周産期学シンポジウム抄録集
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第1回
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シンポジウム I: 胎児の機能的成熟―超未熟児の成育限界をめぐって
胎児循環動態解析へのアプローチ
千葉 喜英
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p. 59-62

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抄録

 I はじめに

 我々が現在使用できる技術をもって,胎児病をみるならば,胎児循環動態の変化として発見することが多いであろう。その最も大きな理由は,我々の胎児に対する診断が行動決定として現われる場合,胎児は生か死かという,最終の局面を迎えている場合がほとんどであるという点にある。また,fetal distressと呼ばれる胎児のhypoxiaの診断が分娩周辺期における周産期医療の大きなテーマであり,かつ,ガス交換としての胎児呼吸情報は完全に循環動態の情報に含まれていることもその1つの理由である。分娩監視装置,もしくは胎児監視装置と呼ばれる胎児心拍数の連続記録がfetal distressの診断に大きく寄与し,周産期医療そのものの概念が実際の医療となりえたのも,この心拍数の連続記録によるところが大きいことも真実である。

 しかし,心拍数以外の胎児循環動態となると,はなはだ不明であり,Assali1)を始めとする動物実験の結果より推察するしかないのが現状であった。胎児胎盤系の血流変動を知る目的に,超音波ドプラ法を利用しようという試みが古くからあったのは,超音波ドプラ法の開発普及の過程を考えれば当然のことであるが,血流を定量化するのに必要な入射角の同定と,血流信号の位置の同定がはなはだ困難であり,方向指示型の連続波ドプラ法により,胎児胎盤系の血流解析の可能性を示したにすぎなかった。超音波ドプラ法は超音波ドプラ胎児心拍数計として利用されてきた。

 pulse Doppler法を超音波断層装置のガイド下で使用し,胎児胎盤系の血流を測定しようという試みは,Octosonを用いたGill2), 3)らの報告と,リニア電子走査超音波断層装置をガイドとして用いた我々の報告4), 5)がある。我々が最初にこの目的で使用した装置は,pulse Doppler血流計(Hitachi US-10)と電子走査超音波断層装置(Hitachi EUB-22)のプローブを60゜の相対角度で,機械的に接合しただけの装置であり,両者の切り換えは手動のスイッチによっていた。

 また,反射波のドプラシフトの解析も,テープに記録した後にサウンドスペクトグラムを使用する方法であり,胎児臍静脈~静脈管,下向大動脈の血流計測には成功したが,その変動をとらえるには至らなかった。次に使用した装置は,ドプラ変調の解析に超高速のフーリエ変換を用いたのがその特長であり,ほぼ実時間で血流の変動をとらえることができ,time-motion-modeと同時に記録することにより,胎動,特に胎児呼吸様運動による臍静脈~静脈管の血流変動がとらえられた。この装置は,胎児血流を測定することを1つの目的に作られたプロトタイプである(Toshiba PDA-01C, およびToshiba SSL 53H)。この方式で胎児血流測定,およびその変動(Dynamics)の記録が可能であることが証明され5),さらに改良が加えられ,pulse Dopplerと実時間断層の交互駆動方式へと発展し,胎児呼吸様運動による気管内流や,下大静脈,上大静脈の血流計測にも成功するようになった。

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© 1983 日本周産期・新生児医学会
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