周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第12回
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シンポジウム B:胎児治療の臨床
シンポジウムの目的とまとめ
千葉 喜英
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p. 54-57

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抄録

 はじめに

 このシンポジウムの最終目標は胎児を患者さんと考える思想“The Fetus as a Patient"の思想を広く世の中に理解を求め,認知されることにある。もしパイオニアとしての胎児治療をテーマにするならば,このシンポジウムは10年前に企画されたはずである。

 私が小学生の時にスプートニクという名前の人工衛星が飛んだ。1960年代の最後には,ジョンFケネディーが生前に宜言したとおりにアポロ11号は2人の人間を月面に降下させた。当時多くの人々がテレビの前に釘付けになった。しかし,このまさにパイオニア達によってなされている偉業が自分たちの生活の一部になろうとは,ほとんどの人が考えなかったはずである。

 現在,CNNニュース,国際電話,ファクシミリ,高級車には標準装備のサテライトナビゲーションなどなど,当時のパイオニア技術はきわめて日常的である。

 アポロ計画ではマイクロコンピュータの存在が報道された。もちろんマイコンという用語もまだ一般には使われていない。当時の報道によると,宇宙飛行士は箱型の小型のコンピュータのような物を月に持っていった。そして,月の裏側で地球から連絡が途絶えたときは,月の重力の不均一による軌道のずれを自分で修正した。今私の机の上にあるMacやDynaBookはこの箱のような物の子孫にあたる。余談であるが,アポロ11号は月着陸の最後の部分は手動で着陸した。コンピュータの選んだ場所が着陸に適さなかったのである。

 医療におけるパイオニアが多くの人々に与えることができる重要な役割は周辺の医療レベルすべてを向上させることにある。また,先端医療を実行に移すときには,たとえそれが不成功に終わったとしても,その患者をその時点の通常(conventional)医療の最高点に帰着させることが要求される。胎児治療を例にあげよう。胎児に対してなんらかの治療を行う場合,未熟児新生児医療の最高レベルの援護が必ず要求される。胎内で期待しない事象が発生した場合は出生後の管理に可能性を求めるからである。アポロ13号は,酸素タンクの爆発という予想もしなかった事故から帰還した。この救出には地上からの当時動員できる最大規模の技術的援護を与えたことはいうまでもない。

 胎児治療はいつまでも先端医療のみであってはならない。今要求されることは,胎児治療のうち,明らかに効果が認められる部分は一般の医療に展開させることである。ここでいう一般医療とは社会的にも,医療経済的にも認知された医療であり,技術の教育普及の方法も確立した医療のことである。

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© 1994 日本周産期・新生児医学会
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