抄録
酸性グリセロ脂質であるスルフォキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)は光合成生物のチラコイド膜に存在する。我々はラン藻Synechocystis PCC6803においてSQDG合成欠損株を作製し、その性質を野生株と比較することにより光合成におけるSQDGの役割を解析している。これまでにSQDGがPCC6803の生育に必須で、光合成能の維持に必要であることを明らかにしてきた。今回、SQDGが光合成過程の中でも特に光化学系IIの正常な特性の維持に重要な機能を担っていることが明らかとなった。一方、Synechococcus PCC7942でもSQDG欠損変異株を構築したが、この変異株は生育にSQDGの供給を必要とせず、通常のPSII活性を示した。この結果はGülerら(J.Biol.Chem. 271, 7501, 1996)のPCC7942のSQDG欠損株に関する報告と一致する。すなわち、PCC6803とPCC7942でPSII活性や生育におけるSQDG要求性に差異が存在することが明らかとなった。この事実はPSII複合体とSQDGの分子間相互作用の解析の糸口をもたらすとともに、機能タンパク質の進化の上でも注目すべき点と思われる。