周産期学シンポジウム抄録集
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Print ISSN : 1342-0526
第31回
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シンポジウム午前の部:その疫学と予防
プロスタグランジン受容体作動薬による脳血管内皮細胞保護療法
―低酸素虚血受傷後の脳へのライフライン確保を目指す薬物治療アプローチ―
谷口 英俊
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p. 55-59

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抄録

 1 新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)の病態における血管内皮細胞傷害

 新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)は,周産期に起こりうる胎児および新生児の循環不全によって脳の低酸素虚血状態により生じる病態である。その原因は胎盤早期剥離,子宮破裂,感染症,母体の外傷と多岐にわたり,結果として起きる神経学的後遺症は恒久的である場合が多く,患児だけではなく,家族や社会に及ぼす影響は著しい。現時点で有効性が認められている治療法は脳低温療法であるが1),実施可能な施設が限られ,装置が高額で,効果に限りがあり,代替療法や併用療法の必要性が認識されている。

 HIEの病態は脳内で起きる血流の低下と酸素枯渇による細胞死(一次性細胞傷害),興奮性アミノ酸やフリーラジカルによる細胞傷害によって活性化したミクログリアによるサイトカインの産生,浸潤細胞による炎症反応が指摘されている2)。この炎症反応によって引き起こされた遅発性細胞死(二次性細胞傷害)はHIEの予後を決定するうえで,また低酸素虚血後の治療のターゲットとして重要であると考えられている2)。一方,受傷細胞に着目すると神経学的後遺症へと直結するニューロンやオリゴデンドロサイトの傷害/死滅とアストロサイトやミクログリアの活性化による炎症反応が受傷病変の拡大に関与していることは周知されている。しかし,血管内皮細胞の受傷がもたらす影響も多大である。

 脳血管内皮細胞は血流の調節以外にも,受傷時にさまざまなサイトカインやケモカインを産生するが,血管内皮細胞由来の炎症物質が新生児HIE脳においても上昇していることが報告されている3)。また,受傷後の神経再生には脳血管を含むニッチェが必要であることも明らかにされており4),脳血管内皮細胞傷害は神経再生を阻んでいる可能性がある。つまり,血管内皮細胞が低酸素虚血によって受ける傷害は,一次性・二次性細胞傷害だけでなく回復期にもインパクトをもたらすものであるといえる(図1)。

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© 2013 日本周産期・新生児医学会
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