周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第4回
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はじめに
  • 奥山 和男
    p. 2
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     ここに第4回周産期学会の講演論文集「周産期学シンポジウム No. 4」が発刊されることになった。1984年に本学会創立記念講演集であるNo. 1が刊行されて以来,毎年の学会の講演論文集として刊行され,このシリーズは4冊揃ったことになる。本書を繙くと,周産期学の重要なトピックスについて,小児科側と産科側からそれぞれの専門家によって意見が述べられており,誠に興味深い。本学会は新生児学を専門とする小児科医が胎児医学と胎児管理を知るために,また胎児学を専門とする産科医が新生児学と新生児医療を理解するために,一堂に会してそれぞれの領域の研究成果を発表し,討論するユニークな学会である。本学会も産科と小児科,ならびに関連各科の意見交流の場として定着してきたように思われる。

     第4回日本周産期学会ではシンポジウムのテーマとして「羊水に関する基礎と臨床」,「妊娠中期における前期破水の管理」の2題が選ばれた。これらは研究面でも臨床面でもきわめて重要な課題であり,産科医も小児科医も等しく深い関心を持っているところである。

     胎児環境としての羊水は物理的に胎児を保護しているだけでなく,母体と羊水,羊水と胎児との間に物質の活潑な交換が行われており,羊水の量および成分の異常は胎児の発育に重大な影響を及ぼす。羊水の研究は古くから行われているが,まだ解明されていないことも多く,最近の検査法の進歩によって,いろいろの新しい知見が得られた。本シンポジウムでは羊水の産生循環動態,羊水中の諸物質とその意義,羊水と胎児肺の発育,羊水量の異常と臨床について興味ある研究結果が発表され,活潑な討論が行われた。

     未熟児医療の進歩は極小未熟児,超未熟児のintact survivalをも可能にしたが,胎児にとって子宮内生活は1日でも長いほうが望ましいことはいうまでもない。妊娠中期に前期破水が起こった場合はどうするか,産科医の間でいろいろの議論があり,その取り扱いは胎児の予後に大きな関係があるので,小児科医も注目しているところである。そこで本シンポジウムでは,前期破水の要因と機序,前期破水の診断,前期破水の管理,前期破水と胎児新生児合併症についての研究結果が発表され,意見が交換された。

     昭和61年4月8日から11日まで,第4回アジア・オセアニア周産期学会およびプレコングレスセミナーが前田一雄会長,日本周産期学会主催のもとに東京の高輪プリンスホテルで開催された。海外から約200名,国内から約300名の参加者があって非常な盛会であり,海外の多くの研究者と交流をもつことができて大変有意義であった。これから日本周産期学会がますます発展することを祈ってやまない。

シンポジウム I:羊水に関する基礎と臨床
  • 小川 雄之亮, 桑原 慶紀
    p. 8-9
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     胎児をとりまく羊水は,胎児の子宮内生活に必要不可欠のものであり,古くから注目を集め,次々と興味ある知見が得られてきた。胎児・新生児の臨床を中心とした観点から羊水に関する主な研究業績や知見を眺めた場合,たとえば以下の如きものがあげられよう。

     第1は最も古くから知られているもので,羊水過多に消化管奇形が高頻度に伴うことである。最近では羊水過多の例では超音波断層検査などで奇形の有無が出生前に診断され,生後の対応が変化しつつある。

     第2は羊水の胎児肺内吸引に関する知見である。生理的な状態では胎児の末梢気道には羊水は存在せず,胎児肺自体が産生分泌する肺(胞)液が胎児肺胞を満たしており,これが羊水の一構成成分となっていることが明らかにされている。そして羊水が末梢気道まで吸引されるのは胎児が強い低酸素症に陥り,あえぎ呼吸(gasping respiration)を起こす場合のみであり,これが生後の胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome;MAS)の病因であることが示された。この知見は分娩室における仮死児の処置や対応の改善に大きく役立ち,MASの病状の軽減もしくは予防に貢献している。

     第3は羊水を胎児のwell-beingの判定の試料として用いるようになったことである。染色体異常や先天性代謝異常症の出生前診断はもちろんのこと,胎児の成熟度判定が羊水分析により可能となっている。とくに肺サーファクタントを指標とする肺胎齢(lung age)の推定は臓器胎齢(organ age)判定の代表例であり,生存限界の判定に最重要の指標として今日もっとも広く行われている。

     第4は古くて新しい知見である肺の成長と羊水量の問題である。妊娠中期の破水による羊水過少に伴う肺低形成の発症は,肺の成長に適量の羊水が必要であることを改めて示している。

     以上の例はいずれも臨床の面から興味ある知見のみであり,きわめて断片的なものである。羊水が胎児をとりまくもっとも身近に存在するものであるにもかかわらず,我々が羊水に関する知識はきわめて断片的なものにすぎない。また我々が羊水について系統的な知識を学ぶ機会もきわめて少ない。

     そこで本シンポジウムにおいては,羊水に関する基礎的な知識を整理し,up to dateの全体的な知見を学び,さらに現在臨床上問題となっている点を皆で討議すべく企画された。整理された基礎知識と最新の知見をもとに,今日のトピックスについてホットなディスカッションの交されることを期待したい。

     なお,シンポジストの一人,内藤達男氏が約3週間前に急逝された。本日は共同研究者の山南貞夫氏に内藤氏の遺稿となるデータを急拠おまとめいただき,報告していただくこととした。本シンポジウムでのホットなディスカッションを故人に捧げ,冥福を祈ることとしたい。

  • 桑原 慶紀, 海野 信也
    p. 10-13
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     羊水は胎盤とともに,産科医にとってはきわめて身近な存在であるにもかかわらず,羊水が母体と胎児の間でどのような生理的意義を有しているかは必ずしも明らかになっていない。また,胎児の状態を知るためには,羊水情報はきわめて重要であり貴重であるはずだが,臨床応用は今一歩,立ち遅れていると言わざるをえない。これは,第一に羊水および羊水中諸物質の生理的な意義に関する知見が乏しいためであり,第二に羊水量およびその成分の調節機構に関して不明の点が多いためであると思われる。

     本稿では,羊水の諸成分に関する基礎的臨床的研究を理解するうえで役立つと思われる,羊水の産生循環に関する基本的知見を紹介する。

  • 武谷 雄二, 水野 正彦
    p. 14-19
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     羊水は単に物理的に胎児を外界より保護するのみならず,多種多様なホルモンまたはホルモン様物質を含有していることが知られている。羊水中に検出されるホルモンの由来としては母体,胎盤,卵膜,胎児尿,気道口腔内の分泌物,あるいは胎児皮膚からの漏出などである。羊水中のホルモンの中には単なる尿中への排泄や母児からのtrausudateもあるであろうが,今回は特に胎児発育過程に積極的に関与していると推定されるホルモンに焦点をあてて概説を試みた。

  • 工藤 尚文, 岸本 廉夫, 関 正明, 鵜飼 史貴, 満谷 寛, 川田 昭徳
    p. 20-28
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     今日,血液,尿など生体試料から数多くの臨床化学検査が行われており,それら各検査法を羊水に適用すれば,それぞれ何らかの測定値が得られるはずである。その測定値の中には妊娠週数に伴って増減するもの,変化を示さないものなどがあり,また見方を変えれば母体血の成分を主として反映するものや,胎児血ないし胎児尿成分を反映するものなど種々のものが存在する。

     我々,周産期医学に関係するものにとっては,羊水からの胎児情報として超音波検査などで得られるような胎児形態変化のほかに,胎児の機能的成熟に関する的確な情報を得たいのが切なる願いである。

     今回の日本周産期学会で筆者に与えられたテーマは「羊水中諸物質の動態と胎児発育」であり,本稿では胎児発育とともに変化する羊水中物質についてreviewし,次に現在筆者らが進めている羊水中カテコラミン系物質の妊娠中の変動についての研究の一端を紹介したい。

  • 樋口 誠一
    p. 29-33
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     胎生期の気管支,細気管支そして肺胞はいわゆる肺胞液によって満たされており,これは長い間,吸引された羊水であると信じられてきた。しかし,最近ではこの肺胞液は肺で生成された液体であることが確認されている1)。そしてこの肺胞液は胎児肺の毛細血管から肺胞上皮を経て,肺胞腔へ分泌されたものであり,在胎週数とともに漸増し2),胎児の咽頭を経て,羊水中にその一部が移行するものと考えられている3)

     最近,この肺胞液の分泌はbeta-adrenagic receptorの刺激により,肺胞上皮細胞のレベルで抑制されることが報告されている4)。生理的にはこの肺胞液が分娩時および生後の肺呼吸の開始とともに肺胞腔から消失していくことが証明されており,また臨床的には慢性の胎児仮死を伴うIUGRなどにおいて羊水量の減少があることが知られている。

     さらには,分娩中のストレス5)や胎児の低酸素血症の状態において6),交感神経系の刺激により,catecholamineが上昇することが報告されている。それゆえ,本題においてはcatecholamineのうちでもadrenalineのもつbeta-receptor agonistとしての肺胞液生成抑制効果とは別にalpha-receptor agonistとしてのnoradrenalineの投与が妊娠羊を用いたchronic preparationにおいて,羊胎仔の肺胞液の産生にいかなる影響を及ぼすかを検討すると同時に肺胞液と羊水との関係についても論じてみたい。

  • 犬飼 和久, 鬼頭 秀行, 田中 荘一, 小川 雄之亮
    p. 34-43
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     テーマは羊水と肺の発育であるが,主に羊水過少例にみられる肺低形成を中心に述べたい。長期間にわたり羊水流出が続き,羊水過少に陥ると,Potter's face,肺低形成,子宮内発育遅延(IUGR),四肢の奇形を呈することがあり,Oligohydramnios tetrad(syndrome)と呼ばれている。重症例では,肺低形成ゆえに人工換気療法下でも生後数時間で死亡することもまれではない。未熟児出生予防の観点から陣痛を抑制し,妊娠継続の努力がなされる今日,本症候群の発生は大きな問題である。長期間の羊水流出による羊水過少が原因と思われる肺低形成例やPotter's syndromeにおける肺DNA量を測定するとともに,文献的に羊水過少に伴う肺低形成の発生機序につき検討を加えたい。

  • 原 量宏, 柳原 敏宏, 福岡 秀興, 磯部 健一, 金子 義晴, 神保 利春, 戸谷 拓二
    p. 44-53
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I 緒言

     妊娠経過中に羊水量に異常が認められた場合,児の予後が悪いことは以前からよく知られた事実である。Chamberlainら1), 2)は超音波による羊水の簡易測定法を7,562例について検討し,羊水過少と診断された場合の周産期死亡率は正常例の約40倍近くあり,高度の羊水過多と診断された場合の周産期死亡率は正常の約7倍であると報告している。先天奇形という観点からみると羊水過少群の9.3%に,過多群の4.1%に奇形が認められる。過少群の大部分は腎尿路奇形であり,過多群には消化管奇形のほか,中枢神経系,心臓の奇形などが認められる。このように重要な羊水にもかかわらず,羊水の定量的評価法に関しては一定した見解は得られていないのが現状である。羊水量の定量的測定に関して,以前は羊水腔への色素注入後の希釈度測定が,最近は超音波断層像からの羊水量の評価が試みられている。しかしながら,これら羊水量測定の定量性は明らかでなく,臨床での応用が十分とはいえなかった。本稿では羊水量測定の問題点,特にその定量性について検討し,さらに羊水過少,過多症例の臨床について解説する。

  • 山南 貞夫, 内藤 達男
    p. 54-63
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     羊水が胎児の発育に重要な役割を果たしていることは周知の事実である。なかでも胎児の肺の発育に羊水は不可欠であり,羊水がきわめて少ないか存在しないために肺の発育が阻害され,出生後早期に呼吸障害で死亡する症例は羊水過少症候群とよばれている1, 2)。このような症例の代表として古典的にはPotter症候群が知られている3)。また近年妊娠中期以前に破水し漏出が遷延した胎児における肺の低形成が注目されてきている4, 5)

     羊水過少症侯群は現状では致死的疾患であるとされるが,本シンポジウムでは①Potter症候群を初めとする羊水過少症候群は予想以上に発症頻度の高い疾患ではないか,そうであるとすれば,②このような症例の経験をふまえて,長期生存への可能性を追及できないか,以上について自験例を中心に検討を試みたい。

  • 中村 康寛, 船津 仁之, 森松 稔, 山本 以和彦, 田中 幸男, 福田 清一, 橋本 武夫
    p. 64-68
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     羊水過少に伴う変化として肺低形成が注目されているが,その1つとして特有の顔つき,両腎無形成を伴うPotter症候群の肺病変についてはすでに別紙に報告している1)。今回我々は検索対象をPotter症候群,Potter症候群の非定型例と考えられるもの,腎奇型を伴わないものおよび対照例に拡大し,肺の病理学的および生化学的検索を行ったので報告する。

  • 小川 雄之亮, 桑原 慶紀
    p. 69
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     本シンポジウムにおいては,羊水の産生と循環動態に関する最新の基礎知識,羊水中の成分に関する問題,羊水と胎児肺との関係,羊水量の異常,とくに羊水過少の臨床について7氏に御発表いただき,羊水に関する基礎的知識と最新の知見が整理された。したがって今日まで断片的な知識しか持っていなかった多くの参会者にとっても,整理された系統的な新しい知識の下で臨床に関する問題を同じレべルで討議することが可能になったものと思われる。

     一方,本シンポジウムにおいては,未解決の最重要の問題がクローズアップされた。

     第一は羊水の成分に関する問題で,羊水中の各種ホルモンや,growth factorが胎児の成長・発達にいかに関与しているかである。どのホルモンがどの臓器の成長・発達に関与しているのか,肺におけるglucocorticoidのfibroblast pneumonocyte factor(FPF)を介しての作用発現の如く,各種ホルモンは各種のgrowth factorを介しての作用であるのか否か,羊水中の各種ホルモンやgrowth factorの存在意義と作用機序はきわめて興味あるところであり,今後の解明がまたれる。

     また羊水の成分に関する問題としては,羊水が胎児の消化管に嚥下されるところから,その栄養学的な価値はどの程度のものであるか,胎児の栄養源としての羊水の意義についても今後検討を進められるべきであろう。

     第2は羊水量に関する問題で,羊水過少といえばPotter症候群や破水に伴うものがクローズアップされてはいるものの,臨床の実際にあってはそれ以外の原因不明のものが多いことが改めて強調された。しかし原因が何であれ,羊水過少は児のwell-beingに関して大きなrisk factorの一つであり,羊水量の正確なチェックの方法の開発と,過少羊水での児の肺をはじめとする成熟度判定の正確な方法の確立が急務である。

     数年後再び同じようなタイトルの下でシンポジウムがもたれる機会があるとすれは,その時には今回クローズアップされた未解決の問題がすべて解決され,確立された知見として発表されることを期待したい。

シンポジウム II:妊娠中期における前期破水の管理
  • 武田 佳彦
    p. 72-73
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     討論はシンポジウムの構成に従って,妊娠中期PROMの発症病態,出生児の予後の基礎的背景について討論を行ったのち,PROMの診断,感染対策とくに羊水補充療法を含む治療法,抗生物質投与の意義,子宮収縮抑制の限界など具体的な管理に対する討論を行った。

  • 竹内 徹
    p. 74-75
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     最近は,新生児医療の進歩によって,従来なら死産扱いになる可能性のあった1,000g末満の未熟児でも,十分生存可能となってきた。たとえば,過去4年間,大阪府立母子保健総合医療センターで経験した在胎週数24週から28週末満の早産児は,総数157名,NICU入院患者数の約12%に相当する。生存率は院外・院内出生共に70%以上の好成績である(表1)。このことは出生前後から高度で適切な管理を行えば,たとえ妊娠中期後半で出生しても,24週以後であれば生存率は驚くほど高くなることを示している。したがってたとえ妊娠中期の前期破水であっても,胎児の成熟度を考慮しながらintact survivalをめざして産科と新生児科が共同管理することが不可欠になってきたといえよう。

     本シンポジウムでは,とくにこの妊娠中期に起こったPROM(premature rupture of the membranes)を中心にして,その要因と機序,実際に出生した早産児合併症からみた諸問題およびPROMの臨床的管理について討論する予定である。

  • 寺尾 俊彦, 金山 尚裕
    p. 76-84
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     臨床的に問題の多いpreterm PROMの成因に関しては従来から多くの報告があるが,明確に立証したものはない。それらの多くは,腟頸管からの上行性感染によりchorioamnionitisが発生し,卵膜が脆弱化しPROMが起こるという説である。つまり感染炎症説である。

     そこで腟頸管の炎症がPROMと何らかの因果関係があるか検討した。腟頸管の炎症の指標として腟部びらんの面積を採用した。なぜなら,腟部びらんが存在することは,そこに慢性炎症が存在することが多いからである1)

     そこで妊娠20~30週にコルボスコープにて子宮腟部を撮影し,デジタイザーで面積を計算し,その面積とPROM発生率との関係のprospective studyを行った。結果は図1に示す如くである。ここでいうPROMは,全例termにおいて発生したものである。明らかにびらんの面積とPROM発生に深い因果関係がありそうである。PROMの感染炎症説を十分示唆するものであろう。しかし腟部びらんが存在しない例でもPROMは発生している。これはどのように説明したらよいのであろうか。

     そこで我々は,PROM例において破綻部位周辺の卵膜の組織学的検索を行った(図2)。chorioamnionitisが存在するのも確かに認めるが,一方chorioamnionitisがない卵膜が存在するのも事実である。我々はchorioamnionitisなどのようなメカニズムで卵膜の脆弱化を起こすのか,またchorioamnionitisのない卵膜の脆弱化の原因は何かという疑問に当った。この疑問の解決策としてPROMの卵膜にはそれ自体何らかの変化があるのではないかと考え,生化学的に卵膜を分析してみることにした。また卵膜の主たる抗張力は羊膜にあるので以下羊膜を分析した。

  • 藤村 正哲, 竹内 徹, 今井 史郎, 池沢 孝夫, 中山 雅弘
    p. 85-95
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     早期産は周生期の医療の最も大きな課題のひとつである。低出生体重児は新生児死亡の約60%を占めている。早期産の原因として最も大きいものは,早発陣痛と破水であるが,この両者は密接に結び付いている。主に妊娠中期の早期産を対象として,破水の遷延が新生児に及ぼす影響を検討する。

  • 荻田 幸雄, 今中 基晴, 岡 知子, 松本 雅彦, 島本 雅典, 畠中 謙治, 椿尾 百合子, 鈴木 美智子, 上田 享, 須川 佶
    p. 96-102
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I 緒言

     陣痛の発来以前に卵膜の破綻をきたす前期破水(premature rupture of the membranes:PROM)の成因に関しては今日なお不明な点が少なくない。しかしながら,早産の未破水例羊水中から細菌が検出されること1, 2), tocolysis無効例ではsilent chorioamnionitisが多く認められること3, 4)から破水の原因として感染が俄然有力な病因として浮かび上がってきた。

     PROM発症後も臨床的に最も大きな問題は上行感染であり,感染対策の効果如何が妊娠維持期間,および新生児予後を決定する要因となっている。

     このようにPROMと感染は,発症後はいうまでもなく発症以前においても重視されるが,待期に際して破膜部位からの羊水の流出も児の発育,特に肺,四肢の発逹に好ましからざる影響を及ぼし得ることから5),従来よりPROMの管理方針は積極的娩出策,あるいは待期策など相反する方針が採られてきた。しかし,いずれの論者でも実地臨床においては症例ごとに治療方針は異なり,その採択基準は発症週数,子宮収縮,あるいは感染徴候による。

     胎児にとって子宮は最適の保育器である。したがって,もしPROM管理に伴う臨床的問題点が解決できれば,児の成熟を待って娩出を計ることが可能となる。

     そこで我々は感染と羊水流出の予防を目的とした子宮頸管留置カテーテル6)(プロムフェンス®, 住友ベークライト社製)を用いて,羊水分析によって児の成熟度を逐日的に把握しつつ,少なくとも児肺機能が成熟するまで積極的に管理する方法を設定するとともに,その臨床面における有用性を検討してみた。

  • 千村 哲朗
    p. 103-114
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     Preterm premature rupture of the membranes(PPROM)の成因と臨床管理に関しては,近年周産期医学の領域で多くの話題を提供しつつあるが,その病因論に関しても細菌感染,特に下部性器よりの上行感染によるchorioamnionitis(CAM)との関連性が注目されるに至った。

     またPPROMの管理においても,その診断,薬物療法,娩出時期の決定,新生児管理の面で多くの間題点を有し,特に妊娠32週前のPROMの管理では基本的方針は理解できても,実際の管理にあたっては未解決の分野が多く残されている。

     最近,CAMと切迫早産,PROM発生との関連性が注目され,またtocolysisの有用性と感染の影響の問題が注目されているが,ここでは,PPROMの臨床的parameterの分析と,細菌学的検討,その管理面からtocolytic agentsの効果,さらにはPPROMへの抗菌化学療法の有用性について述べたい。

  • 岸本 圭司
    p. 115-124
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I 緒言

     前期破水(以下PROM)の管理は各人,各施設によって異なっているのが現状であり,またその施設の診療の事情や医療成績によって異なるのが当然である。PROMの管理において,特に在胎28週未満のPROMにおいては,肺の未熟を含む高度の未熟性と母体あるいは胎児の感染や肺低形成とは二律背反の関係にあることを考えなくてはならない。

     従米PROMの管理においては肺成熟と感染の問題1)が主であったが,近年周産期医療の全般的向上により破水した時点で娩出しても生存する可能性がないとか,後遺症なき生存が十分可能と言えないような非常に妊娠早期の破水も問題となってきたり,人工サーファクタントの開発によりRDS児の出生は絶体に回避しなければならないかどうかの問題も再検討の時期であると考えられる。

     今回は以上の考えをもととして,感染を起こさないように母体をコントロールし,胎児の成熟を得る方法で診療してきた結果をもととして,妊娠中期のPROMの感染予防対策と分娩時期の決定法について,主として新生児の予後から検討して述べ,また我々の前期破水管理マニュアルについても述べた。

  • 岩崎 孝一, 菊池 三郎
    p. 125-129
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     元来,羊水は無菌であると考えられていたが,1959年,Blanc1)がAmmiotic infection syndromeという概念に基づいて羊水感染とそれに伴う胎児の感染について発表した。また同年,Bernischke2)らが卵膜と子宮壁の間より上行性に感染が進行し羊水感染を起こし得ると論じ,破水は羊水感染の絶対条件ではないと考えられるようになった。また,切迫早産の原因として羊水内感染が考えられたり,β2—刺激剤が無効な切迫早産例は羊水内感染に由来すると主張するものもある。一方,1984年,Galask3)は電顕を用い実験的にGBSとE. Coliが卵膜を通過し児に付着し得ることを証明した。

  • 巽 英樹, 吉田 耕太郎, 西島 正博, 島田 信宏, 新井 正夫
    p. 130-136
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     妊娠中期の前期破水の管理法は,いまだ一定の基準はないものの待期療法が主流と考えられ,最近では頸管内留置カテーテルを用いた積極的待期管理や,また逆に子宮収縮抑制剤,ステロイドなどを用いないexpectant managementのような管理法もみられている。しかし現在多くの施設では予防的抗生物質,子宮収縮抑制剤,case by caseによりステロイドの投与を行いながら待期する保存的管理を行っていると考えられ,今回当院における待期保存療法の成績とともに,管理成績からみた今後の前期破水の管理対策について文献的考察を加え報告する。

  • 平野 秀人, 津田 晃, 佐藤 宏和, 遠藤 隆, 樋口 誠一, 真木 正博
    p. 137-142
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I 緒言

     preterm premature rupture of the membrane(以下PROMと略す),特に極小未熟児以下の未熟児,呼吸障害児出生の可能性の高い妊娠32週未満の管理方法は,産科の永年の課題となっている。すなわち,母児の感染と児の未熟性,呼吸障害発生のバランス上,分娩に踏み切るタイミングが問題になるわけである。今回我々は,妊娠32週未満のPROMの管理方法として頸管縫縮術の是非と分娩のタイミングに関して検討したので報告する。

  • 藤本 征一郎
    p. 143-148
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
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     I はじめに

     妊娠中期における流・早産の管理に際し,前期破水の確定診断は日常の臨床の場にあってしばしば困難である。前期破水の診断にあたり,羊水流出の有無の観察,各種の羊水性状の分析,羊水鏡による卵膜の観察などの方法が繁用されているが,しかし,妊娠中期における破水の診断にあたっては,信頼しうる情報を羊水自体の分析からは得がたく,真羊水の破水においても高位破水との鑑別,また一般に真羊水と仮羊水との判別などに問題が多い。仮羊水の流出(仮羊水破水)であればなんらの治療も必要とされない1)

     しかし,妊娠中期における破水の確定診断が正確になされないと,妊娠を継続すべきかどうかの判断ができず,長期間の入院を患者に強いて臨床経過を観察し,早産治療剤としての子宮収縮抑制剤・抗生物質などを使用していかなければならない。患者に無用な精神的ならびに経済的負担をかけないためにも,特に妊娠中期においては破水の確定診断が重要であることは論をまたない1)

     我々は,羊水鏡検査法を含む従来の破水の診断方法・手順で前期破水を確診しえなかった場合,羊水穿刺による経腹的羊膜腔内色素(PSP)注入法を採択し,高位・低位破水ならびに仮羊水破水の鑑別方法を,妊娠中期における前期破水またはその疑いの症例を対象にして確立しえたので,その臨床経験を報告する。

  • 竹内 徹
    p. 149-150
    発行日: 1986年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     今回のシンポジウムでは,PROM(premature rupture of the membranes)を,とくに妊娠中期に限定して討論したところに意義がある。それは,一般に妊娠後期においては,破水から分娩までの時間が遷延すれば,それだけ感染の機会が多くなると考えられてきたが,妊娠中期では明らかに違ってくる点であろう。すなわち同じPROMでも,単に子宮内の感染が先行し,羊膜の脆弱性が生じ破水に至ると考えられる場合と,内因的な病態,すなわち羊膜のコラーゲン(III型)が減少し,羊水中のtrypsm inhibitorが減少してくるような羊膜のintegrityが失われる場合とが考えられることである。また胎盤病理からみると,妊娠中期では,胎盤の炎症性変化の強いものほど,早く分娩にいたることが明らかにされているが,それがchemicalな炎症病変なのか,感染症によるのかは,現在なお共通した所見が得られていない。したがって,妊娠中期の前期破水の発生機序に関しては,胎児側(たとえば尿中のトリプシン抑制物質の低下を引き起こす内的環境)に求めるか,上行性または他のルートによる感染症によるかは,さらに今後の検討を待たなければならないであろう。

     新生児側からPROMをみた場合,PROMの発生機序に多くの要因があるのと同様に,必ずしも同質の対象をみているのではないことも明らかである。破水から分娩までの時間からみて,出生後,感染症を証明する各種検査所見とに明らかな相関は認められず,なかでも敗血症・髄膜炎の発生,さらに児の生命予後とも相関しなかったという報告が行われた。ただこの場合でも妊娠週数の短いものほど羊膜炎のあるものが多く,PROMと羊膜炎とには相関を認めている。このことは,感染があっても,細菌の種類と感染時期,抗生剤投与の有無,胎盤の感染防御機能などによって,病像の度合いを変容させていく可能性があるのかもしれない。

第4回アジア・オセアニア周産期学会開催報告
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