抄録
葉形が、葉原基の成熟過程の中でいつ、どのように決定されるかを解明するのは重要な問題であり、それには葉形が変化する条件での解析が必須である。水生植物の異型葉は水没により同一個体で可逆的な葉形変化が起こるため、この目的に適している。アカバナ科のLudwigia arcuataを陸生から水没へ移すと、水没後新たに生じた新生葉は典型的な水中葉の形態を示すが、水没処理前から存在していた成熟途上の葉原基は水没条件下で成熟して気中葉と水中葉の中間体の形態を示した。形態学的には、この移行的な葉は先端は気中葉の性質、基部は水中葉の性質というモザイク状の性質を持っていた。この現象から、成熟途上の葉原基の先端部では気中葉に分化するという運命が既に決定されていたが、基部ではその運命がまだ決定されていない状態であり、水没の感知後に分化が決定されるというスキームが考えられる。つまり、一枚の葉原基の中には分化運命が既に決定された領域と、まだ決定されていない未分化な領域があり、未分化な領域は可塑性を持っていると言える。ごく若い葉原基では気中葉と水中葉の形態的な差がないことを考えると、異型葉では葉形は葉原基形成後、葉の先端から順に基部へ向かって決定されていくと言える。L. arcuataの葉形変化は横軸方向に配列する細胞数の変化によるものであり、それはエチレンとABAの相互作用により制御されることを踏まえ、可塑性の実体について議論したい。