Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
末期がん患者の身体機能評価Edmonton Functional Assessment Tool 2日本語版(EFAT2-J)に関する反応性の検討
藏合 勇斗松本 卓星野 圭太辻 哲也
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 20 巻 2 号 p. 119-127

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Abstract

【目的】Japanese version of Edmonton Functional Assessment Tool 2(EFAT2-J)の反応性を検討した.【方法】対象は緩和ケアチームが対応し,根治的な治療をしていないがん患者とした.反応性は,リハビリ開始時から約2週間後のEFAT2-Jと既存の評価尺度の変化量の比較および相関関係の検討,standardized response means(SRM)の算出を行った.【結果】対象は31名.すべての評価尺度においてリハビリ前後で有意に改善した.また,EFAT2-Jと既存の評価尺度における変化量に有意な相関関係を認めた.EFAT2-JのSRMはlargeであり,既存の評価尺度はmoderateおよびsmallであった.【考察】EFAT2-Jは,末期がん患者の身体機能の変化を的確に捉えることができる優れた身体機能評価であった.

Translated Abstract

Objective: The Japanese version of Edmonton Functional Assessment Tool 2 (EFAT2-J) is a physical function assessment specifically for patients with advanced cancer. The purpose of this study was to examine the responsiveness of the EFAT2-J total score and to determine the clinical usefulness of the EFAT2-J. Methods: Participants were cancer patients who were being treated by a palliative care team and were not receiving curative treatment. Responsiveness was determined by comparing and correlating changes in the EFAT2-J and existing assessment scales up to approximately 2 weeks after the start of rehabilitation and calculating the standardized response means (SRM). Results: The participants were 31 patients with advanced cancer. The SRM of the EFAT2-J was large, and those of the existing assessment scales were moderate and small. Discussion: The EFAT2-J is an excellent physical function assessment that accurately captures changes in physical function in patients with advanced cancer.

緒言

末期がん患者では,がん関連疲労1や呼吸苦,骨転移2により身体機能や日常生活動作(activities of daily living: ADL)が制限され,quality of life(QOL)が低下しやすいため,リハビリテーション(以下,リハビリ)診療や緩和ケアチームの対応が重要である.末期がん患者に対するリハビリ治療により,身体機能・QOL・倦怠感の改善3,4が期待される.したがって,末期がん患者に対してリハビリ診療を適切に実施するためには,実際の身体機能の状態やセルフケア能力の評価を行いリハビリ治療の計画を立てることが重要であると考えられる.

がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版5では,がん患者の身体機能の評価尺度としてEastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG-PS)6とKarnofsky Performance Scale(KPS)7を用いることが推奨されており,信頼性や妥当性が確認されている813.しかし,末期がん患者では床効果が生じやすいことや身体機能のわずかな変化を評価できず,がんのリハビリ治療の効果判定には不十分であるとされている14,15

近年,緩和ケア領域においてPalliative Performance Status(PPS)16とEdmonton Functional Assessment Tool 2(EFAT-2)17が開発された.しかし,PPSはKPSと同様に11段階の評価であり,がんのリハビリ診療を行う際の評価尺度としてはECOG-PSやKPSと同様の課題がある.

一方,EFAT-2は末期がん患者に特化した身体機能の評価尺度であり信頼性と妥当性が検証されている14,17,18.日常生活における身体的,精神的,社会的機能を含む末期がん患者特有の機能障害を包括的に評価できることや,評価項目が低負荷であること,採点基準を明確にしたマニュアルがあることなどが特徴である1921.諸外国で使用の報告がされており14,18,20,最近イタリア語版が作成されている22,23

われわれは,EFAT-2の日本語版(Japanese version of Edmonton Functional Assessment Tool 2: EFAT2-J)を作成し,高い信頼性と妥当性,解釈可能性について確認した24.翻訳が完了した尺度は,実際にその言語を使う集団に適用した場合の精度を検証する必要がある25.Consensus based Standards for the selection of health Measurement Instruments(COSMIN)26では尺度特性を信頼性,妥当性,反応性,解釈可能性で捉えている27.しかし,EFAT2-Jは反応性に関する調査は行えていない.

反応性は,評価尺度が経時的な変化を検出する能力の程度であり,時間経過によって変化した得点の妥当性を意味するとされている26.変化が希薄な末期がん患者の身体機能に対し,治療効果を経時的に捉えるためには反応性が良好な評価尺度を用いることが重要である.

以上より,本研究の目的はEFAT2-Jの反応性について検討することによって,リハビリ診療や臨床研究において国際的に活用,比較検討されることが期待される.

方法

研究デザイン・対象

本研究の研究デザインは後ろ向き観察研究である.2021年1月1日から2023年12月31日までに,横浜市立みなと赤十字病院に入院した患者を対象とした.

選定基準として①緩和ケアチームが対応したがん罹患患者,②リハビリ治療を行った患者,③在宅復帰を目的としたリハビリ治療を行った患者,④EFAT2-Jを測定した患者,これら①~④をすべて満たす患者を対象とした.除外基準は①根治的な治療(化学療法・放射線療法)目的で入院した患者,②リハビリ治療の実施期間が10日に満たない患者,③データ欠損があった患者とした.

研究実施施設は急性期病院であるが,専門的な緩和医療相談窓口として医師,看護師,薬剤師,臨床心理士,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,リハビリ専門職から構成される緩和ケアチームがあり,主治医が患者の身体的・精神的症状の治療について相談依頼をする.緩和ケアチームは相談内容に応じて,疾患による二次的疼痛の治療としてオピオイド鎮痛剤による治療を提案するなど,患者の苦痛緩和に関する援助を行う.月に2回リハビリ専門職がカンファレンスに参加し,リハビリ治療の適応に関する相談や痛みを避けるための運動方法,体位や呼吸法の指導などを行っている.

リハビリ治療は,主治医が必要性に応じて処方し,理学療法士もしくは作業療法士,言語聴覚士が介入する.介入は年末年始と祝日を除いた月曜日から土曜日に提供する.介入頻度や時間,リハビリ内容は患者の希望を聴取し,多職種カンファレンスの結果をもとに決定する.

評価項目

年齢,性別,がんの原発巣,がんの病期(tumor, lymph node, metastasis: TNM分類)28,入院期間,リハビリ実施期間,患者の転帰,身体機能・ADLの評価としてEFAT2-J,ECOG-PS,KPS,PPS,Barthel Index(BI)29をそれぞれ診療録から後ろ向きに調査した.緩和ケアチーム対応し,在宅復帰を目的としたがん患者に対して,EFAT2-Jを含む身体機能およびADLの評価をリハビリ開始時から退院まで毎週測定している.本研究では,先行研究30を参考にリハビリ開始時および10~14日後の身体機能・ADLのデータを診療録より後ろ向きに調査した.

1)EFAT2-J

筆頭著者がEFAT-2を翻訳し,EFAT2-Jを作成した( 表124.末期がん患者の身体症状・機能を測定するように設計された10項目の質問とパフォーマンスステータスからなる評価尺度である14,17,18.直接的に身体機能に影響するバランス,動作,移動,疲労,意欲,ADL等の項目を含み,末期がん患者の個々の障害を評価することが可能である.各項目は0点(機能的)から3点(重度の機能障害)の4段階の基準で採点され,合計点は0点から30点である.合計点の低い方が,身体機能が高いことを示す.

表1 Edmonton Functional Assessment Tool 2日本語版(EFAT2-J)

評価項目 0点 機能的 1点 最小の機能障害 2点 中等度の機能障害 3点 重度の機能障害 得点
コミュニケーション 自立 50%以上の割合で有効なコミュニケーションが可能だが,完全ではない 有効なコミュニケーシができる割合が50%未満 コミュニケーション不可 0, 1 2, 3

精神状態

記憶と見当識に関する六つの課題(名前,場所,日付,即時再生,近時記憶,遠隔記憶)

記憶と見当識に問題がない 2/6個の課題が障害しているが,簡単な指示に従える 3~4/6個の課題が障害している または,一貫性のない反応をする 5~6/6個の課題の障害または,口頭指示に反応しない 0, 1 2, 3
疼痛 生活機能に影響なし 最小限に生活機能を制限 中程度に生活機能を制限 痛みにより活動が全くできない 0, 1 2, 3
呼吸困難 一息で15まで数を数えても息切れなし 一息で15まで数を数えると呼吸が切迫するまたは,運動時に息切れがするまたは,間欠的に酸素投与が必要 一息で15まで数を数えるには1回の息継ぎが必要または,1~3 Lの酸素投与が必要 一息で15まで数を数えるには2回以上の息継ぎが必要または,4 L以上の酸素投与が必要 0, 1 2, 3

バランス

座位または立位

自立 装具の使用または,1人の介助を使用;安全上のリスクが最小限である 1人の中程度の介助または複数の介助が必要;自力では安全ではない 1–2人の最大の介助が必要または,評価できない 0, 1 2, 3

動作

ベッド上動作と移乗

自立かつ安全 安全に動くには,1人の介助が必要 安全に移乗するには2人の介助が必要 姿勢変換の介助不可;機械式リフトが必要 0, 1 2, 3

移動

歩行または車いすの移動

自立 歩行補助具の使用または,1人の歩行介助または,車椅子に監視が必要 2名の歩行介助 または,車椅子の使用に介助が必要 歩行不可;車椅子の使用不可 0, 1 2, 3
疲労 ほとんど休む必要がない 日中の50%未満で休む必要がある 日中の50%以上で休む必要がある 疲労により寝たきり 0, 1 2, 3
意欲 すべての活動に参加 意欲的に参加する時間は50%以上 意欲的に参加する時間は50%未満 参加意欲がない 0, 1 2, 3
ADL 自立 補助具を使用して自立 いくつかの介助が必要 完全に介助 0, 1 2, 3
合計点 0~30点    ※合計点が低い方が,身体機能が高いことを示す /30

パフォーマンスステータス

室内/病棟

自立 総合的に最小限の介助が必要 総合的に中程度の介助が必要 総合的に最大の介助が必要 0, 1 2, 3

ADL: activities of daily living

2)ECOG-PS

ECOG-PSは,がん患者の全身状態(以下,Performance Status)の指標であり,患者の日常生活の制限の程度を簡便に採点できる6.0から4の5段階で採点され,主に化学療法など積極的治療期における機能評価のために用いられる.高い信頼性と妥当性が報告されており811,がん医療の現場で世界的に広く用いられている.

3)KPS

KPSは,ECOG-PSと並んでがん患者の身体機能の評価として広く用いられている7.病状や労働,日常生活の介助状況により,100%(正常)から0%(死)までの11段階で採点する評価尺度であり,信頼性と妥当性が検証されている1013

4)PPS

PPSは,KPSが現在の医療状況にうまく適合しない点があることや採点方法の手引きが存在しないことが問題点として挙げられ,現状の医療と矛盾がないようにKPSを修正したものである16.小項目として,移動・活動性・セルフケア・食物摂取・意識障害を各々評価し,11段階で採点する.末期がん患者の身体機能評価であり,信頼性と妥当性について検証されている16,31,32

5)BI

BIは,ADLのアウトカム評価尺度として汎用されており,信頼性や妥当性が報告されている33,34.評価項目は10項目で患者の動作ができるかどうかを2~4段階の尺度で採点する29.がんの原発巣や治療目的に依存せず用いることができる5

統計方法

反応性は,EFAT2-Jの合計点に関してリハビリ開始時から10~14日後にかけての変化を検討した.解析には,Wilcoxonの符号つき順位和検定とSpearman順位相関係数,standardized response mean(SRM)を用いた.相関関係の強さは,Guilford35の基準からρ=0.2~0.4で弱い,ρ=0.4~0.7で中等度,ρ=0.7~1.0で強い相関関係があると判断した.SRMは,1群の介入前後の変化量から算出されるeffect sizeの一種である36.本研究では各評価尺度のSRMをLiangら37の計算式(2回目と1回目の平均得点の差/2回目と1回目の差の標準偏差)を用いて算出した.SRMの反応性の程度は,0.2<small<0.5,0.5<moderate<0.8,0.8<largeと判断した36.また,EFAT2-Jの比較対象として,ECOG-PS,KPS,PPS,BIをEFAT2-Jと同様に解析した.

また,サブ解析として,EFAT2-Jにおける得点の変化量をPerformance StatusもしくはADLが改善することと定義し,それぞれの得点の変化量との関連について検討した.Performance Statusの改善の判断ついては,先行研究38を参考にリハビリ開始から10~14日後にかけてECOG-PSが1段階以上増加することとした.ADLの改善の判断に関しても同様の期間で,脳卒中におけるBIのminimal clinically important difference(MCID)9.25点39,40を参考にBIが10点以上増加することとした.

これら2種類の外的指標に対してそれぞれの改善の有無をEFAT2-Jの変化量で検出できるか確認した.従属変数をECOG-PSおよびBIの改善の有無,独立変数をEFAT2-Jの変化量としてreceiver operating characteristic(ROC)分析を用いて,area under curve(AUC),感度,特異度,およびYouden index41が最大となるカットオフ値を算出した.AUCは判別精度を示し0.7~0.8ではacceptable,0.8~0.9ではexcellent,0.9を超える場合はoutstandingと判定した42

統計解析にはIBM SPSS Statistics 27.0(IBM, Chicago, IL)を使用し,Shapiro-Wilk検定によって検証されたデータの正規分布を確認し,ノンパラメトリック検定を使用した.統計的有意水準は5%とした.

倫理的配慮

本研究は横浜市立みなと赤十字病院(承認番号:2024-2)の倫理審査委員会の承認を得て実施した.なお,本研究は後方視的研究であり,オプトアウト文書を作成し横浜市立みなと赤十字病院ホームページにて適切な情報公開を行い,対象患者の拒否機会を保障した.

結果

対象期間中に緩和ケアチームで対応し,自宅退院を目的としてリハビリ治療を実施したがん患者は155名であり,除外基準①~③を除いた31名を本研究の対象とした.患者背景・医学的情報を 表2に示す.年齢の中央値は75(42~93)歳,男性21名,女性10名であった.

表2 患者背景・医学的情報

反応性(n=31)
年齢(歳) 75 (42–93)
性別(n) 男性 21 (68%)
女性 10 (32%)
がん種(n) 8 (26%)
泌尿器 7 (22%)
消化器 5 (16%)
3 (10%)
その他 8 (26%)
がんのステージ(TNM分類;n) I 0 (0%)
II 0 (0%)
III 1 (1%)
IV 30 (99%)
入院期間(日) 29 (14–86)
リハビリテーション実施期間(日) 18 (11–76)
転帰(n) 退院 19 (62%)
転院 6 (19%)
死亡 6 (19%)

数値は中央値(最小値–最大値)を示す

TNM: tumor, lymph node, metastasis

対象患者のEFAT2-J,BI,ECOG-PS,KPS,PPSにおけるリハビリ開始時から10~14日後の得点の比較では,すべての評価尺度で有意に改善していた( 表3).SRMは,EFAT2-Jで0.96と反応性はlarge,BIは0.74,KPSは0.54,PPSは0.59といずれも反応性はmoderate,ECOG-PSは0.38で反応性はsmallであった( 表3).また,EFAT2-Jとすべての既存の評価尺度において有意な相関関係を認めた(ECOG-PS: ρ=0.36,KPS: ρ=0.38,PPS: ρ=0.45,BI: ρ=0.73,いずれもp<0.05).

表3 初期–2回目評価での各評価尺度の比較・反応性

初期評価 2回目評価 変化量 p値 SRM 判定
EFAT2-J 13.5±6.14 11.6±6.37 1.84±1.92 <.001 −0.96 large
BI 38.1±25.2 43.2±25.7 5.16±7.01 <.001 0.74 moderate
PS 3.00±0.67 2.87±0.75 0.13±0.34 0.05 −0.38 small
KPS 44.5±12.4 46.8±13.3 2.26±4.18 <.001 0.54 moderate
PPS 44.5±12.4 47.1±13.2 2.58±4.38 <.001 0.59 moderate

数値は平均値±標準偏差を示す

SRM: standardized response mean, EFAT2-J: Japanese version of Edmonton Functional Assessment Tool 2, BI: Barthel Index, PS: Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status, KPS: Karnofsky Performance Scale, PPS: Palliative Performance Status

ROC分析の結果を 図1, 2に示す.EFAT2-Jの得点の変化量に関する最適なカットオフ値は,ECOG-PSを外的指標とした場合は3.5点と推定された(AUC=0.81[95%CI: 0.59–1.00)]).カットオフ値の感度は0.75,特異度は0.85であった.一方,BIを外的指標とした場合のカットオフ値は1.5点と推定された(AUC=0.82[95%CI: 0.67–0.97]).カットオフ値の感度は0.88,特異度は0.70であった.

図1 EFAT2-Jによるリハビリテーション後のPerformance Statusの改善を予測するROC曲線

AUC: area under curve, CI: confidence interval

図2 EFAT2-Jによるリハビリテーション後のADLの改善を予測するROC曲線

AUC: area under curve, CI: confidence interval

考察

本研究は,緩和ケアチームが対応した約2週間のリハビリ治療を受けた末期がん患者に対してEFAT2-Jの反応性について検討し,EFAT2-Jの臨床的な有用性について調査した.その結果,EFAT2-Jの反応性は良好であり,既存の評価尺度よりも高かった.また,EFAT2-Jの変化量は既存の評価尺度であるBIと強い,PPSと中等度,ECOG-PSおよびKPSと弱い相関関係を認めた.Performance Statusの改善の判断としてはEFAT2-Jが3.5点,ADLの改善の判断としてはEFAT2-Jが1.5点と関連していることが示された.

EFAT2-Jと既存の評価尺度の得点の比較では,すべての評価尺度に有意差を認めたため,EAFT2-Jが既存の評価尺度と同様に経時的なパフォーマンスの変化を検出できることが示唆された.これは,EFAT2-Jが末期がん特有の身体症状や機能を評価できるため,リハビリ前後で得点の変化を捉えやすかったと考える.しかし,EFAT2-Jには評価項目として身体症状が含まれており,緩和ケアチームの対応による苦痛症状緩和の効果も一部得点に反映されていることが予測される.そのため,リハビリ治療の介入効果が直接EFAT2-Jに影響しているかどうかについては慎重に解釈する必要がある.自宅退院を目指した積極的なリハビリ治療を実施した患者に対象を限定していることも,変化を検出しやすくなった要因として考えられる.

EFAT2-Jと既存の評価尺度との変化量の関連については,BIのみに強い相関関係を認めた.これは,EFAT2-JにBIと同じ基本動作の評価項目が含まれていることが影響していることが考えられる.しかし,項目ごとの相関関係については検討できておらず,直接的な影響に関しては今後検討が必要である.

一方で,ECOG-PSとKPSについては感度が低く,末期がん患者のリハビリの効果判定としては不十分であることが弱い相関となった要因として考えられる.PPSにもこれらと同様の要因が考えられるが,末期がんに特化した身体機能評価尺度であり,ECOG-PSとKPSよりも相関が強くなったと考える.

EFAT2-JのSRMは0.96と反応性はlargeであったが,先行研究22では0.67と反応性はmoderateであり,本研究の方が高い結果となった.これは,先行研究22が緩和ケア病棟の患者を対象としており,身体機能が低下した患者が多く含まれていたことが理由として考えられる.

SRMは正規化した単位によらない尺度であるため,異なる評価尺度間での比較が可能である.検討した評価尺度の中では,EFAT2-Jが最も高い反応性を示し,続いてBI,PPS,KPS,ECOG-PSの順であった.EFAT 2-Jと他の評価尺度のSRMを比較したのは本研究が初めてであるが,EFAT2-Jの反応性が既存の評価尺度よりも高くなった要因として,包括的な評価能力を有する尺度であることが挙げられる.末期がん患者の身体症状の特徴として,予後が近づくにつれ倦怠感や疼痛,呼吸困難感などの症状が変動しやすく43,さらに不眠やせん妄といった精神心理的な症状の頻度も高まる傾向にある44.EFAT2-Jは,これらの症状の変化を総合的に評価できるため,既存のPerformance StatusやADLのみを評価する尺度と比較して,患者の状態変化をより鋭敏に反映することができたと考えられる.

さらに,EFAT2-Jとの得点の変化量との関連について,ECOG-PSとBIを外的指標として用い,カットオフ値の算出を行った.ROC曲線の結果,AUCの判定はexcellentであり,どちらも判別精度が高いことが明らかとなった.Performance Statusの改善を判断する際のEFAT2-Jのカットオフ値は3.5点,ADLの改善を判断する際のカットオフ値は1.5点であることが示され,リハビリ後のPerformance StatusとADLそれぞれの改善の参考値として使用できる可能性が示唆された.

Performance Statusのカットオフ値の方が大きくなった要因としては,外的指標として用いたECOG-PSは5段階と間隔が少ないため,1段階の変化に影響するEFAT2-Jの変化量がより大きくなった可能性がある.しかし,ECOG-PSは順序変数であり,順位間の具体的な差に関する解釈については限界がある.また,ECOG-PSの1段階の変化がEFAT2-Jのどの項目に直接影響しているかについては不明であり,今後検討が必要である.

末期がん患者に期待される評価尺度としては,自立している患者からほぼ寝たきりの患者まで幅広い機能や能力を評価できることが重要である.また,短時間で済み,測定器具を必要としないことが求められる19.EFAT2-Jは,末期がん患者の個々の障害を評価可能であることが特徴である.評価は5~10分で行え,評価器具は必要としない.さらに,本研究の結果から反応性は良好であった.

したがって,われわれは,根治的な治療は困難であるが,積極的なリハビリ治療を受ける末期がん患者に対する標準的な身体機能評価尺度として,EFAT2-Jが妥当な指標であることを支持する証拠が示されたと考える.EFAT2-Jは,末期がん患者特有の症状や機能障害を的確に評価し,今後リハビリ診療や臨床研究において国際的に活用されることが期待される.

なお,著者らがEFAT-2の日本語版を作成した研究24と一部研究期間が重なっているが,今回用いた経時的なデータは使用されていない.また,新型コロナウイルス感染症による影響により2021年1月から当院緩和ケア病棟が休床していたため,本研究の対象とした緩和ケアチームが対応し,リハビリして自宅退院を目指す患者が通常期間より増えていた.

本研究の限界として,サンプル数が31例と解析としては許容される範囲であったが26少なかったこと,単施設かつ緩和ケアチームが対応した患者のみを対象としていることから,結果は限定的である.また本研究は,後ろ向き観察研究であり根治的治療が終了した患者および積極的に治療を行った患者に関して選択バイアスが生じている可能性がある.

さらに,在宅復帰を目的としたリハビリ治療を行った患者以外は除外されていること,一般病棟入院中の患者が対象であることから予後が短い終末期の患者に対する結果が反映されていない.予後4週間以下のがん患者は身体機能が急激に低下すること45が知られており,本研究の結果は緩和ケア病棟などのより末期ながん患者への影響については反映されていないことを考慮して解釈する必要がある.そのため,今後は緩和ケア病棟の終末期の患者に対して,サンプル数を十分確保したうえでEFAT2-Jの項目による解析を含んだ有用性の検討を行っていく必要がある.

結論

EFAT2-Jは,がん患者の身体機能の変化を的確に捉えることができ,とくに変化が小さいと考えられる末期がん患者にも使用できる優れた身体機能評価であることが示唆された.リハビリ治療後約2週間のPerformance Statusの改善を判断する際のEFAT2-Jのカットオフ値は3.5点,ADLの改善を判断する際のカットオフ値は1.5点であることが示され,末期がん患者のリハビリ治療の参考値となる可能性がある.

謝辞

本研究に協力をいただいたNPO法人JORTCデータセンター統計部門部門長 小山田隼佑先生はじめJORTCの皆様に謝意を表する.また,本研究は第29回日本緩和医療学会学術大会優秀演題で発表したものに加筆・修正を加えたものである.

利益相反

著者に申告すべき利益相反なし

著者貢献

藏合は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与に貢献した.星野,松本は解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.辻は解釈,原稿の起草,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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