周産期学シンポジウム抄録集
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第35回
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
序文
  • 光田 信明
    p. 3
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     2017年2月10日(金),11日(土・祝)に,第35回周産期学シンポジウムを大阪市のナレッジキャピタルコングレコンベンションセンターにおいて開催いたしました。1,000名以上の参加者をお迎えし,盛会に終えることができました。皆様方には心より御礼申し上げます。

     プレコングレスでは,周産期学シンポジウム運営委員会・倫理委員会による共同調査報告を理事長和田和子先生に行っていただきました。さらに,教育講演として「NIPTの遺伝カウンセリングにおける課題と展望」を四元淳子先生に行っていただき,これらの報告によって翌日の議論のもととなる命題が共有できました。会長指定講演として「周産期から見つめ直す児童虐待-愛着形成障害の視点から」を友田明美先生にお願いし,“児童虐待”を科学的エビデンスに基づいた最先端の脳科学の立場からご講演いただきました。この結果,今後の周産期医療においては,良好な愛着形成を目指した子育て支援も大きな課題となっていることが示されました。

     プレコングレス後の懇親会は『世界のビール博物館』で行いました。ここにおいても多数のご参加をいただき,交流が深まりました。ありがとうございました。

     今回のメインテーマは『周産期医療における「遺伝」を考える』でした。“遺伝”は本シンポジウムにおいては初めて取り扱うテーマでした。大変大きな課題であるものの,実践的議論が行えるのか不安もありましたが,結果はまったくの杞憂でした。

     午前の部は【18トリソミーを考える】をサブテーマとし,まず初めにシンポジウム運営委員会委員長の板倉敦夫先生より全国調査の結果が報告されました。この調査は周産期専門医指導医のおよそ90%からの回答に基づいており,現時点のわが国の周産期医療の現状を正確に示していると考えられます。医療人個々の倫理感と患者・家族の幸福追求を推し量れる結果でした。この報告を皮切りに,望月純子先生,長瀬寛美先生,加藤英子先生,井深奏司先生に多方面からご発表いただきました。

     ランチョンセミナーは,市塚清健先生,森雅亮先生にご講演いただきました。なお大変盛況であったため,お弁当が不足,お席をご用意できない状況となりましたことをお詫び申し上げます。

     午後の部は【遺伝学的出生前診断を考える】をサブテーマとし,鈴森伸宏先生,池田真理子先生,中林章先生,白土なほ子先生,中村靖先生より多方面からご発表いただきました。

     総合討論におきましては,若手の先生方からも多数のご討議をいただくことができました。関心の高さと見識の深さを感じさせる議論であったと思います。今後の周産期医療における“遺伝”という課題への認識がいっそう深まったことを実感できました。

     本シンポジウムは1年以上の時間をかけて,シンポジウム運営委員会と演者が時にはバトルしながら切磋琢磨して準備するという特徴をもっています。今回もその成果が充分に発揮されたと思います。改めて,関係各位に御礼申し上げます。さらに,学会事務局の皆様,私を支えてくれた多数の方々にも御礼申し上げます。

プレコングレス
  • (周産期学シンポジウム運営委員会と倫理委員会による共同調査から)
    和田 和子
    p. 15-20
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     周産期医療は,生殖,不妊,出生前診断,先天性疾患,未診断疾患等,遺伝医学の知識や経験を必要とする機会が非常に多い医療分野の一つである。近年の臨床遺伝医学の知見,技術の進歩は目覚ましく,従来不可能であった治療を可能にし,また予後を改善した。診断においては,より正確に,より早期に,より非侵襲的な方法で可能となってきている。このような医学の進歩は常に倫理的な問題をはらんでおり,きわめて慎重な対応が求められる。

     特に出生前診断においては,非侵襲的出生前遺伝学的検査(non‒invasive prenatal genetic testing; NIPT)がわが国で行われるようになったことで,一般社会の関心も非常に高まってきた。当学会では,第51回学術集会において,特別企画として「出生前診断と生命倫理~NIPT時代にどう向き合うか」が取り上げられ,医師のみならずさまざまな立場の方たちとの議論が行われた1)。日本医学会のガイドライン2)では,出生前診断にあたっては,遺伝カウンセリングを行うこと,とされている。また,出生後に診断される重篤な疾患にも,遺伝カウンセリングは必要と思われる。

     2016年4月に,日本遺伝カウンセリング学会から,「出生前遺伝カウンセリングに関する提言」が公開された3)。そこには,遺伝カウンセリングの重要性はもとより,一次施設での対応,個別の遺伝カウンセリング内容等も述べられている。さらに,妊娠期のケア体制やグリーフケアまで言及されている。このことは,もはや出生前診断と遺伝カウンセリングが,一部の患者,特定の疾患の枠にとどまらないことを示唆している。一方で,多忙な周産期医療の現場で,どのような遺伝カウンセリング体制がとられているかは明らかでなない。今回の周産期学シンポジウムのテーマが,周産期医療における「遺伝」を考える,であることから,周産期学シンポジウム運営委員会と倫理委員会では,共同研究事業として,重篤な疾患をもつ胎児・新生児として,18トリソミーに対する医療の実態,担当する医師の意識,さらに周産期施設における遺伝カウンセリング体制に関して全国調査を行うこととした。ここでは,遺伝カウンセリング体制に関しての結果を報告する。

  • 四元 淳子
    p. 21-24
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     近年,診断技術の進歩ともに周産期医療における出生前検査の状況は大きく変化しており,現状により適合した遺伝カウンセリングが求められている。

  • ─愛着形成障害の視点から
    友田 明美
    p. 25-31
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     近年,欧米では,チャイルド・マルトリートメント,日本語で「不適切な養育」という考え方が一般化してきた。身体的虐待,性的虐待だけではなく,ネグレクト,心理的虐待を包括した呼称であり,大人の子どもに対する不適切な関わりを意味したより広い観念である。この考え方では,加害の意図の有無は関係なく,子どもにとって有害かどうかだけで判断される。また,明らかに心身に問題が生じていなくても,つまり目立った外傷や精神疾患がなくても,行為自体が不適切であればマルトリートメントと考えられる。こうしたマルトリートメントにより命を落とす子どもがいるという痛ましい事実を,多くの人が知っているだろう。しかし何とか虐待環境を生き延びた子どもたちであっても,他者と愛着を形成するうえで大きな障害を負い,身体的および精神的発達にさまざまな問題を抱えている。そのうえ,児童虐待によって生じる社会的な経費や損失が,2012年度で少なくとも年間1兆6,000億円に上るという試算も発表されている1)。児童虐待が子どもの心に与える影響だけでも重大であることはもちろんだが,その負債は確実にわが国全体を覆いつつある。

     マルトリートメントへの曝露と衝動抑制障害,薬物・アルコール乱用,非社会性パーソナリティ障害,全般性不安障害等を含む精神疾患との関連性は,すでに広く知られている。7万人以上を対象とした疫学調査で,精神疾患は児童虐待に起因することがわかり,児童虐待をなくすと,物質乱用の50%,うつ病の54%,アルコール依存症の65%,自殺企図の67%,静脈注射薬物乱用の78%を減らすことができるという結果が出た2)。これは,医療費の削減にもつながる。

     また,虐待への曝露と薬理的な関係も明らかになっている。被虐待歴がある人は,被虐待歴がない人に比べ,抗不安薬を処方されるリスクが2.1倍,抗うつ薬では2.9倍,向精神薬では10.3倍,気分安定薬では17.3倍であるとされる。さらに,被虐待経験者は,老化のマーカーであるテロメアの侵食がみられ,寿命も平均に比べ20年も短いなど,生物学的な影響もみられている3)

     近年の研究では,前述のような精神疾患の原因の少なくとも一部は,脳の発達段階で負荷がかかることに起因するといわれている。また,その発症には遺伝的要因と,逆境的体験の種類やその被害を受けた時期に関係すると考えられている4, 5)。筆者は米国ハーバード大学との共同研究によって,小児期のマルトリートメント(虐待や厳格体罰)被害経験をもつヒトの脳をMRIを使って可視化し,脳の形態的・機能的な変化を調べた(図1)6─12)

シンポジウム午前の部:18トリソミーを考える
  • (周産期学シンポジウム運営委員会と倫理委員会による共同研究事業)
    板倉 敦夫
    p. 35-41
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     重篤な疾患をもつ新生児への医療は,これまで新生児医療の進歩とともに変化してきた。以前は医療者側の判断のみで治療の差し控えも行われていたが,生命倫理が周産期医療でもクローズアップされるようになり,その治療方針も大きく変化している。2004年に「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」が公表されて以来,遺伝医療に関する指針・見解も発表され,これらの指針を参考にして家族の希望や多職種の医療者での話し合いで,治療方針決定が広がっているものと考える。また多くの産科施設で出生前診断が行われるようになり,重篤な疾患を持つ児への対応について,産科領域の医療者もともに考える必要性が高まっている。

     このような周産期医療を取り巻く環境が変化するなかで,第35回周産期学シンポジウムでは『周産期医療における「遺伝」を考える』と,本シンポジウムではじめて遺伝をメインテーマに掲げて議論することとなった。多くの18トリソミーに関する演題の応募があり,これまで議論が十分でなかったことを裏付けるように,それぞれの施設の医療者が独自に診療していることが感じ取れた。その対応はもちろんのこと,使用している用語なども統一されていなかった。こうした背景から,周産期学シンポジウム運営委員会の調査事業として,全国の周産期施設における診療実態や医療者の意識を調査し,シンポジウムの冒頭に報告することによって,シンポジウムでの議論が深まることを期待した。本稿ではこの調査結果の概要を記載する。

  • 望月 純子
    p. 43-47
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     18トリソミーは生命予後不良な染色体異常症として知られる疾患で,妊娠22週以前に診断されれば妊娠中断を選択することが多く,妊娠22週以降の生存例も積極的な蘇生を差し控え看取る管理が行われてきた1, 2)。近年,一部の罹患新生児に対して手術を含む積極的治療が行われるようになり,周産期管理が変化しつつある3, 4)。家族と医療者が管理方針について話し合う際に児の生命予後は重要な情報の一つであるが,過去の報告では生存日数の中央値が2.5~152日,1カ月生存率は18~83%,1年生存率は0~25%とさまざまである5-8)。その背景には管理方法の差が関与していると推察される。当施設で診断した18トリソミーの児の周産期管理と予後の関連を後方視的に検討した。

  • ~Supportive Careで母児のQOLは向上するのか~
    長瀬 寛美
    p. 49-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     現在,18トリソミー症例への対応は,施設によって異なっているのが現状である。当院では,児が家族と過ごす時間の質の向上に重点をおいた管理方針を提案している。分娩方針は,経腟分娩を提案している。同時に,希望があれば胎児適応の帝王切開も施行している。新生児の治療については,侵襲的な蘇生処置や外科手術は勧めていない。また,2009年以降,18トリソミー症例の母児同室を導入し,家族と児が一緒に過ごす時間の質の向上をはかっている。母児同室症例の出産後の流れを図1に示す。

  • ~多施設共同研究による後方視的検討~
    加藤 英子
    p. 53-56
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     18トリソミーは1960年にEdwardsらが最初に報告した,さまざまな外表・内臓奇形と重度の成長発達遅滞を呈する染色体異常症候群である1)。発症頻度は3,500~8,500に1人で,従来生命予後不良な疾患であるとされてきた2)が,近年18トリソミーに対しても集中治療が行われるようになり,その予後が多様化し大きく変わりつつある。2004年のGrahamらの欧米の小児心疾患登録システムからの心臓手術の有効性に関する報告3)や2006年のKoshoらの新生児集中治療の有効性に関する報告に始まり4),心臓手術や食道閉鎖に対する手術の有効性に関する報告が相次いでいる5-8)。その一方で,極低出生体重児はなお制限された治療を受けており生存率が厳しいとの報告9-10)もあり,同じ18トリソミー児であっても,出生体重や合併症の重症度,治療によって経過も実に多様である。どのような18トリソミー児に対してどこまで集中治療を行うことが最善かということについては医学的にも倫理的にも非常に難しい問題で,普遍的な正解は存在しない。今回,われわれは「児にとっての最善をご家族とお家ですごすこと」と考え,生存退院に関連する因子の検討と在宅医療の実際についての調査を行った。

  • 井深 奏司
    p. 57-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     トリソミー患児には新生児外科の治療対象となる先天性形成異常の合併が多い。従来から外科的治療が行われてきた21トリソミー患児に加え,これまであまり外科的治療が行われてこなかった13,18トリソミー患児に対しても,近年では外科的治療が積極的に検討されるようになってきた。無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing:NIPT)が導入され,トリソミーが妊娠初期から診断可能となる新時代を迎え,トリソミー患児における治療の選択肢を考えるうえで,合併する先天性形成異常に対する外科的治療の治療成績を知ることはきわめて重要と考えられる。

  • 米田 徳子, 臼井 規朗
    p. 63-64
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     この度の周産期学シンポジウム『周産期医療における「遺伝」を考える』午前の部では,近年,施設ごとにその取り組みに大きな差異がある重症染色体異常に焦点を当て,『18トリソミーを考える』と題してシンポジウムを企画した。周産期学シンポジウム運営委員会が実施した遺伝医療に関する全国調査の委員会報告に加え,4つの施設からそれぞれの施設の取り組みや治療成績についてご報告いただいた。

シンポジウム午後の部:遺伝学的出生前診断を考える
  • ~cfDNA解析結果と臨床データの照合解析
    鈴森 伸宏
    p. 67-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     背景と目的

     母体血中への胎児有核細胞の混入していることは,Schmorl Gらが1893年に報告している。その後,100年以上過ぎて,妊婦血液中に胎児DNAが存在して胎児診断が可能であることをLoらは1997年に報告している。2008年ごろに次世代シーケンサーが始まり,多くの遺伝子情報が短時間で解析可能となってきており,母体血液を用いた胎児DNA診断は急速に発展することとなった。

     NIPT(non‒invasive prenatal genetic testing)は,2011年に米国で臨床的に胎児診断として始まり,2013年4月より国内で施設登録制度のもとで開始されている1─3)。母体血中における胎児DNA(fetal fraction: FF)の割合は,母体循環におけるcell‒free DNA(cfDNA)の約8~15%と報告されており,その割合は在胎週数が進むにつれて増加する。NIPTの陽性的中率については,妊婦年齢やトリソミーの種類によってばらつきがあり,今回,NIPTにおける妊娠初期のFFについて解析し,臨床データと統計学的に照合解析して,遺伝カウンセリングする上での重要性について評価することを目的とした3)

  • 池田 真理子
    p. 73-76
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     希少遺伝性難病には,その病態の解明がいまだ進まず,治療法や予防法のない難治性疾患が数多く存在する。その一方で,近年の分子遺伝学の進歩に加え染色体マイクロアレイCGH(comparative genomic hybridization)法や次世代シークエンサーを用いた遺伝学的検査法,解析法の進歩により,原因遺伝子や感受性遺伝子が同定された疾患も増加している。これに伴い希少遺伝性難病に対する出生前診断が今後も普及していく可能性があるが,その実際についての報告は少ない。われわれは,最新の遺伝学的検査技術を用いた出生前診断を行っている。その現状と問題点を明らかにすることを本研究の目的とした。

  • 中林 章
    p. 77-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     着床前遺伝子診断(preimplantation genetic diagnosis: PGD)は体外受精を行い胚の一部を生検して遺伝学的に検査する手技であり,1990年にHandysideらが初のPGDをX連鎖性疾患に対して実施して以来1),世界的に普及した。PGDは妊娠成立前の診断であるため,出生前診断で異常と判明した際の精神的ストレスがない一方で,非罹患胚の移植が生命の選択になりかねず,倫理に則した実施が求められる。PGDの種類には,メンデル式遺伝病の保因者に対するPGD,染色体構造異常保因者に対するPGD,染色体異数性スクリーニング(preim-plantation genetic screening: PGS),HLAタイピング適合目的でのPGD,発がん遺伝子保因者に対するPGDなどがあり,その実施状況は各国で異なる。日本においては,1998年に日本産科婦人科学会が「PGDは重篤な遺伝性疾患に限り適用される。見解が異なる可能性があるため,個々に審査する。」との見解を公表した。以後,2004年に日本初のPGDが承認され,2006年に「染色体転座に起因する反復・習慣流産」が対象に加わり,現在2010年に改定された見解(表1)に基づき実施されている。なおPGDにおける重篤な疾患に関しての基準は上記見解内で明記されていないが,2007年の日本産科婦人科学会倫理小委員会では「成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が発現したり,生存が危ぶまれたりする疾患」と解釈されている2)

     診断に際しては,1割球あたりのDNA量が4~10pgと極微量であるため,効率的なDNA抽出法やPCR増幅などに関してこれまで多くの技術開発がなされてきた3‒6)。全ゲノム増幅が可能となった現在は,変異部の解析に加え近傍の遺伝子マーカーの解析も可能となり,診断の幅が広がると同時により精度が高いPGDを提供できるようになった7,8)。PGDにおける技術的制限がなくなりつつある今後は,倫理面での整合性がさらに重要となる。今回,日本のPGDの現状と倫理的課題について概説する。

  • 白土 なほ子
    p. 81-86
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     出生前検査は,胎児の状態を把握し,妊娠や分娩管理に役立てるためにあり,形態学的な状態を見る精密超音波検査,内的要因を調べる遺伝学的検査がある。出生前検査はネットなどの情報により一定の知識はあるものの,年齢,妊娠経験,不妊治療,経済面,仕事,社会的状況,家族計画などによって疑問や不安をもっている妊婦・家族は多い1‒3)。母体年齢別の出生数の推移をみると,2005年以降,出生年齢のピークが30歳から34歳に変化し,30歳以上の出生数は増加している。2015年度には高年妊婦(35歳以上)が282,159人/1,005,677出産数(28.1%)となった。また,2016年度出生数は98.1万人と100万人を切った4)。晩婚化や第一子の平均出産年齢も上昇(晩産化)している。これらは,女性のこの年齢層における就労率の増加によるところも大きく,これらの社会状況は全体が女性にとってストレスのもととなっている可能性がある。

  • 中村 靖
    p. 87-92
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     わが国は,周産期死亡率,妊産婦死亡率ともに世界有数の低さを誇り,そのことには,洗練された妊婦健診のシステムに代表される妊産婦管理および周産期管理体制が寄与していることは,疑いのない事実である。その一方で,妊婦の高齢化が進むとともに,染色体異常児の出生が増加傾向にあることや,先天性疾患の胎児診断率は必ずしも高くはなく,その発見時期も遅い傾向にあるなど,胎児についての検査・診断体制は,他の先進国に比べて遅れをとっている。

     私たちは,2013年9月に,遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化した医療施設を開設し,通常行われている妊婦健診では十分にカバーしきれていない可能性のある遺伝学的検査や胎児超音波検査を受けることのできる場を提供している。臨床遺伝専門医資格をもつ常勤医2名と,認定遺伝カウンセラー2名を擁するほか,妊娠初期胎児超音波検査のライセンスを取得している非常勤医4名と助産師1名が診療にあたっている。可能なかぎりかかりつけ医と連携し,情報提供を行い,必要に応じて高次医療機関へつなぐ役割を担っている。こういった業務を行うなかで,わが国の現時点での妊婦診療の問題点を整理し,より良い診療に結びつける必要性が実感されるようになった。

  • 村越 毅, 長 和俊
    p. 93-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/03/01
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     第35回の周産期学シンポジウムのメインテーマは「周産期医療における『遺伝』を考える」であり,長い歴史をもつ周産期学シンポジウムのなかでも異色のテーマであった。午後の部は,「遺伝学的出生前診断を考える」をサブテーマに5人の演者の先生方(関連演題を含む)に発表していただき,それぞれの立場から現在の遺伝学的出生前診断についての立ち位置と問題点を提起していただき,会場の参加者も含めて活発な討議が行われた。

     出生前診断という用語を使用して討議を行う場合,必ず用語の統一と定義を行い,議論にぶれが生じないようにしなければならない。医療関係者が用いる「出生前診断」という用語は,そのほとんどが胎児の染色体検査(特に21トリソミー)を指し示すが,産婦人科医が通常使用する「出生前診断」には,通常の超音波検査(形態異常,他児発育など)に加えて,胎児精密超音波検査や,染色体異常に関する母体血清マーカーや遺伝学的超音波検査,確定診断のための侵襲的検査(羊水検査,絨毛検査)なども含まれる。また,生殖医療の分野では,着床前の遺伝学的検査やスクリーニングまでもが含まれる。これらは,技術の発展に伴い,ますます多様化し,高度化してくることが予測される(図1)。一方,技術のみが先行した場合,出生前診断に関わる医師や医療者のみならず,出生前診断を受けるクライアントである妊婦やその家族が情報について行けなくなったり,情報の誤解や曲解など,医療の提供体制や受け手側の活用能力(リテラシー)の不足などさまざまな問題点が浮き彫りになってくるのも事実である。

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