抄録
植物細胞は動物細胞と同様、細胞内あるいは外来からの生体異物に対する代謝や解毒のシステムを備えている。高等植物に暴露された農薬などの有害化合物は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)によりグルタチオン(GSH)と結合して抱合体をつくり、GS-X pumpによって液胞内へと隔離される。我々は膜タンパク質であるGS-X pump遺伝子の単離と、このpumpの働きにより生体膜の物性変化(例えば流動性)が検出できることを期待して本研究を進めている。本実験では植物細胞に対する生体異物のモデル化合物であるジニトロフェニルグルタチオン(DNP-GS)を合成し、この化合物の液胞膜への透過性を調べるために液胞膜の流動性を蛍光偏光解消法で測定した。これまでヤエナリ液胞膜のGS-X pumpによる顕著な流動性の変化を測定することはできなかったので、GS-X pumpを酵母で過剰発現させた系の利用を考えた。そこでまず、これに用いる遺伝子としてヤエナリのゲノムからGS-X pumpと考えられる遺伝子の一部を単離し解析した。また、液胞への取り込み活性を[3H]DNP-GSを用いて行った。その結果、液胞内へのGS-X pumpによる取り込みはATPに依存することが確認できた。今後、GS-X pumpの遺伝子の全長の解析を行い、酵母で過剰発現させ膜の流動性の変化の測定を行う予定である。また、GS-X pumpを過剰発現させた酵母を用いて[3H]DNP-GSの取り込み実験を行う予定である。