抄録
植物(イネ)のカルシウムシグナル伝達系の特徴を解明する目的で、イネ完全長cDNA配列データ(約2万8千)について、BLAST searchを用いて、動植物の既存の遺伝子との相同遺伝子を検索し、類似した遺伝子制御系による生命現象の調節機構の有無を調べた。
第1にカルシウムイオン流入調節系の膜タンパクを比較したところ,動植物間ではカルシウムシグナルの細胞間での電気的伝達系(膜電位依存性チャネル,リアノジン及びIP3受容体等)が著しく異なることが示唆された.その一方で,個々の細胞内への化学的カルシウムシグナル伝達系(リガンド結合性膜チャネル,Ca2+ATPase,ion-exchanger)は植物では構造が簡略化されているものはあるが,高い相同性で保持されていることが示された.
第2に細胞質内に流入したCa2+に対するシグナル伝達機構についても動植物の比較を行ったところ,植物では動物よりもCa2+に直接作用するリン酸化及び脱リン酸化機構が発達していることが解明された.植物ではカルモジュリン系タンパクを介した系も存在するが,Ca2+結合領域(EF-hand)に加えてCAMKIIタイプのカイネース領域も保持しているCDPKが独自に多く存在している.そして,Ca2+/リン脂質結合タンパク質やカルシニューリンも多く保持していることが示された.