抄録
高等植物におけるアブシジン酸(ABA)のシグナル伝達は、多種多様な因子が関与することが報告されている。その中でも、タンパク質のリン酸化が大きく関わることが指摘されてきた。このことはABAに対する感受性を失ったシロイヌナズナabi1、abi2変異体の原因遺伝子が共にプロテインフォスファターゼであることからも明確である。しかしながら、ABAにより特異的に活性化されるプロテインキナーゼの同定は、シロイヌナズナにおいては明確化されていない。本研究では、シロイヌナズナT87培養細胞において、ABAにより活性化されるプロテインキナーゼp44、p42の存在をゲル内リン酸化法により確認し、生化学的およびバイオインフォマティクス的なアプローチの併用により、それらの遺伝子の探索を試みた。我々は、シロイヌナズナSnRK2プロテインキナーゼファミリーをその重要な候補として着目し、その一つであるSRK2Eが1)ABAにより活性化されること、2)ABAによる孔辺細胞の閉鎖やABA誘導性の遺伝子発現に強く関与することを、過剰発現体、T-DNA挿入変異体(srk2e)および特異的認識抗体を用いて明らかにした。また、SRK2Eは湿度低下でも活性化すること、srk2eが急激な湿度低下に適応できずwiltyな表現型を示すことから、このプロテインキナーゼがABAを介した水分ストレス応答に重要な機能を付与していることが強く示唆された。
Yoshida et al. (2002) Plant Cell Physiol. 43(12) in press