抄録
植物体内にはCa2+、Mg2+、Cu2+、Mn2+、Zn2+などの金属イオンが必須元素として含まれているが、植物の細胞壁標品をin vitroで金属イオン処理すると細胞壁の伸展性が低下することが報告されている。細胞壁の伸展は壁展性(φ)と臨界降伏張力(y)の調節によって制御されていると考えられるが、金属イオンがこれら力学的パラメータにどのように影響するかは明らかになっていない。そこで、金属イオンがφとyのどちらに影響するのかを明らかにする目的で、ササゲのグリセリン処理中空胚軸(GHC)を金属イオン処理し、内部灌流型伸展計を用いて細胞壁の伸展特性を解析した。
無処理のGHC標品ではpH4.0のときにyは70gw前後を示したが、1mM CaCl2処理した標品では115gw前後まで増加した。しかし、φについては無処理に比べて目立った変化は見られなかった。次に、Mg2+やCu2+、または根の伸長生長を阻害することが知られているAl3+についても細胞壁の力学的性質に与える影響を調べた。その結果、pH4.0のときにそれぞれ約100gw、100gw、90gwまでyが増加した。以上の結果は、これまで報告のあるin vitroでの金属イオン処理による細胞壁の伸展性の低下はyの増加によることを示唆する。