記載があると話が進めやすい,話し合いを望まない患者では見守るという意見があった.医師は患者の健康状態に変化が生じた場合に話し合いを行い,プログラムに忠実に実施した例としてはカウントできなかった.COVID-19の影響で家族の面会が禁止中であり,家族とのコミュニケーションを取る機会がなかったが,一言日記帳を家族と話し合う契機にしてもらうという意見もあった.
3)QIサイクル3採択率では,看護師は,A病棟18%,B病棟27%であった.実行可能性では,A病棟33%,B病棟83%,忠実度は,A病棟50%,B病棟0%であった.適切性では,患者は,A病棟50%,B病棟100%,看護師は,41%,B病棟27%であった.1人の患者は一言日記帳に記載していた.
QIサイクルを振り返る意見では,患者が話し合いを望まない場合は次の機会で関わるという意見があった.
4)受容性ACPプログラムの評価としてQI3終了後に看護師に質問紙調査を行った.A病棟看護師11人(92%),B病棟看護師8人(67%)は一言日記帳を用いたコミュニケーションは受け入れ可能と回答した.両病棟ともに一言日記帳については患者の価値観を知ることができて便利と答えていた.一方,B病棟は一言日記帳の記載が患者の負担になるという意見もあった.
看護師のがん看護に対する困難感については,A病棟は家族と十分に話をする時間がとれない4.9(SD=0.24),B病棟は,患者と家族のコミュニケーションが上手くいっていない場合の対応に困る4.1(SD=0.33)が高値であった.両病棟ともに家族に関する項目が高値であった.
5)到達度研究に参加した患者,医療者は研究期間の中断はなかった.
ACPプログラムの効果対照群9人,介入群9人の患者のACPを行った実施状況を表2に示す(表2).対照群の3人の中断者に対しては,研究に参加した期間の4~12日までを評価した.予後または病気の理解や考えについての話し合い(P=0.114),代理意思決定者の選択(P=0.304),今後の治療やケアの希望(P=0.058),望まない延命治療に関する記録(P=0.114)については,両群間に有意な差はみられなかった.医療者と患者や家族との話し合い(P=0.003)と患者の目標に沿ったケア(P=0.003)については,介入群が有意に高かった.HADS評価では,対照群の9人の患者のうち,欠損値がある2人を除いた7人と介入群9人のHADS-A,HADS-D,HADS-Tの変化量の比較では,両群間に有意な差はなかった.
通常ケア群(n=9) | 介入群(n=9) | カイ二乗 | P値 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A病棟 n=5 |
B病棟 n=4 |
合計 (n=9) |
A病棟 n=5 |
B病棟 n=4 |
合計 (n=9) |
|||
予後または病気の理解や考えについての話し合いの記録 | 0 | 1(11.1%) | 1(11.1%) | 2(22.2%) | 2(22.2%) | 4(44.4%) | 2.492 | 0.114 |
代理意思決定者の選択 | 0 | 0 | 0 | 1(11.1%) | 0 | 1(11.1%) | 1.059 | 0.304 |
今後の治療やケアの希望についての記録 | 2(22.2%) | 1(11.1%) | 3(33.3%) | 3(33.3%) | 4(44.4%) | 7(77.8%) | 3.6 | 0.058 |
望まない延命治療の記録 | 0 | 1(11.1%) | 1(11.1%) | 2(22.2%) | 2(22.2%) | 4(44.4%) | 2.492 | 0.114 |
医療者と患者や家族との話し合い | 0 | 0 | 0 | 3(33.3%) | 3(33.3%) | 6(66.7%) | 9 | 0.003 |
患者の目標に沿ったケア | 0 | 0 | 0 | 3(33.3%) | 3(33.3%) | 6(66.7%) | 9 | 0.003 |
本研究では,ACPプログラムの実装状況の評価として採択率,実行可能性,忠実度,適切性,受容性,到達度で測定した.採択率は,20~30%と低い割合であった.その理由としてあらかじめ話し合いの日程を手順書で取り決めたことでその日に実施可能な看護師が限られたこと,患者が話し合いを望まない場合には,介入をせずに見守りをしていたことが影響したと考えた.Tsuruwakaらの研究では,看護師のみにみられたACPのアプローチとして重大事態が落ち着いたときを話し合いのタイミングとしていたことが挙げられていた15).採択をしなかった看護師は,手順書で決めた話し合い日を患者とやり取りを開始する機会としており,手順書には医療者がACPのタイミングを捉える効果はあると考えた.
一言日記帳を使用した5人の患者はその時々の思いを記載し,看護師は患者の価値観を知り支援につなげることができた.ACPを望まない患者においても,一言日記帳が将来のACP行動を引き出すきっかけになることが推察され,一言日記帳等の媒体を上手く利用し患者にACPについて考える契機とする仕組みづくりは効果的であり実現可能と考える.
忠実度では,一言日記帳を患者に渡して記載し,さらに話し合いを行うという複数のプロセスを組み合わせた手順がアウトカムに影響していると推察された.一言日記帳を渡す,一言日記帳に記載する,ACPに関連することを話し合う等,アウトカムの評価基準を修正することで忠実度の上昇が見込まれると考える.
看護師のがん看護に対する困難感からは,家族とのかかわりが非常に重要であることがわかった.ACPの定義においてもがんの経過と今後予測されることを話し合うには,患者を取り巻く関係者を重要視している.本研究はCOVID-19流行期ではあったが,当施設においてACPの推進は重要な課題であり取り組みを行った.今後は家族を含めた評価も必要であると考える.
ACPプログラムの効果ACPプログラムの副次的効果では,対照群と比べて介入群では評価項目すべてにおいて実施数は高く,そのうち「医療者と患者や家族との話し合い」,「患者の目標に沿ったケア」の2項目は有意に高かった.手順を取り決めたことで話し合う機会が促進されたこと,さらに,一言日記帳の表現が平易であり,気軽に記載できる形式であったことから患者自身が価値観や意向を記載しやすかったことが一因と考える.「予後または病気の理解や考えについての話し合い」,「望まない延命治療」,「代理意思決定者の選択」については,両群では実施数に有意な差はなかった.この項目は将来の心づもりを具体的に話し合う話題であり,繰り返しのACP議論による評価が必要であると考えた.
Rietjensらは,ACPを「意思決定能力を有する人が,自身の価値観に基づき,重篤な疾患の経過の意味と結果を反映し,将来の治療とケアの目標と希望を明らかにし,家族や医療者とともに話し合うことである.」としている16).厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」ではACPの実践は,本人の意思を推定する者とともに行うことが重要であると示している4).本研究では,COVID-19の影響で家族とともに話し合う機会が少なく,実施状況に影響を及ぼしている一要因であると考えた.
一言日記帳を用いて,がん患者の価値観や目標について,繰り返し話し合いを行うことが,患者の精神的QOLにどのような影響を及ぼすか,本研究ではHADSを用いて評価した.ACPに関する先行研究では,臨床医と重篤な疾患を持つ患者が,患者の価値観や目標について質の高い会話を行うことで,中等度から重度の不安を有する患者の割合が有意に低下したとの報告がある3).両群のHADS値の変化量値の比較では有意差はなかったが,B病棟では介入群のほうが低かった.Barnesらは,ACPの話し合いは,適切に訓練された専門家が行うほうがよいと述べている13).B病棟は,緩和ケアを専門としている病棟であり,日頃より人生の最終段階にある患者のアプローチには慣れていること,一言日記帳を利用できた患者では双方向のコミュニケーションが深まりHADS値が低下したと考える.
研究の限界本研究の限界としては,1施設の実施で対象患者が18人と少ないこと,両群の入院期間が大きく異なること等から得られた結果の評価には限界がある.この点については,さらに実装を行い検証していくことが必要である.ACPプログラムの実装の評価として,本研究の目標に挙げた採択率,実行可能性,忠実度,適切性,受容性,到達度などの項目の実施状況で評価したが,低い割合であった点で評価方法の妥当性に疑問が残る.質的評価として,今回はあくまで記録物をデータ収集の対象としており,データの信頼性,正確性の点で限界がある.この点についても今後,評価する基準を修正することが必要である.
ACPプログラムの実装では,患者や医療者双方のACPの一般的な行動のきっかけとなったことが示された.ACPプログラムの効果では「医療者と患者や家族との話し合い」(P=0.003)と「患者の目標に沿ったケア」(P=0.003)が介入群で有意に高かった.
本研究に協力いただいた,雪の聖母会聖マリア病院の皆様と本稿の作成にあたりご助言いただきました本田順一先生に心より御礼申しあげます.本論文は2020年度聖路加国際大学大学院博士論文を一部加筆修正したものであり,第41回日本看護科学学会学術集会において一部発表した.
本研究の研究資金はない.
本研究において報告すべき利益相反はない.
尾形は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.林は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.