抄録
植物の細胞壁は、多数の遺伝子ファミリーにコードされる多様なタンパク質群の働きを通して構築される。シロイヌナズナでは細胞壁構築に関与する遺伝子ファミリーが多数同定されているが、これらの遺伝子ファミリーに属する遺伝子の発現様式の全体像と調節機構を明らかにした例はほとんどない。そこで我々はDNAマイクロアレイ法とリアルタイムRT-PCR法を用いて、シロイヌナズナの細胞壁関連遺伝子群の網羅的な発現解析を行った。解析の結果、同一遺伝子ファミリー内においても、独自の発現様式を示す遺伝子と、類似の発現様式を示す一群の遺伝子とが混在することが明らかになった。系統学的解析から、類似の発現様式を示す遺伝子群の多くはゲノム重複等により派生した遺伝子であることが示唆された。また類似の発現様式を示す遺伝子群のプロモーター領域には共通の塩基配列が保存されていることも明らかになった。これらの遺伝子群のうち、根特異的発現を示すエンド型キシログルカン転移/加水分解酵素遺伝子群に焦点を当て、その詳細な解析を基に、遺伝子の発現様式の多様性と共通性の進化の意味について議論する。