抄録
[目的]植物はアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)を核とする活性酸素消去系を発達させ、酸化的障害から身を守っている。高等植物のAPXにはアイソザイムが存在するが、細胞質型APX(cAPX)のみ強光ストレスに対し応答する。その発現制御には細胞内H2O2量もしくはプラストキノン(PQ)の酸化還元状態が関与していることが示唆されている。そこで、cAPXの発現制御に関与するシグナル伝達機構について検討した。
[方法・結果]ホウレンソウ葉をパラコートおよび3-アミノトリアゾール処理したところ、H2O2量の増加を伴ったcAPXの誘導が認められた。DCMU処理したところ、強光(1600 μE/m2/s)によるcAPXの誘導は抑制された。以上のことからホウレンソウcAPXは細胞内H2O2濃度およびPQの酸化還元状態の両方により制御されていることが示唆された。また、強光によるcAPXの誘導にどちらの機構が関与しているかを検討するために、葉緑体内のH2O2消去能を強化した形質転換タバコ(katEおよびTpTAP-12)を用い、cAPXの強光応答を野生株(Xi)と比較した。その結果、正常および強光条件下におけるcAPX mRNAの発現レベルはXiと形質転換タバコの間で有為な差は認められなかった。以上のことからcAPXの強光応答の初期段階ではPQの酸化還元状態が関与していることが示唆された。