女性心身医学
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研究報告
10名の妊産婦の不安と唾液オキシトシン量の変化における縦断的調査
鷲尾 弘枝
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2021 年 26 巻 2 号 p. 180-188

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抄録

2019年12月に,「母子保健法の一部を改正する法律」が公布され,妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援体制を整備することは,現在,日本社会の急務である.本研究では,我々の先行研究を基に,経産婦は,初産婦に比較して,オキシトシン分泌の早期増加によって,出産後は気分が安定し,不安や心配,困っていることが少ないのではないかと仮説を立て,妊産婦10名を対象として,不安の程度と唾液オキシトシン量の変化を妊娠初期から産後1年まで縦断的に調査し,仮説検証を行った.対象者に十分説明し,同意を得た上で,毎月1回以上,質問紙調査,唾液採取を行い,唾液オキシトシンはELISA法で測定した.データ解析は,EXCEL統計2012 for windows version 1.14を使用し,唾液量および唾液オキシトシン値は,平均±標準偏差で表した.グループ間の相違は Repeated Measures ANOVA,多重比較はTukey-Kramerを用いた.P<0.05,Effect size(η2)<0.05は有意であるとみなした.2群の相関はピアソンの相関係数の検定を用いた.初産婦・経産婦ともに,唾液オキシトシン量と不安には負の相関があり,初産婦においては,オキシトシンの分泌が遅く,不安がある割合が高かったが,オキシトシン量が多い出産直前には不安のある割合が低かった.一方,経産婦はオキシトシンが妊娠早期から増加し,出産直後から産後2週間頃に不安のある割合が低かった.経産婦におけるオキシトシンの早期分泌は,初産婦に比較して,うつ病や自殺を減らす一助になっている可能性が示唆された.また,初めての母乳哺育に不安を持ちやすい初産婦の特徴を踏まえ,不安やうつ症状を軽減するためにも,オキシトシンの分泌を促す母乳育児支援を早期から行っていくことが重要である.

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© 2021 一般社団法人 日本女性心身医学会
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