周産期学シンポジウム抄録集
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第35回
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シンポジウム午後の部:遺伝学的出生前診断を考える
単一遺伝子疾患に対する着床前診断における倫理・技術・成績における問題とその対策
中林 章
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p. 77-80

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抄録

 緒言

 着床前遺伝子診断(preimplantation genetic diagnosis: PGD)は体外受精を行い胚の一部を生検して遺伝学的に検査する手技であり,1990年にHandysideらが初のPGDをX連鎖性疾患に対して実施して以来1),世界的に普及した。PGDは妊娠成立前の診断であるため,出生前診断で異常と判明した際の精神的ストレスがない一方で,非罹患胚の移植が生命の選択になりかねず,倫理に則した実施が求められる。PGDの種類には,メンデル式遺伝病の保因者に対するPGD,染色体構造異常保因者に対するPGD,染色体異数性スクリーニング(preim-plantation genetic screening: PGS),HLAタイピング適合目的でのPGD,発がん遺伝子保因者に対するPGDなどがあり,その実施状況は各国で異なる。日本においては,1998年に日本産科婦人科学会が「PGDは重篤な遺伝性疾患に限り適用される。見解が異なる可能性があるため,個々に審査する。」との見解を公表した。以後,2004年に日本初のPGDが承認され,2006年に「染色体転座に起因する反復・習慣流産」が対象に加わり,現在2010年に改定された見解(表1)に基づき実施されている。なおPGDにおける重篤な疾患に関しての基準は上記見解内で明記されていないが,2007年の日本産科婦人科学会倫理小委員会では「成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が発現したり,生存が危ぶまれたりする疾患」と解釈されている2)

 診断に際しては,1割球あたりのDNA量が4~10pgと極微量であるため,効率的なDNA抽出法やPCR増幅などに関してこれまで多くの技術開発がなされてきた3‒6)。全ゲノム増幅が可能となった現在は,変異部の解析に加え近傍の遺伝子マーカーの解析も可能となり,診断の幅が広がると同時により精度が高いPGDを提供できるようになった7,8)。PGDにおける技術的制限がなくなりつつある今後は,倫理面での整合性がさらに重要となる。今回,日本のPGDの現状と倫理的課題について概説する。

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© 2017 日本周産期・新生児医学会
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