Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
乳がん術前化学療法における頭皮冷却療法の体験—患者体験に基づく支持的ケアの考察—
中尾 寿衣 谷 眞弓山本 恵子
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2026 年 21 巻 2 号 p. 93-97

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Abstract

【目的】乳がん術前化学療法において,頭皮冷却療法を併用した外来化学療法を受ける患者を対象に,体験した苦痛の実際とその受け止め方を明らかにし,支持的ケアとしての意義を検討する.【方法】頭皮冷却法を導入した乳がん術前化学療法患者を対象に,選択式および自由記載から構成した質問紙の内容分析を行った.【結果】50名中,同意が得られた22名を対象とした.年齢中央値は48.5歳であった.身体的不快症状として顎の痛みや寒冷感がみられたが,環境調整や医療者の関わりが苦痛の受け止め方や冷却法継続の判断に影響していた.自由記載の内容分析から「環境への調整と配慮」「身体的不快と脱毛予防の葛藤」「高額な費用による継続への影響」「冷却法の効果評価に伴う不確さ」の4カテゴリーが抽出された.【結論】頭皮冷却法は脱毛予防にとどまらず,患者が術前化学療法に向き合う過程を支える支持的ケアとして機能している可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the actual pain experienced by patients undergoing outpatient chemotherapy with scalp cooling during neoadjuvant chemotherapy for breast cancer and how they perceive this pain, and to examine its significance as supportive care. Methods: We conducted a content analysis of a questionnaire consisting of multiple-choice and open-ended questions among patients undergoing preoperative chemotherapy for breast cancer who had undergone scalp cooling. Results: Of the 50 participants, the study included the 22 who provided consent. The median age was 48.5 years. Although physical discomfort such as jaw pain and a sensation of coldness was observed, environmental adjustments and the involvement of healthcare providers influenced how patients perceived their discomfort and their decisions regarding continued use of the cooling method. Content analysis of the open-ended responses identified four categories: “environmental adjustments and considerations,” “conflict between physical discomfort and hair loss prevention,” “impact of high costs on continuation,” and “uncertainty regarding the evaluation of the cooling method’s effectiveness”. Conclusion: The results suggest that scalp cooling may serve not only as a means of preventing hair loss but also as a form of supportive care that helps patients cope with preoperative chemotherapy.

緒言

化学療法に伴う脱毛(chemotherapy-induced alopecia,以下CIA)は,代表的な副作用の一つであり,外見の変化を通じて心理的・社会的側面に影響を及ぼす.とくに女性患者においては,脱毛が自分らしさや対人関係に影響し,化学療法に対する不安や生活の質(QOL)の低下につながることが報告されている1.手術前CIAは一過性である場合が多いものの,その体験は患者にとって印象深く,治療過程における苦痛として経験されることがある.近年,CIAへの対策として,頭皮冷却法が脱毛の程度を軽減することを目的とした支持療法として用いられ,ランダム化比較試験や観察研究により,その有効性および安全性が報告されている25.一方,日本では頭皮冷却法が保険適用外であることに加え,導入・運用に人的負担を伴うこと,患者の意向や価値観にばらつきがあることなどから,臨床現場での普及は限定的である6.頭皮冷却法の実施には,装着や観察といった技術に加え,冷却に伴う疼痛や寒冷感への対応,継続可否の判断など,多職種による協働が求められる.さらに,患者は脱毛予防への期待と同時に,身体的不快感や効果への不確実性を抱えており,状況に応じた柔軟な対応が必要とされる.しかし,患者が冷却法を併用した治療過程をどのように体験し,苦痛と向き合っているのかという側面に焦点を当てた報告は限られている.本研究は,自由記載を用いた質的分析により,頭皮冷却法を受ける患者の主観的体験を明らかにし,支持的ケアとしての意義と課題について検討した.

方法

用語の定義

本研究で用いる頭皮冷却法では,Paxman Scalp Cooling システム(センチュリーメディカル,東京)を用いた頭皮冷却法を対象とした.

対象

日本大学病院外来化学療法室では,2020年度より頭皮冷却装置を導入している.本研究の対象は,乳がん術前化学療法時に頭皮冷却法を導入した患者とした.対象者の選定基準は,日本語での読み書きが可能であり,質問紙調査への同意が得られた患者とした.除外基準は,質問紙の回答に不備があり分析が困難な場合,ならびに頭皮冷却法を途中で中止した患者とした.

調査方法

本研究の調査期間は2020年11月から2024年10月とした.対象者のリクルートは,術前化学療法導入時の外来において,医師が頭皮冷却療法の適応および実施の可否を説明する過程で行った.研究概要の説明および質問紙,調査内容説明,同意書の配布は,術前化学療法終了日に化学療法室担当看護師が個室にて実施した.本研究における調査は術前化学療法終了時の1回のみ実施した.質問紙および同意書は次回外来受診時に医師が回収し,書面をもって同意取得とした.本研究は日本大学病院倫理委員会の承認(承認番号:20250401)を得て実施した.

調査内容

質問紙は,数値評価尺度(numeric rating scale),選択式質問(複数回答可),および自由記載欄から構成した.具体的には,①頭皮冷却療法実施中の環境に対する苦痛の有無を選択し,その体験について自由記載による回答を得た.②頭皮冷却療法中の身体的不快症状について選択式(複数回答)で回答を求め,その程度については自由記載欄を設けた.③頭皮冷却療法の継続に関する意向として,途中で中止したいと思った経験の有無およびその理由を質問し,④頭皮冷却療法の効果に関する満足度(5段階評価)とその理由について回答を得た.さらに,冷却法全体を通した体験として,冷却法中の体験や医療者の関わりに対する意見についても自由記載による回答を得た.

分析方法

冷却法終了後の満足度および選択式質問項目は,いずれも頻度(n,%)で示した.自由記載は記述的内容分析を行い,意味内容の類似性に基づいてサブカテゴリーを作成し,カテゴリーへ抽象化した.分析は複数名で行い,解釈について合意を得た.

結果

対象者は,冷却法を導入した患者50名のうち,途中で中止した1名を除き,質問紙への有効回答が得られた22名であり,年齢中央値は48.5歳(範囲38~75歳)であった.

頭皮冷却療法に関する量的評価結果を表1に示す.①頭皮冷却法中の環境に対する苦痛については,「苦痛があった」と回答した患者は7名であり,自由記載では苦痛の原因として冷却キャップのゴム臭と記述があった.②選択式質問項目による身体的不快症状では「顎の痛み」が最も多く11名であり,自由記載では冷却法終了後もしばらく痛みが持続することが記述されていた.③冷却法継続に関しては「途中で中止したいと思ったことがある」と回答した患者は7名であり,自由記載では斑状脱毛による精神的負担や締め付け感が挙げられた一方,継続理由として発毛の実感や医療者からの声掛けが記述されていた.④冷却法効果の満足度は「どちらでもない」が7名であった.その理由として,冷却法に対する脱毛予防への期待の高さがある一方,冷却法直後では評価が定まらない点が挙げられていた.冷却法全体の体験に関する自由記載では,医療者の関わりや対応に関する記述もみられた.

表1 頭皮冷却療法に関する量的評価結果(n=22)

①頭皮冷却療法中の環境に対する苦痛の有無
評価 n %
苦痛あり 7 30
苦痛なし 15 70
②頭皮冷却療法中の身体的苦痛症状(複数回答)
症状 n %
顎の痛み 11 50
寒気 9 40
頭痛 7 30
めまい 7 30
額の痛み 4 20
吐き気 2 10
③頭皮冷却療法の継続に関する意向
項目 n %
途中で中止したいと思ったことがある 7 30
中止したいと思わなかった 15 70
④頭皮冷却療法の効果に関する満足度(5段階評価)
評価 n %
非常に不満 0
やや不満 0
どちらでもない 7 30
やや満足 15 70
非常に満足 0

注)②は複数回答可.割合(%)は10%単位で四捨五入して表示.

質問紙における自由記載のうち,各項目に付随する記述および冷却法全体の体験に関する記述を対象に内容分析を行い,それらを通して「環境への調整と配慮」「身体的不快と脱毛予防の葛藤」「高額な費用による継続への影響」「冷却法の効果評価に伴う不確かさ」の4カテゴリーが抽出された(表2).

表2 頭皮冷却療法中の患者の体験

カテゴリー サブカテゴリー 自由記載からの記述内容
環境への調整と配慮 事前の環境調整 ・電気毛布で温めてもらっていたので,思ったよりつらくなかった
・事前に寒さ対策をしてもらえたので安心できた
医療者の関わりによる安心感 ・キャップの位置や密着性について声掛けしながら調整してくれた
・辛くなる頃に声掛けがあり一緒に取り組んでいるように感じた
・副作用がつらいときは薬を使うか医師が聞いてくれ,看護師も同じ内容を把握していて安心できた
治療環境への配慮 ・照明を暗くしてくれたり,室温を調整してもらえたのが助かった
身体的不快と脱毛予防の葛藤 身体的苦痛の出現 ・顎が痛くてつらかった
・冷たさや頭の圧迫感が強く感じられた
脱毛予防を優先する選択 ・寒さはあったが,脱毛を防げるなら続けたいと思った
・多少つらくても,髪の毛が守れるなら我慢しようと思った
高額な費用による継続への影響 費用負担が継続への動機 ・高いお金を払っているので,途中でやめたくなかった
・せっかく購入したので最後まで続けたいと思った
費用に対する心理的重圧 ・効果が出なかったらどうしようという不安はあった
・費用に見合う効果があるのか気になった
冷却法の効果評価に伴う不確かさ 治療直後の評価の揺らぎ ・まだ治療が終わったばかりで,効果があるか分からない
・今は判断できないという気持ち
経過をみて判断しようとする姿勢 ・もう少し時間が経たないと,満足かどうか決められない
・今後の経過を見たいと思っている

考察

本研究から,頭皮冷却法は,CIAの予防効果そのものにとどまらず,術前化学療法に臨む患者が冷却法に伴う苦痛をどのように受け止め,向き合っているかを支える支持的ケアとしての側面を有することが示唆された.自由記載の内容分析からは,冷却に伴う冷感や疼痛といった身体的負担が存在する一方で,医療者の関わりが,その苦痛の受け止め方や冷却法継続への意思決定に影響を与えていることが明らかとなった.「環境への調整と配慮」に関するカテゴリーでは,事前の保温や照明・室温の調整といった環境調整が,患者の苦痛体験を軽減する要因として示された.冷却法は冷感や圧迫感を伴うものとされ,忍容性には個人差があることが報告されている4,5,7,8.本研究の結果からは,冷却環境全体への配慮が患者の体験の質を左右していたことが示唆された.これは,冷却法が単なるキャップ装置の装着ではなく,包括的な支持的ケアとして提供される必要性を示している.次に,「身体的不快と脱毛予防の葛藤」に関するカテゴリーでは,顎の痛みや寒冷感といった身体的不快症状が回答として示された一方で,「脱毛を防ぎたい」という思いから頭皮冷却療法の継続を選択していた体験が示された.患者にとって脱毛予防は,身体的不快を伴いながらも受け入れ可能な価値として位置づけられていると考えられる.さらに,患者が身体的苦痛を一方的に回避するのではなく,脱毛予防の価値と身体的負担との間で折り合いをつけながら治療継続に向き合っていた可能性が示唆された.

「高額な費用による継続への影響」に関しては,費用負担が冷却法継続の動機となる一方で,効果に対する不安や心理的重圧としても受け止められていた.頭皮冷却法は患者の自己負担によって選択されており,費用や利用可能性がその普及に影響する要因として指摘されている9,10.これらを踏まえ,化学療法開始前から効果の限界や評価時期について十分に説明することの重要性が示された.

「冷却法の効果評価に伴う不確かさ」では,術前化学療法終了直後には評価が定まらず,経過をみながら判断しようとする姿勢が多くみられた.頭皮冷却法の効果は即時的に判断できるものではなく,脱毛や再発毛の評価には一定の時間を要することが知られている11.患者の評価が時間とともに変化することを前提とし,術前化学療法終了後も体験を共有しながら関わる継続的な支援が重要であると示唆された.

また,冷却用キャップは既製品であり,個々人の頭部形状に完全に適合しない中で,医療者が装着位置や密着性を工夫して対応していた実践が,患者の自由記載から示された.「声掛けをしながら調整してくれた」「一緒に取り組んでいるように感じた」といった記述は,医療者の関わりが患者の主体性や冷却法継続への意欲を支えていたことを示している.さらに,疼痛や寒冷感が強い場合には,医師が患者の訴えを聴き,薬物療法を含めた対応について看護師と共有していた経験も,患者の安心感につながっていた.このことから,冷却法の継続は患者個人の忍耐に委ねられていたのではなく,医師・看護師を含む多職種が協働して身体的・心理的苦痛を緩和していた実践であったと考えられる.

一方で,本活動報告は単施設での実践に基づくものであり,対象者数も限られている.また,自由記載を中心とした質的分析であるため,結果の一般化には慎重な解釈が必要である.今後は,施設ごとの実践を積み重ねながら,頭皮冷却法を患者中心の支持的ケアとしてどのように位置づけ,発展させていくかについて継続的な検討が求められる.

結論

頭皮冷却法の導入は,脱毛の程度を軽減しうる支持療法として,患者が術前化学療法を継続するうえでの心理的支えとなっていた.患者の自由記載からは,冷感や疼痛といった身体的不快感が存在する一方で,苦痛や不安を医療者に伝え,その都度説明や調整を受けられた経験が,安心感や継続の判断につながっていたことが示された.頭皮冷却法は看護師による装着や観察が中心となるが,外来診療の場では医師も患者の訴えに耳を傾け,冷却法の継続が可能かどうかを確認しながら,苦痛への対応を共有していた.患者にとって,医師と看護師が苦痛を共通の課題として受け止め,身体的・心理的支援を協働して行う姿勢が,術前化学療法に向き合ううえでの安心感につながっていた可能性が示唆された.今後は,患者の体験を踏まえた説明や苦痛対応の標準化を進めることで,頭皮冷却法を患者中心の支持的ケアとしてさらに発展させていくことが求められる.

謝辞

本研究の実施にあたり,質問票調査にご協力いただきました対象者の皆様に感謝申し上げます.

研究資金

本研究は研究助成金を受領していない.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

中尾は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草を行った.谷,山本は研究データの収集,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2026 日本緩和医療学会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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