抄録
妊娠時の心理・社会的側面の適応状態が,分娩進行や産後の適応状態に影響を及ぼすと指摘されているが,妊娠時のそれを評価するスケールは,わが国では少ない.そこで今回,LedermanによるPrenatal Self-Evaluation Questionnaire(PSEQ)の日本語版(J-PSEQ)の開発を試み,信頼性と妥当性を検討した.PSEQは,妊娠時の心理・社会的側面の適応状態に関する7つの下位スケール(自分自身と赤ちゃんの状態についての心配,妊娠の受容,母性役割の同一化,出産への準備,痛みの恐怖・無力感・コントロールの喪失,母親との関係,夫との関係),計79項目から構成される妊婦用の自己評価式調査用紙である.著者から翻訳と尺度の使用についての許可を得た後に,J-PSEQを開発し,信頼性と妥当性の検討を実施した.対象は,5ヵ所の産婦人科外来に妊婦健診に来院した,産科的異常及び合併症が無いローリスクの妊娠初期から末期までの初妊婦188名,経妊婦142名とした.調査内容は,J-PSEQ及び不安尺度であるState-Trait-Anxiety Inventory(STAI)Form-Y日本語版とした.その結果,各下位スケールのCronbachのα係数は,0.75〜0.85であり,内的整合性による信頼性が確認された.また各下位スケールと,State(状態不安)及びTrait(特性不安)とのPearson相関係数は,それぞれr=0.37〜0.64(p<0.001),r=0.35〜0.62(p<0.001)であり,不安が強い妊婦は,心理・社会的側面の適応状態が低いという関連性が示され,基準関連妥当性が確認された.さらに各下位スケールのItem対Total(I-T)相関分析を行い,I-Tの相関係数が低い8項目を削除し,71項目の修正版J-PSEQを開発した.