抄録
パニック障害は青年期に加えて更年期に発症する頻度も高く,社会・文化的なストレス因子が心理的背景に存在することも考えられる.今回,女性のパニック障害の発症に関する背景因子を検討した.対象は1,365名の不定愁訴患者のうちパニック障害という最終診断がつけられた111例(不定愁訴愁訴例の8.13%)において以下の事実が判明した. 1) 手術の既往が41.8%に認められ,婦人科手術の占める割合が65.8%であった. 2) 22.5%に対象喪失があり,その約9割は男性であった. 3) 配偶者との関係において38.1%は夫婦交流に問題がみられた. 4) 心理・性格的背景として失感情症が境界型を含めて67.5%に認められ,ECLではN型が45%を占めた. 5) 発症に関与するイベントが証明できなかったのは26.3%のみであり,自分自身の体調や健康への不安をいだいていた例(20.2%)や家庭内の対人関係に問題を有していた例(14.1%),あるいは医療への不信がみられた例(10.1%)が高い頻度で認められた.女性のパニック障害の発症には,多くの背景や誘因があり,その診療には,発症要因の検索と環境調整を含めた心身医学的対応が重要であることが再認識された.