抄録
我々はこれまでに,活性酸素(ROS)が生合成の基質としてばかりでなく植物の発育における制御因子として必要であることを示したが,その制御機構は未知である.そこで我々はその制御機構を解明すべく,植物体内のROSの定常濃度が高いシロイヌナズナ変異体をスクリーニングし,リノレン酸(18:3)合成の変異体を見出した.この変異体は,長日・低照度下で野生型より早咲きであった.逆に原因酵素遺伝子の過剰発現体は18:3が蓄積し遅咲きでありROSの定常濃度が低下していた.以上から,18:3はROS濃度を抑制し,花成を制御していることが示唆された.野生型植物の花成はROSの発生剤であるパラコートで促進され,ROSの濃度を低下させる低酸素分圧条件で抑制されたが,変異体ではその効果が認められなかった.18:3の活性メチレン基がROSで酸化分解を受けやすい事実を考慮すると,18:3はROSの標的の1つであり,何らかの花成因子を制御すると結論付けられた.動物の寿命は脂質の18:3量に対して正に相関することが知られるが,今回の報告から分子遺伝学的手法による寿命制御の可能性が示される.