周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第8回
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
はじめに
  • 一條 元彦
    p. 3
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     日本周産期学会は,時代の最先端を行く学問領域から1~2題を選択して,演者を公募し,シンポジウムならびにその関連演題の形で,深く,鋭く討議して来た。したがって日本周産期学会はディスカッションの新鮮味が売りものであり,今日多くの会員の自負心を育てるに至っている。

     なお,日本周産期学会は世界最初の試みとして1991年11月5~8日に第1回International congress of perinatal medicineを東京において開催するため目下準備中である。会長には本会発足の生みの親であり,本会の顧問,かつ日本母性保護医協会会長である坂元正一先生をお願いした。

     さて,第8回日本周産期学会は1990年1月20日大阪国際交流センターで開催されたが,そのメインテーマは,

     ATL

     先天性横隔膜ヘルニア

     の2題であった。

     ATLは高月清熊本大学教授が発見し,その発症原因ウイルスを日沼頼夫京大名誉教授が解明し,私が母乳感染説を提唱した疾患である。地球上何故か日本に特段に多発する極めて予後不良の国民病である。治療法が見出されていない現状では,母乳を中止してウイルス感染を防御する以外に有効な手立てがない疾患でもある。しかし,母乳を遮断することについては産婦人科医,小児科医,相互の考え方に依然隔壁があり,これらを整理する時期である。

     一方,先天性横隔膜ヘルニアについては,積極的手術論と待機的手術論の対立意見がある。また本症に伴う肺低形成が原因なのか結果なのか,病理論の論争も多大の興味がある。予後不良の本症も胎児診断技術の進歩にょって出生前に診断され,早期より管理プログラムが始動し得るようになった。

     以上の周産期学会の,今日的重要性をもつ2テーマの討議内容が,多彩な論旨と豊富な図・表の構成で,本書に掲載される次第であるが,御愛読を賜れば誠に幸である。

シンポジウム A:ATL
  • 一條 元彦, 植田 浩司
    p. 9-12
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     このシンポジウムを始める前に,ATLならびにHTLV-Iウイルス感染症について基本的な理解を得ておきたいと考える。

  • 土居 浩
    p. 14-18
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     成人T細胞白血病(adult T cell leukemia;ATL)1)の原因ウイルスであるHTLV-I2, 3)が母子感染を起こすことは疫学的に証明されており4),動物実験などからその主経路が母乳感染であることが強く疑われている5~8)。われわれは母乳感染を確認するため,1985年6月より,薬剤にて母乳を止め人工栄養を行う介入試験をvolunteer studyとして開始した。介入試験は1987年8月1日以降はATL prevention program, Nagasaki 1987, APP, Nagasaki 1987として長崎県全県下に拡大されている。volunteer studyに参加した小児が3歳に達し経過観察期間が終了するには,いましばらくの時間が必要であるが,本稿ではその途中経過とAPP, Nagasaki 1987の追跡調査の現況について報告する。

  • 沖 利貴, 永田 行博
    p. 19-26
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     HTLV-I (human T cell lymphotropic virus type I)は成人T細胞白血病adult T cell leukemia(ATL)の病因であり,HAM(HTLV-I associatesd myelopathy)1)を代表とするHTLV-I関連疾患群との関係も指摘されている。HTLV-Iの自然感染経路としては母乳などを介する母児感染,精液を介する男性から女性への男女間感染,輸血などによる医原性感染などが存在する。このなかで母児感染が次世代でのATL発症に深く関与しておリ,現在までのところ子宮内感染や産道感染の可能性も否定できないものの,その主な感染経路は母乳であると考えられている2, 3)

     このため母児感染予防法として母乳の遮断が一般的に実施されているが,母児感染での児のキャリア化に関しても一様でなく,また母乳哺育がもたらすさまざまな利点や妊婦を取り巻く問題などを考慮すると,その取リ扱いには多くの問題を抱えているように思われる。鹿児島県を含め南九州はATLの多発地域であるため,妊婦のHTLV-Iキャリア数も多く,HTLV-Iの母児感染の問題については,キャリア妊婦への告知を初めとして多くの問題を抱えている。

     われわれは関連12施設の協力を得て,妊婦のHTLV-I抗体スクリーニングおよび出生児の追跡を行いすでに報告しているが4, 5),今回は一般妊婦およびキャリア褥婦の意識調査の結果や,南九州における母児感染の実態をもとに,児栄養法を含めたキャリア妊婦の取リ扱い方針について述べる。

  • 安藤 良弥
    p. 27-35
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     human T lymphotropic virus type-I1)(以下HTLV-Iと略す)が,ATL患者の末梢血リンパ球と臍帯血リンパ球との混合培養により樹立された細胞株MT-12)より発見され,このウイルスの感染が成人T細胞白血病(ATL)3)発症の原因であることが,疾病疫学的に証明された。一般には,このHTLV-Iに感染することにより,感染者血清には抗HTLV-I抗体4)が認められるようになり,HTLV-I感染者の検索は,この抗体の有無を知ることによりなされている。一方,このHTLV-I感染が生起した個人が,すべてATLを発症するわけではなく,ATL患者はHTLV-I感染者(以下HTLV-Iキャリアとする)のごく一部の人のみが,リンパ球の異常増殖,生体物質であるサイトカインの異常産生を基本とした免疫機能の異常を惹起し,ATLという疾患に至るものであることは,疫学的研究がこれを証明している。すなわち,ATL患者を中心としたHTLV-Iキャリアの存在を家系樹により検索した結果5, 6)では,家族内に多くのHTLV-Iキャリアを擁していることが示され,またこのウイルスの感染様態が家族内においても極めて濃厚な接触を有する間でのみ発生していることが示されている。この家系樹によりHTLV-I感染には,母児感染とともに夫婦間感染(多くは男性から女性への)が主たるものであることが証明されている。

  • 前田 真, 住本 和博, 寺尾 俊彦
    p. 36-44
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     妊婦のHTLV-Iスクリーニング検査には,主にATLA抗体検出法であるゼラチン凝集法(PA法)と酵素抗体法(EIA法)のいずれかが用いられているが,さらに,最近では新たな方法も開発されており,現在,その検査法には複数のものが存在している。しかしながら,いずれの検査法も確実な方法ではなく,false positive, false negativeの問題も含めて,その結果判定に苦慮しているのが現状であろう。特に妊婦スクリーニングの場合,献血者スクリーニングと異なり告知が必要となるため,false positive, すなわち偽陽性は極力避けなければならない。

     そこでまず,静岡県における妊婦ATLA抗体スクリーニング成績の検討により,検査法による陽性率の差,偽陽性の問題さらには二次試験の必要性などについて検討し,さらにスクリーニングにより得られた陽性検体について,現在最も多く使用されている検査法を中心に,false positiveを避ける立場からの最適な検査方式と確実な判定基準を設定することを目的として,ウェスタンブロット法(WB法)と蛍光抗体法(IF法)による検討を行った。

  • 久保 隆彦
    p. 46-51
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     I 要約

     高知県はATLのendemic areaの一つであり,その予防対策が強く望まれていた。そこで,1987年7月より高知県保健環境部と高知医科大学産科婦人科学教室の協力のもとにいわゆる「高知方式」と呼ばれるATL母子感染防止事業を開始した。この「高知方式」の特徴は,県下一斉に実施した場合に生じうる社会的混乱を回避するために,まず献血でのATLA抗体が5%以上と高率であった地域をモデル地区とし,その地区を担当する産科医が統一的対応をして事業を実施した。

     3,774例の妊婦を検査し,109例がATLキャリア(2.9%)であり,そのうち分娩が終了した81例中77例(95.1%)が人工乳哺育であった。この高い人工乳哺育率は対応した医師が統一的説明を行った「高知方式」の成果と考えられ,しかも,キャリアならびに家族との間に問題を生じることもなかった。しかし,人工乳のみで哺育し,1年以上フォローできた31例中3例(9.7%)の児が抗体陰転後再陽性となり垂直感染した。このことより,人工乳哺育のみではATLの母子感染を完全に予防することは困難であることが示唆された。妊婦でのATLA抗体スクリーニング法としては,抗体吸収率を併用した免疫酵素抗体法(EIA法)(カットオフインデックス:2以上あるいは抗体吸収率60%以上)が特異性が高く偽陽性も少なく有用と考えられた。

  • 渡邊 徹, 千田 大作, 三科 潤, 柳田 昌彦
    p. 53-62
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     抗HTLV-I抗体測定の一次検査として施行されているPA法,EIA法は偽陽性や,まれには偽陰性の問題があり,二次検査として用いられているWB法でもbandの非特異反応の可能性がある。そのために一次検査法間での結果解離,二次検査法間での結果解離,一次検査法陰性二次検査法陽性などのgray zoneを生じる。われわれは妊婦の-20℃凍結保存血清を用いて,これらの問題を検討したので報告する。

  • 川田 晃
    p. 64-70
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     HTLV-Iの母乳を介する母児感染の実態が明らかとなるに従い,母児感染予防が叫ばれるようになってきた1~4)。しかし,HTLV-Iキャリア妊婦の診断という最も肝心な部分で,確立された検査法があるのか?というと,数種の検査結果から総合的に判断せざるをえないという点が指摘される。さらに,母児感染予防処置を行う場合に,妊婦への告知という問題をクリアしなければならない。予防の意義を説明しようとすれば,成人T細胞白血病について触れざるをえず,下手な説明をすれば,癌の告知と受け取られかねない。

     その上に母乳からの感染率は諸家の報告によれば30~50%5, 6)と,HBe抗原陽性妊婦からの母児感染率と比べてもかなりの低率である。また,万が一キャリアとなった場合,そのキャリアからのATLL発症率も,その人の生涯発症率で換算しても5%内外と,決して高率ではない。

     さらに最大の問題点は,キャリアからの発症を予防する方法も,いったん発症した場合の治療法もないことである。

     このように発症頻度も低く,治療法もない疾患のウイルスキャリアであることを告知したうえで,さらに母乳のメリットまで奪うことに批判があるのも事実である。

     しかし,一方では,治療法がないからこそ唯一の予防法である母乳介入こそ必要であるという考え方も成り立つのである。

     以上の問題点を踏まえてわれわれの検索結果を述べてみたい。

  • 一條 元彦, 植田 浩司
    p. 71-73
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     本シンポジウムの焦点となったのは,HTLV-Iキャリア妊婦の管理とインフォームド・コンセントである。この辺を中心に司会者のまとめを記述してみたい。

シンポジウム B:先天性横隔膜ヘルニア
  • 小川 雄之亮
    p. 77-78
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     周産期医療に携わる者や小児外科医にはCDHと略称で呼ばれることの多い先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia)は,新生児期に緊急手術を必要とする代表的な疾患であるが,同時に今日なお予後不良な疾患の代表例でもある。

     近年の周産期医療,小児外科の長足の進歩にもかかわらず,CDHの予後に関して施設による差が激しかったり,あるいは同一施設においても時期による差がみられたりする事実は,施設によりあるいは時期により対象となっている例の病態が大きく異なることが考えられている。すなわちCDHに伴う肺低形成の程度がその予後に大きく影響しているのであり,今や肺低形成抜きにCDHを語ることはできない。

  • 橋都 浩平
    p. 79-81
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     日本小児外科学会では,ほぼ5年に一度ずつ,全国の主な施設にアンケート調査を行い,新生児外科疾患の成績を集計している。当然のことながら,調査を行うたびに成績が向上しており,わが国における新生児外科の進歩に目を見はらされる。

     ところが,この中にあって,唯一死亡率が上昇している疾患がある。これが先天性横隔膜ヘルニアである(図1)。これは奇妙なことのようにも思えるが,それなりの要因は考察することができる。

  • 中村 康寛, 橋本 武夫, 福田 清一, 山本 以和彦
    p. 82-87
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     肺低形成は不完全な肺の発育と定義されるが,その判定基準としてはまだ確定したものはなく,肺重量,肺重量/体重比,肺容量,DNA定量値,Radial alveolar count,総肺胞数などが指標として使われている1~4)。肺低形成は種々の疾患,たとえば羊水過少,骨格系の奇形などに伴ってみられることが多い5, 6)

     横隔膜ヘルニアの際にも肺低形成は重要な合併症としてしばしば重症の呼吸不全の原因となる。この肺低形成は通常ヘルニア側にみられるが,反対側にも程度の差はあれ,みられることが多い。その特徴として,気管支分岐不全,気管支軟骨の異常,総肺胞数の減少などが報告されているが7~9),肺細葉の発育に関しては異なった見解が報告されている。すなわち,ヘルニア側と反対側とで形態的発育に差がないとするもの10, 11), ヘルニア側で形態的な肺細葉の発育遅延があるとするもの12),形態的のみならず生化学的にも発育遅延があるとするものである13)。そこで,われわれは横隔膜ヘルニアの病理解剖例の肺の発育,主として肺細葉の発育を形態学的および生化学的に検討した。

  • 加藤 哲夫, 吉野 裕顕, 村越 孝次, 蛇口 達造, 小山 研二
    p. 89-96
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     新生児外科疾患の治療成績向上には目をみはるものがあるが,その中で先天性横隔膜ヘルニアのみは例外で救命率はいまだに低い状況にある。その主たる要因は本症に随伴する肺低形成であり,高度肺低形成例の治療は困難を極めおのずと救命にも限界があるものと思われる。すなわち肺低形成の程度こそ本症の予後決定因子といっても差し支えないのであるが,本症の肺低形成の本態に関しては必ずしも明確にはされていない1~10)

     肺低形成とは一般に肺容積の小さいこと,気管系および肺動脈の未熟性と理解されており,肺細葉,末梢気腔レベルの未熟性については意見の分かれるところであった。

     今回,本症における肺細葉,末梢気腔レベルの組織計測および肺動脈系の三次元再構築を行う機会を得,新たな知見を得たので若干の考察を加え報告したい。

  • 中尾 嘉孝, 植木 礼子, 中尾 康子, 浦谷 衛, 古川 学, 高橋 哲哉
    p. 98-108
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     各種先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia;CDH)のうち新生児外科領域で特に注目されているのは,Bochdalek型CDH(以下BDHと略す)である。その理由として,BDH患児には患側肺はもとより健側肺にも高度の低形成が存在することがあり,そのような場合には,現在の高度な新生児医療技術で対処しても患児の救命率が改善されない点が指摘されよう。

     BDH児に認められるこの肺低形成の発生病理に関しては,胎齢10週目頃,それまでは生理的ヘルニア状態にあった中腸が腹腔内に還納する際に腹腔内圧が上昇し,もしその時点で胎芽性横隔膜形成の最終過程である胸膜腹膜管(pleuroperitoneal canal;PPC)の閉鎖が遅れていれば,その閉鎖不全部を通じて胸腔に移動した腹部臓器が発育途上の肺を連続的に圧排する結果生じる続発的な現象であると考えられている。しかし,この肺低形成続発説の是非も含めて,BDHの発生原因は完全に解明されてはいない。

     われわれは,BDH発生の機序の究明と,BDHに随伴する肺低形成の真の病因を追求する目的で,薬物を用いてCDH誘発実験モデルを開発し,すでに発表した1~6)。本稿では,著者らが開発した各種CDHの誘発法について紹介するとともに,本モデルを用いた自験データに基づいてBDHと肺低形成との成因的相互関係について述べる。

  • 鎌田 振吉, 長谷川 利路, 石川 士郎, 奥山 宏臣, 窪田 昭男, 福澤 正洋, 井村 賢治, 岡田 正, 高木 哲, 谷沢 修, 神崎 ...
    p. 109-115
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     先天性横隔膜ヘルニア(以下本症)は小児外科の最重症疾患であり,殊に生後24時間以内に発症する症例の予後は不良とされてきた。一方,近年の胎児超音波検査の進歩・普及により出生前診断される本症例が増加してきたが,早期診断・治療による治療成績向上の期待も空しく,諸家の報告では胎児期に診断される胎児横隔膜ヘルニアはしばしば重篤な肺低形成を合併し,その治療成績は不良とされている。われわれは胎児症例のわが国最初の救命例を得て以来1),その病態と周産期管理につき検討を続けており,若干の知見を述べる。

  • 長屋 昌宏, 津田 峰行, 江崎 正和, 村橋 修, 西川 宰, 二村 眞秀
    p. 117-124
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia;CDH)の治療成績は近年の新生児医療の充実の中にあってなお満足できていない。その主たる理由は,患児が同時に持ちあわす肺の低形成による換気障害という病態を克服できないこともさることながら,胎児循環の持続(persistent fetal circulation;PFC)という独特な病態の発見1)とその管理法の開発が遅れたところにある。しかしながら,過去十数年間におけるこの方面での研究は著しく,人工換気法の工夫2)に始まり,種々な薬物療法の導入3),そしてごく最近では人工肺を用いた体外循環法(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)の応用4)などによって治療成績に改善が認められてきた。私どもも十数年前からこの疾患に注目し多方面から検討を加えているので5~7),現時点における管理法を中心に報告する。

  • ―HFOを用いた積極的待機手術― 病理学的および呼吸生理学的研究よりの検討
    田村 正徳
    p. 125-136
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     緒言

     近年の新生児領域における呼吸管理法や小児外科治療の進歩にもかかわらず,生直後より人工換気療法を必要とする重篤な先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia;以下CDH)の死亡率は50%以上と高く,最近15年間でほとんど改善がみられていない1~3)。CDHの最も重要な死因は,胎児循環遺残(persistent fetal circulation;以下PFC)による低酸素血症であると考えられている。

     本論で筆者は,生後2時間以内に人工換気療法を必要としたCDHにおける,①肺低形成の定量的評価と,②外科治療が呼吸機能に及ぼす影響の解析を試みたうえで,宮坂,中條らにより提唱されている“積極的待機手術”4~6)の妥当性と問題点について検討を加えてみた。

  • 関 和男, 川上 義, 赤松 洋
    p. 137-143
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     生後早期に,特に生後18時間から24時間以内に発症する先天性横隔膜ヘルニアは重篤で肺低形成,PFCの発症が多く管理に非常に難渋する予後の悪い疾患である。われわれは宮坂ら1)の提唱した生直後の循環系の不安定な時期を避け,PFCの起きにくい時期まで待つ待機手術を方針としており,この成績を述べる。

     待機手術以前の成績

     1976年から1986年(以下前期とする)の新生児横隔膜ヘルニア症例は表1に示すごとくであり,10例が術前の人工換気を要し入院後平均4.3時間に根治術を受け7例が死亡している。前期の治療方針は入院後手術体制が整った時点で緊急手術を行うものだった。これらの例ではいわゆるhoneymoon periodの後のPFCの管理は困難だった。

  • ―横隔膜ヘルニアの肺低形成は臍帯ヘルニア形成で防ぐことが可能か?―
    水田 祥代
    p. 145-151
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     多くの小児外科的疾患の治療成績が著しく向上した今日においても,生後早期に手術が行われる横隔膜ヘルニアの救命率は低い1~3)。近年の産科領域における超音波診断の普及により,本症の多くが出生前に診断可能となったが4~6),出生前診断が行われ,理想的な条件下での出産―手術が施行された94例の集計でも80%が死亡し,そのうち51%が術中術後死亡であったと報告されている5)

     本症治療上の重要なポイントは本症の病態の中心をなす肺の低形成と胎児循環の再開への対策である。なかでも肺低形成の原因は,胸腔内へ侵入した腹腔臓器による圧迫と考えられており,これをいかに早期に取り除くことができるかということが予後を左右する大きな因子とされている。近年の胎児治療の進歩とともに,これら肺低形成に対して,胎内での修復が注目されているが,その方法として,ヘルニアの修復,あるいは腹壁破裂の形成によって胸腔内圧を滅圧させることがあげられる7~15)。本当にそれで肺の成熟を回復できるのであろうか? われわれは横隔膜ヘルニアと臍帯ヘルニアを合併していた症例を3例経験しており,本稿では横隔膜ヘルニアの自験例の病態および治療成績を述べるとともに,臍帯ヘルニアを併発した横隔膜ヘルニアの3例について肺の発育がどのような影響を受けたかを検討した。

  • 小川 雄之亮
    p. 153-154
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     先天性横隔膜ヘルニアには,合併する肺低形成を含めての実験動物モデル,予後を左右する肺低形成の程度の判定法,出生後の重症度の判定法,手術時期,合併する持続性肺高血圧の治療法,など今日なお問題は多い。

     本シンポジウムでは,先天性横隔膜ヘルニアあるいは肺低形成に造詣の深い5名の病理学者,発生学者,小児科医,小児外科医の方々に各々の問題点についてup to dateの知見を紹介していただき,さらに問題解決の方策について学際的な点を含めて討議を進めていただいた。

     先天性横隔膜ヘルニアに合併する肺低形成については,除草剤母体投与による動物実験では横隔膜ヘルニアそのものが肺低形成の成因とは限らないとの知見が明確に示され,さらにこれを支持するexperiment in natureの臨床例も関連演題として報告された。特に他の奇形を合併する例ではこの動物実験における成因と共通するものがあるかもしれず,今後のこの方面での研究が待たれよう。

     肺低形成の程度の評価については,実験的な方法はほとんど確立しつつあるようであるが,成長のみでなく発達(成熟)の遅延している例もみられるようで,剖検例や実験動物胎仔においても,胎齢相当の成長と発達の両者が平行して認められるかどうかの確認が重要であると強調された。したがって,今後は同胎齢の例についての比較で話が進められるべきであろう。

  • 橋都 浩平
    p. 155-156
    発行日: 1990年
    公開日: 2024/05/07
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     シンポジウムの内容を,発表者ごとではなく,項目ごとにまとめてみよう。

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