平成25年1月25,26日に第31回周産期学シンポジウムを,大阪国際会議場グランキューブにて開催させていただきました。連日の晴天で寒気団が来てはいたものの,参加するには本当に気持ちのよい日々でした。今回のテーマ「成熟児のasphyxiaとcerebral palsy」は,大阪の地で竹内徹先生が第6回(胎児仮死および新生児仮死:病因と病態,診断と治療)に開催されてから25年,またわが国で産科医療補償制度が2009年に開始されてから4年を経過し,時を得たテーマとなっていました。
プレコングレスでは松田義雄先生から,産科医療補償制度の概要と原因分析委員会へ持ち込まれた182症例のうち,「出生時にlow pH,low Apgarではなかった脳性麻痺児の検討」が10例披露されました。このうち4例(2.2%)は原因不明であり,今後の更なる研究と解析が必要な症例だと示唆されました。次いで早川昌弘先生が,全国NICU(全出生の約75%に相当)から情報を集めて,2008年出生のHIE症例の詳細な解析が行われ,HIEの発症率は0.35/1,000出生でした。最後に韓国三星メディカルセンターのWon Soon Park教授から,ヒト臍帯血間葉系幹細胞による脳室内出血後・HIE脳病変に対する治療効果の報告があり,特に後者において脳低温療法と幹細胞治療の併用効果が示されました。
本シンポジウム午前の部では,中井章人先生から新生児科側へ「CTGの限界」のわかりやすい解説があり,その後胎児でのHIE予防の3題:母体の脂質栄養特にDHAを多く摂取すること,母体の過換気が胎児脳循環を低下させるが,母体へのCO2投与が胎児脳障害を抑制すること,新生児側からは胎児のプロスタグランディンPDG2が血管内皮細胞障害を予防し脳病変の進行を抑えること,など新しい知見が示されました。次いで,新生児asphyxia/HIEとCPの関係を,1病院で10年間のデータと宮崎県全体のコーホート研究,午後の部として大阪NMCSのデータと名古屋から正常に生まれているのに遅発性に進行性の脳障害例の報告がありました。午後の後半は,HIE急性期での予後予測にMRIと脳波が有用なこと,そして脳低温療法児の長期予後予測におけるMRIの重要性が,そして臍帯血pH,乳酸,BEとApgarスコアの5分値10分値の予後予測における重要性,そして脳内micro dialysisからみた予後が報告されました。ここ10年でHIEの診断と治療に大きな進歩がみられ,いずれ判明してくる治療の限界も合わせて考えさせられる内容でした。一方,今後のHIEの予防・治療の進展を期待させられたシンポジウムでした。
最後に両日合わせて684名という多数の方々にご参加いただき活発な討論が行われたことに,そして今回のシンポジウムを成功裏に導かれたシンポジウム運営委員長の齋藤滋先生と中村友彦先生,並びに運営委員の先生方に心から御礼を申し上げます。
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