主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:中枢神経系の発達障害からみた周産期医療
回次: 13
開催地: 東京都
開催日: 1995/01/21
p. 35-41
はじめに
従来,脳性麻痺の原因は主として分娩中から出産直後の事象に求められてきた1)。しかしながら,近年,子宮内においてすでに中枢神経系の機能異常を示す胎児の存在が明らかにされるようになってきた2~4)。これは胎児神経学の萌芽といえる。Naeyeらは脳性麻痺に至った症例の多くは分娩時の低酸素症に起因するというより,むしろ子宮内で生じた不可避的な事象の結果であることを示唆する重要な成績を示している3)。他方,新生児仮死は脳性麻痺の6%に認められるにすぎず,しかも高度の仮死が長時間持続した一部の症例にのみ発生していることから,新生児仮死と脳性麻痺との間には明確な相関は認められないという2)。
胎児の中枢神経系の回路網ははじめに脊髄が,追って下位脳幹が発達してくる過程から示唆されるように,解剖学的には尾側から頭側へ,機能的には低次から高次へと分化してゆく5)。解剖学的には2歳ないし3歳になるまで発達を続けてゆくものの,ヒト胎児の脳機能は相応の水準に達して誕生を迎える6)。また,無脳症の胎児における動作の研究から,たとえ脳欠落に伴って巨視的に神経細胞数が減少している状態であっても,微視的には生理的な神経細胞の配列と構築が保持されていることが正常な動作の発現には不可欠である7)。
筆者らはヒト胎児行動学に関する従前の知見を基礎に8),胎児期における中枢神経系の機能異常と対応する病変の局在とを出生前にどの程度まで診断できるかを目的としたスクリーニングシステムを考案して,試験的に運用してきた9)。