主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:成熟児のasphyxiaとcerebral palsy
回次: 31
開催地: 大阪府
開催日: 2013/01/25 - 2013/01/26
p. 51-54
目的
周産期医療の進歩によって低出生体重児や早産児の救命率や予後は飛躍的に改善されているが,その一方で脳性麻痺に代表される胎児・新生児脳障害の頻度はこの数十年減少していない。新生児脳障害は脳性麻痺,精神発達遅延,知能障害,てんかん発作といった障害の主な原因となっていることはよく知られているが,多動,注意散漫,衝動性,情緒不安定,反社会的行動,学習障害などがみられる注意欠陥・多動症候群,学習障害ともいわれている一連の病態も,微細脳機能障害症候群として分類されており,なんらかの周産期における脳障害との関連が示唆されている。またこれらの微細脳機能障害症候群の有病率については近年明らかな上昇が示唆されている。
現在のところ,新生児脳障害の病態についてはほとんどが臨床的な観察に基づくものであり,有効な治療法も予防法も開発されていない。脳性麻痺の原因のほとんどは分娩中の低酸素であり,その多くは胎児心拍数モニタリングで予防が可能であるといった以前の認識は大きく変わった。現在のところでは,脳性麻痺の原因として,分娩時の胎児低酸素症が原因のものは15%程度にすぎず,70〜80%はそれ以外の原因や分娩前および分娩後に発生するとの認識が一般的となっている。
実際の産科臨床の現場では,分娩中の低酸素の推測目的で胎児心拍数モニタリングが主に行われてきたが,前述のように胎児・新生児脳障害を減少させるには至っていない。これは,胎児・新生児脳障害の原因が多岐にわたることがその原因のひとつであることはもちろんであるが,現在の分娩管理の限界も示していると考えられる。胎児心拍数モニタリングは胎児の体循環の低酸素症の検出を目的としており,胎児脳循環や胎児脳組織酸素化は考慮に入っていない。一方,新生児医学領域では,低酸素だけではなく,低二酸化炭素血症の予防が新生児脳循環のコントロールに重要との認識で一致している。過度の人工呼吸による新生児の低二酸化炭素血症と脳性麻痺の主要原因である脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia:PVL)の発症との関連はよく知られており,現在までに多くの研究がなされてきた。
今回は,上記を踏まえて,われわれの行ってきた分娩中の妊婦に対する臨床研究および妊娠羊や新生仔ラットを用いた動物実験の結果から,胎児脳循環や脳酸素化における二酸化炭素分圧の重要性に着目し,胎児心拍数モニタリングに加えて胎児脳循環を考慮に入れた分娩管理の重要性を提案する。