抄録
高等植物の生体膜脂質にはトリエン脂肪酸が特徴的に多く含まれている。この脂肪酸は、傷害ストレスに対する応答および温度環境の変化に対する適応において重要な役割を果たしている。トリエン脂肪酸の生成は膜内在性酵素であるω-3デサチュラーゼにより触媒される。シロイヌナズナではこの酵素をコードする3つの遺伝子が同定されており、FAD3 が小胞体局在型、FAD7 およびFAD8 が葉緑体局在型のアイソザイムをそれぞれコードしている。これらの遺伝子は各種環境ストレスに対し、mRNAレベルにおいて異なった発現応答を示す。しかしながら、酵素活性の生化学的検出および特異抗体の作製における困難さゆえに、ω-3デサチュラーゼのタンパク質レベルにおける制御に関してはほとんど明らかにされていない。われわれは翻訳後におけるω-3デサチュラーゼの動態解析を行うために、c-Mycエピトープタグを融合した改変型FAD3、FAD7、FAD8酵素を設計し、それぞれを発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。ω-3デサチュラーゼの欠損変異体の表現型相補により、これらの改変型酵素が内在の酵素と同等レベルの活性を持つことが確認された。本研究では、上記形質転換シロイヌナズナを利用し、傷害および温度ストレスに伴うω-3デサチュラーゼタンパク質の量的変化を解析した。mRNAレベルにおける発現解析との比較から得られた知見について報告する。