抄録
更年期あるいは初老期の不定愁訴の発症には,内分泌因子,心理・性格因子とともに社会・文化的因子の関与が大きいとされている.特に,現代社会においては複雑な社会構造と人間関係により,更年期女性は種々のストレスを受けながら生活しているため,不定愁訴発症の閾値が低くなっている.どのような社会・文化的因子が実際にストレスとなっているかを過去7年間について475例の不定愁訴例の調査を行い,前半の1994-1996年と後半の1997-2000年を比較しながら検討した.その結果,不定愁訴例の7例以上がストレス因子を自覚し,なかでも患者本人の健康感の喪失そのものがストレスとなっている例が最も多く(37.3%),配偶者関連事項(対人関係や生活態度など(26.9%),両親の病気や介護(10.9%),子供の生活態度や将来への心配(13.9%)がストレスとなってる例が多いことが判明した.これらの因子を重複して有している頻度は23.1%であった.また,最近のストレス要因として有意に増加していたのは(1)患者本人の仕事内容や職場関連項目,(2)配偶者との対人関係,(3)子供の生活態度や将来への心配,および(4)両親の介護への心配の項目であり,それぞれ前回調査の2.33倍,1.77倍,2.21倍,および1.89倍であった.これらより,閉経周辺期の不定愁訴例への初期の対応や診療において,十分な社会・文化的ストレス因子の検索と時代背景を考慮した個別の心理療法が必須であると考えられた.