周産期学シンポジウム抄録集
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第3回
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シンポジウム I:胎児,新生児頭蓋内出血の成因
成熟児頭蓋内出血の成因についての検討
川上 義常井 幹生曽根 良治赤松 洋
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p. 43-51

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抄録

 I はじめに

 新生児の頭蓋内出血(以下ICHと略)は,児の生命および長期予後よりみて新生児期の最も重要な疾患の一つであることは周知の事実である。ICHの診断は以前は主に剖検により確認され,末熟児に多く成熟児には少ないと考えられていた。しかし近年,頭部CT scan・超音波断層検査の普及により,ICHの部位までを含めた診断が生存中に容易に行えるようになり,新生児ICHの概念は最近10年間で大きく変ってきている。

 Volpe1)によれば新生児の主要なICHはその出血部位により,硬膜下・クモ膜下・小脳内・脳室内出血に大きく分類される(表1)。硬膜下出血は成熟児に多く,主にbirth traumaが原因と考えられるが,最近の産科技術の進歩により急速に減少してきたとされている。しかし最近,これまで生存中に診断しえなかった例・軽症例の診断が検査法の進歩により可能となり,現在でもそれほど稀でないとの報告2)もある。

 primaryなクモ膜下出血は未熟児に頻度が高く,未熟児ではhypoxic event,成熟児ではbirth traumaによるものが多い。出血の頻度は高いが,一般的には他の部位の出血と比較し生命および長期予後の良好な例が多い。

 小脳内出血は末熟児に多く,Grunnetら3)によれば144例の末熟児剖検例中8.3%に小脳内出血があり,在胎期間の短い児に多く,32週以上の児にはみられなかったとしている。そしてその原因については児の未熟性が関連すると推測している。高嶋ら4)は310例の新生児剖検例中18例に小脳実質内出血が見られたとし,その原因として末熟性,低酸素性,外傷性などいくつかの原因をあげている。また,最近ではCT scanにより診断された成熟児の小脳内出血例の報告5), 6)もみられる。

 最後に脳室内出血(以下IVHと略)は,以前より未熟児剖検列では高頻度にみられること,主要な死亡原因の一つであること,また出血後水頭症の原因となることが知られており,新生児ICHの中で最も重要なものである。成熟児ではIVHは極めて稀と考えられていたが,診断技術の進化に伴い,以前考えられていたほど少なくないことはすでにわれわれが報告した7)

 今回は上述の4つのICHのうち比較的稀で,これまで注目されていなかった成熟児のIVHについて,当院で経験した症例を中心にその成因につき検討した結果を報告する。IVH以外の他のICHについては紙面の都合で割愛する。

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© 1985 日本周産期・新生児医学会
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