抄録
葉の色が異常になった個体は、クロロフィルの合成過程、もしくはクロロフィルの蓄積される場である葉緑体の形成に異常が起きている可能性が高い。そこで、葉緑体の形態形成に関連する遺伝子を解析するために、体色変異株の収集と解析を行った。これまでにEMSを変異原とした変異株ライブラリーから77系統の体色変異株を見出した。各変異株のプロトプラストを観察し、葉緑体の形態が異常な株を見つけた。そのうちの2系統について、電子顕微鏡を用いてさらに詳しい観察を行った。
1系統は斑入り変異株で、植物体の成長にともない斑が拡大した。電子顕微鏡観察の結果、緑色部の葉緑体は野生株のものとほぼ同じ構造だったが、白色部の色素体は発達したチラコイド膜はなく、空胞が見られた。葉緑体の分化維持の制御機構に異常が起きたものと考えられる。表現型が細胞ごとに現れたり消えたりする斑入りの機構は、特に興味深い。
別の1系統は葉緑体の大きさと外形の変異株である。この系統では、葉緑体の直径が野生株の2倍以上に拡大していたものや、逆に縮小したものが同じ細胞中に観察された。葉緑体の分裂機構に異常が起きたものと考えられた。しかし、電子顕微鏡観察の結果、さらに興味深いことが分かった。葉緑体の分裂異常だけではなく、チラコイド膜の配向が異常で、ストロマ領域の割合と局在も異常を示していた。葉緑体内の膜構造の制御に関わる変異と考えられる。