抄録
高等植物のPEPカルボキシラーゼ(PEPC)はグルコース6-リン酸(G6P)を活性化因子、アスパラギン酸またはリンゴ酸(MA)を阻害因子とするアロステリック酵素である。またPEPCに特異的なプロテインキナーゼ(PEPC-PK)によるN-末端Serのリン酸化によって活性化され、阻害因子感受性が低下する。我々はトウモロコシC4型PEPCのX線結晶解析情報から推定されたG6P結合部位に変異を導入し、G6P活性化に関わる残基R183,R184および隣接するサブユニットのR372を同定した。4種類の変異型酵素(R183Q,R184Q,R372Q,およびR183Q/R184Q)の詳細な速度論解析により、R372は単子葉植物PEPCの活性化因子、グリシンに対しても脱感作していることを見出した。また、R183QはMAの阻害を受けやすくなり、それ以外の変異型酵素は逆の性質を示した。C4植物Flaveria trinerviaPEPC-PKでリン酸化した変異型酵素の活性化およびMA阻害感受性の変化を調べた結果、この活性化とMA阻害低減にはR183、R184およびR372が同時に保存されていることが必要であった。G6P結合部位はリン酸化を受けるSer残基からは立体構造的に離れた場所に位置しているが、今回の結果によりリン酸化による活性化の分子システムあるいはコンフォメーション変化にはこれらのG6P結合残基も間接的に関与していることが示唆された。さらに、立体構造情報をもとに、植物PEPC特異的ループ構造がG6P等の活性化因子の効果発現に関与している可能性についても考察する。