主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム
回次: 8
開催地: 大阪府
開催日: 1990/01/20
p. 46-51
I 要約
高知県はATLのendemic areaの一つであり,その予防対策が強く望まれていた。そこで,1987年7月より高知県保健環境部と高知医科大学産科婦人科学教室の協力のもとにいわゆる「高知方式」と呼ばれるATL母子感染防止事業を開始した。この「高知方式」の特徴は,県下一斉に実施した場合に生じうる社会的混乱を回避するために,まず献血でのATLA抗体が5%以上と高率であった地域をモデル地区とし,その地区を担当する産科医が統一的対応をして事業を実施した。
3,774例の妊婦を検査し,109例がATLキャリア(2.9%)であり,そのうち分娩が終了した81例中77例(95.1%)が人工乳哺育であった。この高い人工乳哺育率は対応した医師が統一的説明を行った「高知方式」の成果と考えられ,しかも,キャリアならびに家族との間に問題を生じることもなかった。しかし,人工乳のみで哺育し,1年以上フォローできた31例中3例(9.7%)の児が抗体陰転後再陽性となり垂直感染した。このことより,人工乳哺育のみではATLの母子感染を完全に予防することは困難であることが示唆された。妊婦でのATLA抗体スクリーニング法としては,抗体吸収率を併用した免疫酵素抗体法(EIA法)(カットオフインデックス:2以上あるいは抗体吸収率60%以上)が特異性が高く偽陽性も少なく有用と考えられた。