主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:胎児,新生児頭蓋内出血
回次: 3
開催地: 東京都
開催日: 1985/01/19
p. 52-65
I はじめに
Computed tomography(CT)や超音波で頭蓋内出血が診断されるようになって,新生児頭蓋内出血の頻度は未熟児,成熟児とも,従来考えられていた以上に高い。予後も良好なものから重篤な後遺症を残すものまで種々である。
成熟児頭蓋内出血の出血部位としては,硬膜下出血,クモ膜下出血が多く,脳室内出血(IVH)もときにみられる。予後は出血の程度にもよるが,硬膜下出血での脳実質の圧迫梗塞や水腫,クモ膜下出血での脳血管攣縮による循環障害,脳室内出血での髄液循環障害などの程度によっても左右される。また,頭蓋内出血に低酸素性脳症の合併は大きな予後不良因子の一つであることはよく知られている。
一方,未熟児の頭蓋内出血部位では脳室内出血の頻度が高い。脳室上衣下出血(SEH)から,脳室内へ破綻し,クモ膜下出血へと波及することか多い。脳室周囲白質出血(PWMH)や脈絡叢出血からの脳室内破綻も少数あり,無視することはできない。脳室内出血の予後には,脳実質内の出血部位,低酸素症や脳軟化の合併,および髄液循環障害などが大きく影響する。また,末熟児では小脳出血もしばしばみられる病変である。
以上の頭蓋内出血のうち,末熟児の脳室内出血は,保育の進歩にもかかわらず,いまだ滅少させることのできない,もっとも問題の多い疾患である。成因は今日までに多数あげられてきたが,いまだ,解明されたとはいいがたい。最近,IVHの成因について,脳血流の関与が重視され,多数の実験的研究が報告されている。今回,未熟児の脳室内出血の起源病巣となるSEHとPWMHの成因について,病理学的,動物実験的研究の知見に基づいて,述べたい。