主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:母体・胎児・新生児の心肺機能低下時の反応と対応
回次: 24
開催地: 埼玉県
開催日: 2006/01/20 - 2006/01/21
p. 101-111
はじめに
新生児敗血症性ショックにおける心肺機能低下には,各種炎症性メディエーターの影響が複雑に絡み合っており,通常の呼吸循環のサポートを行っても,治療に難渋する症例を経験する。敗血症の初期の循環動態の特徴に,血圧低下,頻脈などのhyperdynamic stateがあげられる。これは末梢血管の拡張に起因した症状で,グラム陰性菌のエンドトキシン(LPS)やグラム陽性菌のペプチドグリカン(PGN)などの細菌毒素の影響で,内因性カンナビノイドであるアナンダマイド(ANA, マクロファージから放出)や,2-アラキドニールグリセロール(2-AG, 血小板から放出)1),免疫細胞から放出された各種炎症性サイトカイン2, 3),血管内皮細胞から放出されたNOが原因とされている。さらに発症後期には,好中球から放出された顆粒球エラスターゼにより,血管内皮が障害を受け,血管透過性の亢進,凝固線溶系の異常が起こってくる。これらの反応が全身性に生じた場合,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome ;SIRS)とよばれる多臓器不全へ進展する(図1)。敗血症性ショックとして,最も重要なのは原因治療,すなわち感染症に対する治療である。これに付随して呼吸循環管理を行う抗ショック療法,炎症やDICに対する薬物療法を行う。近年抗特異抗体療法4),抗NO療法なども検討されている。血液浄化療法は,成人の救急,集中治療領域では,重症敗血症の高サイトカイン血症に対する治療として,その有用性が報告されている5)。我々の施設でも新生児敗血症性ショックに対して,従来の治療に加え,炎症性メディエーターを除去する目的で血液浄化療法を施行している。血液浄化療法には,腹膜透析(peritoneal dialysis;PD),血液透析(hemodialysis;HD), 持続血液濾過(continuous hemofiltration;CHF),持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration;CHDF),血液吸着療法(hemoabsorption),PMX療法(エンドトキシン吸着,カンナビノイド吸着),血漿交換(plasma exchange),交換輸血(exchange transfusion)などがある。敗血症性ショックの患児は,循環動態が不安定なため,循環に影響の少ない方法を選択する必要がある。体外循環を用いた持続的血液浄化療法は,緩徐に確実な除水と溶質の除去が可能であり,かつ循環動態を不安定にしない。そのため,当センターでは主に持続血液濾過透析,血液吸着療法を用いている。今回,我々は,新生児敗血症性ショック時の心肺機能低下に対して血液浄化療法を導入してきており,その有用性について検討したので報告する。