2025 年 20 巻 2 号 p. 111-118
目的:健康状態がよい時期に行うAdvance Care Planning(ACP)を推奨するWork shop(WS)が,「人生会議」を動機づけるかを明らかにする.方法:民生委員171名を対象に2回のWSを開催し,前後で4回(T1~T4)質問紙調査を行った.主要評価項目は「人生会議」実施率,副次的評価項目はACPの準備状態を測定するACP Engagement Survey日本語版 Japanese version of Advance Care Planning Engagement Survey(ACPES-J)および死生観尺度とし,介入前後(T1vsT4)で比較した.結果:分析対象は149名,実施率は38.3%であり,介入前の6%に比べ有意に上昇した(p<.001, w=.54).ACPES-Jの自己効力感,レディネス,Totalは有意に上昇したが(p<.001~.031, d=.29~.67),死生観は有意な変化を認めなかった.結論:WSは「人生会議」を動機づけることが示唆された.
Objective: We conducted two workshops to encourage “Jinsei Kaigi” to discuss advance care planning (ACP) with family members or significant others during healthy times and evaluated whether the workshops were effectively motivated participants to engage in ACP. Methods: Two workshops were held with 171 welfare commissioners, and four surveys were conducted (T1-T4) before and after the workshops. The primary endpoint was the rate of “Jinsei Kaigi” implementation, and the secondary endpoints were the Japanese versions of the ACP Engagement Survey (ACPES-J), which measures readiness for ACP, and Death Attitude Inventory (DAI), which were compared before and after the intervention, with T1 VS. T4 as the primary analysis. Results: A total of 149 participants were analyzed, and the implementation rate was 38.3%, which was a significant increase from 6% before implementation (p<.001, w=.54). Self-efficacy, readiness, and ACPES-J total scores increased significantly (p<.001 to .031, d=.29 to .67, respectively), but there were no significant changes in DAI. Conclusion: Our results suggest that workshops provide opportunities to motivate engagement in “Jinsei Kaigi”.
Advance Care Planning(ACP)とは,もしものときのために,自分が望む医療やケアについて前もって考え,家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い共有することであり,厚生労働省は2018年より一般市民に向けて「人生会議」と称して普及啓発している1).しかしその5年後も,人生の最終段階で受けたい医療・ケアについて詳しく話し合っている人は,医師11.1%,看護師9.0%,一般国民1.5%であり2),前回調査3)と同程度に少ない.すなわち,医療従事者であるか否かにかかわらず,日本人にとって健康な時からACPを行う難しさが表れている.
健康状態がよい時期から行うACPの介入研究は,米国の外来患者798名を対象に,ACPを促進するウェブサイトPREPARE for your careを用いて事前指示書作成を勧めた結果,患者の意向に合ったケアが増加した報告4),韓国の一般市民250名を対象にACPの文書化を勧めるビデオ介入の有効性が報告されている5).
わが国でも健康状態がよい時期からACPを勧める取り組みはあるが6–8),研究報告は少ない.慢性疾患で外来通院する高齢者220名を対象に看護師が行ったACPの短期介入が,ACPを促進した報告9),過疎地域に住む高齢者125名を対象としたACPの教育介入により,事前指示書作成率は有意に高まったが,家族との話し合いの有意な増加には至らなかった報告がある10).
われわれは,健康状態のよい時期に行うACPで重要なことは,事前指示書作成ではなく,「人生の最終段階をどう過ごしたいか」を自身で考え,家族等とその理由を含めて話し合うことだと考えている.先行研究11)として,終末期に関する対話を促進するGo Wish Game12)の日本語版である「もしバナゲーム」13)を用いて保健医療福祉職96名にWork shop(WS)を行った.その結果46.2%がACPを行う意向を示し,WSはACPの動機づけとして期待できることを報告した.
本研究では,健康信念モデル14)を基盤に人生会議学習サイト「ゼロからはじめる人生会議」15)を用いて,参加者が自身のリスクと「人生会議」の有益性を認識し実践するためのWSを開催した.また民生委員は,住民の相談や高齢者等の見守り活動を担いACPを支援する立場であることから,WSの対象者に選定した.
本研究の目的は,民生委員を対象としたACPを推奨するWSが,「人生会議」を動機づける効果について,前後比較研究により明らかにすることである.
主要評価項目は「人生会議」実施率であり,副次的評価項目はACPを行う自信と準備性を測定するJapanese Version of Advance Care Planning Engagement Survey(ACPES-J)16)および死生観尺度17)とした.死生観尺度の中でも「死からの回避」「死への恐怖・不安」は,ACPの遂行に影響する要因と考え,これらの指標の変化から,WSがACPの動機づけとなるかを評価した.
1群前後比較デザイン
2. 用語の操作的定義 1)代理意思決定者代理意思決定者とは,病気等により自分が自身の医療に関する決定能力を失った場合に,自分に代わって決定してくれる人(複数可)であり,自分が信頼する人である.
2)「人生会議」健康な時に行うACPでは,代理意思決定者を決め,その人と話し合っておくことが重要となる18–20).人生会議学習サイトに基づき,「人生会議」とは,自分が希望する医療・ケアを受けるために,自分が大切にしていることや希望する医療・ケアについて前もって考え,代理意思決定者と話し合うことと定義した.話し合いには,必要に応じて「もしバナゲーム」を利用するが,ゲームを行うだけでは「人生会議」にはならない.
3. 研究参加者の選定および研究期間民生委員代表者を通じて8地区の民生委員を対象に,WS実施への協力を依頼し承諾を得た.必要サンプルサイズは100名程度とした(McNemar検定,介入による変化50%,オッズ比2.5,検出力0.8,有意水準0.05,脱落率20%と仮定).研究期間は2023年6月~2024年5月であった.
4. WS(介入)の概要WSは各地区で2回(各90分),民生委員活動に合わせ2~4カ月の間隔で実施した(付録1).WS1では,人生会議学習サイトの動画15)を使用し,参加者が自身のリスクと「人生会議」の有益性を認識し,①自分が大切にしていることを考え,②代理意思決定者となる人を決め,③話をする・伝える三つのステップで行うことを確認した.終末期の対話を促進する「もしバナゲーム」13)を用いて意見交換し,次回WSまでの期間に「人生会議」の三つのステップを実施することを推奨した.望む医療やケアを書き込み,お薬手帳と同程度のサイズで携帯・保管が可能な「もしも手帳」21)も紹介し記入を勧めた.参加者には「もしバナゲーム」を進呈し活用を推奨したが,ゲーム遊びが目的でないことも説明した.
WS2では,「人生会議」を実施した人は,よかった点,工夫した点等について話し,実施しなかった人は,その理由や難しさ等を全体で共有した.この時間は,実施群にとっては自己効力感を高め,未実施群にとっては身近な人から「人生会議」の有益性や方法を知る機会と位置づけた.
5. 調査手順と評価項目 1)調査手順2回のWS前後(T1~T4)において質問紙調査を行った.調査を繰り返すにあたり,研究参加者にその時々の気持ちに忠実な記入を依頼した.
2)評価項目および調査時期 (1)研究参加者の属性(WS1前;T1)研究参加者の年齢,性別,主観的健康度(5段階;5非常によい~1非常に悪い),「人生会議」実施の有無.
(2)「人生会議」実施状況(WS2前;T3)期間中に①代理意思決定者を決めたか,②「人生会議」を実施したか,③「もしも手帳」の記入をしたか,実施状況に応じて実施してよかった点や実施しなかった理由等.
(3)ACPES-J(WS1・WS2の前後;T1~T4計4回)ACP遂行の複雑なプロセスを測定する尺度として,SudoreらはACPESを開発し22),その日本語版がOkadaら16)により翻訳され,信頼性・妥当性が検証されている.本研究で用いたACPES-J 9項目版は,ACPに対する自己効力感(3項目),レディネス(6項目)の2因子構造であり,5段階で応答し因子毎の平均値が高いほど,レディネスもしくは自己効力感が高いことを示す.
(4)死生観尺度(WS1・WS2の前後;T1~T4計4回)平井ら17)の死生観尺度(7ドメイン27項目,7段階)の「死からの回避」「死への恐怖・不安」の2ドメイン8項目とし,数値が高いほど,「死からの回避」「死への恐怖・不安」が強いことを示す.
6. 分析方法 1)主要評価項目:「人生会議」実施率介入による「人生会議」実施率の変化は,T1とT3時点でMcNemar検定により比較した.群間差の効果量はCohen’s wを算出し,Cohen23)の基準(W=0.1:小,0.3:中,0.5:大)に基づいて判断した.
2)副次的評価項目:ACPES-Jおよび死生観尺度T1を基準として,T2はWS1による影響,T3は「人生会議」実施による影響,T4はWS2による影響が加わると考え,T1~T4すべてが測定できた人を対象にDunnett法で補正した対応のあるt検定により多重比較し,T1 vs T4の変化を主解析とした.群間差の効果量はCohen’s dを算出し,Cohen23)の基準(d=0.2:小,0.5:中,0.8:大)に基づいて判断した.
3)副次的解析:「人生会議」実施の有無によるサブグループ解析「人生会議」実施の有無により2群に分け,副次的評価項目についてDunnett法で補正した対応のあるt検定により多重比較し,T1 vs T4の変化を主解析とした.群間差の効果量はCohen’s dを算出し,Cohen23)の基準(d=0.2:小,0.5:中,0.8:大)に基づいて判断した.
4)研究参加者の背景に関する解析T1時点での参加者背景の比較は,男女比および「人生会議」実施の有無はχ2検定,主観的健康度はMann–Whitney U検定,年齢,ACPES-Jおよび死生観尺度は,対応のないt検定により確認した.
統計検討にはSPSS ver.27およびR ver.4.4.2を用い,いずれも両側検定で有意水準をp<0.05とした.
7. 倫理的配慮研究参加者には,WS1開催時に口頭・文書でWSが研究の一部であることを説明し,調査への協力同意を得た.また,WS2までに「人生会議」を行うことを推奨したが,無理のない範囲で行うことを伝えた.ACPES-Jおよび「もしも手帳」は,著者から使用許諾を得た.
本研究を実施するにあたり,鈴鹿医療科学大学倫理委員会の承認を得た(承認番号518).
WSは8地区で各2回実施し,13~40名/回,合計171名が参加した.WS2を欠席した22名を除外し,両回に参加した計149名を分析対象者とした( 図1).分析対象者の特徴を表1に示した.平均年齢は66.5(7.3)歳,男性34.2%であり,年齢および男女比ともに「人生会議」実施の有無で有意差を認めなかった.主観的健康度は平均3.6(0.8)点であり,実施群は3.8(0.9)点,未実施群は3.4(0.8)点で,実施群が有意に高かった(p=.014).
全体 | 「人生会議」実施群 | 「人生会議」未実施群 | p | ||
---|---|---|---|---|---|
人数 | 人(%) | 149(100) | 57(38.3) | 92(61.7) | |
年齢 | mean(SD) | 66.5(7.3) | 65.2(7.4) | 67.3(7.2) | .437*1 |
性別 | |||||
男性 | 人(%) | 51(34.2) | 19(33.3) | 32(34.8) | .856*2 |
女性 | 人(%) | 98(65.8) | 38(66.7) | 60(65.2) | |
主観的健康度 | mean(SD) | 3.6(0.8) | 3.8(0.9) | 3.4(0.8) | .014*3 |
「人生会議」はすでに実施 | 人(%) | 9(6.0) | 6(10.5) | 3(3.3) | .070*2 |
ACPES-J | *1 | ||||
自己効力感 | mean(SD) | 3.2(1.0) | 3.5(1.0) | 3.1(1.0) | .038 |
レディネス | mean(SD) | 1.6(0.9) | 1.9(0.9) | 1.5(0.8) | .005 |
Total | mean(SD) | 2.2(0.7) | 2.4(0.8) | 2.0(0.7) | .002 |
死生観 | *1 | ||||
死への恐怖・不安 | mean(SD) | 3.6(1.8) | 3.2(1.8) | 3.9(1.7) | .030 |
死からの回避 | mean(SD) | 3.1(1.6) | 2.8(1.7) | 3.3(1.5) | .067 |
*1対応のないT検定 *2 χ2検定 *3 Mann–Whitney U検定
SD: standard deviation
T1時点で「人生会議」をすでに実施していた人は9名であり,そのうち6名は今回も実施したが,3名は未実施であった.未実施の理由は「タイミングが合わない」「いつも話しているから」等であった.
ACPES-Jを両群で比較すると,自己効力感は実施群が3.5(1.0)点,未実施群 が3.1(1.0)点と,実施群が有意に高く(p=.038),レディネスも実施群が1.9(0.9)点,未実施群が1.5(0.8)点と,実施群が有意に高かった(p=.005).死生観では,「死への恐怖・不安」の実施群が3.2(1.8)点,未実施群が3.9(1.7)点と実施群が 有意に低い(p=.030)が,「死からの回避」は両群間に有意差を認めなかった(p=.067).
2. 介入(WS)による評価(表2) 1)主要評価項目主要評価 | T1 | T3 | p*1 | w*2 | |||||||||||
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「人生会議」実施者数(%) | 9(6.0) | 57(38.3) | <.001 | .54 | |||||||||||
副次的評価 | 多重比較p*3 | ||||||||||||||
主解析 | 副解析 | ||||||||||||||
T1 | T2 | T3 | T4 | T1vsT4 | T1vsT2 | T1vsT3 | |||||||||
mean | SD | mean | SD | mean | SD | mean | SD | p | d | p | d | p | d*4 | ||
全体 | |||||||||||||||
ACPES-J (n=148) | 自己効力感 | 3.2 | 1.0 | 3.4 | 1.0 | 3.5 | 1.0 | 3.6 | 1.1 | .031 | .29 | .453 | .20 | .068 | .25 |
レディネス | 1.6 | 0.8 | 2.0 | 0.9 | 2.2 | 1.0 | 2.4 | 1.1 | <.001 | .67 | .001 | .66 | <.001 | .57 | |
Total | 2.2 | 0.7 | 2.5 | 0.8 | 2.7 | 0.9 | 2.8 | 0.9 | <.001 | .67 | .003 | .65 | <.001 | .56 | |
死生観(n=148) | 死への恐怖・不安 | 3.6 | 1.8 | 3.4 | 1.7 | 3.4 | 1.7 | 3.2 | 1.7 | .118 | .29 | .592 | .28 | .545 | .16 |
死からの回避 | 3.1 | 1.6 | 3.0 | 1.6 | 3.0 | 1.5 | 2.9 | 1.6 | .465 | .17 | .921 | .13 | .631 | .14 | |
「人生会議」実施群 | |||||||||||||||
ACPES-J (n=57) | 自己効力感 | 3.5 | 1.0 | 3.7 | 1.0 | 4.0 | 0.8 | 4.0 | 0.8 | .002 | .56 | .255 | .37 | .004 | .54 |
レディネス | 1.9 | 0.9 | 2.3 | 0.9 | 2.8 | 1.2 | 2.9 | 1.2 | <.001 | .77 | .054 | .64 | <.001 | .71 | |
Total | 2.4 | 0.8 | 2.8 | 0.7 | 3.2 | 0.9 | 3.3 | 1.0 | <.001 | .86 | .037 | .67 | <.001 | .82 | |
死生観(n=57) | 死への恐怖・不安 | 3.2 | 1.8 | 2.9 | 1.6 | 3.0 | 1.6 | 2.7 | 1.6 | .291 | .39 | .714 | .45 | .898 | .15 |
死からの回避 | 2.8 | 1.7 | 2.7 | 1.6 | 2.5 | 1.4 | 2.4 | 1.5 | .262 | .33 | .879 | .21 | .525 | .23 | |
「人生会議」未実施群 | |||||||||||||||
ACPES-J (n=91) | 自己効力感 | 3.1 | 1.0 | 3.2 | 1.0 | 3.2 | 1.0 | 3.2 | 1.1 | .717 | .13 | .879 | .10 | .932 | .09 |
レディネス | 1.5 | 0.8 | 1.8 | 0.8 | 1.8 | 0.7 | 2.0 | 0.8 | <.001 | .64 | .004 | .70 | .003 | .49 | |
Total | 2.0 | 0.7 | 2.3 | 0.7 | 2.3 | 0.7 | 2.4 | 0.7 | <.001 | .55 | .027 | .66 | .020 | .40 | |
死生観(n=91) | 死への恐怖・不安 | 3.8 | 1.7 | 3.7 | 1.7 | 3.6 | 1.6 | 3.5 | 1.7 | .381 | .23 | .845 | .20 | .628 | .17 |
死からの回避 | 3.3 | 1.5 | 3.3 | 1.5 | 3.2 | 1.5 | 3.2 | 1.6 | .977 | .06 | .996 | .07 | .965 | .07 |
*1McNemar test *2Effect Size: Cohen’s w *3paired t test+Dunnett補正 *4 Effect Size: Cohen’s d
ACPES-J: Japanese Version of Advance Care Planning Engagement Survey, SD: standard deviation, WS: work shop
「人生会議」実施率はT1では9名(6.0%)であったが,T3では57名(38.3%)と有意に上昇した(p<.001, w=.54).
2)副次的評価項目T1~T4すべて記載のあった148名を対象にWS前後(T1vsT4)で比較すると,ACPES-Jの自己効力感は,T1が3.2(1.0)点,T4は3.6(1.1)点と有意に高まった(p=.031, d=.29).レディネスも,T1が1.6(0.8)点,T4が2.4(1.1)点と有意に高まり(p<.001, d=.67),Totalも有意に高まった(p<.001, d=.67).死生観尺度は,いずれも有意な変化を認めなかった.
3)副次的解析:「人生会議」実施の有無によるサブグループ解析「人生会議」実施群では,ACPES-Jの自己効力感は,T1が3.5(1.0)点,T4は4.0(0.8)点と有意に高まり(p=.002, d=.56),レディネスもT1が1.9(0.9)点,T4が2.9(1.2)点と有意に高まり(p<.001, d=.77),Totalも有意に高まった(p<.001, d=.86).
未実施群では,自己効力感は,T1が3.1(1.0)点,T4は3.2(1.1)点と有意差を認めなかったが,レディネスでは,T1が1.5(0.8)点,T4が2.0(0.8)点と有意に高まり(p<.001, d=.64),Totalも有意に高まった(p<.001, d=.55).
死生観尺度は,両群ともにWS前後(T1vsT4)で有意な変化を認めなかった.
4)代理意思決定者の決定および「もしも手帳」の記入(表3)全体n=149 | 「人生会議」実施群n=57 | 「人生会議」未実施群n=92 | |
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代理意思決定者 | |||
決めた | 92(61.7) | 57(100) | 35(38.0) |
決めていない | 57(38.3) | 0(0) | 57(62.0) |
「もしも手帳」の記入 | |||
話し合って書いた | 35(23.5) | 35(61.4) | 0(0) |
話し合わずに書いた | 30(20.1) | 0(0) | 30(32.6) |
書いていない | 84(56.4) | 22(38.6) | 62(67.4) |
代理意思決定者を決めた人は,全体では92名(61.7%),「人生会議」未実施群では35名(38.0%)であった.「もしも手帳」の記入は,全体では,話し合って書いた人が35名(23.5%),話し合わずに書いた人が30名(20.1%),書いていない人は84名(56.4%)であった.「人生会議」実施群では35名(61.4%)が記入し,未実施群では,話し合わずに書いた人が30名(32.6%),書いていない人は62名(67.4%)であった.
WSに参加した民生委員149名の「人生会議」実施率,ACPES-Jおよび死生観変化から,WSがACPの動機づけとなり得るかを検討した.
1. 「人生会議」実施状況とその要因厚生労働省(2023年)によると2),人生の最終段階で受けたい医療・ケアについて考えたことがある一般国民は51.9%であるが,詳しく話し合っている人は1.5%,一応話し合っている人は28.4%であり,「人生会議」に関心はあっても実施には結びつきにくいことが報告されている.本研究では,WS1開始前に「人生会議」をすでに実施していた人は,9名(6.0%)であり,一般国民と同程度と考える.WS参加後の「人生会議」実施率は38.3%と,実施前に比べ有意な上昇であり効果量も大であったが(p<.001, w=.54),対象者は民生委員であり,行政職等と連携して住民の療養や介護に関する相談や支援する立場にある.そのような経験があっても実施率は38. 3%であり,自身の「人生会議」を実施する難しさが窺われた.
代理意思決定者については,全体の61.7%が決めており,「人生会議」未実施群において,34名(37.4%)は代理意思決定者を決めていても,その人と話し合うには至らなかった.また30名(33.0%)が,話し合ってはいないものの「もしも手帳」を書いていた.日本には口に出さなくてもわかって欲しいと思う文化があり24),周囲や関係者に配慮や遠慮をすることは多く25),人生の最終段階についての話し合いに躊躇があったと考える.
参加者の平均年齢は66.5(7.3)歳,主観的健康度の平均3.6と普通~よい状態であり,民生委員として活動していることから,年齢相応に健康状態はよい状況にあると判断した.「人生会議」実施群と未実施群の比較では,年齢,男女比ともに有意な違いを認めなかったが,主観的健康度は実施群が平均3.8(0.9)点であり,未実施群3.4(0.8)点に比べ有意によい状態であった.すなわち,健康状態がよいと感じることが,「人生会議」の実施に影響した可能性がある.T1時点で実施群のACPES-Jはいずれも未実施群に比べ有意に高く(p=.001~.038),「死への恐怖・不安」は実施群が有意に低かった(p=.030).すなわち,死を恐れすぎず,ACPに関する心の準備が整っている人が,WSで自身のリスクやACPの有益性を認識したことにより,「人生会議」を実施するに至ったと考える.
2. ACPES-Jの変化参加者全体について2回のWS前後(T1vsT4)で比較すると,自己効力感は3.2点から3.6点へと有意に高まったが(p=.031),効果量(d=.29)は小さかった.レディネスは1.6点から2.4点,Totalも2.2点から2.8点へと有意に高まり(p<.001),効果量(d=.67)も中~大であったことから,WSは参加者が「人生会議」を行う準備性を高めたと考える.
「人生会議」実施群では,WS前後(T1vsT4)だけでなく(T1vsT3)比較においても,自己効力感,レディネスおよびTotalのすべてが有意に高まり(p=<.001~.004),効果量(d=.54~.82)も中~大であったため,「人生会議」の実施が自己効力感を高めたことが示唆された.
また,未実施群の変化(T1vsT4)では,自己効力感は有意でなかったが,レディネスおよびTotalは有意に高まり(p<.001),効果量(d=.55~64)も中程度であった.すなわち,現在は「人生会議」を出来なくても,今後に向けた準備性の高まりが窺えた.
本研究の「人生会議」実施群のACPES Totalの平均(SD)点は3.3(1.0)点,未実施群は2.4(0.7)点であった.Sudore22)らは,米国の慢性疾患を有する高齢者において,事前指示をもつ人が4.0(0.0)点,事前指示をもたない人が2.9(1.0)点と報告している.ACPES-Jの質問内容には,主治医と話し合える自信や,希望を書き残すことへの準備状態を聞く質問も含まれている.そのため事前指示をもつ人は,米国の文化背景も影響し,本研究参加者に比べ高い値であったと考える.
一方,日本の慢性疾患を有する65歳以上の高齢者において,最期をどう過ごしたいか家族や友達と話している人は2.9(0.9)点,話していない人は2.2(0.9)点と報告されている16).すなわち,本研究の民生委員と慢性疾患を有する高齢者は同様の傾向を示すが,健康状態のよい本研究の参加者の方がACPの準備性が高かったと考えられる.
「もしも手帳」は,「人生会議」実施群でも38.6%が記入せず,未実施群では67.4%が未記入であり,自身の希望を書き残す準備状態が低いことも,ACPES-Jスコアに影響したと考えられる.また,患者にとって1回の診療時間が短い2)ことに加えて,医療者にお任せしたいという国民性があることも24),主治医と話し合える自信の低さにつながり,日本人のACPES-Jスコアが低い要因になったと推察する.
3. 死生観尺度の変化「死への恐怖・不安」「死からの回避」は,参加者全体,「人生会議」実施の有無にかかわらず,WS前後(T1vsT4)で有意な変化を認めなかった.
本研究参加者のT1時点での「死への恐怖・不安」は3.6(1.8)点,「死からの回避」は3.1(1.6)点であった.非医療従事者(n=279)を対象とした調査26)における「死への恐怖・不安」は4.2(1.8)点,「死からの回避」は3.1(1.5)点であり,本研究参加者が民生委員として高齢者や要援護者の支援に携わる経験が,「死への恐怖・不安」の低下に影響した可能性がある.
「人生会議」実施群の「死への恐怖・不安」は,T1時点で未実施群に比べ有意に低く(p=.030),「人生会議」実施がさらに不安を小さくするには至らなかった.反対に未実施群はもともと「死への恐怖・不安」が強い傾向にあり,2回のWSに参加してもその傾向は維持されたと推察する.
本研究の限界と今後の課題本研究では,WS1に参加後,2~4カ月の間に「人生会議」を実施したか否かで実施率を判定している.WS2において未実施群もACPの準備性が高まったことから,その後の実施状況を追跡すべきであるが,確認できていないことが課題である.また,「人生会議」のよかった点や難しさ等,参加者から得られた記述は,今後質的分析を行い報告したいと考えている.
今回は市民の中でも民生委員という,社会福祉に関心の高い集団を対象としたが,今後は一般市民を対象に地域で継続的にACPを推進する取り組みが必要である.
民生委員を対象とした「人生会議」を推奨するWS(90分)を,2~4カ月の間隔をあけ2回実施し,2回とも参加した149名を分析対象とした.主要評価項目の「人生会議」実施率は38.3%であり,実施前の6%に比べ有意な上昇であるが(p<.001, w=.54),実際に話し合いを行うことの難しさを示した結果と考える.副次的評価項目のACPES-Jは2回のWSで有意な上昇を認め,自己効力感(p=.031, d=.29),レディネス(p<.001, d=.67)およびTotal点(p<.001, d=.67)と効果量も中程度であることから,WSは「人生会議」を動機づける効果をもつことが示唆された.
本研究にご参加くださいました民生委員の皆様に,深く感謝申し上げます.また,本研究を計画するにあたり御助言をいただきました筑波大学医学医療系緩和医療学 木澤義之教授ならびに,ACPES-Jの使用を承諾いただきました東京大学医学部附属病院 岡田宏子先生に心より感謝申し上げます.
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究C課題番号21K10709による助成を受けて実施したものである.
すべての著者について,申告すべき利益相反はない.
辻川は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析および解釈,原稿の起草に貢献した.犬丸,中村,船尾,武田,坂口は,研究でデータの収集,分析,原稿の批判的推敲,玉木は研究データの解釈,原稿の批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.