2025 年 20 巻 3 号 p. 167-170
【緒言】本症例は,上咽頭がん患者の死亡届を,認知症を有する母親の法定後見人が母親に代わり提出した一例である.【症例】患者は61歳男性で,中枢神経への浸潤を伴う上咽頭がんを発症していた.病前から定職に就かず,日常生活の多くを家事代行サービスに依存する生活を送っていた.入院当初は意識清明であったが,認知症のある唯一の親族である母親に対する後見人選任の手続きを行わないまま病状が進行し,高次脳機能障害と意識低下をきたした.これを受けて家庭裁判所により母親の法定後見人が選任され,患者死亡時には母親の後見人が母親に代わり死亡届を提出した.【結語】本症例は,独居や認知症を有する高齢者の増加に伴い,後見人制度の重要性が今後さらに高まることを示唆している.