主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム
回次: 4
開催地: 東京都
開催日: 1986/01/18
p. 143-148
I はじめに
妊娠中期における流・早産の管理に際し,前期破水の確定診断は日常の臨床の場にあってしばしば困難である。前期破水の診断にあたり,羊水流出の有無の観察,各種の羊水性状の分析,羊水鏡による卵膜の観察などの方法が繁用されているが,しかし,妊娠中期における破水の診断にあたっては,信頼しうる情報を羊水自体の分析からは得がたく,真羊水の破水においても高位破水との鑑別,また一般に真羊水と仮羊水との判別などに問題が多い。仮羊水の流出(仮羊水破水)であればなんらの治療も必要とされない1)。
しかし,妊娠中期における破水の確定診断が正確になされないと,妊娠を継続すべきかどうかの判断ができず,長期間の入院を患者に強いて臨床経過を観察し,早産治療剤としての子宮収縮抑制剤・抗生物質などを使用していかなければならない。患者に無用な精神的ならびに経済的負担をかけないためにも,特に妊娠中期においては破水の確定診断が重要であることは論をまたない1)。
我々は,羊水鏡検査法を含む従来の破水の診断方法・手順で前期破水を確診しえなかった場合,羊水穿刺による経腹的羊膜腔内色素(PSP)注入法を採択し,高位・低位破水ならびに仮羊水破水の鑑別方法を,妊娠中期における前期破水またはその疑いの症例を対象にして確立しえたので,その臨床経験を報告する。